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異世界転移したアイツと、その後の私〜残され少女の見る夢は?〜
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彼が突然消えたらしい。
なんの前触れもなく、道を歩いていた彼の足元に魔方陣らしきものが出現したかと思うと吸い込まれるように消えていった。
もちろん、彼の家族や知人は必死に探したのだがまったく発見される気配はなかった。
なぜ、彼が忽然と消えたのか。
だれもが困惑するなかで、私は“彼は異世界に転移した”のだと思った。
きっと、いまごろ異世界で大冒険をしているのだろう。
だって、彼は本当にそういうことが大好きだったからだ。
~ナニカコ企画~
主催者:野林緑里 2022年5月1日 13:25 作成
上記文章を使わせて頂きました。
若干の変更点はご了承ください。
~~~
高校二年の夏、アイツが突然いなくなった。
私の見てる目の前で…
前を歩く彼の足下に、円形に輝く紋様が浮かび上がった次の瞬間、
アッと思う時間もなく、彼の姿が消え失せた。
辺りを探しても見当たらない。
何が起きたのか、全く理解が追いつかない。
友人知人も所在を知らず、その日の夜には彼の両親から捜索願いが提出された。
夕刻の駅前と言うこともあり、目撃証言はたくさん出てきた。
しかしその全員が、同じ内容を口にする。
「道に魔法陣が浮かび上がり、一瞬で少年の姿が消え去った」と…
いくつかのマスコミは無責任に、
「少年は異世界に召喚された」と報道した。
とは言え私も、そんな風に思えてならない。
アイツは常日頃から、そう言う妄想めいた話をしていたから。
そうして半月が過ぎたころ、彼の両親が捜索願いを取り下げた。
私が理由を尋ねると、
「灯里ちゃんを見てると何だかね。あの子らしいと言うか何と言うか、新太が元気ならそれでいい」
親御さんが、笑顔を見せる。
そんな二人の表情に…
あれから初めて私は泣いた。
~~~
アイツが休学扱いとなり、生徒たちの噂話も落ち着き始めたそんなある日、
私はおかしな夢を見た。
周りが瓦礫で埋め尽くされ、もうもうと土煙りが舞い上がっている。
最初は大きな地震でも起きて、家が倒壊したのかと考えた。でも違う。散らばる瓦礫の状況から、ここが私の部屋じゃない事は確かに判る。
とりあえず、身体に痛みはどこにも無い。
私は大きな瓦礫を押し退けて、その場にスッと立ち上がった。
「おーい、シンタ。生きてるかー?」
そのとき視界を覆う土煙りの向こうから、野太い男の声が聞こえてきた。
(新太…?)
私は一瞬、ドキリとする。それと同時に、これは夢だと思い至った。
それでもこの土煙りの向こう側に、もしかしたら新太がいるのかもしれない。
そう思うや否や、私は土煙りから飛び出した。
そうしてやっぱり、これは夢だと確信する。
勢いよく飛び出た私の真正面に、
二階建ての家屋ほどもある真っ黒な闘牛が、鼻を鳴らして待ち構えていた。
~~~
「シンタ、無事? 治癒は必要? …って、誰⁉︎」
金髪ロングの超絶美人が、青い瞳を見開いて、驚きの表情を浮かべていた。
フードをずらした白い外套で身を包み、身長ほどもある長い錫杖を構えている。
「シンタの装備と一致。何でか女の子みたいになってる」
続いて声が聞こえると、魔女のような黒い三角帽子をかぶった小柄な少女が、茶色い瞳で、マジマジと私を見ていた。
黒い外套で身を包み、手に持つ木製の魔法杖は、少女の身長を優に超えている。
「とりあえず今は後にしてくれー。流石の俺でも、そう何度も防ぎきれねー」
そのとき聞こえた野太い声は、先ほど聞こえた男の声だ。
二メートルはあろうかと思う巨躯の男性が、同じく身長ほどもある大盾で、巨大闘牛の突進を押さえ込んでいた。
日に灼けた浅黒い肌に、ボサボサの黒い短髪。ガッシリした広い肩幅の上半身には、みっちりした鉄色の鎧を着けていた。
「もしかして、結構ピンチ?」
「見たまんまよ」
