ストレイ・ラム【完結】

Motoki

文字の大きさ
8 / 115
黒い幻影

7

しおりを挟む
 何やら厭味たっぷりに言ったつもりらしい彼女に、友也さんは涼しい顔でさらりと切り返した。

「――それはそれは。ご忠告傷み入ります、お嬢サマ。ご存知かとは思いますが、出口はあちらとなっておりますので」

 ドアを指し示した友也さんが、フンッと顔を背けた妹から、呆然と二人のやり取りを見つめていた俺に視線を移した。

「ああご免、話の途中だったね。これの事は気にせず、そろそろ名前を聞かせてもらえるかな? 私はまだ、さっきのユニークなお嬢さんが言った、山下君という名字しか知らないからね」

 思い出したようにクスリと笑った友也さんに、松岡がハッと笑う。

「ユニークじゃなくて、バカって言うんだよ。あんなのは。――大体、注意力が足んねぇんだよな。ああまで言う前に、何回もヒントやってんのに」

 こいつはこいつで、勝手な事をほざいている。

「何よ? なんの話?」

 俺達三人の顔を見回した妹に、友也さんが呆れた目を向けた。

「少しは静かに出来ないのか? 今は彼の名前を聞いてるんだよ」

「俺、山下やました一樹かずきっていいます」

「一樹君ね。ああ、コーヒーが冷めてしまった。もう一度淹れるから、飲んでおくれ」

「美味いぞ」

「依羅さんの淹れたコーヒーには、及ばないケドね」

 妹の台詞にヒョイと片眉を上げた友也さんが、チロリとドアに目を向けた。

「やっと帰って来たか」

 口許に笑みを浮かべ、小さく呟く。

「………」

 振り返ると、丁度ドアを開けて一人の男性が入って来るところだった。カランと小さな音をたててドアを開けた男は、少しきつい瞳で店内を素早く見回した。最後に俺達で視線を止めると、ツカツカと歩み寄って来た。

「お帰り。探し物は見つかったか?」

 訊いた友也さんに軽く肩を竦める。そして松岡の耳元に口を寄せると、小さく囁いた。

「二番テーブルのお客がもうすぐお帰りだ。レジの所へ行っておいてくれないか」

 振り返った松岡の視線を追いかけて、三つあるテーブル席の真ん中のテーブルに座っているカップルを見る。何やら楽しそうに話している二人の会話がすぐ終わるようには見えなかったが、松岡は黙って立ち上がるとレジへと向かった。

 その男性は松岡が座っていたカウンター席の隣へ腰を下ろし、友也さんが差し出したおしぼりを黙って受け取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...