Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

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第3章 強縁編

救いの手

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 ───それは、巨大な土色のドラゴンだった。
 ドラゴンが外から突っ込んできた。

 それだけで礼拝堂の壁の大半や天井の半分ほどを瓦礫に変え、そこにいた男たちも巻き添えにして吹っ飛ばした。
 そこに乗っていたのは、数人の人。
 芦屋、鈴麗に加えて、生徒会の面子、更には校長先生まで乗っていた。
 それら全員がドラゴンの背から降りて、未だ動揺を隠し切れていないスーツの男たちを見据える。
 一時の静寂の中で、火口を斬ったのは校長先生、魁ヶ峰丘 玄呉柔郎だった。

「やれやれ、いくら造型が得手じゃといったって、流石にこれほどの大きさとなると骨が折れるんじゃがな………」

 相変わらずの曲がった腰を軽く叩きながら、それでもはっきりとした口調で語る。

「あんたら、ただで済むと思ってんのか………?」

 スーツの男の一人が発する虚勢に対して、玄呉柔郎は蔑むような笑いで返した。

「フォッフォッ………今どこの坊主が言ったかは知らんが、儂らはフォートレス能力専門高等学校の代表として来ておる。うちの生徒が攫われたんじゃ、そもそもなぜ儂らが動かんと思ったか分からんがの」

 ここでわずかな間。玄呉柔郎はわずかに瞼を開く。そこに鋭い眼光を宿しながら。


「お主等こそ、国家権力に喧嘩売って、ただで済むと思わんことじゃな」


 その一言を狼煙のろしと見るや、生徒会長、沢村 豪がすかさず周囲に指示を送る。

「芦屋と#__ファン__#はユリアの保護!素原とミッち………江ノ元は俺と玄ちゃんの援護を頼む!ダイアナは………指示しても聞かんだろうから好きにやれ!邪魔だけはすんなよ頼むから!」
「「はい!」」
「「了解。」」
「…………なぜ江ノ元は言い直して儂はあだ名のままなのじゃ?」
「ィやッたー!存分に暴れちゃうよー!」

 後半は若干投げやりになっている沢村の指示に、一同は四者四様な応答を示した。
 玄呉柔郎が杖で床を叩くと、カツーンという音とともにドラゴンが大蛇へと形を変え、男たちに突っ込んでいく。その隙間を縫うようにダイアナと沢村が走り込む。その後方で江ノ元と素原(素原 金光、生徒会書記で影が薄いことで有名)が、いつでも能力を放てるよう構える。
 ───盤上が完全にひっくり返った。
 芦屋と鈴麗はその混乱に乗じてユリアのもとへ駆け寄る。

「芦屋君、鈴麗ちゃん………!」
「大体十日ぶりくらいかな?やっぱり痩せたわね」
「無事でよかったよ!待ってて、すぐ助けるから」

 そういって二人はユリアの後ろに回る。瓦礫に挟まった鎖と後ろ手に拘束している枷を解くためだ。

「うーん、これは壊すしかないね」
「ごめん、ちょっと熱いけど我慢してね?」

 鈴麗は槍の矛先を慎重に枷に当て、ガツン、ガツンとぶつける。芦屋は、土壁で押し上げる形で鎖にのしかかっている瓦礫をどかす。
 ガツン、
 ガツン、
 …………ガシャン!
 十回ほどぶつけたところで枷が真っ二つに割れ、左右の手が自由に動くようになる。同時に瓦礫を押しのけることにも成功し、遂にユリアは永い束縛から解放された。

 ───その瞬間
 ユリアがバッと立ち上がり、荒れ狂う戦場の方へ走り出した。

「ちょ、ユリアちゃん!?」

 引き留めようとする鈴麗の声も振り切って一心不乱に戦場を駆ける。
 ずっと牢の中にいた所為で、脚がうまく動かないのがもどかしい。
 周囲で起こる衝撃で何度も転ぶが、すぐに立ち上がって先を急ぐ。
 目に溜まった涙で視界がゆがみ、瓦礫に躓いてもなお走る。
 その先にいるのは、壁により掛かってへたばる一人の少年。
 全身血まみれで、それでも立ち上がろうと身体を振るわせている一つの人形。
 ───そして
 ユリアにとって、かけがえのないたった一人の存在だ。
 戦場の中を無事通り抜け、洋斗のところまであと5m程に迫る。洋斗がゆっくりと顔を上げて、駆けてくるユリアを、遂にその虚ろな瞳に捉える。
 それを把握しながら、ユリアは速度を落とすのも億劫だった。

「洋斗君!!!」
 できる限りの全速力のまま、動かない洋斗に腕を回した。

 ずっと無表情だった洋斗の仮面が、その時初めて、ほんの少しだけ歪んでいた。真っ赤に染まった彼のローブ、その襟足をぐっと握り、顔を洋斗の腹部に埋めたまま涙をこぼす。

「どうして…………………」

 しばらくして、ユリアがそのままの体勢で語りかける。というより、心からの叫びだった。

!!そんなにぼろぼろになってまで、どうして………………っ!!」

 出てきた言葉は、『感謝』や『慈悲』ではなく『叱責』だった。
 これがユリアの本音。
 助けが来てくれてのは素直に嬉しい。
それ以上に、自分の大切な人が傷つく様を見るのが何よりも辛かった。
 頬を伝う涙を拭うように顔を押し付ける。顔に付いた血など気にしている余裕は無かった。

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