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チートで披露宴に臨む!

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グランバルドの婚姻制度はそこまで突飛なものではない。

・原則的に女が男に嫁ぐ。 (婿入りは稀)
・夫婦別姓 (第一子は夫側の家屋・家業を継承する)
・結婚1年目で妊娠しない場合、夫婦どちらからでも結婚を解消出来る。
・同棲状態が続いた場合、事実婚として認識される。
・セックスして妊娠した場合も事実婚
・貴族と平民は原則的に結婚出来ない。
・貴族と結婚した平民は準貴族になれる。(生まれた子供も準貴族に)

色々と見聞した限りこんな所。
日本とはやや異なるが、そこまで地球と変わらない気がする。

今夜、エルザ母娘がバラン師匠を訪ねて来る。
名目上は先日こちらが贈ったプレゼントの御礼言上だが、実質的にプロポーズ受諾とのことである。
こちらはドラン・俺・ラルフ君が付き添い。
エルザ母娘にはアリサ・マリー・クレア・ノエルの4名が付き添い。
普通はお友達が付いてくる事は無いのだが、逆に馴れ初めがグループ交際の場合は必ずメンバーが立ち会わなければならないシキタリだそうだ。
ラルフ君が後で教えてくれたのだが、重婚を防止する為の措置らしい。

セントラルホテルの一階レストランでパーティー料理を皆でつまむ。
不思議と手掴みで食べる料理(春巻き・サンドウィッチ・干し焼売)ばかり卓に並ぶ。
隣のノエルに尋ねると、《手掴みで食べるくらい親密な集まりだから》とのこと。
成程、理に適った習慣だな。

エルザの母親がバラン師匠に贈答品の礼を述べ「娘をこれからもお願いします」と締めくくる。
(これで交際・同棲・結婚の許可が正式に下りたことになる。)
後は皆で二人に祝福の言葉を投げかけて場を盛り上げて、食事開始である。

『スキル発動。』

俺はこっそりと皆の【心を読み】はじめる。
ある程度みんなの内心を把握していれば、ドランへのアシストも楽になるからである。


・エルザ  【満足、誇らしい、想像以上にバラン師匠が偉くて嬉しい】
・エルザ母 【子育て一段落でほっとしている。】
・アリサ  【年下のエルザに先を越されて少し悔しい】
・マリー  【思ってた以上にエルザが気を遣ってくれてるので感激している。】
・クレア  【20代半ばまで遊ぶつもりでいたが、今は結婚願望高まってる】
・ノエル  【役職付の人と仲良くなれて誇らしい。 もっとお近づきになりたい】


ふむ。
概ね肯定的だな。
【心を読んで】わかったことだが、エルザが師匠と結ばれたことで他の4人も同棲とか結婚とかをかなり意識している。
ああ、そうかグループ交際のメンバーを立ち会わせるのって、こういう促進効果を期待しての習慣なんだろうな。

少し頭痛。
同時に皆の心をチェックするのは、少し疲れるが…
だが工房の為だ頑張ろう!

俺の目的は、バラン師匠に次いでドランさんも誰かとくっつけること。
これはグランバルドに来てから色々と面倒を見てくれた二人への恩返しである。
バラン師匠に春が来た今、その幼馴染のドランさんにも幸福になって貰うべきだろう。

俺は場が盛り上がったタイミングで、ドランさんの工房への貢献をPRした。
前もって打ち合わせていた通り、ラルフ君が普段如何にドランさんが大金を動かしているを補足する。

「えーw  毎日そんな金額の取引をしてるんですかぁー♪」
【えっ!?  そんなに!?  すご!?】

よし、作戦通りの感想を引き出せた。
前線都市が貧しい所為か、日本以上に男性の甲斐性が重視されている。
だから異性相手にプッシュしたければ、如何に仕事が出来て上手く行っているかをPRする必要がある。


『ドランさん、先週は何トンくらい卸したんですか?』

「えーっとねえ。 …7トン弱だな。」

『みんなで積み込みしましたもんねw』

「結構重かったよなw」


よし、女たちが一斉に脳内で㌔単価計算している。
勿論、肉の値段はバラバラなのだが平均値は700円程か…
肉だけで500万ウェン弱、やっぱり安定して儲かる商売だな。


