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チートで時代に翻弄される

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標準座標≪√47WS≫、という悪い宇宙人が存在する。
コイツらは月の内側を勝手にくり抜いて閉鎖世界を作っている。
そこに宇宙中から誘拐した生命体を放り込んで、戦わせている。
目的は戦争状態の中から発生した『スキル』(彼らはプログラムと呼んでいる)を接収して販売し、宇宙用の戦争奴隷を量産すること。
これは宇宙憲章という法律に明確に違反している上に、人類の価値観から見ても許されない悪徳である。

俺が頼まれもしないのに、各地を奔走していたのはコイツラに一矢報いてやりたいという純粋な義憤に基づく感情である。


だが、長い異世界生活の中で不安にもなってきている。
『俺が悪と断じ憎んでいる標準座標≪√47WS≫たちの行為を他の者も共に憎んでくれるだろうか?』
と。

この短期間に俺は、月に住む5種の知的生命体リザード・ゴブリン・オーク・コボルト・人間を意思疎通させる事に成功した。
ありがたいことに周囲からは絶賛されているし、俺もこの一事に関しては壮挙を成し遂げたと胸を張って誇っている。

その特殊な立場が故に、《全種族会議設立委員会のアドバイザー》という過分な役職まで授けられている。
なので、異種族と会話する機会は非常に多い。
職務の合間に【心を読んで】探りを入れているのだが、、どの種族も概ね俺に賛同してくれそうな手応えは得ている。
ただ完全に賛同を得る確信が持てない。

標準座標≪√47WS≫に俺が感じている程の憎悪は誰も共有してくれない気がする。
俺は奴の【内面を読んで】しまった。
だから、如何にアイツらがこちらを蔑み嘲笑い弄んでいるのかをダイレクトに知っているが、他者の心を読めるのは俺だけなので、仮に標準座標を捕獲して皆の前に引き立てたとしても、奴の本音は暴けないだろう。


奴の本音は

【嘘じゃボケえwww
使い捨ての消耗品なんか次の昼飯までに忘れとるわwww】

なので、俺と同じく【心を読む能力】を持つ者が立ち会ってくれれば、奴らの邪悪性を共有出来る。
だが、その時奴は口では

「うむ!
異世界でも達者でな。
ワシはいつでも見守っておるぞよ!」

と尤もらしい発言をしているのである。
言語的な発言だけを聞けば、一般的な神である。
俺のこの憎悪は誰にも理解して貰えないだろう。

最近の俺は、ヴェギータの船舶でゴロゴロしながら、この事ばかりを考えている。
落としどころが見つからないのだ。

ただ憎悪の共有だけを望んでいる。
俺が憎む者を皆も憎んで欲しいのだ。

《自分が正義の側に居るとの確証が欲しい》

今、俺はこの世で最も邪悪な感情に囚われている。
この世界でたった一人だけこの邪悪を共有出来そうな女に心当たりがあるのだが、コイツは俺と真逆の邪悪を目指している可能性が極めて高い。

…ここまでやり遂げたのだから、標準座標≪√47WS≫の絶滅まできっちりと成し遂げたいな。


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この世界の連中は余程優秀なのか、もうオーク種が積極外交に噛んで来た。
(コボルト・リザード間の停戦からまだ数か月だぞ!?)
彼らの種族のトップであるギルガーズ大帝という方が、近くリザード領を訪問する事が既に決まっている。
当然、ヴァ―ヴァン主席との会談が第一目的である。
聞くところによると、既に日程調整の段階に入っており会談の実現も確定事項。
もうオーク種の官僚団がリザード領で詰めの調整を行っている。

俺も見せて貰ったが、オーク・リザード間の友好条約草案はもう完成している。
《この条約は友好圏の拡大を目的としたものであり、対象を想定した軍事条約では断じてない。》
という一文は既に広く流布している。

上手い。
最初にこんな一文を見せられたら、他種族は表立って反論のし様が無い。
そして条約に誘われた時に拒絶も出来ない。

大前提として、リザード・オークの両種が本気で軍事同盟を結んだ場合、精強無比のコボルトでもこれを破るのは困難。
その軍事的裏付けが確定しているから、他者がこの条約に敵対出来ない。
コボルトでさえ対抗が困難であることが明白なこの両者に、人間種だのゴブリン種だのが抗し得る筈がない。

よって、ギルガーズ・ヴァ―ヴァン会談にはコボルト・ゴブリン・人間の3種から大いに祝意を表され、祝電や贈答品が大量に届いている。
内心はどうあれ趣旨に賛同せざるを得ないだろう。

