マニブス・パルビス@どの話からでも読める伝奇短編集

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037. 未完成【同人誌版サンプル】

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「あと一個、もう一個。さらに、まだまだもう一個。うーん、ピースがたくさんあればこの世界は完成するのになあ」

 隣にいる少女は空を眺めながら、ため息をついた。

 特区の中にあるいくつもの亀裂と穴が開いている。その裂け目たちは異界への入り口やモンスターの住みかとなって、時おり街の住人の安全を脅かしているのだ。

 その欠けた亀裂や穴の形を何かに見立て、この世界を穴埋めすることを得意する少女がいた。その見立ての上手さと、穴を埋めていくスピードから、昔は天才小学生としてテレビでも紹介されたくらいに才能があり、芸をする子犬を可愛がるようにお茶の間では有名な女の子となった。

 高校生になってからは不思議ちゃんとして扱われてしまい、次第に取り扱われはしなくなったが、ピースを探して穴を埋めているのは昔と変わらない……と、他人事のように話をしているが、この娘は僕の幼馴染である。

 幼い頃からパズルにはよく付き合わされたものだが、こういった形で才能を発揮するとは誰にも考えが及ばなかったに違いない。それは、ずっと隣で過ごしてきた僕にとっても同じであった。

 空にぽっかりと浮かんだ空洞や、地面に空いた大穴、何でもない壁に開いている異次元への裂け目を見つけると、幼馴染はあの穴はクマの形! といって僕の腕を引っ張った。言われてみないと僕には想像がつかない穴の形である。しかし、彼女に教えてもらえればその穴は確かにクマの形に見えた。幼馴染は、あのクマと同じ形を探してきて、と僕にピースを探させ、そのピースを上手に埋めるのだ。

 穴の形を見立てるのは造作もないことだったようだが、幼馴染は死ぬほど探し物が下手だった。靴下なんか左右違いで履いている方が多いほどに。

 反対に僕は探し物上手で、彼女が見立てたピースのほとんどは、実は僕が集めたと言っても過言ではない。まったく、僕ったら穴の形は何も思いつかないのに、その形をした物を探すのは大得意だったのだ。

 幼馴染が探し出すように言ってくる形は難解だった。一番難しかったのは、鶏が逆立ちしている形だろう。普通に立っている鶏じゃ駄目なのか。だめ、と返事をされると、じゃあ、と探すほかない。僕は方々探し回って、台風で吹き飛ばされた風見鶏が反対向きで木に引っかかっているのを発見した。彼女に持っていくと、満足そうに顔を綻ばせ、空に掲げて穴を埋めたのを僕は覚えている。

 あの鍵穴みたいな形に合う鍵を探してきて、と言われた時の話も印象的だ。百数個にも及ぶ鍵を探したが、まるで鍵穴! みたいな鍵は見つからなかったのだ。

 その形を見つけたのは、キラキラと宝石のイミテーションが付いた食玩のパッケージの中だった。その鍵のアクセサリーではなく、錠前に穴が開いたようなデザインのペンダントトップの装飾が、空に浮かんだ穴と合同だったのである。

 僕は食玩のアクセサリーを箱ごと買ってその錠前を追い求めた。おまけのウエハースを食べながら幼馴染が良くやるわねえ、という顔をしている。誰のためだと思っているんだ、と思いながら僕はパッケージを開き続けた。ついでにウエハースも食べつつ、僕はとうとう錠前型のネックレスを得ることができた。

 空に浮かんだ鍵穴。それを小さなアクセサリーに空いた鍵穴から眺めるとその穴はふさがったのだった。

 そうやって、幼馴染は僕が探し出して彼女に手渡したピースで空を埋めていく。

「空が全部埋まったらどうするの?」「どうしようかなあ~……」

 僕たち二人の探し物はそろそろ終わる。それ二人の関係にどう影響を及ぼすのだろう。僕が不安な気持ちを抱えているとは露知らず、僕たちが学生の最後の春に、天にあいている穴はとうとう一つになった。

 そのことはテレビでも話題である。あの天才パズル少女は空を埋めることができるのか。穴がふさがると世界はどうなってしまうのか。メディアがいろいろと騒いでいたが、それを横目に、彼女は最後のピースの形を僕に教えてくれた。

「あの形は虹。七色に輝く綺麗な虹だわ。消えない、きらきらした虹だよ」

 消えないキラキラした虹とは何だろう。僕はそれを考えていた。幼馴染にとっては、どうやら単なる虹ではないらしい。でも、その虹の形を僕は確かに見たことがあった。

 記憶にあるのは、かつて二人で書いた絵だ。僕が作った虹に幼馴染がキラキラとラメで装飾した、小さなころに描いた虹である。二人で作ったカラフルな虹は、空に開いた穴を埋めるにふさわしい形だったのだ。

 僕はそれを思い出したのに、どうしても幼馴染に言い出すことはできないでいた。空を埋めるパズルがなくなってしまえば、僕たちの関係は終わりになってしまう、そんな気がしていたからだ。ピース見つけたよ、と報告できないまま時間は過ぎた。

「最後のピースの在りか、知っているんでしょう?」

 まごまごと歯切れの悪い僕の隠し事に気が付いたのか、ある日の夕方に幼馴染が僕のことを呼び止めて尋ねてきた。

「あなたと私の仲なんだもの。あなたの考えていることなんてすぐにわかるわ」

 幼馴染も煮え切らない態度で、視線をうろうろとさせながら、私も知ってたの、と白状した。

「昔、描いた絵の中にあったよね。同じ形。私、探すの下手だけど、これはすぐにわかっちゃった」

 それから、二人でお互いの家の中を探し回り、彼女の小さい時の宝箱の中から、キラキラの虹を見つけ出したのだった。

 晴れた日を狙って、僕たちは二人で作った虹をかざす。虹のピースが空へとはまり、空にはキラキラとした虹がきれいにかかる。

「きれいだね」

 僕の手を取り、幼馴染が返事をした。

「うん。また、一緒に見ようね」「えっ」

 僕はその笑顔にドキッとする。離れ離れになってしまう……、という僕の思いはどうやら杞憂なのかもしれない。

「私とずっと一緒にいたいと思っていたでしょう。私もじだよ」

 幼馴染は耳まで赤くなっている。その手を僕は強く握り返した。これは彼女の告白への返事だ。

「それにね……」

 幼馴染が続ける。この特区のピースはまだまだ終わりではないのだと。

「空にピースはこれで終わり。でも、見て。まだ地面のピースが残っているじゃない?」

 彼女が指さした先には、穴ぼこの道路があった。

「今度は、これを埋めていくの。ね、手伝ってくれるでしょう?」

 僕たちはまだまだ一緒にいられるらしい。まだまだ、どころか、この先もずっと。
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