Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

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第3章 強縁編

磨り減るこころ

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 ~フローゼル家屋敷内、総合監視員の証言~


 おれ、いや私はフローゼル家屋敷内の監視を任されていました。
 風の能力で屋敷内の気流の動きを読み取り、人の位置や動き、服装から土地の状況、音の響きまで把握できます。なにを言っているのかまではさすがに分かりませんが………。

 それはさておき、その日が結婚式という事もあり、私はいつも以上に警戒していました。
 その時、正面玄関の扉の前に一人の人間がいるのがんです。
 来賓かと思い確認をとらせましたが、全員いらしていたようなので明らかに侵入者だと分かりました。
 正直言って、なめてました。こんなところに一人で、しかもあんな状況の中で堂々と正面玄関から入ってくるなんて正気の沙汰じゃない。正直「警備員は何やってんだよ………」位にしか思ってませんでしたよ。
 まぁそんな悠長な考えはすぐに吹っ飛びましたがね。

 まず、扉に線が入ったんですよ。ヒュンヒュンと3、4本くらいです。
 その後に、扉が一気に中の方にぶっ飛んできましたよ。
 部屋の中にいても分かるくらいすごい音で、扉もバラバラになってました!

 唖然としてましたよ!そしたら、なにやらローブにフードかぶった人が入ってきまして。すたすたと歩いて入って来るんですよ。
 もちろんすごい音だったので、入口付近にいた警備員が二人ほど集まってきました。警備員二人が何かをしゃべっていて………多分ローブに出るように言ったんだと思います。対してローブは口も動かさずに、話しかけられたっきり動きませんでした。

 その時です。
 ローブが一瞬で二人の近くにいまして。
 風の動きを見ているのでローブがというのは分かるのですが、もはや瞬間移動のレベルでしたよ!

 そこからは駒送りでした。動きを見切れたわけではないので推測も混じってますがね。
 一人をいつ抜いたかすら知れない刀で斬り捨て、もう一人を回し蹴りで吹き飛ばしてた………と、思います。

 斬られた人が倒れるのと蹴られた人が壁にぶつかるのがほぼ同時でした。恐らく二人とも…………。

 す、すいません!
 それで、ローブはただずっと見下ろしてるんですよ。あれですかね、「落ちているゴミを見ているような」ってやつですかね?まぁ、表情が分からないんで何ともいえないですけど。

 とにかく、もう背筋がぞっとしましたよ。
 コイツはヤバイ。そう言ってましたよ、体が。
 だからでしょうね。気づいたときには警戒警報のボタンを押してました。
 そして、その後すぐに総合監視室を出て、殺される前に逃げ出しました。











 現実は、「君、部外者は立ち入り禁止だよ」とかいったような生易しい会話ではなかった。
 扉を派手にノック(?)して堂々侵入した洋斗に、寄ってきた警備員の第一声が───。

「ここから今すぐ出て行け。さもなくば殺害対象と見なす」
 だったのだ。

 音の波は把握できるが、さすがに殺気までは分からなかったようだ。

 (いきなり『殺す』か。これはなにかあるな)
 ふつうの警備員なら、出会って早々の脅迫なんてしない。「秘密を知られた以上生かしておけない」なんて文言があるが、恐らくそれを口にする部類の人たちだ。
 だが、そんな御託を聞いている暇はない。

 ───文字通り一瞬で、
 二人を沈めてしまった。

 じっと斬り伏せたばかりの一人を見下ろす。
 不思議と、何とも思わなかった。
 ずっと人を殺すのを躊躇っていたのに、
  (………………)
 覚悟はしていた。
 とはいえ実際に目の前に転がっている死体を見てしまうと、どうしても思い出してしまう。

 あの時の地獄を
 村中に広がる、死体の山を

 心臟が締めつけられるような鈍い痛みを何とか堪える。
 多分、ユリア救出までに少なからず心が壊れるだろう。
 けど、今は自分のことはどうだっていい。

 (なんとしても助け出す)
 その時、サイレンのような、ベルのような甲高い音が屋敷中に響きわたった。

 (…………ついにバレたか、急がないと)
 洋斗は音に背を押されて走り始める。これから先の戦いに向けて生命力を節約するため、能力を付与せず、生身の脚力で走る。元々非凡な身体能力の持ち主なので十分速かったが。
 豪勢な絨毯が敷かれた廊下を駆けていると、ぽつぽつとスーツの男が現れるようになった。
 二、三人なら刀で一閃して通過し、大人数の固まりが来たときは、その最前線の男を斬らずに吹き飛ばず事で道をこじ開ける。
 そうすることで、必要最低限の生命力で長い廊下を駆け抜けていく。

 廊下の角を曲がる。
 その先には、何人目かも知れないスーツが三人。
 逐一足を止めたりはしない。
 十分に鍛え上げられた身体から放たれる男の回し蹴りを、洋斗はその軌道の下をくぐる形で躱す。
 その体を起こすと同時に刀で下から上へ斬り上げる。

「が……………はァ!?」

 スーツは傷と口から血を吹き出して倒れる。
 それを見届ける前に、洋斗は二人目の方へ走り込む。

「く、そッ!」

 スーツが顔面に向けて振りかぶってきた拳を手で受け止める。
 視界の端で能力の一撃を放とうと手を前に突きだしている、三人目のスーツが見えた。
 なので拳を止められたスーツを、構えているスーツの方へ蹴り飛ばす。

「ぐあっ!」
「がっ!?おい!」

 二人目と三人目が激突する。
 それにより双方の動きが止まっている間に、脚に最小限の雷撃をまとわせて、高速移動で距離を詰める。
 そして───、

「ふッ!」

 そのスピードのまま、すれ違いざまに二人まとめて叩き斬った。
 スピードを殺さず、倒れる男たちを一瞥すらせず、そのまま廊下を走る。
 横を通り過ぎただけで人が倒れた。と言い出す人が出てもおかしくないほどの洗練された動作だった。
 走りながら、自分の顔を撫でると、その手はべっとりと生温い血で濡れていた。

「……………………」

 一人目を斬ったときに、傷から吹き出した血がかかっていたのだが、殺人による一種の興奮状態だったため気付かなかった。

 (……………くそッ)
 自分が血に濡れている。
 自分が人をまた一人殺した。
 その事実が、洋斗の精神を磨耗させていく。
 少しずつ、無意識に、確実に。

 また一人、また少し、

 ───洋斗の精神は、削られていく。



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