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チートでトカゲの尻尾

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グランバルドにも《運命の赤い糸伝説》は存在するらしく、リビングに降りるとラルフ君達に冷やかされた。


「兄弟子も隅に置けませんね。
メリッサさんもかなり不安そうですよ。
…フォロー入れておいた方が良いかと(コソッ)」

『ありがとう。
出かける前に声を掛けてみるよ。』


メリッサが言葉少なく、やや情緒不安定だったので
『俺にも心当たりが無いので気にしないように。』
とだけ言い含めて工房を出る。



まずは河原だ。
昨日、確認出来なかったリザードとの沈黙交易(喋りまくってるから、もうただの試験交易だな)をチェックせねば。


『ゲ――――――ヴィ!!!!』

「キョンニチワ!!」


数日ぶりにリザードと邂逅する。
2匹のバディだ。
恐らくは人間でいうと、老人と青年の組み合わせなんじゃないかな?
(肌艶の違いから察するにだけど)

驚くべきことに、彼らは人間側の挨拶言葉をそこそこ正確に発音出来ていた。
言葉が通じないなりに教えたのは俺だが、ここまでの学習能力を見せつけられると考えさせられるものがある。

一匹は見覚えがある。

『ヴォッヴォヴィ?』

恐らく親が勉強家のリザード・ヴォッヴォヴィであろうと声を掛けると。


「ハイw!  ヴェーダ、ヴォッヴォヴィ!」


と嬉しそうに回答する。
【心の声】と照合すると「ヴェーダ」はリザード語で「I am」を意味する言葉だった。
最近、そうやって徐々に言語を交換している。


『ヴェーダ、チート!』


老リザードにそう呼びかけてみると、【心中】で驚愕していた。
そりゃあ、そうだろう。


【えーっと、聞きにくい事なんだけど。
その赤い光は何かな?
もしも兵器か何かだとしたら、僕達の上官の立場が凄く悪くなるんだけど…
一体、それは何だろう?
あ、勿論詮索の意図はないから、言い難ければ伏せて貰って構わないよ?】


交渉は切れ者のヴォッヴォヴィに一任されているらしく、老リザードは神妙そうに首をすくめている。

【お役目とは言え、まさか人間種との接触を検分する日が来るとは…】

的なニュアンスの事を考え続けているので、恐らくはこの老リザードはお目付け役なのだろう。


『いいえ! いいえ!
武器でも兵器でもありません!
起床すると何故か光っていたのです!』


通じるか否かはさておき、否定の意思は打ち出しておく。
後々外交問題に発展すると怖いからな。


【わかった。
違うんだね?
否定と解釈するよ?
ただ、申し訳ないけどその赤い発光現象については上に報告させてね?
本当にごめんね。
これも仕事なんだ。】


『ドーゾ! ドーゾ!』


【はははw
《ドーゾ》は僕も覚えたよw
肯定や推奨を意味する掛け声だね。
今、地元で《ドーゾ》が流行語になってるんだぜw】


おお、マジか。
リザードは結構フレンドリーな種族なのだろうか?
それとも意識してそう振舞ってるのだろうか?


『恋人が出来るかも知れないんだ。』


冗談めかして言ってみたが、二匹には通じなかったようで苦笑で流されてしまう。


【さて、待たせたねチート。
これが僕らからの返答だ。】


そう言ってヴォッヴォヴィは無数の記号が刻まれた粘土板(のような材質)を渡して来る。
間違いない、俺が彼らに渡した通貨表への返答だ。


【注意書きにも書かせて貰ったけど、我々は地方の経済格差が激しい。
少なくとも君たちの文明よりはレートのブレが大きいと分析している。
恥ずかしい話なんだけど、河を一本越えるだけでレートがかなり変わってしまうんだ。
だが、我々なりに嘘のない相場観・価値観を記している。
その点だけ信じてくれると嬉しい。】


ああ、コイツら最高だな。
遠くない未来、グランバルド帝国とリザード種は必ずや緊張緩和を成功させるであろう。


『信じる!
君達の態度は終始好ましく敬意に値するものだった!
今日頂けた誠実な姿勢を私のこれからの人生の模範とする!
私も君たち同様、誠実な交渉者であり続ける事を約束する!』


「ア リガ トゥ」
【ありがとう】


通じたのか?
何故通じた?
表情や雰囲気で、こちらの理解的な言動を読み取ってくれたのか?
いやいや!
今、《ありがとう》って発音したよな?
俺、教えてないぞ?
いや、彼らの前で反射的に数回発したかも知れんが…



