マニブス・パルビス@どの話からでも読める伝奇短編集

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040.歯車

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 観覧車を天使が回している。

 それは特区の西地区北側に位置する。巨大な円盤は、上は雲を突き抜け、下は地面を抉るようにして回っている。

 設置されてから止まったことはなく、天と地下、それから地上をぐるり、特区の正常な空気と異常な空気、揺らめく空と蠢く地下世界をかき回す。

 止まれば、特区のバランスが崩れるそうだ。

 その観覧車のてっぺん付近で、白い翼の目撃談が相次いでいた。姿を見ることができるのはさらに北に近づいた断崖絶壁の中ほど。崖に住み着く化け物や怪異が、街のカラフルに回る籠の間で飛び回る、観覧車を回す人間を見たと話しているのである。

 翼をはためかせて、観覧車と踊るような姿を怪物たちは天使だと思っていた。太陽に反射したまっさらな地面のようなシルエット。しなやかな飛行。

 モンスターたちは近くで見れば、さぞ美しいことだろうと話す。

 その噂を聞きつけて、何人もの人間が北の崖を目指した。中腹までは険しい道を登ることになる。急な山道、足がすくむような細い舗装のない小道。しかし、人間はその場所を目指した。天使をその目で見るために。

 ある人間が絶壁に辿り着いた時、そこには化け物たちの暗い巣穴があるばかり。観覧車は山の霧に隠されていた。

 天使の話をするくらいだろう、この山のモンスターは温和な性質かもしれない。

 人間は身振りを交えながら、観覧車について知らないか近寄った。怪異は当初、人間を観察するようにじっと眺めていたが、徐にその身体へと手を伸ばした。

「ぎゃ、」

 身体――モンスターにとっての肉は既にがんじがらめにされていた。

 その様子を見て、他の化け物がほくそ笑む。

「噂なんかに騙されて、人間はどうしてこんなに愚かな生き物なんだろう」

 天使の噂はモンスターが作り出した嘘だったのだ。しかし、その噂は嘘だと証明する者はいない。全て、ここに住み着く怪物に食べられていたのだから。

 やはり、モンスターはモンスターだ。人間は己の軽率さを呪った。何人もの人間を食ったのだろう。よく見れば骨と思しき白い塊があたりに散らばっていた。

 これから食われるのだ。目を瞑った。モンスターの歯は立てられなかった。

 目を開けると、モンスターの背から絡みつく何かがその身体を引きちぎるようにしてギコギコと動いている。

 怪物の背後には白い翼があった。天使がモンスターを羽交い絞めにして、その身体の中に引き込んでいた。機械の天使が全身でモンスターをねじ切っている。

 白く輝くその姿はモンスターを巻き込んで、やがて怪異ははミンチになった。他の怪異を、同様に引きちぎっていく。

 赤く染まった羽を震わせると、天使は元の白さを取り戻した。

 そのまま、観覧車のある方へ飛んでいく。そして、遠目に見ると、観覧車を回す一つの歯車になってしまった。
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