「でも皆さん凄いですー♪  お仕事も順調ですし、ギルドでもご出世されたんですよね?」
【この人達と仲良くしてれば、職場でちょっかい出されずに済みそう。
今も結構一目置かれ出してるしね。】


エルザの親友のマリーの本音は面白い。
この子はキョロ充気質というか、常に周囲の評価や反応を伺っているので、この子の【心中】を見ているだけで女子側の事情が何となく分かるのである。


『ありがとう。
仕事は思った以上に上手く行ってる。
忙しいけどねw
本当はドランさんにも役職に就いて欲しかったんだけど断られてしまって。』


「お友達人事って一番嫌がられるからな。
バランの花道に水を差したくないんだよ。」


「ほえーーーーー♪」
【大人の世界ってそんな風に役職とかが決まるんだ。
カッコいい!!】


よし、女の子の反応がかなりいいな。
女がこんな話を聞いて面白いのか不安だったが、結構役職やら組織の話に喰いつきがいい。


「でも私達もそろそろ真面目に意識しなくちゃいけない歳なんだよね…」
【さっきこっそりドランさんが誘ってくれたけど、あれって本気だったのかな?
それとも遊び? でも私だけに声を掛けてくれてたみたいだし。
よし、帰りにもう一度誘われたらこっそり一人で遊びに行こう】


よし、クレアがドランさんに喰いついてる。
この子前までは尻軽タイプの思考をしていたが、年下のエルザが嫁ぎ先を決めたことで相当保守的な考え方になっている。
やっぱり女って周囲に影響されるのかな?

他の女の【心中】も念入りにチェックするも、ドランさんへの好感度はクレアが一番高い。
以前ドラン寄りだったマリーも今はそこまでではない。
俺は飲み物を取りに行くフリをして、ドランさんに決めていた合図を送る。


《クレア一択で行って下さい。 この後、誘って下さい。》


念の為ドランさんの【心を読む】が、ちゃんと合図が通じていたので安心する。
この人は勘がいいので、即興のアイコンタクトでも割と通じるので助かる。

場は盛り上がり、バラン師匠の新居トークに話題が移る。
そこからエルザ母がシングルマザーの苦労話を面白おかしく語る。
(これはバランに対する牽制でもある。)
一同は大爆笑で雰囲気がかなり明るく、そして崩れたものとなる。
ややシモの話題とカネの話。
冗談めかして言っているが女達は割と真剣。
それはそうだろう。
人生が掛かってるんだから。


「このメンバーも何かの縁だからさ、これからは皆で助け合って行こうな。
困ったら気軽に声を掛けてね。
社交辞令じゃないからねー。」


バラン師匠がそう言うと、女達が心底救われたような表情で頷いた。
そりゃあそうだろう。
彼女達の不安はエルザだけが幸せになって、自分がそのまま取り残されることなんだから。


「チートさん、工業区で噂になってますよ。」


宴も酣になった頃、ノエルちゃんが内緒話のトーンで声を掛けて来た。
この子は悪い子では無いのだが、やや仲間を出し抜こうとする傾向がある。
(俺はそういう性格の人間が好きだが。)


『噂?』

「チートさんが空き店舗を色々と物色してるって。
独立とかしちゃうんですか?」
【この歳で独立する人とか凄い!
私もこんな風になりたい!
今の職場で終わりたくない!】


『いや、俺はバラン師匠の元でもっと修行したいんだ。
テナント探しをしてるのはね。
職工ギルドからの依頼なんだよ。
ほら、この街って廃業が多いだろ?
何とか埋めて行かなきゃね。』


「そ、そうだったんですねー。
ほえーーーーーーー♪」
【しゅ、しゅごい!
ギルドからの依頼?
チートさんってギルドから仕事を任されてる人なんだ!?
よくわからないけどすごい!
すごいからすごい!
…わ、私も。】


ん?
ノエルはこういう話に興味あるのか?


