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【転移15日目】 所持金3862万ウェン 「やあ、みんな。 俺、コリンズ! これからも宜しくな!」
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胡桃亭創業者の名はジョー・コリンズ。
才覚溢れる商人として高名であったらしい。
ジョーは聡明なる長女ヒルダに利権を継承すべく、婿養子を取らせた。
腕利き冒険者のケビン・ローである。
この国の慣例として入り婿は妻方の姓を名乗るので、以後彼はケビン・コリンズを名乗る。
この場合、本姓はミドルネーム扱いとなり、墓碑に刻まれるくらいにしか用途が無くなる。
なので彼の小さな墓碑にはケビン・ロー・コリンズと記載されている。
多くの日本人が親の戒名を覚えていないように、多くの王国人も親族のミドルネームには無頓着である。
これを踏まえて。
俺は遠市厘だが、王国風の名乗りはリン・コリンズとなる。
本姓の「トイチ」は名乗る事が禁じられている訳ではないのだが、入り婿した者が本姓を名乗り続けていると家庭不和や偽装結婚を疑われるらしいので、以後の俺はコリンズさん家の入り婿・リンだ。
で、胡桃亭がポーション当番を押し付けられる羽目になった今。
「婿を取ったのなら名義人は婿が務めるべきでは?」
との周囲に押され、宿の経営権はコリンズ母娘がキープしたまま、営業税の納付義務とポーションの管理義務だけは俺が負わされる事になった。
悪質極まりない結婚詐欺に引っ掛った気分である。
不服そうな俺の表情を察したのか、手続きが終わって皆が帰ると、母娘はセックスで俺の機嫌を取って来た。
余程愚かなのか、俺は簡単に丸め込まれてしまった。
やあ、みんな。
俺、コリンズ!
これからも宜しくな!
==========================
昼に手続きが終わってほんの数時間にも関わらず、ポーションの大瓶を搭載した馬車が胡桃亭前に到着する。
運び込むメンバーの中には、俺を追放した例の司祭も混じっており、彼は勝手に食堂区画をポーション設置ゾーンに決めてしまった。
4席・4席・2席の計10席を確保していたのに、4席しかテーブルを配置できない間取りになってしまう。
腹立たしい事この上無かったが、事前に周囲から神聖教団のヤバさを嫌という程聞かされていたので、表情を殺して指示に従う。
俺と目が合った司祭が「お!」と一言漏らす。
どうやら追放者の俺を思い出したらしい。
何か嫌がらせをされるのかと身構えていたが、ポーション瓶運用の規約(特にカネの話)を嬉しそうに滔々と語るだけで、特に召喚時の話はされなかった。
全ての説明が終わって、契約水晶に俺の生体反応を登録すると司祭は満足気に笑った。
「いやあ、これで本部へのノルマが果たせるよ!
大司教の座がまた一歩近づいたなww」
とのこと。
このまま帰ってくれるのかと思っていた所。
司祭が内々に話をしたいとのことで、馬車の中に呼びつけられた。
なるほど。
召喚時の話はこの中でゆっくりするのだな、と思い馬車の中に通される。
さあ、どんな文句を言われるのかと身構えて入るが、意外に司祭は上機嫌だ。
「はははw
さっきはお疲れ様でした!
胡桃亭が若い婿を取ったと聞きましてな?
その御仁が、今農協で話題になっている炸裂少年殿というではありませんか!」
『あ、はい。
その様に呼ばれる方も居られます。』
「聞いてますぞー。
何でも1日に100匹以上を駆除された猛者だとか!」
『あ、いえ。
あれは周囲の皆様に助けて頂いただけですので。』
「あはははww
謙遜謙遜ww
能ある鷹は爪を隠す!
実るほど頭が下がる稲穂かな!
コリンズさんは若いのに修養がなっておられる!」
一瞬、「コリンズ」と呼び掛けられて戸惑い掛ける。
そうか、俺はもうコリンズなんだな。
早く慣れなくてはイカンな。
「で、ここだけの話なのですがね?
歴戦の猛者であるコリンズさんに内々のお願いがあるのですよ。」
来た!
権力を持つ者がヘラヘラ笑いながら押し付けて来る「オネガイ」。
実質上の命令!
「これはくれぐれも口外無用なのですが…
実はですね?
半月前に、王国に命じて異世界から勇者候補を召喚させたのです。」
!?
え?
何が「実は」だ?
俺、その場に居たんですけど?
ていうか、アンタに無能呼ばわりされて右も左も判らないまま追放されたんですけど?
え?
ひょっとして、オマエ。
他人様を追放しておいて、相手の顔すら覚えてないのか?
いやいや、つい半月前の話なんだぞ?
「まあ、勇者と言ってもコリンズさんと同じくらいの年恰好の若者たちで…
それが29人も居るので面倒を見るのも一苦労なのですがね。
まあ不幸な事故があったので、今は28名ですけれど。」
…不幸な事故というのは平原が自主粛清した吉岡のことだろう。
何度注意されても王様達に対して横柄なタメ口で通そうとしたと聞いている。
馬鹿って1人いるだけで周囲全員が不幸になるよな。
いや、それはいいんだが。
俺のクラスは総数30名だぞ?
え?
ひょとして俺、カウントすらされてないのか?
ナチュラルに最初から居なかった扱いになってない?
っていうか、司祭クン。
アンタ俺の事、本当に覚えてない訳?
ちなみに、こっちはアンタへの恨みは忘れてないから。
「それでね、コリンズさん。
ちょっと困った事になってしまったんだが…
優秀な白魔法使いが大量に生まれてしまったんだ。」
『な、なるほど。
それは祝福すべき事柄だとは思うのですが…』
「うーーーーーん。
いや、立場上私も喜ばなきゃいけないし
授業中も彼らに対しては絶賛しているんですよ。
王国に命じて報奨金も支給させたしね。」
『その、都合の悪い事が?』
「いやぁ。
現場の勤務評定の中にポーションの売上額という項目がありましてね?
