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チートで人間を辞める

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どうして今までこんな初歩的な手段を試さなかったのか、自分でも不思議なのだが。
ヴェギータの船で息を潜めて、広範囲に【心を読んでいる】と欲しい情報が全て手に入った。
この船は全種族会議の会場であるリザード母艦の隣に係留しているので、国際社会の要人がほぼ全員俺の能力の射程内でウロウロしている。
自然、各種族の外交的本音を把握出来て来た。



===============



『オーク』

自領西北部に存在する広大な未開拓地をその存在を隠したまま開拓したい。
南部に位置するコボルト・南東部に位置するリザード・東部に位置する人間に同時挟撃される羽目にでも陥らない限り安泰なので、3勢力との国境付近をゴブリンに割譲することにより、完全鎖国状態を作り出したい。
豊穣極まりない西北部の開発に成功さえすれば、今後の世界情勢が和戦いずれに転んでも何とでもなる。



『リザード』

種族間対話が開始されて、自分達のあまりに有利過ぎる外交的ポジションに気付き愕然としている。
長年運河網を地道に整備してきた事もあるが、全種族交流の主要結節点を全て掌握してしまっているからである。
国際交易が本格化した場合何もしなくても富がもたらされるので、自由貿易推進の立場。
食性が他種族と殆ど被って無いので、余程の誤解が無い限り戦争が起こり得ないのも僥倖。
長年の懸念だったコボルト問題が一夜にして解決してしまったので、後はバランスオブパワーの維持に努めたい。
当然、全方位微笑外交を目指す。



『コボルト』

同胞解放戦争という大目的を或る日突然完遂してしまったので燃え尽き症候群。
これまでは種族的アイデンティを自他二元論に置いていれば良かったのだが、突如外交戦が始まったので少し戸惑っている。
生粋の軍国種族なので現在の純皆兵社会を崩すつもりは無いが、軍事政権が国際外交に向いていない事も理解している。
「自領内に居留しているゴブリンに外交を丸投げしたい」というのが偽らざる種族の総意。



『ゴブリン』

他4種族の国粋化を非常に恐れている。
(それぞれが領域内のゴブリン種を排撃する事が明白な為)
幸いリザード・コボルトがかなり好意的である為に、この両者の終戦協定を確定させる事が直近の最大目標である。
想像以上に他4種族の鉱業技術が低い事を知ったので、リザード領に鉱業会社を設立し現地種族との合弁で採鉱支援を行うことによる種族資本の蓄積を狙っている。
極力、人間種の国力を削減する方向に持って行きたい。


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まあ、大体こんな所だ。
概ね想定内だが、オークが領土の後背に巨大な未開拓地を保有しているというのは初耳である。
ギルガーズ大帝がヴァーヴァン主席に絶対知られたくない情報。
何故ならリザードが把握してるオークの国力が全然変わってしまうから。

これがもしもヴァーヴァンに知られたら?
バランスオブパワーの維持の為、緩やかにオーク包囲網を敷いて来る事が大帝には予測出来ている。
立場が逆でもそうするからだ。

だから、思考を読む/操る俺を何とかしたかった。
気持ちは分かる。
俺はオークの高圧的な態度が気に入らないので、この情報は主席に渡すつもりでいる。
脅された者のささやかな復讐である。


さて。
人間種の本音は分からない。
この辺に、あまり数が居ないからである。
俺・ドラン・ベスおば・クレア。
シュタインフェルト卿にその随行員数名。
ささやかなものである。

だから。
人間社会の実情は師匠達から定期的に送られてくる手紙で情勢を想像するしかない。




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現在、善隣都市ではアンダーソンが注目の的になっているらしい。
リザードが蛇を珍重すると知ったアンダーソンは冒険者を廃業し《蛇屋アダム》の屋号を掲げて、リザードに上手く取り入った。
まずはロングスネークの群生地一帯を購入し、実質的な養殖場にしてしまった。
当然、魔物の養殖は帝国法で厳禁されているのだが、《輸出先のリザードの法律では魔物ではないので、魔物の養殖には該当しない》という訳の分からない屁理屈を振りかざして強行している。

