Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

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第1章 入門編

号砲

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ー2012.06.14ー

 フォートレス能力専門高等学校に入学してから早二ヶ月が経った。他の生徒が着実に能力を開花させていく中、未だに発芽すらしない者二人が、とぼとぼと廊下を歩いていた。

「いつまで経っても使えないな、能力」
「そうですね。どうしてなんでしょうか?」

 一組の男女は揃って首を傾げる。
 ちなみに、その件の二人、桐崎洋斗とユリア・セントヘレナのこれまでを話しておくと、桐崎洋斗は能力は相も変わらずからっきしだが、元の世界で散々身体を鍛えられていたこととまだ授業の序盤であることから、実は持ち前の身体能力で何かと乗り切れていたりする。
 また、能力専門高等学校と言っても国語や数学などの普通の授業やら能力抜きの体育やらはちゃんと存在する。桐崎洋斗においては能力以外の分野(特に体育)で十分過ぎる好成績を残しているため、特別浮いた存在にはならないよう過ごせている。無論異世界人である事も隠しきれている。

 一方、ユリアは能力は上に同じだが、さらに運動もさして得意なわけではない上に普通の授業でも成績は奮わない。特に体育では、たびたび現れるあざといミスから『最早わざとやってるだろあれ』という説まで流れ始めている。もっとも当の本人は至って真剣かつ精一杯なのでそんな事は知る由も無いのだが…………。
 芦屋、鈴麗といった他の生徒はもうすでに能力のコントロール練習に入っているため、二人は内心かなり焦っている。このままでは最悪夏休みが丸々補修でつぶれかねないからだ。なので時々、すっかり仲良くなった芦屋や鈴麗に見てもらいながら居残り練習をしているのだが、二人そろって実を結ぶ気配がないため、鈴麗には呆れられ、あの芦屋までため息を吐く始末である。

 今は国語の授業で、一番後ろの席で頬杖をつきながら橘先生の授業をボーッと聞いていた。ふと隣の席の芦屋に小声でつぶやく。

「そういえば、橘さんが教科書持ってきてるとこ、見たこと無いよな」
「僕もずっと思ってたんだよ、いつ持ってくるんだろう?って」
「もしかして、本当に全部丸暗記してたりして…………」
「ま、まさかそん「そこの二人~そろそろ授業に集中しましょうね?」
「「はい…………」」
「じゃあ次の人、24行目の『そんな私にも』の所から読んで下さい」

 そう、橘先生はいつも生徒に配布するプリント類しか持ってきておらず、教科書を持ってこない。にも関わらず普通に授業は進行しているので、クラスでは『橘・教科書丸暗記疑惑』が流れていたりする。
 ───ここから先は筆談である。

『でも、入学式の時あの人受付やってたけどさ、動きに迷いがなかったし、名前聞いただけで袋と座席を一瞬で把握するとか、普通の人じゃ無理だろ?』
『そういわれると確かにそうだね。なんだか信ぴょう性が増してきた』

 そこについてはまた別の話。
 今日も何事もなく平穏な時間が流れていく、

 能力は使えるようになるのだろうか?
 というか、無事に学園生活を乗り切れるだろうか?

 そんな事を考えながら…………。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


「兄貴!例の『ターゲット』の大まかな生活パターンの把握に成功しました!」

 薄暗い部屋の中に、やや細身の男達と椅子に腰掛けたガタイのいい男がいる。建物自体は古いのか、天井の隙間から漏れてくるわずかな光が辛うじて男達を浮かび上がらせている。

「ああ、ご苦労だった、と言ってもお前が誘拐に失敗しなきゃ不要な仕事だったんだがな」
「もう掘り返さないで下さいよ!てか、ホントに『木の中から人が飛んできた』んですから!」
(また始まった)(んなわけあるかっつーの)
「聞こえってるっつーの!てかマジだって!」
「そんな事はどうだっていい。失敗したのは変わらねぇ。それに───」