売上額が低いと人事評価の際に大きなマイナスになってしまうんです。
私は父上が大量の寄付金で支援してくれているから、割と有利な位置に居るんですが…
同期にバルトロという男が居て、昨年度だけで1億ウェン以上の免罪符を売り上げてしまっておりまして。
…このままでは出世レースでバルトロの後塵を拝し兼ねない!!」
マジか?
オマエは正気なのか?
「それでね?
白魔法を覚えた彼らがね?
何と!
王国の為に白魔法を使って無償診療を始めたい、等と馬鹿なことをほざいておるんですよ!」
『な、なるほど。』
「そんなことをされたらポーションが売れなくなってしまうじゃぁないですか!!」
『た、確かに。』
「大体!
診療所での無償診療なんて神聖教団の専売特許ですよ!?
それを新参者の分際で商売敵になるなんて無礼千万じゃないですか!
我々がこの国を傘下に収めるのに、どれだけの時間と労力を費やしたと思っているんですか!」
『あ、あの。
じゃあ、教団の方で無償診療すれば良いのでは?』
「ハぁ~~!!(糞デカ溜息)
君は若いですねぇ。
増員要請なんかしたら、《教区管理コストを肥大させた無能者》のレッテルを張られてしまうじゃないですか?
あのねえ、出世のコツは1にリストラ2にリストラ。
如何に効率的に組織を回す手腕を持っているかをアピールし続けなきゃなんですよ。」
『な、なるほど。』
「話を本題に戻しますよ。
ポーションの優位性を満天下に示したい!
《白魔法なんかよりポーションの方が優秀で利便性が良い》
愚民共にそう信じさせておかないと、教団の収益が減ってしまいますからね。」
『な、なるほど。』
「最近、ジャイアントタートルの目撃情報が上がり始めました。
恐らく今年は大量繁殖の年なのでしょう。
で、このジャイアントタートルを召喚者達に討伐させるつもりです。」
『おお、初陣ですね。』
「当然、農協さんも独自に駆除活動を行うことでしょう。
コリンズさんも剣を取られるんですよね?」
『うーん。
まあ、もう少しレベリングしたいですし…
農業地区に顔を出すくらいはすると思います。
ただ、怪我をしているので当面はおとなしくしてますよ?』
「…コリンズさん。
この箱にはポーションが10本入ってます。
貴方がこれを討伐現場で活用して欲しい。」
『え?
でも1本5万ウェンでしょ?
流石に50万ウェンも出せませんよ?』
「ふふふw
こちらは私の権限で無償譲渡可能です。
まあ、原価なんかたかが知れてますからww
薬九層倍とはよく言ったものでねww
うふふふふww
ジャイアントタートルは強敵です、無傷で駆除なんて出来る訳がない。
そこで貴方が現場で大量のポーションを配布する。
勿論、自腹で購入したことにしてね♪
すると、農民連中がポーションの有効性を知り
自腹を切って買う様になるでしょう♪
炸裂弾が売れ始めた様にねww
あっはっはっはっはww」
ああ、なんでこの司祭が俺に擦り寄るのか理解出来た。
俺が炸裂弾を多用した事で、一種の炸裂弾ハンティングがブームになった。
高額である為、今まで敬遠されていた炸裂弾が売れ始めているのだ。
司祭はこの要領でポーションを高値で買わせる習慣を広めたいのだろう。
俺は都合の良い広告塔、という訳だ。
大雑把な策だが、意外に有効だと思う。
若造の俺が炸裂弾を自腹で用意した事によって、《経費を潤沢に掛けて討伐をする》という手法を否定しにくい風潮を作ってしまった。
この流れのまま、俺がポーションを配ったら…
5万ウェンもの暴値でポーションを買い揃える者が増えても不思議ではない。
「ここだけの話ですけどね?
ジャイアントタートルの吐息には、白魔法や支援魔法の効力を大幅に下げる効果があるんですよw
この特性を利用しますw
当然、召喚者達には教団から随行者を付けます。
まあ実際は小僧共の監視役ですがww
白魔法が効きにくく苦戦している召喚者達を随行者がポーションを提供して助けるんですよww
満場のギャラリーの前でねwww
うふふふw
教団の評判も上がる!
ポーションの宣伝にもなる!!
白魔法なんかより、ポーションの方が有用ってねぇ(ニチャア)ww」
『な、なるほど。』
「それじゃあ、次に農業地区へ行く時。
このポーションをちゃんと配って下さいね♪
ちゃんと自腹で買ったって設定を忘れない様に♪
コリンズさん宿屋なんだから、お店の宣伝にもなるでしょう。
ポーション設置店として客を取って儲けたらいいじゃないですか♪
おお、これぞ一石二鳥♪
いやあ、winwinの関係って奴ですなぁ♪
それじゃあ、コリンズさん
貴方には期待してますよ♪
どういう訳か貴方とは初めて会った気がしないんです!
これはホント! これはホント♪
んじゃ、そういう訳で♪」
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一方的に要求だけ押し付けて司祭は去って行った。
驚くべき事に、あの男はたったの一度すら俺の意思確認を行わなかった。
というか、何故俺が素直に言う事を聞くと思ったんだ?
理解不能にもほどがある。
「リンの応対は完璧でした。」
部屋に戻り、ヒルダに経緯を報告すると補足してくれる。
『ん?
いや、そんな丁寧に応対した覚えはないのだが。』
「普通はあんな条件を出されれば、嫌悪感が顔に出るものなんですよ。
熟練の商人でも苦痛に顔を歪めます。」
確かにな。
あの大きなポーション瓶、営業妨害以外の何物でもない。
「リンは全くそれが表情に出てませんでした。
《遵守すべき当然の義務》のような捉え方で頷いておりました。
途中から司祭の機嫌が良くなってきたのに気づきましたか?
