ストレイ・ラム【完結】

Motoki

文字の大きさ
9 / 115
黒い幻影

8

しおりを挟む
「ところで友也。綾香さんに何も出ていないのと、この彼のコーヒーが随分と冷めてしまっているのが、気になるんだけどね」

 上目遣いに友也さんを見上げて、首を傾げるようにして言う。それに判っていると頷いた友也さんは、黒いエプロンを男性へと渡した。

「一樹君の分は今淹れ直してるよ。綾香の分はいらない。甘やかすと、癖になるからな。お前の分のコーヒーも一緒に用意してるから、その間に二番テーブルを片付けておいてくれよ」

 振り返ると、さっきのカップルが立ち上がってレジへと向かうところだった。友也さんから受け取ったエプロンをつけながらクスリと笑った男性は、盆を持ってテーブルに向かいながら、友也さんの妹へと顔を向けた。

「それじゃあ、綾香さんには私がアップルティでもお淹れするよ。少々お待ちを。友也よりは美味しいのをご用意出来ると思うよ」

「さっすがは依羅さん。素敵! 私だって、お兄ちゃんより依羅さんの淹れてくれたアップルティの方が、断然嬉しいモンね」

 ベッと舌を出した彼女に、友也さんが冷たい視線を向けた。

「……お前。それ以上しゃべったら抓み出す」

 低く放たれた兄の台詞に、妹は大人しく両手で口を塞いだ。

 ――怖ぇ。

 それは、さっきまでのやり取りが、ホント軽いじゃれ合いだったと痛感させられる声音だった。

 しかしそんな事はお構いなしで、クスクスと笑いながらカウンターの中へと回り込んだ男性に、友也さんが溜め息混じりに告げた。

「あんまり甘やかすな。なんの得もないぞ」

「しかしね、友也。彼女は私の親友の、妹なのだよ」

 微笑んだ男性に、友也さんは更に深い溜め息をつ吐いた。俺の前に新しく淹れたコーヒーを置いて、戻って来た松岡にもコーヒーを出してやる。

「サンキュ、友也さん。やっぱり依羅さんの言った通りだったな。さすがだ」

「そー言えば……。なんであの二人の客がもうすぐ帰るって判ったんだ……?」

 空いたテーブル席を振り返りながら呟いた俺に、男性の視線が向けられる。そのあまりの鋭さに一瞬たじろいだ俺だが、その時は何故だか好奇心の方がまさってしまった。

「教えてもらうのは、駄目ですか?」

 お前、誰? とその瞳が問いかけてくる。

「依羅。彼は保の友達の山下一樹君だ。一樹君、こっちがさっき話してた、此処のもう一人のオーナー、上宮かみつみや依羅よさみだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

処理中です...