「ア リガ トゥ ・ イー―――ブン。」
【ありがとう。   そして我々の言葉ではイーブン
シチョー・チートなら恐らくは理解してくれるだろう。
お互いが感謝語彙を把握すれば、交渉は加速度的に進捗する筈だ。】


コイツら本当に頭がいいな。


『イーブン、ヴォッヴォヴィ。』


【流石だ。
願わくば他の人間種もこれくらいの知性と感性を備えておいて欲しいな。】


ありがとう。
きっと大丈夫。
こっちは馬鹿も多いが市井に賢者が多い。


【そしてチート。
こちらも渡しておく。
取引ではないので、支払いは不要だ。】


ヴォッヴォヴィが老リザードに一礼してから、俺に石製の箱を渡してくる。


『取引ではない?』


不思議に思いながらも促されて石箱を空けると、かなり古い布のようなものが折り畳まれて収納されていた。


二匹のリザードが緊張した面持ちとなり、俺の表情を伺ってきた。


【曲解されない事を祈るのみだ!】
【供養や追悼の概念を人間種が本当に持っているか?
私の見立てでは比較的コボルト族に近い葬送の概念を所有してそうなのだが…】
【頼むぞー。 変な意味に取らないでくれよ。】
【これは賭けだ。 リスクは大きいが、我々の意図さえ汲み取ってくれれば】
【恐らくあの布は彼らの軍旗。 それも司令官クラスの紋章か何かの筈。】
【平時に軍旗を返却するということは、我々の世界では停戦交渉の呼びかけだが…
果たして人間族にそんなメッセージが通じるのか?】
【誤解さえなければ良い! 愚弄や挑発の意図は無いと信じて欲しい!】


ああ、なるほど!
理解した。
昔、グランバルドが君達リザードと戦争した時に、この旗を鹵獲したんだな?
それが戦利品か何かとして保管されていたが、友好の端緒として返却したいと?
そう解釈するぞ?
俺は勝手にそう解釈したからな!?
布は古いが保存状態は悪くない。
これならグランバルドの上層部に届けても、揉め事の種には…
多分ならない!
俺も精一杯口添えをする。


『はいはいはい!  
趣旨を理解しました!
貴方たちに悪意はありません!
皆にも周知を徹底します。』


俺は二匹のリザードと抱擁し、グランバルド式の友好の握手を求めた。
ヴォッヴォヴィが尻尾を巻き付けてきたので驚くが
【これは親愛動作だ。
うっかり人間種に仕掛ける馬鹿が現れるかもだけど
その時、誤解が生じないようにチートから皆に伝えておいてくれ。
相手の足に尻尾を巻き付ける、というのは敵意は一切ない、というジェスチャーで
喧嘩の和解や他部族への訪問の際に多用される。
僕も同胞に細心の注意を呼び掛けているが、いずれ人間種の皆様に良かれと思ってこの非礼を働く者が
現れるはずだ。
その時の文化的摩擦を防ぎたい】


流石だよヴォッヴォヴィ。
貴方なら異世界に転移しても、俺なんかよりよっぽど上手くやると保証する。



俺は二匹の朋友と別れると、行政府を目指した。
庁舎の正門に近づくと先日の騎士達が駆け寄ってきて一斉に俺に爽やかな挨拶をしてきた。
聞こえてくる【心の声】を分析すると、あの誤認逮捕劇は彼らにとって相当不味かったらしく、何とか挽回のチャンスを狙っているとのこと。
体育会系の奴らって本当に陰湿で怖いよな。

誰かが知らせたのだろうか?
遠方からベルナール副使が満面の笑顔で駆け寄ってきて、十年来の親友のような表情で俺を抱擁しようとする。
貴重品も持っていたので流石にこれはスルー。


「やあチート市長!
おはようございます!
おっ!?
今日はジャスミンの香水ですか。
流石は市長! ファッションセンスも完璧ですな!!
しかも指から靡く赤い糸!
いやあ、色男ですなあ。
お羨ましい限りです。」


こういう露骨な追従を仕掛けてくる辺り役人って恐ろしいよな。
俺は多分先日の件の恨みや怯えが態度に出ていると思うのだが、ベルナール副使も周囲の騎士たちも一切笑顔を崩さない。
役人って自分の進退が絡むと本気出すよね…


「市長閣下! 輿を用意させましょう!」
「閣下! お荷物をお持ちします!」
「閣下、肩にホコリ屑が付いております!」
「市長閣下! 赤い糸の監視業務は小官にお任せ下さい!」


俺はコイツらを無視しながら進むが、全然諦めてくれない。
おいおい、体育会系って普段からここまでする事を求められて生きてるのか?
まさか日本はここまで露骨じゃないよな?
っていうか、オマエらにボコられたトラウマがフラッシュバックするから近づいてくるなよ!

