ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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「……そうですか」

 考え込むように目を閉じた松岡が、チロリと新田に目を向けた。

子羊ラムは、あんただ。どうだ? 依頼内容に変更はないか?」

「えっ?」

 驚いた顔で松岡を見つめていた新田だったが、暫くの沈黙の後、笑顔を浮かべて頷いた。

「ああ、変更はない。ドッペルゲンガーが出ないようにだけ、してくれればいい」

「――おい。博之」

 その台詞にフッと笑った松岡が、背中を引き剥がすようにしてドアから離れた。

「承知致しました」

 胸に右手をあてペコリとお辞儀をすると、不満げな武田へと目を向けた。

「安心しろ、武田。今ので最後だ。奴は所詮お前の影でしかない。幻想世界の住人は、現実世界では生きてはいけないさ。只――人間には誰の心にも現実と幻想、二つの世界がある。現実がちゃんと見えている奴は大丈夫だが、幻想に取り込まれた奴は、現実の自分の立っている位置を見失い、罪を犯す。自分が創り出した幻に、逆に操られちまうんだな。

――ドッペルゲンガーは二度と現れないと、俺は今確信しているが、お前も二度と今日みたいな腑抜けた試合をするな。それが、ドッペルゲンガーを出さない一番の方法だ」

 松岡の言わんとしている全ては理解出来ないまでも、『腑抜けた試合』を自覚していたらしい武田は、「ああ」と言葉少なに頷いた。

 それを横目に見た松岡が、トイレの方へと歩いて行く。入口の前で立ち止まり、俺達を振り返った。

「何してる。このトイレの方から、調べるぞ」

「え? でも、もう出ないようにするだけでいいって、今新田が――」

「新田はな。――武田、お前はそれでいいのか?」

「いいワケ、ないって!」

「……だろうな」

 勢いよく言って駆け寄った武田を中に入れ、俺達にも声をかける。

「お前等も、早く来い!」

 手招きした松岡は、俺達を先に入れてから最後に自分が入って来た。

 俺達は二つの個室は勿論、ドアの裏側や掃除道具入れまで念入りに調べたが、何処にもドッペルゲンガーは隠れていなかった。

「次はこっちだ」

 廊下のロッカーを勢いよく開けた松岡は、中に誰も隠れていない事を武田に確認させて、バンッとドアを閉めた。

「やっぱ、音を立てずにこのドアを閉めるのは無理だぜ」

「むー。……そーなるかぁ」

 顔を顰めた武田も、ドアを開閉して確かめている。

「気が済んだか?」

 キャプテンの言葉に、松岡と武田が渋々頷く。
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