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第四十一話 木曜日 夕の刻 ・肆 〜明日に備えて

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 今日の夕飯はチキン&マカロニグラタンとニンジンサラダ、玉子スープだった。
 気温があがりはじめた最近だけど、それでもあったかい食べ物は心のなかもあったかくしてくれる気がする。

 夕飯をおえるととすぐにぼくは部屋にこもった。
 印を結ぶ練習だ。
 それなりに様にはなったけど、様になった程度。
 きっとあの呪いが襲ってくるなか、結ばないといけない……

「これに霊力こめる……? むりじゃない?」

 やっぱり2個目の印がスムーズにいかない。

「ピアノでもやってたらよかったかなぁ」

 机の上には冴鬼からわたされたお守りがある。

「冴鬼、だいじょぶだったかな……ぼくもがんばらないとっ!」

 床に沈んでたまりはじめた呪いのカケラを蹴りながら、ぼくはお守りをハンカチに包んで、枕の下にいれる。もうこれだけで体が軽くなる気分だ。

「今日はフツーの夢がみたいな」

 ぼくは今度はベッドに寝転がり、印を結ぶ。
 あまりに真剣にやりすぎたみたい。
 指が痛い……

「みなくても印の形はつくれるようになったから、成長したかな」

 ぼくは黒い霧で充満しているだろう兄の壁をみる。

「明日には呪いをとくからね、兄ちゃん」

 ぼくは声にだす。
 昔からだけど、声にだすと、スッとそこにいくための道ができる気がして。
 だから大事なときはしっかり声にだすようにしてる。
 これで呪いに勝てるわけじゃない。
 勝つために動くことができると、ぼくはおもう。
 スマホをみると、橘からだ。

『あたしでもできることあるかな』

 ぼくは「いるだけで心強いよ」って書いたけど、消した。
 きっと橘はそんな言葉じゃなく、具体的なことをやりたいんだ。
 ぼくが悩んでいると、ピコンと文字がはいってきた。

『みつかよすまないがおぬしのねこにたのみたいことがある』

 冴鬼だ。変換のしかたがわかんないんだ。
 もうなにかの呪文に見えてくる。
 ぼくはじっくり読んで、頭のなかで変換した。

(蜜花よ、すまないが、お主の猫に頼みたいことがある)

 橘の猫をとおして、なにをする気だろう?

『わしがしゅうまつあいにいくといいきかせておいてくれたのむ』
(わしが週末に会いにいくと、言い聞かせておいてくれ! 頼む!)

 そっちかよ!
 心でつっこみをいれたとき、すぐに橘から返信が。

『そうじゃなくて、呪い! さきくんはバカなの?』

 スマホの画面から橘の声が聞こえてくる。

『はながつくなのものはたましいをみちびけるとふじがいっている』
(花がつく名の者は、魂を導けると、フジがいっている)

『ぎせいになったねこたち』
(犠牲になった猫たち)

『のろいにもいのってくれ』
(呪いにも祈ってくれ)

 数秒の間をおいてとどく冴鬼のメッセが、ぼくは思いがこめられてて、なんだかあったかくなる。


 呪いにも、祈ってくれ……


 ぼくは頭のなかでつぶやいた。
 そうか。
 呪いもここで迷ってる魂の1つなんだと、ぼくは知る。

「よし、今日はもう寝よう。明日、指が痛くなっても困るし」

 ぼくはみんなにおやすみと伝え、布団へともぐった。
 今日は冴鬼がついてくれているようで、心強く、ゆっくり眠れそうだ。
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