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【転移30日目】 所持金175億9700万ウェン 「この人勉強だけ出来る馬鹿なんだな。 って思った。」
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朝にグリーブがやって来る。
「伯爵領の様子を探り続けておりましたが
両家の交渉が決裂、数日前から合戦が始まってしまったようです。」
伯爵のポストは一つなのだが、80年前に家督争いが発生して以来、東西二家に分かれて争い続けているとのことだ。
王都からの南下ルートは東伯爵領を通るのが最短であり、キーンも普段はそこを通っているのだが、どうも今はそれが拙いらしい。
初戦で東軍が大敗し、主だった騎士が軒並み討ち死してしまったらしいのだ。
勢いに乗る西軍は各戦線で優勢にあり、我々が通行する予定の伯爵城下町をいつ占領してもおかしくないとのこと。
「申し訳ありません。
私の分析ミスです。」
『いやいや!
戦争は流石に仕方ないですよ!
グリーブさんはよくやって下さっております!』
「そう仰って頂けて救われます。
…申し訳ありませんが、情報収集の為にここでもう1泊して頂けませんでしょうか?
いや!
1泊と申し上げましたが、実際はもっと足止めされる可能性があります。
戦況次第では迂回ルートを通らせて下さい。
その場合5日程度のロスが生じます。」
3家で合議するも異存は無し。
グリーブに一任する。
======================
ここに到着したのが夜だったので気付かなかったが…
ショボい風景だな。
「街に着きました!」
と威勢の良い報告を聞いたので、漠然と街中に居る感覚でいたが、これは村落の規模だ。
名古屋のホテルで一泊しましょうと言われて多治見の民宿を割り当てられるようなものである。
『御二方、どうします?』
「うーん、どのみち身動きが取れなさそうですから。
補給を万全に整えましょう。」
「じゃあ、水と車両は私が担当します。」
「では、キーンさんお願いします。」
「コリンズさんはどうされますか?」
『あ、いえ。
錬金術特区と聞いておりましたので
何か有効な物があれば、と。』
「錬金術ですかぁー。」
『あ、何か問題がありますか?』
「いえ、錬金術の有用性は私も認めているのですが…
うーん、これ体制批判になっちゃうかなあ。
…ハッキリ言いますね。
我が国の錬金術政策はロクに採算が取れたためしがないんです。
新型爆薬にエリクサー、彼らは成果を挙げたと強調するのですがね?」
『え、エリクサー。
高性能な万能薬のことですよね?
それが作れるなら大成功じゃないんですか?』
「1本100億ウェンもする秘薬を発明された所でねぇ。
結局、買えるのは坊主共くらいのものじゃないですか?
ちなみに製薬産業は全部教団に接収されているんで
エリクサーは名目上工業用塗料ね。」
『ひゃ、100億ウェンは高いですね。』
「まあ、厳密に言えば
教団の意向に沿う富豪にしか売らない、というニュアンスでしょうけどね。
我々庶民から吸い上げた税金の研究成果が
坊主にしか買えない贅沢品。
正直に言います。
私は一納税者として納得が出来ない。」
『ふむ。
じゃあ、錬金術って国民にはあまりよく思われてないない?』
「…金食い虫だとは思われてます。
だから王都から遠いこんな所にキャンパスを構えている訳で。」
『キャンパス?』
「この一帯が錬金都市ですよ。
同時にキャンパスでもある。
成果を挙げるまで王都に帰して貰えない連中の巣窟です。
煙がまばらに上がっているでしょう?
