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第一章 すみれさんの秘密
2「すみれさんの秘密」
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雨が降っていた。俺は傘をさして、人混みの中を歩く。俺は散歩が趣味で、よくこうしている。雨の日は人がまばらで歩きやすい。
夜の歓楽街。ラブホテル。すみれさんと見たことのない若い男が、そこに入っていった。俺は驚いた。すみれさんがそんなことをするような女には見えなかったからだ。しかし俺はあることを閃いた。ホテルの前で二時間ほど待っていると二人は出てきて、笑い合いながら何か喋った後、別々の方向に歩いていった。
俺はすみれさんの後をつけて、駅前にきたところで声をかけた。
「すみれさん!」
「! ……勇くん……、どうしたの? こんなところで」
あなたこそ今まで、こんなところで何をしていたのだ、と言いたかったが、そんなことはしない。高鳴る胸を抑えつつ、俺は努めて冷静に、焦っている自分を演じながら話す。本性を隠すために。
「俺……、見ちゃったんです。すみれさんと、その、若い男がホテルから出てくるところ……」
「えっ! ……そう、見られちゃったかあ……。ふふ、そう、ついにばれちゃったんだ」
予定通り。彼女は俺を善良な人間だと思っている。それもそのはずだ。俺はずっと彼女の前で良い人間のふりをしてきた。でも、もう本性を見せてもいい頃だ。
「すみれさん……。このこと、俺、ご主人には秘密にします。ただ、その、見返りが欲しいなって」
「えっ……、あなた、……何が目的?」
「ふふ、俺もあの男と同じように扱ってほしいんです」
すみれさんはうなだれて、しばらくそのままで、それから俺の方を虚ろな目で見た後、力無く頷いた。
三日後。このところ天気はずっとぐずついていた。テレビのニュースでは台風がきていると騒いでいる。
今日はすみれさんと待ち合わせをしている。歓楽街といえど、平日の昼間は空いている。あまり人に見られたくないから、好都合だ。広場の大時計がメロディーを奏で出した。待ち合わせの時間だ。
「ひさしぶりね、勇くん。待った?」
後ろから声がしたので、振り向くとすみれさんがいた。いつもトレーナーとかパーカーとか着ているのに、今日はおしゃれをしている。白いワンピースにサンダル。すごく可愛い。
「どうかな。ちょっと若すぎたかしら……?」
「似合ってますよ。すごく可愛いです」
すみれさんは真っ赤になって押し黙ってしまった。俺は微笑み、すみれさんの手を取って歩き出した。彼女は少し驚いたようだったが、なされるがままになっていた。俺は彼女の弱みを握っている。
俺たちはラブホテルに入る。部屋のドアを後ろ手に閉めた瞬間、すみれさんの身体を抱きすくめる。雨のせいで少し湿っている、その華奢な身体は震えていた。
夜の歓楽街。ラブホテル。すみれさんと見たことのない若い男が、そこに入っていった。俺は驚いた。すみれさんがそんなことをするような女には見えなかったからだ。しかし俺はあることを閃いた。ホテルの前で二時間ほど待っていると二人は出てきて、笑い合いながら何か喋った後、別々の方向に歩いていった。
俺はすみれさんの後をつけて、駅前にきたところで声をかけた。
「すみれさん!」
「! ……勇くん……、どうしたの? こんなところで」
あなたこそ今まで、こんなところで何をしていたのだ、と言いたかったが、そんなことはしない。高鳴る胸を抑えつつ、俺は努めて冷静に、焦っている自分を演じながら話す。本性を隠すために。
「俺……、見ちゃったんです。すみれさんと、その、若い男がホテルから出てくるところ……」
「えっ! ……そう、見られちゃったかあ……。ふふ、そう、ついにばれちゃったんだ」
予定通り。彼女は俺を善良な人間だと思っている。それもそのはずだ。俺はずっと彼女の前で良い人間のふりをしてきた。でも、もう本性を見せてもいい頃だ。
「すみれさん……。このこと、俺、ご主人には秘密にします。ただ、その、見返りが欲しいなって」
「えっ……、あなた、……何が目的?」
「ふふ、俺もあの男と同じように扱ってほしいんです」
すみれさんはうなだれて、しばらくそのままで、それから俺の方を虚ろな目で見た後、力無く頷いた。
三日後。このところ天気はずっとぐずついていた。テレビのニュースでは台風がきていると騒いでいる。
今日はすみれさんと待ち合わせをしている。歓楽街といえど、平日の昼間は空いている。あまり人に見られたくないから、好都合だ。広場の大時計がメロディーを奏で出した。待ち合わせの時間だ。
「ひさしぶりね、勇くん。待った?」
後ろから声がしたので、振り向くとすみれさんがいた。いつもトレーナーとかパーカーとか着ているのに、今日はおしゃれをしている。白いワンピースにサンダル。すごく可愛い。
「どうかな。ちょっと若すぎたかしら……?」
「似合ってますよ。すごく可愛いです」
すみれさんは真っ赤になって押し黙ってしまった。俺は微笑み、すみれさんの手を取って歩き出した。彼女は少し驚いたようだったが、なされるがままになっていた。俺は彼女の弱みを握っている。
俺たちはラブホテルに入る。部屋のドアを後ろ手に閉めた瞬間、すみれさんの身体を抱きすくめる。雨のせいで少し湿っている、その華奢な身体は震えていた。
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