Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

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第2章 饗宴編

火力勝負

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 ー鈴麗ー


 二つの鈍器をぶつけ合っているかのような鈍い音が響く。
 個人対個人の戦いとは思えない戦火の音が大気を震わせ、渦巻く炎が遊園地の風景を灰に塗り替えた。

「はあァッ!」

 ルベールが真っ青に燃える細剣で鈴麗に切りかかる。

「ふッ!」

 それを鈴麗が弾き、真っ赤な槍を横凪に振るし飛ばすようにバックステップで距離をとった。

「………はぁ………はぁ………」
「……はぁ………………はぁ………」

 鈴麗 vs マリアナ・ルベール
 二人とも、肩で大きく息をしながら睨みあっていた。
 その息はとても荒く肩まで上下している。
 互いにすでにかなりの量の生命力を浪費しており、観戦している先輩達ですら息を呑むことは明らかだった。

「………大分ヘバってきてるじゃない………お嬢様?」
「そ、それは……こちらの台詞ですわ。膝が笑ってましてよ………?」

 ここに来ての強がりな台詞も含めてお互いに似たもの同士であることに、二人は気がつかない(指摘したとしても全否定して再び喧嘩が始まるだろうが)。

「………いい加減飽きてきましたわね」
「………あんたがさっさと倒れないからよ………とっととくたばれ」
「もう………終わりにしましょう………と言っているのですわ」
「だから、あんたさえくたばれば………終わりなんだっての」
「倒れるのは………貴方の方ですわ」
「なによ今更………」

 互いに心の中で小さく笑う。それが少しだけ表にでていることに、どちらも気づいていない。

「これで………決着させますわ」
「それこそ………こっちの台詞よ」

 槍と細剣が、その言葉を皮切りにさらに火力を増して燃え上がる。
 次の一撃に向けて体の奥底からわずかしかない生命力をかき集めていく。精一杯重心を保ってはいるが共にふらふらとふらついている。
 生命力は即ち、生きとし生ける生命の躍動に伴って生じるエネルギー。
 生命力が底を尽きればまともに体を動かすことも難しい。まして戦闘などもってのほかである。
 二人は今、自身の重心を保つためのエネルギーすら熱量に変えようとしている。
 ───終わりが近い。
 それを感じて固唾を飲んで見つめる観客、そして対峙している鈴麗とルベールも感じ取っていた。

「「……………………………………」」

 互いに減らなかった口を閉ざし、自らの武器に意識を集中させる。

 ───そして
 同時に駆け出し
 互いに渾身の突きを放った。

 もう何回目ともわからない中で、最大級の爆発が周囲を薙ぎ払う。
 元の体力自体が少なかったこともあり、あまりの爆風に耐えきれず数十メートル吹き飛ばされて、これまでの戦いの凄まじさを表すすっかり荒れて凸凹になった地面を転がった。

「はぁ……………………はぁ………………」

 どちらとも知れない荒い息遣いのみが戦場に響く。
 二人とも倒れて動かない。
 いや、恐らくここは、動けない、の方が正確だろう。

 ───だが
 鈴麗の槍に灯る赤い灯がその勝敗を物語っていた。

 生命力が切れたといっても、あくまで能力が出せなくなったというだけであって、生命活動が終わることに直結しているわけではない。
 二人かろうじて体を仰向けにする。

「………負けましたわ」
「………大げさよ」
「ですが、負けは負け………素直に認めますわ。ところで………」

 空に向かってしゃべっていたルベールが、静かにこちらに目を向ける。

「貴方の名を………聞いていませんわ………」

 そういえばそうだった、と鈴麗は脳裏で小さく思う。

「………鈴麗………黄、鈴麗よ」
「………!?」

 名前を聞いたルベールが大きく目を見開いた(つもりなのだろうが実際その違いは些細なものだった)。

「あ、貴方まさか………………?」
「………はぁ」

 それを聞いた鈴麗は、何かを吐き出すように大きくため息をついて呟いた。
 ───違うわ、と。
 ぼそり、と完全なる否定の言葉だった。

「確かに、皇帝の娘は行方不明だし、名前も似てるってよく言われる。けど、皇帝家の性は『スァン』で、『ファン』ではないわ。日本語で言う『カラス』と『ガラス』くらい全くの別物だって、外人かぶれのアンタも分かってるでしょ?」
「………一応、ホントに外人でしてよ?」

 (確かに、その違いは把握してますわ。ですけど、身体的特徴もお父様から拝聴していたものと瓜二つ………偶然とは思えませんわ?)
 と、ここまで考えてこの考察は意味のないものだと悟ったルベールは、

「………そうですか」

 と一言で締めくくった。

「少し、無駄口が過ぎましたわね───私はここでギブアップ、ですわ」

 ルベールは仰向けのまま小さく敗北の意を口にする。すると身体が消え始めた。ダメージ過多による『強制退室』ではなく、いわゆる『任意退室』といったところだろう。どちらも動けないこの状況ではダメージ過多で決着がつけられないと判断されたのかも知れない。

「………またね、スワベ」
「………………………………………………はぁ」

 しばらくしてマリアナ・ルベールは終始目を閉じて無言のまま、ため息ひとつ残して完全に消えてしまった。戦闘が決着したことで瞬時に体に活力が戻った。鈴麗はすっと立ち上がる。先ほどまで手足に力を入れることすら困難だったことも相まってとても不思議な気分だった。
 ふと、周りを見渡してみる。
 これまでにも散々述べてきたとおり、依然変わらずぼろぼろの地面がむき出しのままだった。

「うわぁ、これはやりすぎたかな………そういえば服も綺麗に戻ってる。便利だなぁ」

 地面の凸凹につまずかないように歩きながら、鈴麗はそんなどうでも良いことを考えていた。

「さて、次の相手捜しますか」

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