今日も補助金欲しさに研究するフリ、実験するフリです。」
『カインさん、結構厳しいですね。』
「金融業やってると、様々な口実を設けて国が税金を取り立てようとしますからな。
嫌でもその使い道には敏感になってしまうんです。
ほら、あれを見て御覧なさい。
エリクサー100億ウェンって値札が貼られているでしょう。」
『そんな高額商品を扱って大丈夫ですか?』
「恐らく売る気はないのでしょう。
監査向けのポーズですよ。」
気になった俺は店を覗いてみる。
なるほど。
値札だけ無造作に貼られて、商品は何も置かれていない。
説明イラストによると瓶は小さな小さな1ℓ瓶。
その価格が100億ウェン。
随分大きく出たものだ。
もし一本でも売れてたら、彼らは王都に凱旋出来ていたのだろうか?
アホらしくなった俺が店頭から離れようとすると、何かボソボソした音が聞こえた。
ん? 遠くで犬が鳴いてるのか?
「い、いらっしぃませぇ。」
不意に声を掛けられる。
驚いて振り返ると細身の老人が奥でプルプル痙攣している。
『あ、いや。
俺は客ではないんで。
邪魔したのなら帰ります。』
「ちょ、ちょっと待って!」
3分程待たされる。
「い、いらしょぃませ。
な、何を御用命ですか?」
『何もないじゃないですか?』
「…エリクサーとか。」
『100億も持って無いです。
それじゃあ。』
「ち、ちょっと待って!
展示品なら割引きできるかも!
こ、これ3割引きですよ。
どんな病気も治せます!」
『3割引いても70億ウェンでしょ?
庶民に買える訳ないですよ。』
「で、でも国への研究レポートに、100億って書いちゃったし。
たまに抜き打ちで監査されちゃうし。
教団の人からたまに依頼来るし。」
『へえ。
じゃあ、教団から100億ウェン貰えたんですね。
良かったじゃないですか。
別におカネには困ってないでしょ?』
「こ、困ってますよお!!」
『いやいや、流石に100億ウェンも売り上げて困る訳ないじゃないですか。』
「こ、ここは国の施設ですし。
代金は直接王都に振り込まれるんです。
ぼ、ボクには固定給以上の収入がないんだあ!」
『そりゃあ、大変ですね。
それじゃあ。』
「ま、待って!
何か買ってくれないですか?
今月のノルマがヤバいんです!
パトロンを見つけて来いって命令されてて!」
『何かって何があるんですか?
商品棚、空っぽじゃないですか?』
「え、エリクサー。
本当は在庫はあるけど。
表に置いておくのは怖いから。」
『でも100億ウェンでしょ?
無理ですって。』
本当に無理なんだ。
確かに手持ちに100億はあるよ?
でもそれは大切な預り金なんだ。
…待てよ、預かり、か。
要領はポーションと同じなんだよな。
『在庫ってどれくらいありますか?』
「ざ、在庫?
152ℓ。
全部定価で売れないと研究期間満了にならないんだ。
プロジェクト開始時は200ℓもあったのに、よくここまで頑張ったよ。」
ああ、アンタここで骨を埋めるしか無いな。
『じゃあ、しばらく見学させて貰えませんか?
購買力のある友人は多いので、彼らに推薦するか否かを見極めたい。』
「え? え?
け、見学?
だ、駄目だよ!
そんなマニュアルはないし
万が一、エリクサーが減ったら縛り首になっちゃうよ!」
『あ、いえ。
別にエリクサーには触れませんよ。
妻が珍しい風景を見るのが好きでね。
今、各地で見物料を払って珍しい景色を見て回っているんです。』
「だ、駄目駄目!!
研究室は高価な備品がいっぱいあるんだ!
壊れたら自腹で弁償しなくちゃならない!
いいかい?
産業用フラスコなんか、1瓶で9000ウェンもするんだよ!?」
『見学料って幾らですか?』
「だ、だ、だ! 駄目駄目駄目!!
5万ウェン貰ったって割に合わないよ!!」
『500万払います。』
「!?」
『前金として500万ウェンをまずお支払いします。
5分でいい、妻と二人きりで見学させて頂けませんか?
