Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

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第2章 饗宴編

戦うということ

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「……………………う、ん」

 落ちる恐怖から気絶と言う形で逃避していたユリアがゆっくりと目を覚ます。

「………あれ?ええっ!?どこです、か、ここ…………?」

 ───悪い夢か何かかと思った。
 意識を手放していたユリアは、観覧車が倒れる直前以降の記憶がない。
 そんなユリアの目の前には、グニャグニャにへし曲がった大量の支柱と、窓が粉々に割れてへしゃげているゴンドラ、そして定規で線を引き散らしたような跡が刻まれた地面と、門松のように斜めに切り落とされた建物とそこに繋がっていたであろう残骸が山ほど、という何ともいえない惨状のみが広がっていた。
 しばらく愕然とした様子でそれを眺めていたが、ふと自分の腹部に何かの重みがかかっていることに気づく。
 見ると、腹部に頬を乗せるかたちで女の子が顔を埋めて寝ていた。

「…………………えーと」

 ユリアは訳も分からずゆっくりと体を起こすと、腹部にいた女の子の頭がずるりと太股の上に落ちる。
 そして、女の子がゆっくりと目を覚ました。
 恐らくはたから見れば背筋が凍るような瞬間であるが、彼女の中に眠る悪魔の存在をユリアは知る由もない。

「あ?す、すいません起こしてしまいました!って、なんで謝ってるんでしょう私?」

 ユリアは他意のない純粋な謝罪をこぼす。

「……………………………」

 女の子はじーっとユリアの目を見つめる。
 そして。

「上で寝てた わたし、わたし 悪い」
 ───頬をゆるめてそう言った。

 それはこれまでの海衣を知っているBクラス、そして先ほどの戦いを見ていた観客にしてみればまさに『開いた口が塞がらない』光景だった。

 わたし 起こした、きらい。あなた、わたし 起こさない。とても 良い人」

 言いながらユリアの腰に両手を回して抱きつき、


「  だいすき。 」


 おなかに顔を埋めながらそんなことを言ってきた。その見えない破壊力は、ユリアの心臓を貫くには十分だった。

 (ふ、ふにゃぁぁあ……………!!?)

 耳のあたりが熱くなってくる。胸がドキドキする。

 (こ、これって…………………恋!?いやいやいやないないないですよ!第一相手は女の子ですし友達としてならいやけどこのカワイさは───
「あの」
「わひゃぁッ!!」
「わたし はやく 負けたい。戻って 寝たい。けど、リタイア むり。だから…………」

 わずかに哀愁が混じった視線をユリアに向けた。


「───わたしをたおして?」
「…………え?」


「それで わたし、うって?」

 女の子はじっとスカートのポケットからわずかに覗く銃のグリップへと目線を移して言う。

 (…………この子を、撃つ…………?)

 勿論のこと、ユリアに人を殺した経験などあるはずもない。
 ここが仮想で作られた偽りの世界とはいえ。
 目の前の女の子は言っているのだ。
 ───私を殺して、と。
 ついさっきまでこのゲームで勝つことに専念していたが、自分がやろうとしていたことを思い返して恐怖が湧き上がってくる。
 だが、

「わたし、たたかい イヤ」



「   おねがい   」
 そのたった一言が、鋭くユリアの心を貫いた。



「…………………………はい」

 不思議なくらいあっさりと銃を構えるまでに至ることが出来た。
 銃口をゆっくりと横になっている女の子に向ける。その銃身は、ユリアの躊躇いを表すようにカチカチと震えていた。

「……………ごめんなさい」

 ユリアがぽつりとつぶやく。

「ありがと」

 海衣もぽつりとつぶやいて、そっと目を閉じる。



 ───。
 遊園地に似つかわしくない一発の銃声が響いた。



 弾丸を受けた額から大量の血が吹き出る───ということは起こらない。
 ここがあくまで仮想空間であることと、ダメージ過多による強制退室が迅速に行われたことが、辛うじてユリアの精神を繋ぎ止めていた。もし現実だったなら、脳天を撃ち抜かれて息絶える海衣の姿が目に焼き付いてしまったなら。
 きっと発狂どころでは、この程度の動悸では済まなかった。

 初めて、人を撃った。
 初めて、人を殺した。

 何とも言い難い感覚が、じんわりと毒のようにユリアの脳髄に染み込んでいく。
 ユリアは『何であの時あっさりと銃を構えられたんだろう』ということをぼんやりと考えていた。
 この場が戦場だったからか。
 そうしてほしいと頼まれたからか。
 ………どうでもいい。
 理由はどうあれ、『人を撃った』と言う事実は変わらない。
 背筋が凍って、自分の体を掻き抱いていた。
 この冷たさが、この震えが、この恐怖が。
 これが人の人生を奪うという行為そのもの。

 これが『戦う』ということだったんだ。

 戦う、という選択がどれほど過酷で、困難で、そして揺るがない決意が必要かを、たった一発の銃弾で思い知らされた。
 ───ここで思い浮かぶのは、何度もユリアを窮地から救ってくれたあの人の勇敢な姿。
 黒服の人が現れたときに、果敢に立ち向かうことを『選ぶことが出来た』あの人は、一体どれほどの覚悟を胸に抱いていたんだろう。
 いったいどれだけの困難を乗り越えてきたんだろう。


 彼───桐崎 洋斗君は、一体どんな道を歩いてその覚悟に至ったのだろう?














「ぐ………………………ちくしょうッ」

 Dクラスの黄 鈴麗は仰向けで倒れている。肩から腰にかけて大きく傷を負っている。
 明らかに致命傷だった。
 身体が少しずつ重さを失っていくのが分かる。スワベの時のように身体が消えていっているのだろうか?
 霞んでいく視界の中で立っている双剣の男は小さく

「……………つまんねェな」

 と吐き捨てて歩き去る。


 (……………………………くそ)
 鈴麗の意識が、完全に消えた。


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