ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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「仕方ないな。消えちまったんだから」

 肩を竦めた松岡は、武田と新田を振り返り片手を上げた。

「もう必要ないと思うが、約束通り護符を渡すよ。明日、サ店まで取りに来てくれ。十一時オープンだから、十時に来い。依羅さん達も早く来てくれるそうだ。ああ、見送りはいい。勝手に帰るから。――早く食堂へ行け、他の奴等に迷惑がかかるそうだからな」

 チラリとキャプテンにも目を向けた松岡は、軽く頭を下げて背を向けた。中央の階段に向かって歩きながら、溜め息混じりに呟く。

「俺達もハラ減ったなぁ。ラーメンでも食ってくか」

 背中を丸めるようにして、ジーパンのポケットへと両手を突っ込む。

 パタリパタリと階段を下りる松岡は、俺の視線に気付いてこちらに顔を向けた。

「何?」

「いや、ホントにもう出ないのかと思って」

「ドッペル?」

「そう」

「ああ。百パーセントに限りなく近い確率で、出ないって保証出来ると思うぜ」

「なんで?」

 その問いに「うーん」と唸った松岡は、人差し指を振って天井を見上げた。

「それはやっぱ、あのキャプテンの台詞のお陰――かな」

「どういう事?」

「詳しくは、明日話す。どうせ、依羅さん達にも報告しないといけないし」

 そう言いながらスリッパを履き替えた松岡は、受付のおばさんに「帰るわ」と手を振った。それに応えたおばさんが、俺にも会釈してくれる。

 玄関から外へと出た俺達は、もうかなり暗くなってしまった道路へと出た。

「依羅さんか……。あっちの子羊ラムはどうなったんだろ」

「そりゃ、解決してるさ。俺の師匠ラビが担当してんだぜ」

 当然だろと楽しげに肩を震わせる。

「どーいう依頼内容?」

「知らん」

 意外な言葉が、即答で返ってくる。疑いの目を向けた俺に、松岡が肩を竦めた。

「だって、話してくれねぇんだもん」

「え?」

「お前。気付かなかった? 子羊となった客に接触出来るのは、依羅さんと友也さんだけなんだぜ。俺なんか、精々二階に案内するぐらいだ。依頼内容を話した子羊への対応は、全てオーナー二人で為される。――俺が加われるのは、今回の新田のように誰に聞かれても構わないって、子羊の時だけだ。そんな奴は、殆どいないけど」

 松岡は両手を頭の後ろで組むと、つまらなそうに空を見上げた。
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