トレードマークの大剣はどこへやら。
チンドン屋の様に派手な頭巾を被り、田舎の猟師のように薄汚い杖をつくようになった。
リザードの有力者達に蛇や装飾品を贈呈し、御用商人(リザード社会では公職者として扱われる)の地位を獲得。
最近では家紋も下賜されたらしく、故郷の紋を捨ててリザード風の紋を掲げている。
アンダーソンの剣名に憧れて集っていた部下達は全員愛想を尽かせて去ってしまい、武具やパーティーハウスも全て副将のコリンズに捨て値で譲渡したとのこと。

グランバルド内での評判を相当落としたが、富商になり、何より本人が楽しそうだ、とのこと。
バラン師匠は今のアンダーソンを結構気に入っている。


後、俺の監視役であったヌーベルが殺された。
理由は簡単、異種族との融和政策への不満を隠せなかったから。
公的な場で何度か本音を漏らしてしまったらしい。
ヌーベルも当主である父親も切腹。
数々の顕官将星を輩出したヌーベル侯爵家はあっさりと断絶した。
(ほとぼりが醒めた頃に分家の者が別家名で伯爵位を貰えるらしい。)
これは珍事でも何でもなく、帝都では現在かなり凄惨な粛正劇が続いている。


帝国の辺境であった善隣都市は、今となっては人間種の版図の中では一番世界の中心に近づいた。
対リザードの窓口として大きく発展中である。
これまで以上に怪しい有象無象が集まって住宅不足が起こり始めている。
レザノフの建言で帝都がかなり神経を使ってくれているので、物資不足は無し。
あまり死者が出ていない事に住民が一番驚いている、とのこと。




===============



さて、ここからが本題。

オークやリザードのスキル状況が判明した。
やはり原則的には強いスキルは標準座標≪√47WS≫によって送り込まれた異世界勢のみが持つものらしい。
標準座標≪√47WS≫が「引き当てた」と言っていた、《次元跳躍プログラム》。
この持ち主はオーク領に現れた異世界オークだったらしい。

数百年前、ワープっぽい技を使いこなすオークが突如出現し、対コボルト戦争でそれなりの戦果を挙げた。
彼の能力は日に日に研ぎ澄まされ、周囲が不気味がり始めた頃、彼は研鑽を顕示する為かモノリスによるスキルチェックを再度受けた。

すると。
突如、鐘の音が鳴り響いたかと思うと、天から彼を祝福する声が降り注ぎ神々しい扉が現れたとのこと。
異世界オークは扉に招かれ中に消えた。
何人かのオークが後を追おうとしたが不思議な力で扉に拒まれた。
異世界オークが完全に消え終わった後。
神々しい声が
「おめでとう。 
彼は素晴らしいスキルを身に着けた褒賞として、神々世界に住む事を許された!
彼は永遠の天国で神と共に暮らせるのだ!
オマエ達もスキルを育てれば天国に住めるかも知れないぞ!」
と響いた。

だが。
オーク達は特に異世界オークを羨まなかった。
彼らは家族や仲間は愛するが、神や天などの抽象概念に対してそこまでの敬意を持ち合わせていなかったからだ。
彼らの屈強極まりない体躯は、信仰行為に必然性を与えなかった。




つまり、標準座標≪√47WS≫が欲しがっているスキルが感知されると、彼らに近づく為のゲートが出現する。
グランバルド伝承でもそうだったが、その扉は神々しく光り輝いている。


奴らが探している3つのスキル。
そのうち、《次元跳躍プログラム》はオーク領で《元素複製プログラム》は人間領でそれぞれ発見され回収済み。
やはり、仕組み上スキルの持ち主がスキルチェックを受けなければ発見されないようだ。


