21 / 115
黒い幻影
20
しおりを挟む
「『ストレイ・ラム』変わった名前だね」
喫茶店のドアを開けようとした松岡の横で、新田が呟いた。
「そうか? ある意味ピッタリなんだけどな」
「どーいう意味なんだ?」
何気に言った俺に、二人の視線が突き刺さる。
「お前、授業ちゃんとうけてんのか?」
「まさか、ラムまで解らないとは言わないよね? 『ストレイ・ラム』、『迷える子羊』の意味だよ」
「ふーん、そう」
チロリと俺に呆れた視線を向けた松岡が、ドアを開けて中に入った。それに続いて入った俺達を、手を上げて止める。
「ちょっと、今は無理みたいだ」
松岡の視線を追うと、丁度客を二階に案内しようとしている依羅さんがこちらを見ていた。その後ろにいる客は、昨日のあの、中年の男だった。
「どうした、保」
訊いた依羅さんに、松岡が頷く。
「うん。二つばかし、依羅さんに相談があるんだ」
鋭い視線を俺達に向けていた依羅さんは、新田を見つめて言った。
「一つの方は大体想像がつく。――が、もう一つの方は少し待ってもらえると有難い。十五分程、大丈夫かい?」
「あ、はい」
答えた新田に薄く微笑んだ依羅さんは、カウンターの中の友也さんに視線を移した。
「子犬の方は、友也に相談した方が良さそうだよ」
そう言って上がって行く依羅さんを見送っていた松岡は、友也さんに向き直り肩を竦めてみせた。
「どーしよ、友也さん」
「取り敢えず、今はお客がいないからいいけど、犬が苦手なお客も来るかもしれない。事務所の方へ入れておいた方がいいかな。二階にコーヒーを持って行ったら、何か温めてあげよう」
「サンキュ」
カウンターの後ろにあるドアに入って行った松岡は、すぐに黒いエプロンをつけながら出て来た。二階から下りて来た友也さんに、手を洗いながら問いかける。
「あの子犬、飼ってくれそうな人いるかな」
「どーだろね。暫くなら、私達のマンションで預かる事も出来るけど」
「うーん」
軽く温めた牛乳のようなものを皿へと移しながら、友也さんは俺達に目を向けた。
「日に日に友達が多くなっていくね、保。一樹君と――」
「あ、新田博之です」
「新田君ね。二人はコーヒーでいいのかな?」
「あ、すいません。昨日も結局、ご馳走になっちゃって」
「いいよ。保の友達なんだから」
やさしく微笑んだ友也さんが、皿を松岡に渡した。それを持って、ドアの向こうへと松岡が消える。
喫茶店のドアを開けようとした松岡の横で、新田が呟いた。
「そうか? ある意味ピッタリなんだけどな」
「どーいう意味なんだ?」
何気に言った俺に、二人の視線が突き刺さる。
「お前、授業ちゃんとうけてんのか?」
「まさか、ラムまで解らないとは言わないよね? 『ストレイ・ラム』、『迷える子羊』の意味だよ」
「ふーん、そう」
チロリと俺に呆れた視線を向けた松岡が、ドアを開けて中に入った。それに続いて入った俺達を、手を上げて止める。
「ちょっと、今は無理みたいだ」
松岡の視線を追うと、丁度客を二階に案内しようとしている依羅さんがこちらを見ていた。その後ろにいる客は、昨日のあの、中年の男だった。
「どうした、保」
訊いた依羅さんに、松岡が頷く。
「うん。二つばかし、依羅さんに相談があるんだ」
鋭い視線を俺達に向けていた依羅さんは、新田を見つめて言った。
「一つの方は大体想像がつく。――が、もう一つの方は少し待ってもらえると有難い。十五分程、大丈夫かい?」
「あ、はい」
答えた新田に薄く微笑んだ依羅さんは、カウンターの中の友也さんに視線を移した。
「子犬の方は、友也に相談した方が良さそうだよ」
そう言って上がって行く依羅さんを見送っていた松岡は、友也さんに向き直り肩を竦めてみせた。
「どーしよ、友也さん」
「取り敢えず、今はお客がいないからいいけど、犬が苦手なお客も来るかもしれない。事務所の方へ入れておいた方がいいかな。二階にコーヒーを持って行ったら、何か温めてあげよう」
「サンキュ」
カウンターの後ろにあるドアに入って行った松岡は、すぐに黒いエプロンをつけながら出て来た。二階から下りて来た友也さんに、手を洗いながら問いかける。
「あの子犬、飼ってくれそうな人いるかな」
「どーだろね。暫くなら、私達のマンションで預かる事も出来るけど」
「うーん」
軽く温めた牛乳のようなものを皿へと移しながら、友也さんは俺達に目を向けた。
「日に日に友達が多くなっていくね、保。一樹君と――」
「あ、新田博之です」
「新田君ね。二人はコーヒーでいいのかな?」
「あ、すいません。昨日も結局、ご馳走になっちゃって」
「いいよ。保の友達なんだから」
やさしく微笑んだ友也さんが、皿を松岡に渡した。それを持って、ドアの向こうへと松岡が消える。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる