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呪いの鎧武者
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ビクッと手を引っ込めた俺は、松岡の方を見遣ってその後ろにある人影に息を呑んだ。
長く伸びた空間の奥。四メートル程先に、誰かが腰掛けている。俺は心臓が止まる程驚いて、目を瞠った。
「………鎧武者」
――いや。
隠し部屋の奥に座っているように見えた鎧武者は、中身の無い、只の鎧だけだった。その手には、美術室の油絵同様、刀を持っている。
「この刀が、五つ目の封印だ」
その前に置かれた、何やら紐で束ねた古い書物を手に取った松岡が、それをパラパラと捲る。
「この刀が封印だとすると……、宝はどれ? この十字架? まさか」
一人で呟いた俺を無視して、松岡は熱心にその古文書とでも呼べそうな本を読んでいる。
パタンとそれを閉じた松岡は、今度は白い封筒に入った手紙を読み始めた。すぐにそれを元の封筒に戻すと、俺を見てニンマリと笑った。
「その十字架は、厳密にはお宝じゃないな。お宝の名残だ」
「えっ? じゃあ、もう無いのか? 鎧武者の宝」
「いや。――あるぜ」
「何処に? 他にはなんにも無いじゃないか、此処」
クスリと笑った松岡は、腕を組んで目を閉じた。
「それはな――俺達さ」
「…………」
驚きの声も出ずに松岡を凝視した俺に、松岡はチロリと瞼を上げた。
「つまり、どういう事かと言うとだな。昔この鎧をつけていた奴は、『隠れキリシタン』達を守ろうとした奴だったんだよ。『キリシタン征伐』ってあっただろう? あん時、たとえそれが子供であろうがキリシタンは処刑された。キリストを崇拝していない奴でも、それに反感を持つ奴はいたんだよ。『大人は兎も角、子供にまで』ってな。それを思いだけに留めず行動に移したのが、この男だった訳だ。
殺された子供達の十字架を胸にな、出来るだけ多くの子供を守ろうとした。そしてそいつが殺された後、その思いを引き継いだのが高科のご先祖だったって訳だ。でも、先輩も言っていただろう? あれから気の遠くなる程年月が経って時代も変わったってのに……まだ守ろうとしているんだよ、この鎧武者は。守る宝を求めて、毎晩高科の屋敷を徘徊していた。それを不憫に思ったんだろうな、高科の曾爺さんは――。彼に、新しいお宝を与えたんだ」
「新しい、宝?」
長く伸びた空間の奥。四メートル程先に、誰かが腰掛けている。俺は心臓が止まる程驚いて、目を瞠った。
「………鎧武者」
――いや。
隠し部屋の奥に座っているように見えた鎧武者は、中身の無い、只の鎧だけだった。その手には、美術室の油絵同様、刀を持っている。
「この刀が、五つ目の封印だ」
その前に置かれた、何やら紐で束ねた古い書物を手に取った松岡が、それをパラパラと捲る。
「この刀が封印だとすると……、宝はどれ? この十字架? まさか」
一人で呟いた俺を無視して、松岡は熱心にその古文書とでも呼べそうな本を読んでいる。
パタンとそれを閉じた松岡は、今度は白い封筒に入った手紙を読み始めた。すぐにそれを元の封筒に戻すと、俺を見てニンマリと笑った。
「その十字架は、厳密にはお宝じゃないな。お宝の名残だ」
「えっ? じゃあ、もう無いのか? 鎧武者の宝」
「いや。――あるぜ」
「何処に? 他にはなんにも無いじゃないか、此処」
クスリと笑った松岡は、腕を組んで目を閉じた。
「それはな――俺達さ」
「…………」
驚きの声も出ずに松岡を凝視した俺に、松岡はチロリと瞼を上げた。
「つまり、どういう事かと言うとだな。昔この鎧をつけていた奴は、『隠れキリシタン』達を守ろうとした奴だったんだよ。『キリシタン征伐』ってあっただろう? あん時、たとえそれが子供であろうがキリシタンは処刑された。キリストを崇拝していない奴でも、それに反感を持つ奴はいたんだよ。『大人は兎も角、子供にまで』ってな。それを思いだけに留めず行動に移したのが、この男だった訳だ。
殺された子供達の十字架を胸にな、出来るだけ多くの子供を守ろうとした。そしてそいつが殺された後、その思いを引き継いだのが高科のご先祖だったって訳だ。でも、先輩も言っていただろう? あれから気の遠くなる程年月が経って時代も変わったってのに……まだ守ろうとしているんだよ、この鎧武者は。守る宝を求めて、毎晩高科の屋敷を徘徊していた。それを不憫に思ったんだろうな、高科の曾爺さんは――。彼に、新しいお宝を与えたんだ」
「新しい、宝?」
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