Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

文字の大きさ
37 / 90
第2章 饗宴編

大団円

しおりを挟む


 洋斗はそっと目を開く。
 もっとも視界の先も真っ暗だったため、目を瞑っていたときとほとんど差はなかった。
 時間にしておよそ5秒のラグの後に、暗闇が光によってこじ開けられていく。
 眩しさで目を細める洋斗。
 聞こえるのはざわざわと言う音を数十倍にしたようなノイズだった。

 (………………?)
 長い間横になっていたせいだろう、気だるい体を腕で起こす。そこは開始前と同じ体育館。

 (そういえばカプセルの中だったな。リアル過ぎて忘れ「洋斗くーーーーーー~~~ンぐっ!!?」

 物思いに耽っていた洋斗に、華麗なダイビングをかましてきたユリア。
 今まで親父から散々物を投げつけられてきた洋斗が反応しないわけもなく、反射でユリアの顔面を押さえ込んでしまう。ユリアは高ぶっているのであろう、何やらもごもご言いながらも洋斗の手を顔面から引き剥がす。

「ぷはぁ!や、やりましたよ!優勝です!」
「あ、あぁそうだな!」
「もーユリア、洋斗君が困ってるじゃない」
「ははは。でも、最後の勝負は凄かったね?」

 ユリアは興奮混じりで、鈴麗は呆れ気味に、芦屋は関心を込めて、それぞれ言う。

「そうだな、すごく楽しかった」
「でしょうね、なんだかスッキリした顔してるわ」

「俺もだ。スゲェ楽しかったぜ?」
 Dクラスの代表者一同が声のした方を見ると、そこに立っていたのは菱野だった。

「あ、あんたさっきの「あんな血がたぎるような勝負は久しぶり、いや、もしかしたら初めてかも知れねェ。またやろうぜ?」

 菱野は、上半身だけおこしている洋斗にゆっくりと開いた手を伸ばす。

「ねえ聞いて「そうだな、けどあれ以上ハードなのは止めてくれよ?」

 洋斗は菱野の手をしっかりと握る。

「いい加減話を聞きなさいよ!!」

 ご機嫌斜めな鈴麗を差し置いて。



 ユリアは、観覧車の女の子に抱きつかれていた。

「寿 海衣さんというんですか!改めてよろしくお願いしますね!」
「んみゅ………うん よろしく ユリアさん。あと………」
「?」
「みぃ ってよんで?」
「………はい、みぃちゃん!」
「それと…………ひざまくら して?」
「ふふっ、良いですよ?」

 ユリアと海衣の周りには、お花畑が広がっていたという。
 邪魔したらどんな目に遭うかは、既に周知の事実だった。




 一方で、憤怒の炎が燃えたぎっているエリアがあった。

「あーらあら其方そちらにおられるのは、生まれる時代を間違えた野蛮人ではないですか?」
「何しに来たんだクソスワベ?」
「………そのあだ名、今すぐに止めてもらうことは出来ませんの?姉に聞かれたら爆笑されてしまいますわ?」
「………姉がいたのアンタ?」
「はぁ、分かってはいましたがやはり脳髄も筋肉でしたか。私の姉はダイアナ・ルベール、現風紀委員長ですわ」
「え?でも全く似てないじゃない。性格とか口調とか」
「ええ、姉は長女故にかなりチヤホヤされてあんな事に。その反省を生かしてきちんと育てられたのは私です。今やどちらが姉だか分かりませんわ」
「………アンタも中々苦労してんのね」
「あんた、ですか」
「え………あ、イヤ、別にそういうわけで言った言葉じゃないから今のは!言葉の文よ!」
「…………まぁいいです。私も熱い戦いができましたし、この借りは返させていただきます」
「へへっ、上等よ。また負債背負わせてやるわ」
「ふふっ、やはり口が減りませんこと」




「「「………………………」」」
「そんな所に正座して何をしておるのだ?蛇に睨まれた蛙のようだぞ?」
「そんなことをする前に言うべき事があるだろう。きちんと仁義を通せ」
「い、いや!別にそんなことをしてくれなくても「「「芦屋さん!!」」」
「3対1な」んて卑怯な」まねして」

「「「ホンットに申し訳ありませんでしたあああああああああ!」」」

ため息をつく二人の顔が芦屋に向けられる。
「…………どうだ?芦屋殿」
「どうだも何も、最初から気にしてないよ!戦いに勝ちたい一心でやったことだろうしね」
「うむ、よい仁義の持ち主だ」
「「「芦屋様ァァァァァ!!!」」」
「ちょ、三倍の涙やら鼻水やらが制服に…………っ!?」

 こちらでは、なにやら青春の1ページ(?)が刻まれていた。




 洋斗は首を傾げる他無かった。

「俺の知らないところで何があったんだろ」
「さぁな。それよりも、さっさと行ってやったらどうだ?」

 菱野は、親指で体育館の入口を指し示した。

「マンオブザマッチの登場を待ってるぜ?」

 菱野に言われて洋斗たちが体育館からでると、ようやく爆音の正体が分かった。


 ───それは、地面を揺さぶるほどの大歓声だった。


 ざわめきが脳を揺さぶる。
 拍手の音が肌を叩く。
 何ともわからぬ笛の甲高い音色まで響いている。
 観戦していた全生徒の活気と興奮から生まれる声が惜しみない拍手と共に洋斗の耳、いや、身体全体を叩いていた。
 それだけ見応えのある試合が出来た、ということなのだろうか。もっとも、実際に戦いに興じていたメインキャストたる洋斗達には知り得ない事なのだが。
 戦いが終わった代表者達は、閉祭式まで予定がない。洋斗たちDクラス一同は、その歓声を肌で感じながら、教室に帰ることにした。


 そして、その後あった閉祭式も難なく終わり、
 白宴祭はすべての日程を終了した。












『こちら梟、目標を確認しました。追跡し、好機を見計らい、捕獲に入ります』



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

処理中です...