彼は普段ああいうリアクションを受けた事がないのです。」
まあ、確かにな。
ポーション設置の条件って滅茶苦茶だからな。
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【ポーション瓶設置条件】
・神聖教団から指名された業者は、ポーション瓶を店内に設置する義務を負う
・ポーション瓶の容量は一律100ℓ
・小売価格は1本5万ウェン(1ℓ)とする。
・毎月末に教団が販売量を確認・補充する。
・補充時は1ℓ5万ウェンを支払う。
・瓶の破損・充填ミスなどによる減少分は店側が負担義務を持つ
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要は《利益は1ウェンたりとも渡さないが、損害は全てそちらがが負担せよ》という身勝手極まりない要求だ。
しかも教団の政治力と王権を盾に押し付けているので拒否権が無い。
ヒルダと相談して食堂区画は閉鎖した。
当然だろう。
万が一、宿泊客に割られたり汚されたりしたら洒落にならないからな。
まだテーブルに余裕はあったが、泣く泣く扉を施錠する。
他の店舗も似たようなものなのだろうな。
貴重な店面積を無償で奪われる。
高額商品に関わらず1ウェンの利益も出ない…
しかも《瓶の破損・充填ミスなどによる減少分は店側が負担義務を持つ》という条件。
これで泣かされる業者は多いらしい。
過去、瓶の充填口の故障によって漏れた分まで弁償させられて破産した業者も幾つかあるそうだ。
「割り当て期間は2年間です。」
『2年スペースを奪われるとか…
とことん洒落にならんな。』
コレットとも話し合って、この部屋は封印し切って立ち入らない事に決める。
日本でもそうだったが、坊主って本当に糞だな。
==========================
溜息混じりにダグラスの顔を見に行く。
『ちわっす。』
「おう。
ボスから話は聞いてるから。
今日は水晶に触るなよ。
あくまで私的な遣り取りだからな。」
『あ、はい。』
「俺もこんな大金を触る機会は殆ど無いが…
6000万ウェンだ。
確かめてくれ。
大白金貨か…
それも6枚…
金額が大きすぎて実感ないな…」
『あの、返済も…』
「ああ、ここで構わん。
どのみち、店を閉めたらボスの家に報告に行くからな。」
『余計な仕事増やしてスミマセン。』
「いや、これが俺の任務だからな。
正直、オマエには感謝している。
何よりボスもオマエを高く評価している。
だから下らない気遣いはするな。」
==========================
【所持金】
486万1000ウェン
↓
6486万1000ウェン
※カイン・R・グランツから6000万ウェンを借入
==========================
さて。
大金を持ってウロチョロする気も無いので、部屋に籠るか。
俺が胡桃亭に帰ると行商人が宿帳を記入している所だった。
『いらっしゃいませ。』
「やあ、ここの息子さん?
1泊だけで申し訳無いけど、宜しく頼むよ。」
『いえ、養子で御座います。
何かありましたら気軽にお申し付け下さい。』
行商人の手荷物が多かったので、俺が運ぶ。
その途中、行商人が何気なく俺に呟く。
「本当は連泊してもいいんだけど。
ここって貸金庫サービス無いからなぁ。」
『か、貸金庫サービスですか?』
「そりゃあ、そうだよ。
郊外の商談に行く時は最小限の手持ちで行きたいもの。
君もそう思わない?
金貨ならともかく、白金貨を持って外を歩くなんてリスキーすぎる。」
『た、確かに。』
「昔はここも貸金庫サービスやってたんだけどねえ。
御主人が亡くなってしまってから、《女所帯で大金をお守りする自信が無い》って
お金を預かってくれなくなってねえ。
あ!
そうだ!
こうして男手が増えたんだから、またサービス復活してよ。
君、養子に入ったからには家に貢献しなくちゃイカンよ?」
『あ、はい。
ちょっと問い合わせて来ます。』
俺はヒルダに相談に行く。
顔は笑ってるが眼光だけが妙に鋭い。
『あ、あの。
貸金庫サービス、一回だけ試させてくれないかな?
俺が責任をもって預かる。
万が一、問題が起ったら俺が弁済する。』
「一回試せば宜しいのですね?」
何がおかしいのかクスクス笑ってる。
この女、俺のスキルにかなりの見当を付けているな。
『ヒルダが反対なら、俺もこの話は忘れる。』
「なら賛成です。」
俺は物置の奥から小さな金庫を持って来て、カウンターの内側に据える。
…また手首が痛くなるが、ビジネスチャンスの前ではどうでもいい事だ。
俺はコレットにさっきの行商人を呼んでもらう。
「金庫あるじゃないですかー♪」
『今、引っ張り出して来ました。』
「これ鍵代幾ら?」
『今、お試しサービス中なので不要です。』
「マジ!?
城門脇の白梅亭じゃ1万ウェン取られたよ!?
高額保管料とか言いやがってさあ!」
『あくまでお試しですので。
このサービスも今回限りかも知れませんし。』
「おお!
じゃあ、タダなら金額確認とかも…
免除して貰えるの?」
『袋ごと入れて貰って構いませんよ?
金額はこっちが知らない方がお客様も安心できるでしょう?』
「願ったり叶ったりだなあ。
じゃ、じゃあ二泊伸ばさせて貰えない?
鍵代は連泊分も無料?」
『ええ、ヒルダもそれでいいよな?』
「胡桃亭は歓迎致します。」
「よ、よし。
ではカネを入れて… 施錠したぞ!」
『はい、確認致しました。』
「ふう、これで明日安心して郊外回りが出来る。
今回は殆ど回収業務だけだからね。
釣銭以外は持ちたくないんだよねえ。
じゃあ、今日はもう寝るわ。
これから宜しくね♪」
==========================
【所持金】
6486万1000ウェン
↓
9187万ウェン
※ドナルド・キーンから2700万9000ウェンを預入
==========================
『う、うおおおおお!!!!!』
俺は思わず声を挙げてしまってから、慌てて噛み殺す。
幸いにもキーン氏は気付かなかったようだ。
ま、マジか?