お恥ずかしい話なのですが、まだちゃんとプロポーズしてないんですよ。
サプライズで驚かせてやりたい。
願いを叶えてくれたら後金で500万ウェンを支払います。
勿論、もしも備品を壊したら全額弁償します。』
「ゴメン、君が何を言ってるのかわからない。」
『例えわからなくとも、この話を呑んでくれたら
この500万ウェンは貴方のものですよ?』
==========================
【所持金】
150億7300万ウェン
↓
150億6800万ウェン
※使途不明金500万ウェン
==========================
よし、受け取った。
アンタ今、カネを受け取ったね?
…我ながら酷い事をする。
『では、17時前に来ます。』
俺は馬車に戻り、ポーション汲み取り用の綺麗な空瓶を全部借りる。
いや、26本でいい。
大事を取って27本か…
そして俺はヒルダにコレットを借りれないか頼む。
「借りるも何もコレットは貴方の妻ですよ。」
『お願いします!』
「…。」
『どうしても試したい事があるんだ。
必ず報いる事を約束する!』
「…これ以上何を受け取れと言うのですか。」
==========================
グリーブ傭兵団からの伝令。
全戦線で西軍の圧勝。
東軍各領主への偽装赦免からの一斉奇襲が決定打となった。
東軍は主だった者を全て討ち取られ、主要な軍事拠点を全て陥落させられたらしい。
西伯爵は《正統伯爵》を自ら呼称し、東伯爵家の係累に莫大な賞金を懸けた。
既に大規模な落ち武者狩りが佳境に入っている。
清廉な東伯爵と異なり貪婪な西伯爵は酷税を以て膨大な軍資金を密かに蓄え、騙し討ちの機会を虎視眈々と狙っていたそうだ。
東伯爵家の一族は大抵が無惨に公開処刑され、美貌の女騎士が5歳の嫡孫を護って逃亡中であるとのこと。
この5歳児を殺せば、西伯爵による80年ぶりの東西統一が完遂するという訳だ。
状況は理解した。
==========================
「ぜ、絶対に内緒にしてよ!」
『勿論です。
ああ、これ後金の500万ウェン。
約束が果たされたら、即座にこれは貴方のものです。』
「ぼ、僕に責任はないからね!?
そ、そうだ!
と、トイレに行って来よう!!
もしも何かあっても僕は何も見てないし!」
聞けば、彼の月給は14万ウェンとのこと。
キャンパスとは名ばかりの僻村に追放され、たまにお忍びでやってくる坊主共の機嫌を取る日々。
誰が彼を責められようか。
ちなみに王国が次に教団への返済を滞らせれば、エリクサーの特許も奪われるとのことだ。
未来は暗いな。
『コレット。
いつもいつも、君に下らない事ばかりさせてしまって…
ゴメン、本当にゴメン。』
「ふふっw
結構楽しいよww」
《27億2000万ウェンの配当が支払われました。》
俺達は這い蹲って【複利】で漏れ落ちたエリクサーを必死に瓶詰している。
152ℓの17%。
切り上げ効果を見込んで26本のエリクサーを回収。
日頃、ポーション回収を任せているせいかコレットの手際は異常に精密だ。
26ℓジャスト!
ん?
まだ垂れる?
え?
どうして?
27ℓ!?
あ、レベルアップで日利が上がった!?