 男は一層語気を強めて言った。

「───『依頼人』もご立腹だ、次はねぇぞ」

「「!?」」

 どうやら部下達もただならぬ雰囲気を察したようだ。

「そーゆー訳だ。今回は舞台が舞台だからな、総動員で行くぞ。各隊員に連絡しろ」
「「はいッ!!」」

 こうして部下達は蜘蛛の子を散らしたように解散していく。その様子を見ながら、トップとおぼしき男は


「残飯処理だ、折角だから盛大に食い荒らしてやる」


 小さく、呟いた。
 机の上に放られた書類には、金髪の女性の写真が挟まれていた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~



 ───平穏な学園生活が、あまりにも唐突に破られた。



 ー2014.06.17ー

 洋斗達は社会の授業を受けている。先生は先ほどと変わらず橘先生だ。橘先生は先程の国語の授業から教室を出ていないため相変わらず教科書は無しだ。ホント何者なんだあの人は……………。
 そんな事を考えていた。

 バガァン!!と
 何かが壁をぶち破るような音が鼓膜を打つまでは。

 この音は授業を中断させ、室内を騒然とさせるには十分だった。

「お、おい、なんだよ今の?」
「何?爆発!?」

 場をなだめる橘先生の声も空しく、生徒達は自然と窓際に集まっていく。
 窓の外を見ると、あの城門に等しい強固な門戸が外から吹き飛ばされ、ぽっかり開いた穴から黒塗りのトラックが何台も進入してくるのが見えた。さっきの音は門の柵を門ごとトラックで突き破った音だったのだ。

「な、何がどうなってんのよ!大丈夫なの!?」

 鈴麗が叫ぶ。芦屋とユリアは言葉も出ず、といったところか。

「み、みんな!あれは不審者です!体育館に非難し「聞こえるかぁァァ!!」

 先生の声を遮るように、大きな声が響く。がたいのいい男がメガホンを持って何か叫んでいる。

「たった今から、校舎内の大掃除をさせてもらう!目的はいちいち聞くな!だがまぁ『金髪の元貴族の娘』を探してるって事くらいは教えておいてやる!」
「!」
「それって、まさか…………」

 ふとユリアの方をみると、ユリアは窓から少し離れたところで立ちすくんでいた。足は震え、顔は青ざめている。

「俺達はそいつを見つけるまでこの学校を荒らし尽くしてやる。人物問わずな。心当たりのあるやつは今すぐ出てこい!そうすれば何もしないでやるよ」

「ユリア…………」
「な、なんで…………わたし…………?」

 俺は、不意にゴードンさんの言葉を思い出していた。

『あれでも昔は十指に入る貴族の娘なので、出来る限り目立たないようにしてきました』

 もし、今回の件がその元貴族絡みの問題だとすれば、自然と侵入者等の目的も浮かんでくる。そして捕まればろくな事にならないことも想像がつく。ともすれば…………。

「…………誰も出て来ないよーだし、早速始めるかァ!文字通り命を懸けたかくれんぼサバイバル、スタートだ!」

 その声とともに、男達が一斉に校舎の方へ走ってくる。
 それとほぼ同時に俺はユリアの手を掴んで教室を出た。

「え、洋斗君…………!?」
「決まってんだろ、逃げるんだよ!教室なんて分かりやすい所にいたら間違いなく一網打尽にされるぞ!」

 他の生徒達も俺達を先頭に、

「そうだ、早く逃げないと!」
「急げ!あいつ等が来るぞ!」

 教室から散り散りに逃げていった。




「ハァ…………ハァ…………ここまできたら落ち着けるか?」
「分かんないです。けど、学校はかなり広いから、全部周り切るにはかなりかかるはずです。その間に先生達が何とかしてくれればいいんですけど…………」

 俺とユリアは教室からずっと走り続け、今は足を止めていた。どれくらい走ったかは分からない。あいつ等がどれくらい、どこにいるのかも全く分からない。

「ここの先生達はアジア地域でトップクラスの能力使いだから、大丈夫だとは思うけど………」
「でも、あれだけの人数がいたんだ、何人か逃すかもしれない。どっちみち、逃げとくに越したことはないだろ!」

 俺たちは、再び走り出した。

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