標準座標≪√47WS≫は信仰心の篤い惑星なのだろうか?
知的生命体が信仰心を持つことを前提に作戦を立てている。
だが残念ながら、この月世界の住民は総じて知的なので信仰心が乏しい
このギャップをどう利用するかだな。


===============


部屋でくつろいでいると、元帥閣下とヴァーヴァン主席が突然入って来る。
俺が驚いてパニックになっていると

「ここは元々私の船だw」

と元帥閣下に笑われた。
ヴェギータも加わり4人でささやかな団欒。


「イセカイ伯爵。
何か面白い事はあったかね?」

ヴァーヴァン主席にそう聞かれたので、オークの西北開拓構想について報告しておく。


「ああ、それで彼らは後退してでも国境線の確定を急いで…
種族領土の不干渉条約に拘っていたんだな。
現状で自分達だけが把握している領土を手早く抑えたい、と。」


『海から回り込めるかもです。』


「?」


『《コボルトが水行して来た場合は平原で不意に鉢合わせるかも知れない。》
とオーク達が漏らしておりましたので。』


「…そうか。
私はあまり意地悪が好きでは無いのだが、これも仕事だからね。
コボルトも誘って開拓艦隊を結成してみよう。」


『いつも根拠のあやふやな話をしてしまい申し訳ないです。』


「根拠ならあるよ。
あの怖いもの知らずのギルガーズがイセカイ伯爵を過度に恐れている。
これに優る根拠なんてありはしないな。」


久しぶりに主席と笑い合う。
その後、俺への褒美なのか、現在の種族間会議の情勢をあれこれ教えて貰えた。
人間種へのフォローも《俺を通してという条件付きだが》約束して貰えた。
悪いようにするつもりはないらしい。

途中、話題が脱線し各種族要人のプライベートの話で盛り上がる。
どうやら母艦を中心として、この月世界に社交界的な概念が生まれつつあるようだ。


===============


通信による口頭伝達だが、シュタインフェルト卿は家督を継承した。
ついでに元帥にも昇格。
これにより全種族会議の日程と参加者名簿が公式に発表された。
(当然、俺の名前は名簿のどこにも記載されていない。)
卿の表情は暗い。
国際政治の前では、あまりに帝国秩序が軽い事を実感したからだろう。


『その悩みは他種族も同じなので、あまり気に病まないように。』


とフォローを入れておく。


どさくさに紛れてベスおばも家督を要求していたが、そこはちゃんとスルーされていた。
流石にグランバルド帝国の政治判断は概ね常識的である。

俺は母艦から距離を取り、ゴブリンの割り当て水域へ戻る。
ここには社交の苦手なコボルト達も集まっており、話し相手には不自由しなかった。

コボルト達が俺の方を気まずそうにチラチラ見て来るので、最初は意図が読めなかったのだが。
話を聞いてみると、俺の衣装に問題があったらしい。

俺はリザードの肌着・ゴブリンの手甲・そして極めて不本意ながらオークの烏帽子を被っている(被らないと彼らが不機嫌になるので仕方なく)のだが、コボルトに関するものだけは何一つ身に着けていない。
これがコボルトを大いに危惧させているらしいのだ。

仕方が無いので余ってる軍用の肩パットを頂戴し装着する。
大柄長身のコボルトが身に着けているとコンパクトに見えたのだが、いざ自分で付けてみると小学生のお遊戯会みたいで恥ずかしい。

「棘が3本ついているのは将校用なんです。
お似合いですよ。」

コボルトが恩着せがましい笑顔で褒めてくれるが、何も嬉しくない。
棘の無い肩パットを要求するが、「それは兵卒階級のものなので贈れません」だそうだ。

その後、ベスおばの部屋の全身鏡を使わせて貰ったが…
もう人間のいでたちでは無いな…
ゴブリン食が続いた所為か、俺もベスおばも肌がやや緑味掛かって来ているし…

改めて鏡を覗いて溜息をもらす。


今の俺って…
ラノベとかに出て来るモブ魔物みたいな見た目じゃね?


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