『俺、工業区に土地勘無いから結構大変なんだよ。
誰かが手伝ってくれたら、もっといい仕事する自信あるんだけど。』


「…。」


わかりやすい女だ。
ノエルの目が物凄く真剣になる。
【】の中で目まぐるしく計算と逡巡が巻き起こる。
教育を受けてないだけで、この子は地頭が良いのだろう。


「ねえ、チートさん。
わ、私も工業区の為に…
役に立ちたいって前から思ってたんだけど…」
【私も何か…
チートさんみたいに役職が欲しい。
ずっと工員は嫌だ。
もっと偉い存在になりたい。
何とかこの人に喰いついて…  
認められたい!】


あー、この子だけが他の子から浮いてた理由がわかった。
5人共上昇志向があったのだが、ノエル以外は《如何に地位や富のある男性》と結ばれるかを考えているが、この子は《自分自身が地位や富》を得たい、と考えているんだ。
もう一度5人の【心を読んで】みるが、見比べてみればノエルはやや男脳なのかも知れない。


『ノエルは偉いなあ。
まだ10代なのにそんなに真面目に街の事を考えてたなんて。
俺、尊敬するよ。』

「えーー。
そんな大したことないですよーーー。」
【信じてくれて嬉しい。
もっと褒めて♪ 褒めて褒めて褒めて♪】

『じゃあさあ。
言葉に甘えるみたいで申し訳ないんだけど。
ちょっとこの案件、ノエルにも相談させてよ。
勿論、俺の権限で正規の報酬を支払うからさ。』


「は、はい! 
何でも言って下さい!
頑張ります!」
【あんけん! けんげん! ほうしゅう!
カッコいい!
私、こういうふんいき(変換できない!)の仕事がしたかったんだよ!!】


『今日は師匠のお祝いだから解散するけど。
ノエルの暇な時とか飯でも食いながら俺の仕事を説明させてよ。』


「はいっしゅ!」
【はいっしゅ!】


よーし。
いい感じだ。
こういう積極的に関与してくれる人間を探していた。
ノエルはまともな教育も受けてないし生育環境も悪いのだが、その割に知的なものへの志向が強い気がする。
上手く言えないがこの女は使える。
身体も俺好みだしな!

バラン師匠が締めの挨拶を始めたので、俺は慌てて女達の【心を読む】。


・エルザ  【バラン師匠が遊びではなく本気で私を扱ってくれて感激】
・エルザ母 【今のアパートが狭いのでバランギル工房で住ませてくれないだろうか?】
・アリサ  【結婚願望発動中。 ラルフ君と早く進展したい。】
・マリー  【エルザおめでとう。でも私はバランと釣り合う男性を見つけられるのだろうか?】
・クレア  【ドランは今度いつ誘ってくれるのか?】
・ノエル  【チートの仕事を手伝えれば、今まで馬鹿にしてきた連中を見返せるかも!】


ハアハア。
グランバルドに来てから、一番スキルを使ってるな…
ヤバい頭が痛い。
女だけでも6人いて、みんなそこまで頭が良くないから論理性に乏しく…
【心を読む】のがキツい。
逆にレザノフ卿やゴードン夫人、ついでにベスおば辺りは高度な教育を受けただけあって、脳内が理論整然としており非常に把握しやすいのだが。


『…スキル解除。』


頭痛に耐え兼ねた俺は【心を読む】のを中断する。
そして会がお開きになって、ドランさんがクレアに親し気に話し掛けたのを見届けると、敢えて陽気な声で皆に別れの挨拶をして工房に速足で帰った。

慌てて三階のリビングに上がった俺は葛茶に口を付けるが疲労感と頭痛は取れなかった。
変な汗が背中から出てきていよいよ苦しんでいると、つまらなさそうに俺を観察していたベスおばが心底つまらなさそうな表情で青い液薬を無言のまま突き出してきた。
飲め、ということだろうか?
俺が無言で受け取った青い液隊を喉に流し込むと、不思議なくらいあっさりと痛みが消えた。

一応感謝すべき状況だったので、セントラルホテルで貰ったお土産を無言で渡してから自室への階段を上った。
背後から包み紙をビリビリ破く音が聞こえて、直後に何かをボリボリ貪る音が聞こえたので、多少は借りを返せたのだろう。

俺は布団に倒れ込んですぐに眠った。
その日は夢すら見なかった。
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