私の独り言のような呟きに、金髪美女がキツい態度で溜め息を吐く。
「あの子の魔法は?」
そんな私の提案に、魔女っ子の瞳がキラリと光り輝いた。
「私の稲妻で、仲良く黒焦げでも良いなら」
「嫌に決まってるでしょ!」
「だったら距離を取るとか…」
「アンタのマントのせいだって、気付いてない訳ないよね?」
「…え⁉︎」
言われて私は視線を落とす。胸部を護る白銀の鎧の後ろには、真紅のマントが揺らめいていた。
…なるほど、そう言うことか。
「仕方ない。私の夢だし、私が何とかするよ」
「何とかって、シンタ…じゃねー、嬢ちゃん。一体どうする気だー?」
巨大闘牛と力比べの体勢のまま、大男が険しい表情で振り返る。
「ゲームじゃコテンパンだったけど、運動神経なら負けないんだから」
誰に対する対抗心だか。思わず吐いて出た自分の言葉に、私は小さな苦笑いを浮かべた。
それから、巨大闘牛に向けて一歩を踏み出す。
その一歩で、本能的に理解した。
身体が異様に軽い。全身に力がみなぎっている。
タンと地面を蹴り跳躍すると、一瞬で巨大闘牛の真上に躍り出た。
「あはっ!」
胸に湧き上がる不思議な感覚。どこかバカにしてた男の子の心境が、今なら私にも判る気がする。
私は腰の剣に右手をかけると、シャキンと勢いよく引き抜いた。それから頭上に振り上げて、両手でしっかりと握りなおす。
「メテオスラッシュ!」
降下と同時に振り下ろした上段斬りが、巨大な闘牛を一撃のもとに両断し、地面ごと十数メートル斬り裂いた。
直後に巨大闘牛の全身が、無数の立方体となって拡散し、瞬く間に霧散する。
「お、おい…」
聞こえた野太い声に顔を上げると、三者三様にポカンと大口を開けてコチラを見ていた。
そこで私は、ハッと気付く。
恥ずかしいセリフを、本気で叫んでしまった…
『メテオスラッシュ!シュ!シュ!』
自分の声が何度も脳内でリフレインし、皆んなの視線がチクチクと突き刺さる。
わああああ、穴があったら入りたい!
『ちょっとアンタ、大丈夫…』
ピピピピピピ。電子音が鳴り響く。
気が付くと、そこは自分のベッドの上だった。
~~~
あれから度々夢を見た。
メラメラと燃え盛るライオンだったり、自由に空を飛び回るドラゴンだったり…
そのどれもがいきなり窮地に立たされていて、息つく暇もありはしない。
私の夢の筈なのに、全然私に優しくなかった。
「たまにはノンビリ、観光くらいさせてよ!」
思わず自分の夢に愚痴ってみせた、そんなある日のこと…
「あ、ホントに入れ替わった」
そこはベッドの上だった。
何処かの寝室なのだろうか。いつもの三人が、私のことを見下ろしていた。
「思った通り。外的要因による気絶がトリガー」
「お前らマジかー。女って怖ーな、おい」
「えっと、これは…?」
私は上半身を起き上がらせて、皆んなの顔を順に見る。
「ちゃんと挨拶するのは初めてね。改めまして、私はソニア」
金髪美女が、青い瞳を優しく細めて微笑んだ。
「メリル。雷光の魔女とは私のこと」
「アンタそれ、自称でしょ!」
魔女っ子の決めポーズに、ソニアの厳しい突っ込みが入る。
「俺はダニエル。よろしくなー、嬢ちゃん」
浅黒の大男が、見かけに寄らず、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「あ、えと、私は灯里…」
「アカリね。それじゃ、行きましょ!」
自己紹介もそこそこに、いきなりソニアが私の右手を引っ張った。
「え、あの…?」
「観光がしたいって、言ってたじゃない!」
「…………あ!」
どうやら私のささやかな願いは、ちゃんと聞き届けて貰えたようだ。
~~~
そこからは、本当に楽しかった。
自分の夢の筈なのに、見るもの聞くもの新鮮で、とにかく本当に楽しかった。
材質は石膏だろうか、白い壁の街並みが絵画のように綺麗だし、
港に出れば、採れたて海産物の屋台が良い匂いだし美味しいし、
極め付けは、
入った喫茶店のウェイターが、金髪をオールバックに固めた、超絶美形の男性エルフだった。
一日中皆んなで歩き回り、夕食も食べ、今は温泉でノンビリしている。