大勢は決まった。
種族間対話・停戦は確定したのである。


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この情勢で帰郷できる筈もなく、俺はリザード領に留め置かれることになった。
まあ実際、《全種族会議設立委員会のアドバイザー》という役職が与えられ、この肩書を捻りだしたヴァ―ヴァン主席からは多額の給与が支給されている。
(この御仁はリザード種の最高権力者である以前に、古代より絶大な権勢を保ち続けている名門の大富豪である。 島や海溝や河や山や湖や軍隊や官僚機構を文字通り『私有』している。)

具体的には月に50万ギルもの大金が支給される。
それとは別に支度金として1000万ギルを受け取ってしまっている。
最近のレートだと、1ギルが110ウェン前後だから、まあ今まで善隣都市で稼いだ額を遥かに上回るキャッシュを得てしまった事になる。
加えて、俺はヴァ―ヴァン主席の猶子(相続権の無い養子)にも指名された。
これは、リザード社会における俺の公的身分を確定させる為の措置だ。
当然、俺に拒否権は無かったし、七大公家からも受領する事を命令されている。

この段階まで来ると、もはや個々の意志など許されないのである。

俺も、ヴァ―ヴァン主席も、ギルガーズ大帝も、七大公家も、コボルト軍令会議も、各地に散住するゴブリンたちも、一切の意志を持つ事が許されず、ただ時代の流れから逸脱しない事だけを要求されている。
ゴールの見えているこの時代変革から、振り落とされない為に全力で最適解を出し続けなければならないのだ。

《平和の敵に回ってはならない》

これが暗黙の総意だ。
今から誰が反対しようが、全種族会議は何らかの形で誕生する。
その概念の敵に回ってはならない。

言うまでも無く、最も立場が危ういのは人間種である。
長らくリザード・オークと敵対し、しかも軍事的には圧倒的劣位にあり、3種族と友好的な関係を構築しているゴブリン種を一方的に虐殺してきた歴史を持ち、地政学的に野党を結成し得る唯一の種族であるコボルト種とは何の面識も無い。
しかも共和政体である為、どうしても政治上の即断即決が出来ない。

こんな危機的な状況にある。
残念ながら人間種には切れるカードが無い。

何としても俺をカード化しなければならない場面だが、ヴァ―ヴァン主席は切り離し工作に余念がない。
俺は人間種のチート・イセカイではなく、人間種出身のチート・イセカイになりつつある。
少なくとも国際政治の場では明確に《リザード寄り》と見なされている。


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俺の目的は標準座標≪√47WS≫の打倒だ。
《打倒》とはオブラートに包んだ表現で、要は彼の星に住む者を根絶したい。

もしも彼の星が地球と同サイズの惑星であるなら、そこに住まう生命体を絶滅させる算段は付いているのだが、彼らも馬鹿じゃあるまいので、衛星やら人工衛星やら宇宙船やらに命を分散させているだろう。
そこに同時攻撃を仕掛けて皆殺しにする手段は、まだ思いついていない。
最低でも彼らと同水準の科学力は要求される話だからだ。


で、グランバルド帝国内で集めれる情報は一通り集めた。
仮に七大公と直接面談したとしても、これ以上の情報を得れるとも思えない。
最近では新規な情報は全て異種族から得ているので、当分リザード領に居るのが賢明だろう。

俺はここを動かない。
それは決めている。


「チート。
オマエ、いつまでここに残る気だ?」


俺の心理に詳しいドランにある日質問された。


『帰りたいのはやまやまなのですが…』


「あ、いや。
俺に対しては本音でいいぞ?
誰にも言わないし。」


『実は腰を据えようと考えております。
師匠には申し訳ないのですが、帝国との郵便も来週には第一便が届きますし。』


「帰ろうと思えば、高速船ですぐに帰れるだろう?」


『今は少しでも情報を集めておきたいんですよ。
だって、どう考えても世界の首都はここになるでしょう?
オーク領・コボルト領・人間領に水路が通じているし、余っている土地を他種族に提供するとまで言っている。』


「勝負所か?」


『帰っても出来る事が少ないんですよ。
善隣都市への庇護政策はもう実施されてますし、通信越しとは言え権限奉還も申請済です。
《善隣伯》という呼称は残るらしいですが、あの都市はいずれ接収されるでしょう。』


「まあ、あそこはリザードとの窓口になっているしな。
誰かが私有して良い状況ではないだろう。」


『ドランさんは帰りたいですか?』


「いや、別に?
俺はどっちでも。
カタコトとは言えリザード語も覚えてしまったし
それに、クレアがこうなった以上…
俺一人では帰れんだろう?」


『確かに。』


クレアは途方もなく出世した。
彼女の描く絵通信が、外交交渉初期に抜群の効果を発揮したからである。


《全種族会議設立委員会上席書記官》


彼女にはそんな肩書が与えられた。





端的に言えば、俺の直属の上司である。
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