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061.恋人
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特区で女を得たいなら東地区の北側、奥に向かって進んでいけばよい。対価さえ払えばどんな女にでも抱かれることができる、特区最大の歓楽街が広がっている。
もっとも、歓楽街の奥深くまで進む者は特区の住人でもごく少数で、ほとんどの客は手前で安全に遊ぶ。なぜなら、奥に入り込めば入り込むほど、払う対価は高くなっていく。
***
三番目のニュースは、特区の外から来た男が東地区で行方不明になったというものだった。観光目的で特区を訪れたその被害者は羽目を外して東の奥地へと足を踏み入れ、仲間を残して忽然と消えたらしい。数人の客がニュースに目を向けていたが、東区北側と聞いた時点で頭を振って自分の生活に意識を戻す。
一時の快楽のために人生を棒に振ってしまった、その場にいた全員が同じことを考えていた。
夕方、テレビをつけて始まったのは昼間の続報だ。
『丸呑み』
キャスターが口にした一言で、察しが付く。最近、特区で流行り出したチェーンである。大女や半モンスター、手懐けられた「入り口」などが客を丸呑みにして身体全体を擦り上げるプレイをするのが売りだ。男だけでなく、女の客も多いと聞く。観光客はそこに訪れたらしかった。
サービスをしたのは、「穴」だった。文字通り、そして、穴のその先がどこに繋がっているのか全く分からない「異次元の穴」。未知の快楽だという店主の言いなりに、穴に丸呑みされてそのまま行方が分からなくなったというわけだ。
制御できないモンスターを扱っている実態があったとして、店は自治会からペナルティを食らったらしい。しかし、人気は衰えず、似たような店が乱立していると聞く。
***
朝方、家路を辿っていると、うめき声が路地の脇から聞こえてきた。モンスターだろうか、と反撃できるように構えつつ、歩みを進める。声の主は自販機の陰にいた。肌色の塊が折り重なる。
一見すると肉塊だった。スライムにしては光沢がなく、妖怪のぬっぺふほふに近い。少し歩み寄るとうめき声がはっきりと言葉を発した。
「助けて……」
折り重なったものは人間の皮膚であった。中央には顔と思わしきものがくっついており、肉の袋のようになった身体がぶよぶよとしている。
上空を鳥が通り過ぎた。肉塊がびくっと身体を震わせた。
「鳥、鳥女が……」
肉塊の言葉は頼りない。よく見ると口に当たる部分には歯がなかった。
警備署に通報した。
東地区警備署は杜撰な管理で有名だ。その日の昼には、東地区中に事の詳細が伝わっていた。
東地区北側歓楽街に鳥女を買うことができる店があるようだ。手と口でのサービスを行っている店だが、鳥女を扱っているサービス店は特区には少なく、この店で本番を希望する厚かましい客も多いらしい。
肉塊はその店の常連客で、店の商品を手籠めにして本番行為を要求し、サービス嬢は身ごもってしまった。
鳥女は子を宿すと産むために巣が必要だ。その巣は本来、父親となる雄が用意するが、姦夫は受け入れず、突っぱねた。
結果、男は対価を支払わされた。
鳥女は文字通り男を骨抜きにし、男の骨で巣を作った。残りの滓はいらない。路地には肉塊が置き去りにされたわけだ。
店の規約を破ったことや鳥女の生態を鑑みて、救済措置は難しかった。男は自治会や警備署からのお咎めはなしだったが、骨を失ったことに対しての補償はなされなかった。
見世物小屋に引き取られ、骨なし男として一日三千円で展示されているらしい。
***
東地区の北側中ほどに昆虫姦を専門にした店がある。ハーフから完全まで、様々なサービス嬢を用意しているそこは、専門家にとっては天国のような店だった。
そこに情婦がいる。
「あらぁ、いらっしゃいダーリンっ」
顔の半分もある黄緑色の瞳がつやつやと光る。複眼が男をじっと見つめ、そのひとつひとつに顔が移りこんでいた。硬い骨格に頬ずりすると女がうっとりと微笑んだ。冷たく、ざらつきのある頬が愛らしい。
「待ってた」
「会いたかったよ」
待っていられないと言うように、二人でベッドにもぐりこみ身体を繋げる。情婦は後ろからの情交を好んだ。本能的に好きなのだと言った。
「ああ。好き。とても好きだわ……」
膨らんだ下腹部がゆらと揺れる。骨のない細い手足。関節と外骨格の硬さに興奮した。
ねえ、あなた。
カマキリが後ろを振り向き、接吻を強請る。強靭な顎を舌で舐めまわす。
「私、発情期がきたの」
頭を固い顎が挟んだ。バキ、という音と共に男は事切れた。