『この荷物、貴重なんだ。
俺も取り扱いには細心の注意を払ってる。
壊れちゃったら責任問題じゃ済まないから触らないでくれるか?』


《責任問題》という単語を聞いた瞬間、騎士たちは笑顔のままで俺から距離を置いた。
なんか俺、コイツらとの付き合い方わかったかも知れない。


玄関までレザノフ卿が迎えに来たので、気まずいながらも挨拶。


「中央区に公邸を用意しますのでそちらに住んで頂けませんか?」

『申し訳ありません。
丁稚の身分ですので。』


お互いサラっと流す。
ヴァルダロス伯爵は体調不良により宿泊区で静養中とのこと。
政治家みたいな奴だな…   ああ、政治家なのか。


『監察っていつ頃まで続くのですか?』


何気なく周囲に尋ねると、「監察は帝都に帰るまでが監察です。」という回答が返ってくる。
【心を読む】限り、おちょくられてる訳ではなく、そういうものらしい。
今回に限っては伯爵が詰め腹を切らされてようやく監察が終わるらしい。
そっか、大変だね。


『レザノフ卿、例の交易の件で報告があるのですが…
立ち合いはどうしましょう?』


レザノフ卿が何か返答する前に
「それでは我々はフロアで待機しておりますね。
何か用件がありましたらいつでもお呼びつけ下さい!」
とベルナール副使が満面の笑みで敬礼する。
おいおい、今回の件ってそんなにオマエらにとって拙かったのか?
ベルナールの【心を読む】と、これがリザードの話題である事は把握されていた。
おいおい、むしろこっちを監察するのがオマエらの仕事だと思うが…
俺の方が不安になってくるよ。



執務室に向かう前に離れの霊安室のような場所に連れていかれる。
気は進まないが、ホルムルンド氏の遺体を検分する義務が俺にはあるらしい。

暗く冷たい小部屋の中で、氏と再会。
聞いていた通り、首と胴が離れている。


「古式に則り首実検を行います。
立ち合い人及び報告人はイワン・レナートヴィチ・レザノフが務めさせて頂きます!」


言うなりレザノフ卿はホルムルンド氏の生首をこちらに突き出して来る。


「この者!
ヤーコプ・ホルムルンド!
年齢54歳!
チート市長への誣告! 
及びヘンリーク盗賊団を相手にした贓物牙保罪!
以上2点の罪状により、斬刑に処されました!
執行人はダミアン・キーヴィッツ少尉!

それでは市長、厳粛に確認をお願い致します!
身元に疑義あれば《異議あり》と
ホルムルンド被告の身元で間違いなければ《相違なし》と
御宣言お願いします!」


どうやらこれが定型文のようだ。
身元確認も何も…
俺がホルムルンドを見たのはほんの一瞬に過ぎず、数言交わしただけなのだが…
いつまでも首を突き出されていたくないので、『相違なし』と答える。

レザノフ卿はこういう遣り取りに慣れているのか、芝居のように四方に一礼して遺体に布を掛けた。


「もう一体あります。
法的には検分の義務はありませんが…」


レザノフ卿が淡々とした声で続ける。
マカレナか…
こちらは一方的に因縁を付けられただけなのにな。


『供養させて下さい。』


奥の床に無造作に敷かれてたシート。
レザノフが捲ろうとするが、それは拒絶する。
俺はひざまずき、グランバルド式に祈りを捧げた。


「部下がご迷惑をお掛けしました。」


『いえ。
事情はよく呑み込めておりませんが、皆様には皆様なりの理由があったのでしょう。』


そんな会話を交わして霊安室を出る。
扉の外で待機していた法衣のようなものを着た若い男が、俺の赤い糸を見て驚愕し何かを問おうとするがレザノフ卿に叱責された。

「まずはご自身の任務を果たしなさい!」

どうやらこの若い法衣の男は従軍僧であり、本来であれば俺が処刑された後の供養を行う予定だったようだ。
レザノフ卿に叱責された従軍僧は慌てて霊安室に入室する。
恐らく宗教的な手続きがあるのだろう。
やれやれ。
今更になって命拾いを実感する。



