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チートでタイトルを回収する

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対岸に整然とひしめく犬頭の兵士たちの群れ。
噂に聞いていてたコボルトだ。
同行したリザード達の怯えようから、その精強無比が改めて伝わって来る。
幾万の眼光が舳先の俺に集中する。

船が能力の射程内に入った瞬間、俺はスキルを全開状態にした。
殺される前に【心を読み終える】事が出来れば、この交渉を成功させる自信はある。

一点の危惧はベスおばが横目で執拗に俺を観察していること。
この女はグランバルド帝国から居住地が離れているコボルトに大した興味も脅威も持っていない。
寧ろ、帝国にとって警戒すべきは俺だと考えているのだろう。
(事実なので反論する気も無いが)
コボルトとの交渉は概ね成功するだろうが、その場合高い確率でこの女に能力を看破されるな…
もしかしてその為に付いて来たのか?
だとしたら御苦労なことだ。


『外交交渉なんだ、ジロジロ見るのはやめてくれないか?』

「いつも【ジロジロ見てる】のはアナタでしょ。」


くっそ。
やっぱりこちらの能力に見当を付けられているな。


背後からベスおばの厳しい視線を感じながらも、俺はコボルトに集中する。


【大隊長に報告!】
【トカゲと一緒に居る生き物はなんだ? ゴブリン?】
【トカゲがゴブリンと同盟を組んだ?】
【いや、待て! 同胞が船に乗っているぞ?】
【攻撃命令は… いや、司令官クラスじゃないと判断は出来ないか?】
【接岸する気か?  拘束する?】


どうやらコボルト達から見れば人間種はゴブリンの亜種に見えるらしい。
なるほど、面白い視点だ。

言うまでもなく、俺と対峙するコボルトは全員軍人。
観察する限り、相当指揮系統がしっかりしているようだ。

グランバルドに転移して多くの軍人を見て来た俺はここで少し安心した。
ちゃんとした軍人は上官の許可なく敵に手を出さない。
(逆に命令が下ればどれだけ命乞いしても淡々と殺しに来るのだが)
なので、すぐには殺されないだろう。


岸から5メートル程の位置で、船が停まった。
護衛のリザードが恐怖に耐えかねて碇を下ろしてしまったらしい。
ボディーガードを期待していたヴェギータは俺の背中に隠れて硬直してしまっている。
おいおい、アンタ元帥の息子だろうに…
まあ気持ちは解るけどさ…


【どうする?】
【え? 接岸許可を出した方がいいの?】
【こういう場合って中隊長権限ではどうにもならんだろ?】
【軍使扱いした方がいいのか?】
【普通に考えて軍使だよな? 言語とかどうするつもりなんだ?】
【そもそもトカゲと会話出来る人員が居るのか?】


5メートル程の距離でコボルトの群れが俺を一斉に睨みつける。
コボルト達は手元に槍を持っており、この距離は完全に彼らの間合い内であった。
まだ刺されてない、ということは今すぐ殺される心配は無いということだろう。


俺が無言で小型犬を抱き上げると、コボルト達の目線がさらに険しくなる。
流石に冷や汗が止まらない。
殺気が刃なら俺達は原形すら留めなかったことだろう。

一番近場に居たコボルトに対して、小型犬を渡してもいいかというジェスチャーをする。
俺と目が合った彼は、一瞬だけひるんだが左右の同僚に一礼して、河に足を踏み入れ俺の眼前に立った。
目測ではあるが、身長は3メートル近いだろう。
細身で筋肉質、明らかに敏捷かつ強靭な生物の身体つきをしている。


【このゴブリン野郎…
俺みたいな雑兵を指名しやがって…】


内心の不服を押し殺して彼は俺の前で直立不動の体勢をとっている。


『私はチート・イセカイと申します。
ここに居るリザード種の皆さんの隣人です。
本日は停戦の提案と私が知りえる情報の報告に参りました。』


【リザード語? いやトカゲ共の発声とはテンポが違うな。
じゃあゴブリン語で話し掛けられているのか…
たまに耳にするゴブリン語とは雰囲気が異なるが…
我々の領内に住むゴブリンとは別種なのか?
くっそゴブリン商人が陣中に居れば良いのだが】


え?
コボルトとゴブリンには付き合いがあるのか?
軍陣で商売が許可されるくらいには親密なのか!?