これも所持金… に含まれるのか?
確かに俺はこの宿屋に正式に婿養子に入った…
だが経営権はヒルダが保有したままの筈だ…
いや、違う俺はヒルダに《俺が責任をもって預かる。》と宣言した。
つまり、この貸金庫への入金は俺個人の預かり金なのだ。
だから、俺のスキル対象に含まれるのか…
まあ、話の筋は通ってなくもないが…
俺が1人でブツブツ言っていると頭の中に聞き慣れたアナウンスが響く。
《735万ウェンの配当が支払われました。》
ゴクリ。
思わず唾を飲む。
よし!
金額が膨れて来た。
俺は確信する。
今日が分岐点!
俺の大勝は確定した!
==========================
【所持金】
9187万ウェン
↓
9922万ウェン
※735万ウェンの配当受取
==========================
ふーーー。
そう、この金額だともう事業だ。
ようやく、ニコニコ金融以外で纏まった元金を確保する手段を発見した。
そうか。
カネが欲しいからカネ貸し、というのは短絡的だったな。
貸金庫業なら、借りた上に代金を徴収する事も出来るのか。
世の中色々な商売があるものだ。
==========================
『ダグラスさん。
返済に来ました♪』
「そんなに嬉しそうな顔でウチに入って来る奴は
後にも先にもオマエくらいのモンだぞ。」
『はははw
そう冷たい事言わんで下さいよ。
今度、飯でも行きましょう!』
「客から誘われるのも…
初めてだな…
いや、行かないけどな。
それよりボスを誘ってやれ。
多分、喜ぶぞ。」
==========================
【所持金】
9922万ウェン
↓
3862万ウェン
※カイン・R・グランツに6060万ウェンを返済。
==========================
胡桃亭に帰ると、顔面蒼白なコレットが駆け寄って来て俺に素早く耳打ちする。
「たいへん! ポーションが漏れてるの!
今、お母さんと応急処置をしてる!」
何!?
リッター5万するんだぞ?
初日からトラブル!?
俺は慌ててポーション部屋に駆けこむ。
「何とか漏れは止まりましたが、これだけ零れてしまいました。」
『対応ありがとう。
それにしても初日から不具合なんて…
滅茶苦茶だよな。
で、俺は幾ら弁償させられそうだなんだ?
何リットルくらい喪失したの?』
そこでコレットとヒルダは顔を合わせる。
「それが…
カウンターは全然動いてないんです。
瓶の総量も満タンラインから全然減って無いし…
それでおかしいな… と思って…」
『カウンターが回らないなんておかしいだろ?
だって少しでも量が減ったら重量感知で自動的にカウンターが回るって聞いたぞ?』
「私もそう思ったのですが…
あ、漏れていた分は水筒に入れておきました。」
『水筒?』
「亡くなった主人が冒険者でしたので、冒険者のお客様が増えた時期がありまして。
サービスでお茶や薬剤を入れた水筒をお渡ししていたのです。
それが大量に余ってましたので。」
『なるほど。』
「この水筒は容量1ℓなので、液漏れなら最低でも5リットルはカウンターが回って無いとおかしいのですが…
床に零れ落ちて拭き取ったものもありますし…」
『…なあ。
液漏れに気付いたのっていつ頃?』
「え? あれ何時くらいだったかしら。」
「リンが出て行ってすぐに気づいたの。
多分17時だよ。
リンはその時間に出かけるから。」
…やれやれ。
自分でも意識してなかったが。
俺って17時になったら外出する人って認識されていたのか。
早速ルーチンが見破られてるな。
今度からもう少し警戒せねば。
いやいや。
考えるのはそこじゃない。
どうやら俺のスキルはカネや経験値以外にも効力を発揮するらしい。
恐らく定量化可能な資産に無条件で日利が発生するのだろう。
チートにも程があるな…
『ヒルダ、コレット。
ここから先は絶対に内緒にしてくれ。』
俺の真剣な雰囲気を察したのか、2人は無言で頷く。
『これから毎日、17時になるとポーションが漏れる。
水筒が10本もあれば回収出来るんじゃないかな。
但し、大瓶の分が減った訳じゃないから安心して欲しい。』
流石にヒルダは勘がいい。
俺の台詞を聞き終わるより先に、《答え合わせが終わった》という表情になった。
恐らく俺の居ない所で、コレットに俺の秘密を伝えるのだろう。
『こんな現象が起こるって教団に知られたら…
当然ヤバい。
だから当面隠蔽に専念してくれ。』
「おくすり増やすなんて
かみさまのお仕事だよー。」
だよな。
だから誰にも知られてはならない。
俺はまだ殺されたくないからだ。
『迷惑なら出て行く。
養子縁組の話も解消して貰って構わないし。
存分な補償もする事を約束する。』
ヒルダが俯いたまま震え始める。
怒っているのか?
或いは哀しんでいるのか?