執務室に入り、まずは先日の告発騒動のお詫びと説明。
俺はこの男に余計な情報を与えたくなかったので、言葉数少なく素直に頷き続けた。
スキルも発動して探るが、【心中】に新たな動きは見当たらない。

「ヨーゼフ君とは士官学校時代の友人でして。」

この男が《友人》という言葉を使ったという事は、さほど仲が良くなかったのだろう。
レザノフの様な公私に厳しい男が公務の場で友情を感じている相手を《友人》と呼ぶわけがない。

『大蔵省に入省される前は軍隊におられたのですね。』

「ええ。
軍と言っても経理部門ですが。
士官学校在学中に幸運にも一種官僚試験に合格しまして大蔵省に入省しました。
もっとも大蔵省の中ではまるで軍人の様な任務ばかり押し付けられてしまっているのですがw」


苦しいカバーストーリーだ。
もっとも、千両役者のこの男が語ると妙な信憑性を感じさせられるのだが。
主席の座はどこぞの大根役者よりも貴方の方が相応しい。
流石は准将殿。


『監察官の彼らですが、私はまだ付き合う必要がありますか?
極力リソースを割きたくないのですが。』

「監察業務というのは、従事者が終結を宣言するまで続くものです。
伯爵が退去した時点で正式に監察終了と考えていて下さい。
それまでは協力的な姿勢を取られることを推奨致します。」

『レザノフ卿を間に挟んでも問題はありませんか?』

「…問題ありません。」

『ありがとうございます。』


「ここからが腹を割った話ですが。」


『はい。』


「イセカイ市長がお察しの通り、彼らに監察継続の意思がありません。
先日の告発騒動。
アレが致命傷になってます。
彼らも身動きが取れない状況にあります。
余談ですが、私も身動きできません。」


試す様にレザノフ卿が俺の表情を監察しながら、そう付け加える。
それは嘘だな。
アンタ、こういう状況から何度も逆転してきた人間だろ?



『私は監察官を生まれて初めて見たのですが…
やはりあれはまずいのでしょうか?』


「杜撰ですね。
帳簿を確認していない段階でチート市長や関係者の方を拘留してしまったのは…
取り返しのつかない失態です。
普通はあそこまで精緻な帳簿など存在しないので…
それが彼らの不幸と言えば不幸なのですが。」


『なるほど。』


「また謝罪が遅れましたが…
商業ギルドの職員が誣告者に協力的な姿勢を取ったこと
この場にて改めて深くお詫びします。
信じて頂けないかも知れませんが…」


『レザノフ卿が関与していなかった事は重々承知しております。
仮に貴方が私を告発するとしたら、リザードの情報を一通り収集させてからですよね?』


「…ええ。
その方が国益に適うことでしょう。
勿論、チート市長の治世が末永くある事が最大の国益とは考えておりますが。」


如才ない男である。
この男なら官僚であれ軍人であれ探検家であれ、何をやっても成功するだろう。
マカレナが執着していた気持ちも理解出来る。


『この箱はリザードからのものです。
こちらの粘土板は、彼らが提示した価格表。
先方の態度を見るに相当重要度が高そうなので、これで一通りの初期情報は揃ったとみてよいでしょう。』


「気の早い者なら、これでファーストコンタクトの一段落と考えるかも知れませんね。

チート市長。
拝見して宜しいでしょうか?」


『どうぞ。』


リザードの提示してきた不等号は。
瑪瑙>大理石>琥珀>翡翠>黒曜石


「石貨文化なのでしょうか?」

『…らしいですね。』


いや、重要なのは不等号ではない。
粘土板の隅々に書き込まれた注意書きの数々である。
彼らと接した時間は極めて短時間なのだが、リザード種は極めて厳密性を好む。
良くも悪くも些事に細かく、神経質で不安症だ。
例えば、この粘土板のサイズ。
俺が渡した木板のサイズにかなり近い。
恐らく寸分違わないのだろう。
同サイズの板で返信してきた理由は明白だ。

《対等の立場で交渉がしたい。 
臣従も望んでいないが君達に対して支配的な立場も望んでいない。》

貸し借りなしのフラットな関係構築。
それが彼らの基本的なスタンス。


「解読に時間が掛かりますね。
最終的には帝都の総合アカデミーに分析を依頼する形になるでしょうが…
この粘土板は、商業ギルド預かりで構いませんか?」


『そうですね。
彼らは軍人が関与するのを異常に警戒しておりましたので。
大蔵省から商業ギルドに出向しているレザノフ卿なら、託すに相応しいです。』


少し言葉に棘を込め過ぎたか…
【心の中】のレザノフ卿が恐ろしい形相で俺を睨みつけてくる。
怖い!怖いからそれやめて! 
表面上爽やかに微笑しながら、【腹の底】で憎むのやめて!