ファンタジーだからと危惧もしたが、どうやら混浴ではなかったようだ。
「今日はホントにありがとう」
露天風呂に三人並んで浸かりながら、私は大きく伸びをする。
「アカリにはいつもお世話になってるから、こんな事で喜んで貰えるならお安い御用よ」
「本当に感謝。アカリが居なかったらと思うとゾッとする」
二人の気持ちも判るけど、そもそもが私の夢なんだから、それはそれでちょっと気まずい。
「私の夢が、何かゴメン」
「何でアカリが謝るのよ、おかしな子」
そう言ってソニアが優しく笑った。
「次は夜の部。今日はピピまだ終わらピピ」
続いて立ち上がったメリルが何かを言うが、耳障りな雑音と重なって、上手く聞き取れない。
「ごめ…何か、よく聞こえない」
だんだんと大きくなる雑音が、徐々に苦痛になってきた。
『ちょっとアカリ、大丈夫⁉︎』
『悪い予感。時間切れかもしれない』
『え、それって……待ってアカリ! こんな所で元に戻らないで…っ』
「早く起きなさい! 遅刻するわよ!」
同時にハッと覚醒する。
鳴り響く電子音に、母親の怒鳴り声。
そこは自分の部屋だった。
「あーもう。まだまだ楽しみたかったのに」
「馬鹿なこと言ってないで、早く起きなさい」
「は~い」
渋々起き上がってパジャマを脱ぐ。楽しい夢ほど途中で終わるとか、ホントあるあるだ。
「また皆んなに会いたいな」
無意識に零れた自分の言葉に、私は思わず笑ってしまった。
きっと新太も、何処かの世界で、こんな風に旅をしているのだろう。
会えなくなったのは寂しいけれど、楽しくやっているのならそれで良い。
「いつまで着替えてるの。早くご飯食べなさい!」
「はーい!」
急いで制服に着替えると、私は自分の部屋から飛び出した。
~おしまい~
なんの前触れもなく、道を歩いていた彼の足元に魔方陣らしきものが出現したかと思うと吸い込まれるように消えていった。
もちろん、彼の家族や知人は必死に探したのだがまったく発見される気配はなかった。
なぜ、彼が忽然と消えたのか。
だれもが困惑するなかで、私は“彼は異世界に転移した”のだと思った。
きっと、いまごろ異世界で大冒険をしているのだろう。
だって、彼は本当にそういうことが大好きだったからだ。
~ナニカコ企画~
主催者:野林緑里 2022年5月1日 13:25 作成
上記文章を使わせて頂きました。
若干の変更点はご了承ください。
~~~
高校二年の夏、アイツが突然いなくなった。
私の見てる目の前で…
前を歩く彼の足下に、円形に輝く紋様が浮かび上がった次の瞬間、
アッと思う時間もなく、彼の姿が消え失せた。
辺りを探しても見当たらない。
何が起きたのか、全く理解が追いつかない。
友人知人も所在を知らず、その日の夜には彼の両親から捜索願いが提出された。
夕刻の駅前と言うこともあり、目撃証言はたくさん出てきた。
しかしその全員が、同じ内容を口にする。
「道に魔法陣が浮かび上がり、一瞬で少年の姿が消え去った」と…
いくつかのマスコミは無責任に、
「少年は異世界に召喚された」と報道した。
とは言え私も、そんな風に思えてならない。
アイツは常日頃から、そう言う妄想めいた話をしていたから。
そうして半月が過ぎたころ、彼の両親が捜索願いを取り下げた。
私が理由を尋ねると、
「灯里ちゃんを見てると何だかね。あの子らしいと言うか何と言うか、新太が元気ならそれでいい」
親御さんが、笑顔を見せる。
そんな二人の表情に…
あれから初めて私は泣いた。
~~~
アイツが休学扱いとなり、生徒たちの噂話も落ち着き始めたそんなある日、
私はおかしな夢を見た。
周りが瓦礫で埋め尽くされ、もうもうと土煙りが舞い上がっている。
最初は大きな地震でも起きて、家が倒壊したのかと考えた。でも違う。散らばる瓦礫の状況から、ここが私の部屋じゃない事は確かに判る。
とりあえず、身体に痛みはどこにも無い。
私は大きな瓦礫を押し退けて、その場にスッと立ち上がった。
「おーい、シンタ。生きてるかー?」
そのとき視界を覆う土煙りの向こうから、野太い男の声が聞こえてきた。
(新太…?)