そう思ってよく見ると、声を押し殺して笑っていた。
「男の人ってみんなそうですよねwww
出来る男の人は特にそうwwww
…本当、卑怯な生き物だわ。」
『気を悪くしたなら謝るよ。』
「好きな所に行ってくれて構いません。
でも、私と娘も連れて行って。」
金銭的には黒字なんだがな。
重い負債も同時に生じるあたり、世の中って本当にバランス取れてるよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
宿屋の婿養子
【ステータス】
《LV》 8
《HP》 (3/3)
《MP》 (1/1)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 1
《知性》 2
《精神》 1
《幸運》 1
《経験》 2029
次のレベルまで残り1017ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利8%
下3桁切上
【所持金】
3862万ウェン
※うち2700万ウェンは行商人ドナルド・キーンからの預かり金
才覚溢れる商人として高名であったらしい。
ジョーは聡明なる長女ヒルダに利権を継承すべく、婿養子を取らせた。
腕利き冒険者のケビン・ローである。
この国の慣例として入り婿は妻方の姓を名乗るので、以後彼はケビン・コリンズを名乗る。
この場合、本姓はミドルネーム扱いとなり、墓碑に刻まれるくらいにしか用途が無くなる。
なので彼の小さな墓碑にはケビン・ロー・コリンズと記載されている。
多くの日本人が親の戒名を覚えていないように、多くの王国人も親族のミドルネームには無頓着である。
これを踏まえて。
俺は遠市厘だが、王国風の名乗りはリン・コリンズとなる。
本姓の「トイチ」は名乗る事が禁じられている訳ではないのだが、入り婿した者が本姓を名乗り続けていると家庭不和や偽装結婚を疑われるらしいので、以後の俺はコリンズさん家の入り婿・リンだ。
で、胡桃亭がポーション当番を押し付けられる羽目になった今。
「婿を取ったのなら名義人は婿が務めるべきでは?」
との周囲に押され、宿の経営権はコリンズ母娘がキープしたまま、営業税の納付義務とポーションの管理義務だけは俺が負わされる事になった。
悪質極まりない結婚詐欺に引っ掛った気分である。
不服そうな俺の表情を察したのか、手続きが終わって皆が帰ると、母娘はセックスで俺の機嫌を取って来た。
余程愚かなのか、俺は簡単に丸め込まれてしまった。
やあ、みんな。
俺、コリンズ!
これからも宜しくな!
==========================
昼に手続きが終わってほんの数時間にも関わらず、ポーションの大瓶を搭載した馬車が胡桃亭前に到着する。
運び込むメンバーの中には、俺を追放した例の司祭も混じっており、彼は勝手に食堂区画をポーション設置ゾーンに決めてしまった。
4席・4席・2席の計10席を確保していたのに、4席しかテーブルを配置できない間取りになってしまう。
腹立たしい事この上無かったが、事前に周囲から神聖教団のヤバさを嫌という程聞かされていたので、表情を殺して指示に従う。
俺と目が合った司祭が「お!」と一言漏らす。
どうやら追放者の俺を思い出したらしい。
何か嫌がらせをされるのかと身構えていたが、ポーション瓶運用の規約(特にカネの話)を嬉しそうに滔々と語るだけで、特に召喚時の話はされなかった。
全ての説明が終わって、契約水晶に俺の生体反応を登録すると司祭は満足気に笑った。
「いやあ、これで本部へのノルマが果たせるよ!
大司教の座がまた一歩近づいたなww」
とのこと。
このまま帰ってくれるのかと思っていた所。
司祭が内々に話をしたいとのことで、馬車の中に呼びつけられた。
なるほど。
召喚時の話はこの中でゆっくりするのだな、と思い馬車の中に通される。
さあ、どんな文句を言われるのかと身構えて入るが、意外に司祭は上機嫌だ。
「はははw
さっきはお疲れ様でした!
胡桃亭が若い婿を取ったと聞きましてな?
その御仁が、今農協で話題になっている炸裂少年殿というではありませんか!」
『あ、はい。
その様に呼ばれる方も居られます。』
「聞いてますぞー。
何でも1日に100匹以上を駆除された猛者だとか!」
『あ、いえ。
あれは周囲の皆様に助けて頂いただけですので。』
「あはははww
謙遜謙遜ww
能ある鷹は爪を隠す!
実るほど頭が下がる稲穂かな!
コリンズさんは若いのに修養がなっておられる!」
一瞬、「コリンズ」と呼び掛けられて戸惑い掛ける。
そうか、俺はもうコリンズなんだな。
早く慣れなくてはイカンな。
「で、ここだけの話なのですがね?
歴戦の猛者であるコリンズさんに内々のお願いがあるのですよ。」
来た!
権力を持つ者がヘラヘラ笑いながら押し付けて来る「オネガイ」。
実質上の命令!
「これはくれぐれも口外無用なのですが…
実はですね?
半月前に、王国に命じて異世界から勇者候補を召喚させたのです。」
!?
え?
何が「実は」だ?
俺、その場に居たんですけど?
ていうか、アンタに無能呼ばわりされて右も左も判らないまま追放されたんですけど?
え?
ひょっとして、オマエ。
他人様を追放しておいて、相手の顔すら覚えてないのか?
いやいや、つい半月前の話なんだぞ?
「まあ、勇者と言ってもコリンズさんと同じくらいの年恰好の若者たちで…
それが29人も居るので面倒を見るのも一苦労なのですがね。
まあ不幸な事故があったので、今は28名ですけれど。」
…不幸な事故というのは平原が自主粛清した吉岡のことだろう。
何度注意されても王様達に対して横柄なタメ口で通そうとしたと聞いている。
馬鹿って1人いるだけで周囲全員が不幸になるよな。
いや、それはいいんだが。
俺のクラスは総数30名だぞ?
え?
ひょとして俺、カウントすらされてないのか?
ナチュラルに最初から居なかった扱いになってない?
っていうか、司祭クン。
アンタ俺の事、本当に覚えてない訳?
ちなみに、こっちはアンタへの恨みは忘れてないから。
「それでね、コリンズさん。
ちょっと困った事になってしまったんだが…
優秀な白魔法使いが大量に生まれてしまったんだ。」
『な、なるほど。
それは祝福すべき事柄だとは思うのですが…』
「うーーーーーん。
いや、立場上私も喜ばなきゃいけないし
授業中も彼らに対しては絶賛しているんですよ。
王国に命じて報奨金も支給させたしね。」
『その、都合の悪い事が?』
「いやぁ。
現場の勤務評定の中にポーションの売上額という項目がありましてね?