部屋にはシャリシャリという音が響く。
もっとも、歓楽街の奥深くまで進む者は特区の住人でもごく少数で、ほとんどの客は手前で安全に遊ぶ。なぜなら、奥に入り込めば入り込むほど、払う対価は高くなっていく。
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三番目のニュースは、特区の外から来た男が東地区で行方不明になったというものだった。観光目的で特区を訪れたその被害者は羽目を外して東の奥地へと足を踏み入れ、仲間を残して忽然と消えたらしい。数人の客がニュースに目を向けていたが、東区北側と聞いた時点で頭を振って自分の生活に意識を戻す。
一時の快楽のために人生を棒に振ってしまった、その場にいた全員が同じことを考えていた。
夕方、テレビをつけて始まったのは昼間の続報だ。
『丸呑み』
キャスターが口にした一言で、察しが付く。最近、特区で流行り出したチェーンである。大女や半モンスター、手懐けられた「入り口」などが客を丸呑みにして身体全体を擦り上げるプレイをするのが売りだ。男だけでなく、女の客も多いと聞く。観光客はそこに訪れたらしかった。
サービスをしたのは、「穴」だった。文字通り、そして、穴のその先がどこに繋がっているのか全く分からない「異次元の穴」。未知の快楽だという店主の言いなりに、穴に丸呑みされてそのまま行方が分からなくなったというわけだ。
制御できないモンスターを扱っている実態があったとして、店は自治会からペナルティを食らったらしい。しかし、人気は衰えず、似たような店が乱立していると聞く。
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朝方、家路を辿っていると、うめき声が路地の脇から聞こえてきた。モンスターだろうか、と反撃できるように構えつつ、歩みを進める。声の主は自販機の陰にいた。肌色の塊が折り重なる。
一見すると肉塊だった。スライムにしては光沢がなく、妖怪のぬっぺふほふに近い。少し歩み寄るとうめき声がはっきりと言葉を発した。
「助けて……」
折り重なったものは人間の皮膚であった。中央には顔と思わしきものがくっついており、肉の袋のようになった身体がぶよぶよとしている。
上空を鳥が通り過ぎた。肉塊がびくっと身体を震わせた。
「鳥、鳥女が……」
肉塊の言葉は頼りない。よく見ると口に当たる部分には歯がなかった。
警備署に通報した。
東地区警備署は杜撰な管理で有名だ。その日の昼には、東地区中に事の詳細が伝わっていた。
東地区北側歓楽街に鳥女を買うことができる店があるようだ。手と口でのサービスを行っている店だが、鳥女を扱っているサービス店は特区には少なく、この店で本番を希望する厚かましい客も多いらしい。
肉塊はその店の常連客で、店の商品を手籠めにして本番行為を要求し、サービス嬢は身ごもってしまった。
鳥女は子を宿すと産むために巣が必要だ。その巣は本来、父親となる雄が用意するが、姦夫は受け入れず、突っぱねた。
結果、男は対価を支払わされた。
鳥女は文字通り男を骨抜きにし、男の骨で巣を作った。残りの滓はいらない。路地には肉塊が置き去りにされたわけだ。
店の規約を破ったことや鳥女の生態を鑑みて、救済措置は難しかった。男は自治会や警備署からのお咎めはなしだったが、骨を失ったことに対しての補償はなされなかった。
見世物小屋に引き取られ、骨なし男として一日三千円で展示されているらしい。
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東地区の北側中ほどに昆虫姦を専門にした店がある。ハーフから完全まで、様々なサービス嬢を用意しているそこは、専門家にとっては天国のような店だった。
そこに情婦がいる。
「あらぁ、いらっしゃいダーリンっ」
顔の半分もある黄緑色の瞳がつやつやと光る。複眼が男をじっと見つめ、そのひとつひとつに顔が移りこんでいた。硬い骨格に頬ずりすると女がうっとりと微笑んだ。冷たく、ざらつきのある頬が愛らしい。
「待ってた」
「会いたかったよ」
待っていられないと言うように、二人でベッドにもぐりこみ身体を繋げる。情婦は後ろからの情交を好んだ。本能的に好きなのだと言った。
「ああ。好き。とても好きだわ……」
膨らんだ下腹部がゆらと揺れる。骨のない細い手足。関節と外骨格の硬さに興奮した。
ねえ、あなた。
カマキリが後ろを振り向き、接吻を強請る。強靭な顎を舌で舐めまわす。
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