私は一瞬、ドキリとする。それと同時に、これは夢だと思い至った。
それでもこの土煙りの向こう側に、もしかしたら新太がいるのかもしれない。
そう思うや否や、私は土煙りから飛び出した。
そうしてやっぱり、これは夢だと確信する。
勢いよく飛び出た私の真正面に、
二階建ての家屋ほどもある真っ黒な闘牛が、鼻を鳴らして待ち構えていた。
~~~
「シンタ、無事? 治癒は必要? …って、誰⁉︎」
金髪ロングの超絶美人が、青い瞳を見開いて、驚きの表情を浮かべていた。
フードをずらした白い外套で身を包み、身長ほどもある長い錫杖を構えている。
「シンタの装備と一致。何でか女の子みたいになってる」
続いて声が聞こえると、魔女のような黒い三角帽子をかぶった小柄な少女が、茶色い瞳で、マジマジと私を見ていた。
黒い外套で身を包み、手に持つ木製の魔法杖は、少女の身長を優に超えている。
「とりあえず今は後にしてくれー。流石の俺でも、そう何度も防ぎきれねー」
そのとき聞こえた野太い声は、先ほど聞こえた男の声だ。
二メートルはあろうかと思う巨躯の男性が、同じく身長ほどもある大盾で、巨大闘牛の突進を押さえ込んでいた。
日に灼けた浅黒い肌に、ボサボサの黒い短髪。ガッシリした広い肩幅の上半身には、みっちりした鉄色の鎧を着けていた。
「もしかして、結構ピンチ?」
「見たまんまよ」
私の独り言のような呟きに、金髪美女がキツい態度で溜め息を吐く。
「あの子の魔法は?」
そんな私の提案に、魔女っ子の瞳がキラリと光り輝いた。
「私の稲妻で、仲良く黒焦げでも良いなら」
「嫌に決まってるでしょ!」
「だったら距離を取るとか…」
「アンタのマントのせいだって、気付いてない訳ないよね?」
「…え⁉︎」
言われて私は視線を落とす。胸部を護る白銀の鎧の後ろには、真紅のマントが揺らめいていた。
…なるほど、そう言うことか。
「仕方ない。私の夢だし、私が何とかするよ」
「何とかって、シンタ…じゃねー、嬢ちゃん。一体どうする気だー?」
巨大闘牛と力比べの体勢のまま、大男が険しい表情で振り返る。
「ゲームじゃコテンパンだったけど、運動神経なら負けないんだから」
誰に対する対抗心だか。思わず吐いて出た自分の言葉に、私は小さな苦笑いを浮かべた。
それから、巨大闘牛に向けて一歩を踏み出す。
その一歩で、本能的に理解した。
身体が異様に軽い。全身に力がみなぎっている。
タンと地面を蹴り跳躍すると、一瞬で巨大闘牛の真上に躍り出た。
「あはっ!」
胸に湧き上がる不思議な感覚。どこかバカにしてた男の子の心境が、今なら私にも判る気がする。
私は腰の剣に右手をかけると、シャキンと勢いよく引き抜いた。それから頭上に振り上げて、両手でしっかりと握りなおす。
「メテオスラッシュ!」
降下と同時に振り下ろした上段斬りが、巨大な闘牛を一撃のもとに両断し、地面ごと十数メートル斬り裂いた。
直後に巨大闘牛の全身が、無数の立方体となって拡散し、瞬く間に霧散する。
「お、おい…」
聞こえた野太い声に顔を上げると、三者三様にポカンと大口を開けてコチラを見ていた。
そこで私は、ハッと気付く。
恥ずかしいセリフを、本気で叫んでしまった…
『メテオスラッシュ!シュ!シュ!』
自分の声が何度も脳内でリフレインし、皆んなの視線がチクチクと突き刺さる。
わああああ、穴があったら入りたい!