売上額が低いと人事評価の際に大きなマイナスになってしまうんです。
私は父上が大量の寄付金で支援してくれているから、割と有利な位置に居るんですが…
同期にバルトロという男が居て、昨年度だけで1億ウェン以上の免罪符を売り上げてしまっておりまして。
…このままでは出世レースでバルトロの後塵を拝し兼ねない!!」
マジか?
オマエは正気なのか?
「それでね?
白魔法を覚えた彼らがね?
何と!
王国の為に白魔法を使って無償診療を始めたい、等と馬鹿なことをほざいておるんですよ!」
『な、なるほど。』
「そんなことをされたらポーションが売れなくなってしまうじゃぁないですか!!」
『た、確かに。』
「大体!
診療所での無償診療なんて神聖教団の専売特許ですよ!?
それを新参者の分際で商売敵になるなんて無礼千万じゃないですか!
我々がこの国を傘下に収めるのに、どれだけの時間と労力を費やしたと思っているんですか!」
『あ、あの。
じゃあ、教団の方で無償診療すれば良いのでは?』
「ハぁ~~!!(糞デカ溜息)
君は若いですねぇ。
増員要請なんかしたら、《教区管理コストを肥大させた無能者》のレッテルを張られてしまうじゃないですか?
あのねえ、出世のコツは1にリストラ2にリストラ。
如何に効率的に組織を回す手腕を持っているかをアピールし続けなきゃなんですよ。」
『な、なるほど。』
「話を本題に戻しますよ。
ポーションの優位性を満天下に示したい!
《白魔法なんかよりポーションの方が優秀で利便性が良い》
愚民共にそう信じさせておかないと、教団の収益が減ってしまいますからね。」
『な、なるほど。』
「最近、ジャイアントタートルの目撃情報が上がり始めました。
恐らく今年は大量繁殖の年なのでしょう。
で、このジャイアントタートルを召喚者達に討伐させるつもりです。」
『おお、初陣ですね。』
「当然、農協さんも独自に駆除活動を行うことでしょう。
コリンズさんも剣を取られるんですよね?」
『うーん。
まあ、もう少しレベリングしたいですし…
農業地区に顔を出すくらいはすると思います。
ただ、怪我をしているので当面はおとなしくしてますよ?』
「…コリンズさん。
この箱にはポーションが10本入ってます。
貴方がこれを討伐現場で活用して欲しい。」
『え?
でも1本5万ウェンでしょ?
流石に50万ウェンも出せませんよ?』
「ふふふw
こちらは私の権限で無償譲渡可能です。
まあ、原価なんかたかが知れてますからww
薬九層倍とはよく言ったものでねww
うふふふふww
ジャイアントタートルは強敵です、無傷で駆除なんて出来る訳がない。
そこで貴方が現場で大量のポーションを配布する。
勿論、自腹で購入したことにしてね♪
すると、農民連中がポーションの有効性を知り
自腹を切って買う様になるでしょう♪
炸裂弾が売れ始めた様にねww
あっはっはっはっはww」
ああ、なんでこの司祭が俺に擦り寄るのか理解出来た。
俺が炸裂弾を多用した事で、一種の炸裂弾ハンティングがブームになった。
高額である為、今まで敬遠されていた炸裂弾が売れ始めているのだ。
司祭はこの要領でポーションを高値で買わせる習慣を広めたいのだろう。
俺は都合の良い広告塔、という訳だ。
大雑把な策だが、意外に有効だと思う。
若造の俺が炸裂弾を自腹で用意した事によって、《経費を潤沢に掛けて討伐をする》という手法を否定しにくい風潮を作ってしまった。
この流れのまま、俺がポーションを配ったら…
5万ウェンもの暴値でポーションを買い揃える者が増えても不思議ではない。
「ここだけの話ですけどね?
ジャイアントタートルの吐息には、白魔法や支援魔法の効力を大幅に下げる効果があるんですよw
この特性を利用しますw
当然、召喚者達には教団から随行者を付けます。
まあ実際は小僧共の監視役ですがww
白魔法が効きにくく苦戦している召喚者達を随行者がポーションを提供して助けるんですよww
満場のギャラリーの前でねwww
うふふふw
教団の評判も上がる!
ポーションの宣伝にもなる!!
白魔法なんかより、ポーションの方が有用ってねぇ(ニチャア)ww」
『な、なるほど。』
「それじゃあ、次に農業地区へ行く時。
このポーションをちゃんと配って下さいね♪
ちゃんと自腹で買ったって設定を忘れない様に♪
コリンズさん宿屋なんだから、お店の宣伝にもなるでしょう。
ポーション設置店として客を取って儲けたらいいじゃないですか♪
おお、これぞ一石二鳥♪
いやあ、winwinの関係って奴ですなぁ♪
それじゃあ、コリンズさん
貴方には期待してますよ♪
どういう訳か貴方とは初めて会った気がしないんです!
これはホント! これはホント♪
んじゃ、そういう訳で♪」
==========================
一方的に要求だけ押し付けて司祭は去って行った。
驚くべき事に、あの男はたったの一度すら俺の意思確認を行わなかった。
というか、何故俺が素直に言う事を聞くと思ったんだ?
理解不能にもほどがある。
「リンの応対は完璧でした。」
部屋に戻り、ヒルダに経緯を報告すると補足してくれる。
『ん?
いや、そんな丁寧に応対した覚えはないのだが。』
「普通はあんな条件を出されれば、嫌悪感が顔に出るものなんですよ。
熟練の商人でも苦痛に顔を歪めます。」
確かにな。
あの大きなポーション瓶、営業妨害以外の何物でもない。
「リンは全くそれが表情に出てませんでした。
《遵守すべき当然の義務》のような捉え方で頷いておりました。
途中から司祭の機嫌が良くなってきたのに気づきましたか?