「そうですね。
この局面で軍が関与し過ぎると疑念が生じる恐れがありますね。(ニコニコ)」


その笑顔やめろ。
悪かったよ! 俺が悪かったよ!

あー、ミスったな。
今の俺の発言で《俺がレザノフ卿を情報将校であると見抜いている》事が完璧に見抜かれてしまったな。
そう誘導された可能性は高いが、己の幼稚さを反省する。


『レザノフ卿。
私も腹を割って話します。』


「嫌だなあ。
チート市長はこれまでもずっと私に対して誠実に接して下さってますよ。(ニコニコ)」


『切腹処分を前提に振舞って行く、ということです。』


「…それは穏当ではありませんな。」


『率直にお尋ねします。
リザードの粘土板、解読が成功すればグランバルドの国益に適いますか?』


「…当然、大きな国益となるでしょう。」


『リザード種との緊張は緩和出来ますよね?』


「言語の疎通が必ずしも和平に繋が…」


『緩和出来ますよね?
それが私の政治目的です。』


「…承知しました。
私の出来うる範囲の協力を行う事を約束します。
レザノフ家の家名を賭けて宣誓致しましょう。」


『では読み上げて行きますね。』


「待って下さい。
…読む?
何故リザードの文字が読めるのですか?」


『…うーん。
私は鑑定師だから、ということで納得して頂けませんか?
弟弟子は私の事を《学者》と吹聴しているようですし。』


「…チート市長が学者という話は初耳ですな。
後出しはやめて下さいねー。
出身校は? 師は?」


『学歴はありません。
学校に行った経験がないんです。
師はヴィルヘルム博士。』


「ヴィルヘルム博士と面会が出来たのですか!?」


『ああ、いえ。
彼の論文や著作物を読めるだけ読んで、私なりの結論が出ました。
私の師はバランギル、学術に限ってはヴィルヘルム。
博士からはかなり影響受けてると思います。』


「論文を読んだくらいで弟子になれるものなのでしょうか?」


『著作を残す事でそれに目を通す全ての対象に知見を託す事が可能になる。
…これもヴィルヘルム博士の受け売りですが。
まあ要するにアレコレあって、私はリザード文字を読めるのです。』


「鑑定スキルに近いスキルをお持ちなのでしょうね?」


『さあ、どうでしょう。』


「安心して下さい。
無理に詮索する気はありませんので。」


『貴方なら無理なく詮索出来るでしょう?』


「おやおや、これは手厳しいw」


『では解読しながら読み上げて行きますね。』



【親愛なる人間種の皆様

先日はシチョー・チート様より《貨幣解説表》とおぼしき資料を頂戴出来た事
我々種族一同深く感謝しております。
人間種の皆様の文明的かつ秩序的な在り方に強く感銘を受けました。
我々も現状に驕ることなく、いっそうの向上に励む所存です。

さて、この粘土板は我々の《貨幣解説表》です。
人間種の皆様は金属を貨幣として用いられているようですが、我々の文明は長く奇石を通貨として商業活動を行っておりました。
現在は中央行政府か軍隊組織が発行する布幣を通貨として用いておりますが、少額決済については翡翠や琥珀のコインを用いるケースも多いです。
現在、瑪瑙は儀礼用の贈答品としてのみに用いており通貨としての使用例は絶無に近い状態です。
また大理石・黒曜石に関しては実需の高まりから、貨幣としての使用を自粛する流れが興っております。】



俺はレザノフ卿に序文を読み上げてやる。
卿は顎に手をやったまま無言で考え込んでいる。


「イセカイ市長。
その翻訳が正確である保証はありますか?」


『言語の判別は出来なくとも
レザノフ卿は人間の見極めがつく方でしょう?』


「部下もまともに管理出来てませんがね。
いいでしょう。
貴方の読み上げをそのまま帝都に送ります。」



その後も翻訳を続けた。
やや苦しかったのが、文面に占める俺個人への御礼言上の比率があまりに大きかったこと。


【シチョー・チート様は無欲で清廉、賢明にして剛毅。
まさしくリーダーの鑑である。
少なくとも我々の歴史においてここまでの偉人は存在しなかった。
この様な指導者に導かれてる人間種は非常に信頼出来る種族に違いありません
。】