あ、やば。
もう瓶を…
あ、コレットが予備を持って来てたのか。
『コレット、本当にスマン。』
「謝っちゃだめ。
わたしは好きでリンと一緒にいる。」
『…俺を受け入れてくれてありがとう。
少しプロポーズが遅れたが俺と結婚して欲しい。』
承諾の返答と共にキスされた、今更だが照れる。
俺にもこんな感情があったんだな。
トイレの彼に500万ウェン渡して研究室を検分して貰う。
重要な物は既に別室に移していたらしいので、エリクサーだけを何度も確認された。
成分分析も異常なし。
『何か問題があれば言ってくれ』
と言って俺は去る。
「う、うん。
また何かあったら声を掛けるよ!」
等と言いつつ俺の名前すら聞いて来ない辺りが、ああこの人勉強だけ出来る馬鹿なんだな。
って思った。
==========================
【所持金】
150億6800万ウェン
↓
177憶8800万ウェン
↓
177億8300万ウェン
※27億2000万ウェンの配当を受け取り。
※使途不明金500万ウェン
==========================
夜に東軍の女騎士が嫡孫を連れてこの車列に庇護を求めてきたらしい。
退去を言い渡すが、執拗に喰い下がりこのキャラバンの代表への面会を求めてきた。
とのダグラスの報告を幌越しに聞く。
俺は再度の退去を伝えるように頼もうとするが、ヒステリックな金切声がここまで聞こえてきた。
この旅において、俺への女性面会希望者はヒルダ・コレットを通す取り決めがあったので、2人に対処をお願いする。
コレットが母を振り返るが、ヒルダは1人で行かせる。
『ヒルダは付いていってやらないの?』
「リンの妻はあの子です。」
『そ、そりゃあ。
理屈ではそうだけど。』
数分後、コレットの判断。
《嫡孫を西軍へ引き渡す。》
まあ、妥当なところだろう。
今回の経緯を知りながら、それを皆の前で明言した点に感嘆する。
コレットが一旦女騎士に庇護を約束して油断させる。
その後、ヒルダが女騎士を水浴びに誘い、相手が1人になった時を見計らって崖上に回り込んだ俺が炸裂弾と凍結弾を5発ずつ投擲して殺した。
死体の原形は留めていなかったが、莫大な経験値が入って来たという事は殺害に成功したのだろう。
《900000ポイントの経験値取得》
==========================
【ステータス】
《LV》 18
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 229万4531
次のレベルまで残り21万2125ポイント
【スキル】
「複利」
※日利18%
下7桁切上
==========================
轟音を聞きつけた娼婦が車内からギャーギャー喚いていたようなので母娘に鎮静化を頼む。
嫡孫は衰弱していたのでグリーブ傭兵団が介抱しながら馬車に軟禁する。
キーンが西伯爵改め《統一伯爵軍》に嫡孫捕縛の旨を通報し、引き渡しを約束する。
彼は今日忙しく配当を忘れていたので、俺がその話をするとようやく破顔した。
==========================
【所持金】
177億8300万ウェン
↓
175億9700万ウェン
※カイン・R・グランツに2200万ウェンの利息を支払。
※ドナルド・キーンに1億6400万ウェンの利息を支払。
【コリンズキャラバン移動計画】
「7日目」
中継都市ヒルズタウン (宿が込んでた。)
↓
侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)
↓
大草原 (遊牧民を買収した。)
↓
教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)
↓
王国天領 ←今ココ。
↓
伯爵城下町 (この80年ほど絶賛家督紛争中)
↓
諸貴族領混在地 (戦時にも関わらず内戦を起す馬鹿がいっぱいいる。)
↓
王国軍都 (軍部が独自に警察権を保有している)
↓
王国側国境検問所 (賄賂が横行。 逆に言えば全てカネで解決可能)
↓
非武装中立地帯(建前上、軍隊の展開が禁止されている平野。)
↓
連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)
↓
自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)
==========================
護衛達は「今日の遅れを取り戻したい」と言ってくれたが
俺は皆が無事なら、多少の遅延は構わないと思っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
流浪のプライベートバンカー
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 18
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 229万4531
次のレベルまで残り21万2125ポイント
【スキル】
「複利」
※日利18%
下7桁切上
【所持金】
所持金175億9700万ウェン
※カイン・R・グランツから12億ウェンを日利2%で借用
※ドナルド・キーンから82億ウェンを日利2%で借用
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
【常備薬】
エリクサー 28ℓ
「伯爵領の様子を探り続けておりましたが
両家の交渉が決裂、数日前から合戦が始まってしまったようです。」
伯爵のポストは一つなのだが、80年前に家督争いが発生して以来、東西二家に分かれて争い続けているとのことだ。
王都からの南下ルートは東伯爵領を通るのが最短であり、キーンも普段はそこを通っているのだが、どうも今はそれが拙いらしい。
初戦で東軍が大敗し、主だった騎士が軒並み討ち死してしまったらしいのだ。
勢いに乗る西軍は各戦線で優勢にあり、我々が通行する予定の伯爵城下町をいつ占領してもおかしくないとのこと。
「申し訳ありません。
私の分析ミスです。」
『いやいや!