彼は普段ああいうリアクションを受けた事がないのです。」
まあ、確かにな。
ポーション設置の条件って滅茶苦茶だからな。
==========================
【ポーション瓶設置条件】
・神聖教団から指名された業者は、ポーション瓶を店内に設置する義務を負う
・ポーション瓶の容量は一律100ℓ
・小売価格は1本5万ウェン(1ℓ)とする。
・毎月末に教団が販売量を確認・補充する。
・補充時は1ℓ5万ウェンを支払う。
・瓶の破損・充填ミスなどによる減少分は店側が負担義務を持つ
==========================
要は《利益は1ウェンたりとも渡さないが、損害は全てそちらがが負担せよ》という身勝手極まりない要求だ。
しかも教団の政治力と王権を盾に押し付けているので拒否権が無い。
ヒルダと相談して食堂区画は閉鎖した。
当然だろう。
万が一、宿泊客に割られたり汚されたりしたら洒落にならないからな。
まだテーブルに余裕はあったが、泣く泣く扉を施錠する。
他の店舗も似たようなものなのだろうな。
貴重な店面積を無償で奪われる。
高額商品に関わらず1ウェンの利益も出ない…
しかも《瓶の破損・充填ミスなどによる減少分は店側が負担義務を持つ》という条件。
これで泣かされる業者は多いらしい。
過去、瓶の充填口の故障によって漏れた分まで弁償させられて破産した業者も幾つかあるそうだ。
「割り当て期間は2年間です。」
『2年スペースを奪われるとか…
とことん洒落にならんな。』
コレットとも話し合って、この部屋は封印し切って立ち入らない事に決める。
日本でもそうだったが、坊主って本当に糞だな。
==========================
溜息混じりにダグラスの顔を見に行く。
『ちわっす。』
「おう。
ボスから話は聞いてるから。
今日は水晶に触るなよ。
あくまで私的な遣り取りだからな。」
『あ、はい。』
「俺もこんな大金を触る機会は殆ど無いが…
6000万ウェンだ。
確かめてくれ。
大白金貨か…
それも6枚…
金額が大きすぎて実感ないな…」
『あの、返済も…』
「ああ、ここで構わん。
どのみち、店を閉めたらボスの家に報告に行くからな。」
『余計な仕事増やしてスミマセン。』
「いや、これが俺の任務だからな。
正直、オマエには感謝している。
何よりボスもオマエを高く評価している。
だから下らない気遣いはするな。」
==========================
【所持金】
486万1000ウェン
↓
6486万1000ウェン
※カイン・R・グランツから6000万ウェンを借入
==========================
さて。
大金を持ってウロチョロする気も無いので、部屋に籠るか。
俺が胡桃亭に帰ると行商人が宿帳を記入している所だった。
『いらっしゃいませ。』
「やあ、ここの息子さん?
1泊だけで申し訳無いけど、宜しく頼むよ。」
『いえ、養子で御座います。
何かありましたら気軽にお申し付け下さい。』
行商人の手荷物が多かったので、俺が運ぶ。
その途中、行商人が何気なく俺に呟く。
「本当は連泊してもいいんだけど。
ここって貸金庫サービス無いからなぁ。」
『か、貸金庫サービスですか?』
「そりゃあ、そうだよ。
郊外の商談に行く時は最小限の手持ちで行きたいもの。
君もそう思わない?
金貨ならともかく、白金貨を持って外を歩くなんてリスキーすぎる。」
『た、確かに。』
「昔はここも貸金庫サービスやってたんだけどねえ。
御主人が亡くなってしまってから、《女所帯で大金をお守りする自信が無い》って
お金を預かってくれなくなってねえ。
あ!
そうだ!
こうして男手が増えたんだから、またサービス復活してよ。
君、養子に入ったからには家に貢献しなくちゃイカンよ?」
『あ、はい。
ちょっと問い合わせて来ます。』
俺はヒルダに相談に行く。
顔は笑ってるが眼光だけが妙に鋭い。
『あ、あの。
貸金庫サービス、一回だけ試させてくれないかな?
俺が責任をもって預かる。
万が一、問題が起ったら俺が弁済する。』
「一回試せば宜しいのですね?」
何がおかしいのかクスクス笑ってる。
この女、俺のスキルにかなりの見当を付けているな。
『ヒルダが反対なら、俺もこの話は忘れる。』
「なら賛成です。」
俺は物置の奥から小さな金庫を持って来て、カウンターの内側に据える。
…また手首が痛くなるが、ビジネスチャンスの前ではどうでもいい事だ。
俺はコレットにさっきの行商人を呼んでもらう。
「金庫あるじゃないですかー♪」
『今、引っ張り出して来ました。』
「これ鍵代幾ら?」
『今、お試しサービス中なので不要です。』
「マジ!?
城門脇の白梅亭じゃ1万ウェン取られたよ!?
高額保管料とか言いやがってさあ!」
『あくまでお試しですので。
このサービスも今回限りかも知れませんし。』
「おお!
じゃあ、タダなら金額確認とかも…
免除して貰えるの?」
『袋ごと入れて貰って構いませんよ?
金額はこっちが知らない方がお客様も安心できるでしょう?』
「願ったり叶ったりだなあ。
じゃ、じゃあ二泊伸ばさせて貰えない?
鍵代は連泊分も無料?」
『ええ、ヒルダもそれでいいよな?』
「胡桃亭は歓迎致します。」
「よ、よし。
ではカネを入れて… 施錠したぞ!」
『はい、確認致しました。』
「ふう、これで明日安心して郊外回りが出来る。
今回は殆ど回収業務だけだからね。
釣銭以外は持ちたくないんだよねえ。
じゃあ、今日はもう寝るわ。
これから宜しくね♪」
==========================
【所持金】
6486万1000ウェン
↓
9187万ウェン
※ドナルド・キーンから2700万9000ウェンを預入
==========================
『う、うおおおおお!!!!!』
俺は思わず声を挙げてしまってから、慌てて噛み殺す。
幸いにもキーン氏は気付かなかったようだ。
ま、マジか?
