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012. 逃亡
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街の外から身を守るために逃げてくる者がいる。特区には戸籍のような人間を管理するものがない。人一人が増えても減っても気にするものは誰もいないのだった。
その朝、男は自宅に来た二人の警察官を振り切った。その後、警察官はもとより、組織の人間や仲間だった同僚、親にまで狙われ、追われているのだった。
懸賞金がかかっている。男は組織を裏切り、外で罪を犯したのだ。男をすべての人間が血眼で探す。男は逃亡先として、隠れ蓑になると思った特区に入りこんだ。
特区は犯罪者にとっての天国ではない。特区には特区の難がある。
侵入して最初、男は電柱に手をかけた。追手から全速力で逃げた。息が切れていた。
間髪入れず、電柱が悲鳴を上げる。声を上げるはずのない無機質なコンクリートが。瞬く間に、巨大な女の身体が男の手に触れていた。
痴漢よ! と叫ばれ、男は狼狽した。
路地裏に逃げる。さらに息が上がる。とにかく、今はこの場から逃げなければ。落ち着かない呼吸で路地の奥へ、奥へ。
その先に、少年が座り込んでいた。こんなところに……、と疑問を生じる余裕はない。金品でも奪ってここから逃げよう。まずは安全の確保。それが第一だった。
まさか、特区に入りこんですぐにトラブルに巻き込まれるとは思ってもみなかった。
おい、声をかけ近寄った。よく見れば美しい顔をしていた。
その顔の下で腰から先が溶けて、なくなっていた。白くも青くも見える身体。スライムだ。
「ちょうどよかった。水もってない?」
見たこともない美しい顔が何事もないように話しかけてくる。
悲鳴を上げてその場を去った。どこをどう逃げたかわからない。
閉まった商店街の扉を横目にひたすら走る。朝はどうやらモンスターの巣窟らしいその通りは大小様々、見たこともない生き物が男の疾走を眺めていた。
捕食者の目線。
振り切った先に、かつての仲間が立っていた。
外か、中か。どちらが安全か、判断する余裕を男を失っていた。
銃声。背後に聞こえる。振り切った。
角をまがった先には暗闇が広がっていた。とにかく何もかもからにげなければ、と男は何も考えすにその中に飛び込んだ。
同時に、穴も男のことを吸い込んだ。
暗い滑り台のようなつるつるとした表面をすべる。おい! という声は上から降ってきたが、やがて聞こえなくなった。
俺は逃げられたのか……? いや、逃げたと言えるだろうか。この特区の中でも最悪な状況と言える、何が起こるかわからない穴に飛び込んでしまって。
果てしなく暗いところを落ちていく。この先に何があるのか。生きて出られるのか。いや、この浮遊感。すでに死んでいるのかと思った。
気が付けば自宅のベッドに寝ていた。チャイムが鳴る。朝、男を逮捕しようとしていた警察官が二人、ドアの外に立っている。
男は過去に戻っていた。あの恐ろしい特区から脱出することができたのだ。
男は進んで警察官に身柄を明け渡した。
その朝、男は自宅に来た二人の警察官を振り切った。その後、警察官はもとより、組織の人間や仲間だった同僚、親にまで狙われ、追われているのだった。
懸賞金がかかっている。男は組織を裏切り、外で罪を犯したのだ。男をすべての人間が血眼で探す。男は逃亡先として、隠れ蓑になると思った特区に入りこんだ。
特区は犯罪者にとっての天国ではない。特区には特区の難がある。
侵入して最初、男は電柱に手をかけた。追手から全速力で逃げた。息が切れていた。
間髪入れず、電柱が悲鳴を上げる。声を上げるはずのない無機質なコンクリートが。瞬く間に、巨大な女の身体が男の手に触れていた。
痴漢よ! と叫ばれ、男は狼狽した。
路地裏に逃げる。さらに息が上がる。とにかく、今はこの場から逃げなければ。落ち着かない呼吸で路地の奥へ、奥へ。
その先に、少年が座り込んでいた。こんなところに……、と疑問を生じる余裕はない。金品でも奪ってここから逃げよう。まずは安全の確保。それが第一だった。
まさか、特区に入りこんですぐにトラブルに巻き込まれるとは思ってもみなかった。
おい、声をかけ近寄った。よく見れば美しい顔をしていた。
その顔の下で腰から先が溶けて、なくなっていた。白くも青くも見える身体。スライムだ。
「ちょうどよかった。水もってない?」
見たこともない美しい顔が何事もないように話しかけてくる。
悲鳴を上げてその場を去った。どこをどう逃げたかわからない。
閉まった商店街の扉を横目にひたすら走る。朝はどうやらモンスターの巣窟らしいその通りは大小様々、見たこともない生き物が男の疾走を眺めていた。
捕食者の目線。
振り切った先に、かつての仲間が立っていた。
外か、中か。どちらが安全か、判断する余裕を男を失っていた。
銃声。背後に聞こえる。振り切った。
角をまがった先には暗闇が広がっていた。とにかく何もかもからにげなければ、と男は何も考えすにその中に飛び込んだ。
同時に、穴も男のことを吸い込んだ。
暗い滑り台のようなつるつるとした表面をすべる。おい! という声は上から降ってきたが、やがて聞こえなくなった。
俺は逃げられたのか……? いや、逃げたと言えるだろうか。この特区の中でも最悪な状況と言える、何が起こるかわからない穴に飛び込んでしまって。
果てしなく暗いところを落ちていく。この先に何があるのか。生きて出られるのか。いや、この浮遊感。すでに死んでいるのかと思った。
気が付けば自宅のベッドに寝ていた。チャイムが鳴る。朝、男を逮捕しようとしていた警察官が二人、ドアの外に立っている。
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