「そう書いてあるのですか?」


『羞恥に歪んだ私の表情を見て真偽を判断して頂ければ結構。』



2時間かけて、翻訳を終えた頃には俺は憔悴し切っていた。
そりゃあ疲れるよ。
普通にラノベを2時間読んでも多少は疲れるんだから。



『学者ぶっておりますが、卿の推測通りこれはスキルの使用ですのでエーテルを飲ませて頂きますね?』


「その薬代、商業ギルドの経費で落としておきましょうか?」


『御厚意感謝しますが、また次の機会に(ゴクゴク)』



エーテルでMPを回復。
これでレザノフ卿への【警戒】を解かずに済む。


次に石箱を空けて中身を確認。
布地の紋章を見た瞬間にレザノフ卿が硬直する。


「揃いの大槍に双頭の獅子!? 
プランタジネット家の当主馬印!」


どうやら要人のものだったらしい。
卿は無言で唇を噛む。


『曲解しないで欲しい。
平時に軍旗を返却するということは停戦交渉の呼びかけ。

彼らはそう申しておりました。
あー、そういう雰囲気でした。
向こうもかなりのリスクを覚悟して、返却を申し出ているようです。』

「…リオネル・ド・プランタジネット大公。
50年前の南境戦争で戦死された我が軍の総司令官です。
…マティアス・ド・プランタジネット大公の祖父にあたる人物です。」


???
偉い人の軍旗ってこと?
七大公家?
確か、この国で一番偉い家の…


「名を挙げるのも憚られる事なのですが…
マティアス様は七大公家プランタジネット大公家の現当主。
御前会議の議長を務めておられる帝国の第一人者です。」



!!!????
凄いなリザード。
初手でいきなり正答を引いて来た。
人間種側は、これで何らかの回答を出さざるを得ない状況となった。


【はー。
これ話の展開次第では私が直接マティアス様に説明に上がらなければならないぞ。
ああ、嫌だなあ。
孫娘との縁談を断ったのに粘着され続けてるし。】


!!!????
凄いなレザノフ。
え? 権力者からの縁談を断った?
アンタ、ラノベの主人公になれるぞ!?
俺が死んだら続きはアンタに任せるよ。


『…』


「プランタジネット大公家の馬印であれば私如きが口は挟めません。
一刻も早く本国に送致せねばなりません。
大至急近隣から立会人の方を招聘しなければ。」


『立会人?』


「当然です。
帝国最高峰の貴人への提出ですよ?
しかるべき爵位・役職を持った方に発送の請願しなければなりません。
何しろ大公家ですからね。」


『レザノフ卿も貴族でしょう?』


「貴族と言っても…
私の実家は一介の子爵家。
それも共和制成立以降に興った軍人貴族家ですので…
流石に私如きの名義で送付してしまうと不敬になってしまいます。
大公家クラスが相手であれば、最低でも伯爵家の立会人が要求されます。」


当然、ヴァルダロス伯爵の名前は挙がらない。
これから切腹する奴に頼み事なんかしても仕方ないしな。



『へえ、大変ですね。』


「イセカイ市長が引継ぎをするんですよ?」


『え!? 俺ですか!?』


「貴方以外に誰がこの状況を説明出来るんですか?」


くっそ。
何で貴族なんかの為に…
いや違うぞ。
これはこの世界を探るチャンスか。
どのみち偉い人間に標準座標≪√47WS≫の情報を伝えなけばならないからな。
流石に七大公とやらには直接会えないだろうが、それに近い貴族へのコネは是非共欲しい。
出来れば七大公家と個人的に交友のある貴族(それも頭が良く開明的な性格)と縁があればベストなのだが。



『これで報告は終了で良いですか?
リザードへの応対ですが、流石に私個人で続けるのは先方に失礼かと思います。
帝国全体で対応するべき課題ですので、交渉窓口にはしかるべき役職者の方を派遣して頂きたいのですが。』


「同感です。
ただ、ファーストコンタクトの窓口として自治都市の市長というのは適任なんですよ。」


『いつでも責任を被せて切り捨てれますしね。』


「そんなけしからん事を考える者は帝国には存在しないと信じたいですな。」



オマエじゃい!
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異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
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 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

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秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
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俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

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