これも所持金… に含まれるのか?
確かに俺はこの宿屋に正式に婿養子に入った…
だが経営権はヒルダが保有したままの筈だ…
いや、違う俺はヒルダに《俺が責任をもって預かる。》と宣言した。
つまり、この貸金庫への入金は俺個人の預かり金なのだ。
だから、俺のスキル対象に含まれるのか…
まあ、話の筋は通ってなくもないが…
俺が1人でブツブツ言っていると頭の中に聞き慣れたアナウンスが響く。
《735万ウェンの配当が支払われました。》
ゴクリ。
思わず唾を飲む。
よし!
金額が膨れて来た。
俺は確信する。
今日が分岐点!
俺の大勝は確定した!
==========================
【所持金】
9187万ウェン
↓
9922万ウェン
※735万ウェンの配当受取
==========================
ふーーー。
そう、この金額だともう事業だ。
ようやく、ニコニコ金融以外で纏まった元金を確保する手段を発見した。
そうか。
カネが欲しいからカネ貸し、というのは短絡的だったな。
貸金庫業なら、借りた上に代金を徴収する事も出来るのか。
世の中色々な商売があるものだ。
==========================
『ダグラスさん。
返済に来ました♪』
「そんなに嬉しそうな顔でウチに入って来る奴は
後にも先にもオマエくらいのモンだぞ。」
『はははw
そう冷たい事言わんで下さいよ。
今度、飯でも行きましょう!』
「客から誘われるのも…
初めてだな…
いや、行かないけどな。
それよりボスを誘ってやれ。
多分、喜ぶぞ。」
==========================
【所持金】
9922万ウェン
↓
3862万ウェン
※カイン・R・グランツに6060万ウェンを返済。
==========================
胡桃亭に帰ると、顔面蒼白なコレットが駆け寄って来て俺に素早く耳打ちする。
「たいへん! ポーションが漏れてるの!
今、お母さんと応急処置をしてる!」
何!?
リッター5万するんだぞ?
初日からトラブル!?
俺は慌ててポーション部屋に駆けこむ。
「何とか漏れは止まりましたが、これだけ零れてしまいました。」
『対応ありがとう。
それにしても初日から不具合なんて…
滅茶苦茶だよな。
で、俺は幾ら弁償させられそうだなんだ?
何リットルくらい喪失したの?』
そこでコレットとヒルダは顔を合わせる。
「それが…
カウンターは全然動いてないんです。
瓶の総量も満タンラインから全然減って無いし…
それでおかしいな… と思って…」
『カウンターが回らないなんておかしいだろ?
だって少しでも量が減ったら重量感知で自動的にカウンターが回るって聞いたぞ?』
「私もそう思ったのですが…
あ、漏れていた分は水筒に入れておきました。」
『水筒?』
「亡くなった主人が冒険者でしたので、冒険者のお客様が増えた時期がありまして。
サービスでお茶や薬剤を入れた水筒をお渡ししていたのです。
それが大量に余ってましたので。」
『なるほど。』
「この水筒は容量1ℓなので、液漏れなら最低でも5リットルはカウンターが回って無いとおかしいのですが…
床に零れ落ちて拭き取ったものもありますし…」
『…なあ。
液漏れに気付いたのっていつ頃?』
「え? あれ何時くらいだったかしら。」
「リンが出て行ってすぐに気づいたの。
多分17時だよ。
リンはその時間に出かけるから。」
…やれやれ。
自分でも意識してなかったが。
俺って17時になったら外出する人って認識されていたのか。
早速ルーチンが見破られてるな。
今度からもう少し警戒せねば。
いやいや。
考えるのはそこじゃない。
どうやら俺のスキルはカネや経験値以外にも効力を発揮するらしい。
恐らく定量化可能な資産に無条件で日利が発生するのだろう。
チートにも程があるな…
『ヒルダ、コレット。
ここから先は絶対に内緒にしてくれ。』
俺の真剣な雰囲気を察したのか、2人は無言で頷く。
『これから毎日、17時になるとポーションが漏れる。
水筒が10本もあれば回収出来るんじゃないかな。
但し、大瓶の分が減った訳じゃないから安心して欲しい。』
流石にヒルダは勘がいい。
俺の台詞を聞き終わるより先に、《答え合わせが終わった》という表情になった。
恐らく俺の居ない所で、コレットに俺の秘密を伝えるのだろう。
『こんな現象が起こるって教団に知られたら…
当然ヤバい。
だから当面隠蔽に専念してくれ。』
「おくすり増やすなんて
かみさまのお仕事だよー。」
だよな。
だから誰にも知られてはならない。
俺はまだ殺されたくないからだ。
『迷惑なら出て行く。
養子縁組の話も解消して貰って構わないし。
存分な補償もする事を約束する。』
ヒルダが俯いたまま震え始める。
怒っているのか?
或いは哀しんでいるのか?
そう思ってよく見ると、声を押し殺して笑っていた。
「男の人ってみんなそうですよねwww
出来る男の人は特にそうwwww
…本当、卑怯な生き物だわ。」
『気を悪くしたなら謝るよ。』
「好きな所に行ってくれて構いません。
でも、私と娘も連れて行って。」
金銭的には黒字なんだがな。
重い負債も同時に生じるあたり、世の中って本当にバランス取れてるよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
宿屋の婿養子
【ステータス】
《LV》 8
《HP》 (3/3)
《MP》 (1/1)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 1
《知性》 2
《精神》 1
《幸運》 1
《経験》 2029
次のレベルまで残り1017ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利8%
下3桁切上
【所持金】
3862万ウェン
※うち2700万ウェンは行商人ドナルド・キーンからの預かり金
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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