いやいや、問題はそこじゃない。
コボルトには異種族と協調する習慣がある!
助かった。
全くの鎖国種族ではないようだ。


【隊長殿!!
彼らがゴブリン語で交渉を試みてきている可能性があります!
至急ゴブリン語の解る者を呼んで下さい!】


眼前の雑兵氏が背後に叫んだ。
俺は胸を撫でおろしながら、小型犬を雑兵氏に渡していく。
数名のコボルトが河に腰まで浸かりながら受け取ってくれた。


【同胞を条件なしに解放した?】
【和平交渉? 降伏打診?】
【見た所虐待の形跡はなさそうだな。】
【コイツらはどうする? 身柄確保?】
【命令まだか? 和戦いずれにせよ、ちゃんと指示をくれないと困るよ。】


あんまり軍人の心って読む必要が無いのかも知れない。
人間種もリザード種もオーク種もそうだったのだが、軍人の思考や行動様式って物の見事に同一だからな。


「伊勢海クン。
これが最後の一匹よ。」


ベスおばから最後の一匹を受け取って雑兵氏に手渡す。
雑兵氏は呆れるような探るような目でこちらを見ているが、最初こちらに抱いていた殺気は完全に消えていた。


『そっち、降りていいですか?
ちょっと船酔いしちゃって。』


俺のジェスチャーも相当上手くなった。
今や善隣都市住民の特技はジェスチャーだからな。


【おいおいマジかよ。  そっちから降りて来るかね普通。】
【隊長は… 判断つかないって顔しているよな。】
【参ったな、これ切腹モノだぞ。】



俺は一人で降りてヴェギータに帰るように伝える。
ヴェギータは諦めたような表情でフルフルと首を横に振る。
どうやら父親である元帥閣下から《イセカイと共に死ね》と命令されているらしい。
そりゃあそうか、俺が元帥でもそう指示するだろうな。


まあ、いいか。
俺一人で手早く話を付けて、船を戻させよう。
等と思っていると、ベスおばが何食わぬ顔で俺の隣に降り立った。


『アンタ正気か?』

「伊勢海クンよりは、ね。」


この女はコボルトの群れに囲まれながら俺だけを注意深く観察していた。
どうやら俺の眼球運動からスキルの発動具合を探っているらしい。
クッソ、これ以上手の内を暴かれたくないな。
コボルト達がこの女を殺してくれれば助かるんだが。


【今、ゴブリン種族の者がこちらに向かってるから。
小一時間程、ここに待機してもらうぞ?
捕虜ではないから、枷は付けない。】


『貴方の発言の趣旨は理解しました。
ここで待機します』


【君ぃ。
こっちの言語が聞き取れるのかね!?】


『はい、何となく。』


【私はこの部隊を任されているダルオンという者だが…】


『はいダルオン隊長宜しくお願い致します
私はチート・イセカイと申します。
チート、チート。』


俺は自分の顔を指さし、チートを連呼する。
ベスおばが隣で《エリー》を連呼したことにより、チートが固有名詞であると通じたらしい。


【こっちの言語は喋れないのか?
カタコトも無理か?】


無理に決まってるだろ。
俺は残念そうに首を横に振った。
ダルオンは士官なので知能も高いのだろう。
俺のジェスチャーをすぐに把握して部下に手短に解説し始めている。


ゴブリンを待っている間。
俺達はリザードの食用油を飲んで暇を潰した。
ベスおばなどは河原に寝転がって大麻を肴に食用油をチビチビ飲んでいる。


コボルト達に食用油を勧めるが【任務中だから】と拒絶されてしまう。
そりゃあそうか。
ダルオンが何かの固形物を差し出してきたので、黙って受け取る。
恐らくはレーションだろうと思って口に含むと豆腐を塩漬けにしたような変な味がしたので、慌てて食用油で口直しした。

『ごめん、私は苦手かも知れません』

詫びて返そうとすると、ベスおばに奪われた。
旨そうに貪っている所を見ると、人によっては食べられる範囲なのかも知れない。
まあ哺乳類同士だしな。
他にも何名かのコボルトが様々な食べ物を実験的に渡してくる。
どれも原形のわからないレーションばかりで躊躇していたが、中に干し肉があったのでそれだけ頂くことにする。

ああ、これホーンラビットの天日干しだな。
似たような物をドランさんがいつも作ってるわ。


【うおお! ゴブリンの癖に干し肉を食べたぞ!?】
【キモっ! 干し肉を食べやがった!】
【干し肉を食べるなんてどういう神経をしているんだか。】


オマエらが出した癖に喰ったら文句言うのやめろよ。
腹が立ったので食用油で口直しして不貞腐れてベスおばの隣に寝転がった。
気分の悪い連中だ。


1時間もしないうちにゴブリンの一団が到着して、俺に近づいて来た。
目が合うなり、相手はギョッとした表情で後ろに叫ぶ


【違いますよ! 彼らはゴブリンじゃありません!
人間種という、狂暴な悪魔の種族です!】


バレたか。
そうそう、俺達《人間》って名前の最低最悪の種族なんだよ。
でも、ゴブリンさんよー。
外交交渉の途中でネタバレするのやめてくれない?
変な場面でタイトル回収しちゃったよww


あー、何かコレ…
外交的に拗れるパターンだわ。
あー、またコボルト達の表情が険しくなった。


「おやおやw
伊勢海クン、不慮の事態発生かしらw?
アナタがどうやってこの場を切り抜けるか見ものねぇww」


クッソ…
前後を敵に挟まれたか…

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