『ちょっとアンタ、大丈夫…』
ピピピピピピ。電子音が鳴り響く。
気が付くと、そこは自分のベッドの上だった。
~~~
あれから度々夢を見た。
メラメラと燃え盛るライオンだったり、自由に空を飛び回るドラゴンだったり…
そのどれもがいきなり窮地に立たされていて、息つく暇もありはしない。
私の夢の筈なのに、全然私に優しくなかった。
「たまにはノンビリ、観光くらいさせてよ!」
思わず自分の夢に愚痴ってみせた、そんなある日のこと…
「あ、ホントに入れ替わった」
そこはベッドの上だった。
何処かの寝室なのだろうか。いつもの三人が、私のことを見下ろしていた。
「思った通り。外的要因による気絶がトリガー」
「お前らマジかー。女って怖ーな、おい」
「えっと、これは…?」
私は上半身を起き上がらせて、皆んなの顔を順に見る。
「ちゃんと挨拶するのは初めてね。改めまして、私はソニア」
金髪美女が、青い瞳を優しく細めて微笑んだ。
「メリル。雷光の魔女とは私のこと」
「アンタそれ、自称でしょ!」
魔女っ子の決めポーズに、ソニアの厳しい突っ込みが入る。
「俺はダニエル。よろしくなー、嬢ちゃん」
浅黒の大男が、見かけに寄らず、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「あ、えと、私は灯里…」
「アカリね。それじゃ、行きましょ!」
自己紹介もそこそこに、いきなりソニアが私の右手を引っ張った。
「え、あの…?」
「観光がしたいって、言ってたじゃない!」
「…………あ!」
どうやら私のささやかな願いは、ちゃんと聞き届けて貰えたようだ。
~~~
そこからは、本当に楽しかった。
自分の夢の筈なのに、見るもの聞くもの新鮮で、とにかく本当に楽しかった。
材質は石膏だろうか、白い壁の街並みが絵画のように綺麗だし、
港に出れば、採れたて海産物の屋台が良い匂いだし美味しいし、
極め付けは、
入った喫茶店のウェイターが、金髪をオールバックに固めた、超絶美形の男性エルフだった。
一日中皆んなで歩き回り、夕食も食べ、今は温泉でノンビリしている。
ファンタジーだからと危惧もしたが、どうやら混浴ではなかったようだ。
「今日はホントにありがとう」
露天風呂に三人並んで浸かりながら、私は大きく伸びをする。
「アカリにはいつもお世話になってるから、こんな事で喜んで貰えるならお安い御用よ」
「本当に感謝。アカリが居なかったらと思うとゾッとする」
二人の気持ちも判るけど、そもそもが私の夢なんだから、それはそれでちょっと気まずい。
「私の夢が、何かゴメン」
「何でアカリが謝るのよ、おかしな子」
そう言ってソニアが優しく笑った。
「次は夜の部。今日はピピまだ終わらピピ」
続いて立ち上がったメリルが何かを言うが、耳障りな雑音と重なって、上手く聞き取れない。
「ごめ…何か、よく聞こえない」
だんだんと大きくなる雑音が、徐々に苦痛になってきた。
『ちょっとアカリ、大丈夫⁉︎』
『悪い予感。時間切れかもしれない』
『え、それって……待ってアカリ! こんな所で元に戻らないで…っ』
「早く起きなさい! 遅刻するわよ!」
同時にハッと覚醒する。
鳴り響く電子音に、母親の怒鳴り声。
そこは自分の部屋だった。
「あーもう。まだまだ楽しみたかったのに」
「馬鹿なこと言ってないで、早く起きなさい」
「は~い」
渋々起き上がってパジャマを脱ぐ。楽しい夢ほど途中で終わるとか、ホントあるあるだ。
「また皆んなに会いたいな」
無意識に零れた自分の言葉に、私は思わず笑ってしまった。
きっと新太も、何処かの世界で、こんな風に旅をしているのだろう。
会えなくなったのは寂しいけれど、楽しくやっているのならそれで良い。
「いつまで着替えてるの。早くご飯食べなさい!」
「はーい!」
急いで制服に着替えると、私は自分の部屋から飛び出した。
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