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第2章 饗宴編
悪魔の囁き
しおりを挟むーユリアー
「うぐぅ」
音を上げていた。
ユリア・セントヘレナ vs(?) 寿 海衣
現在ユリアと海衣の、というかユリア自身の勝手な戦いは先刻以上に世紀の大混戦を極めていた。
対して海衣の方は至って余裕の表情。
「………すぅ………すぅ」
………というか依然として爆睡している。均等なリズムで浅い呼吸を続けていた。
ここまでくると、もはや何のためにここまで熟考しているのかさえ見失いつつあった。ふと抱えていた頭を上げて目の前で寝ている女の子を見る。
そのまま銃口を向けてみるが───。
「………ダメです、撃てません。というか………」
改めてこの子の容姿をじっくりと観察してみる。
見るからにさらさらなショートヘアー、寝ぐせなのか所々ピョコッとはねている。小柄な身長で猫のように小さく丸まっている。そして鬼も愛でるのでは?というくらいの、無防備な寝顔。
何が言いたいのかというと、
「とても、かわいいです………」
───どストライクだった。
改めて考えるとこんなにカワイい女の子を銃で撃てるはずがなかったのです。うん!
このことにもっと速く気づいていればここまで思考の渦に陥ることはなかっただろうに。
「やっぱり止めましょう。でも、Dクラスの人たちになんて言いましょうか………」
どうやら軍配は天使のユリアにあがったようだ。海衣のカワイさの大健闘である。
もう降りよう、と考えて外を見る。自分のゴンドラが低いところから少しずつ上昇していく。どうやら乗り口を丁度過ぎてしまったようだ。
能力が無い以上乗り口以外から降りる術がないため、寝ている少女の向かいに座って外を眺めることにした。いろんなところで爆発があがるのを見て、今が対抗戦の最中であることを忘れかけていた自分に気付く。
ゴンドラが頂上付近に差し掛かったところで下を見下ろす。
「?」
そこで何かに気づいた。
~~~~~~~~~~~~~~~
「………ん?」
その少年、Cクラスの空町 君助はキョドキョドしながら歩いていた。
正直に言うと、これまでの空町は『ヘタレ全開』だった。わずかでも強そうと頭によぎったら即退散。常に物陰に隠れながら弱そうな相手を捜していた。
───そこに見つけたのだ。
観覧車に乗っている、いかにも戦い慣れていない感じの女の子を。
(こ、これはもしかして、チャンス!?いやでも女の子だし………)
かくして、こちらもユリアと同様に思考の渦へと───
「いや!これは勝負なんだ仕方ないんだ!うん!」
───陥ることなくあっさりと悪魔が勝利した。
これには『ここで一勝くらいしておかないとみんなからいろいろ言われるし』という下心に溢れているのだが、必死に自分に言い聞かせる意味での先刻の言葉である。
動いているゴンドラに攻撃するのは外して先攻の優位性を失う可能性に繋がると考えて、観覧車の脚を攻撃して観覧車ごと倒すことにする空町。
ここにきて空町のヘタレ具合が随分と表に出た作戦だった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「………あんなにこそこそして、何してるんでしょう?」
男は建物の陰を縫いながら隠密に観覧車に近づいてきている。上から見ているユリアにはバレバレだったが。
そして観覧車の脚に走り込むと、男が能力を放った。
ガゴン!、とゴンドラが大きく揺れる。
「!?」
「んみゅぅ………」
(まだ寝てます!?そしてカワイいです!)
女の子はゴンドラの揺れを利用してごろんと寝返りをうつ。ユリアとしてはそんな動きもカワイかったりするのだが、そんなことを言っている場合ではないことは承知の上である。
ここには絶賛夢心地の女の子と能力音痴のユリアしかいない。
場所は観覧車のほぼ頂上で、反撃も脱出も出来ないし、観覧車が倒れたときの衝撃も下側に比べてはるかに大きい。
───ガゴン!
「きゃっ!?」
動揺しているユリアに2撃目の音が振動とともに更なる追い打ちをかけられて、衝撃でよろけてしまう。
ギギギ…………と自身の重さに耐えきれなくなりつつある観覧車の骨格が悲鳴を上げる。観覧車がわずかに、かつ確実に傾き始める。
(ど、どうしよう!どうしようどうしようどうしよう!!)
頭が限界ギリギリの警告音を鳴らし続けるが、能力の使えないユリアには最早為す術が無い。
何も出来ないままヘタレな男の無慈悲な攻撃が三本目の脚を破壊した。
さすがに耐え切れなくなって、観覧車が本格的な倒壊を始める。それにあわせて、ユリアと女の子が乗るゴンドラの動きが『横移動』から徐々に『落下』に変わる。
「ッ!?」
目をぎゅっと閉じて、これから襲ってくるであろう衝撃に覚悟を決める。
「…………………んっん…………むう……………?」
───そして。
何事も起こらぬまま観覧車は倒壊し、地面に叩きつけられた。
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