戦争は流石に仕方ないですよ!
グリーブさんはよくやって下さっております!』
「そう仰って頂けて救われます。
…申し訳ありませんが、情報収集の為にここでもう1泊して頂けませんでしょうか?
いや!
1泊と申し上げましたが、実際はもっと足止めされる可能性があります。
戦況次第では迂回ルートを通らせて下さい。
その場合5日程度のロスが生じます。」
3家で合議するも異存は無し。
グリーブに一任する。
======================
ここに到着したのが夜だったので気付かなかったが…
ショボい風景だな。
「街に着きました!」
と威勢の良い報告を聞いたので、漠然と街中に居る感覚でいたが、これは村落の規模だ。
名古屋のホテルで一泊しましょうと言われて多治見の民宿を割り当てられるようなものである。
『御二方、どうします?』
「うーん、どのみち身動きが取れなさそうですから。
補給を万全に整えましょう。」
「じゃあ、水と車両は私が担当します。」
「では、キーンさんお願いします。」
「コリンズさんはどうされますか?」
『あ、いえ。
錬金術特区と聞いておりましたので
何か有効な物があれば、と。』
「錬金術ですかぁー。」
『あ、何か問題がありますか?』
「いえ、錬金術の有用性は私も認めているのですが…
うーん、これ体制批判になっちゃうかなあ。
…ハッキリ言いますね。
我が国の錬金術政策はロクに採算が取れたためしがないんです。
新型爆薬にエリクサー、彼らは成果を挙げたと強調するのですがね?」
『え、エリクサー。
高性能な万能薬のことですよね?
それが作れるなら大成功じゃないんですか?』
「1本100億ウェンもする秘薬を発明された所でねぇ。
結局、買えるのは坊主共くらいのものじゃないですか?
ちなみに製薬産業は全部教団に接収されているんで
エリクサーは名目上工業用塗料ね。」
『ひゃ、100億ウェンは高いですね。』
「まあ、厳密に言えば
教団の意向に沿う富豪にしか売らない、というニュアンスでしょうけどね。
我々庶民から吸い上げた税金の研究成果が
坊主にしか買えない贅沢品。
正直に言います。
私は一納税者として納得が出来ない。」
『ふむ。
じゃあ、錬金術って国民にはあまりよく思われてないない?』
「…金食い虫だとは思われてます。
だから王都から遠いこんな所にキャンパスを構えている訳で。」
『キャンパス?』
「この一帯が錬金都市ですよ。
同時にキャンパスでもある。
成果を挙げるまで王都に帰して貰えない連中の巣窟です。
煙がまばらに上がっているでしょう?
今日も補助金欲しさに研究するフリ、実験するフリです。」
『カインさん、結構厳しいですね。』
「金融業やってると、様々な口実を設けて国が税金を取り立てようとしますからな。
嫌でもその使い道には敏感になってしまうんです。
ほら、あれを見て御覧なさい。
エリクサー100億ウェンって値札が貼られているでしょう。」
『そんな高額商品を扱って大丈夫ですか?』
「恐らく売る気はないのでしょう。
監査向けのポーズですよ。」
気になった俺は店を覗いてみる。
なるほど。
値札だけ無造作に貼られて、商品は何も置かれていない。
説明イラストによると瓶は小さな小さな1ℓ瓶。
その価格が100億ウェン。
随分大きく出たものだ。
もし一本でも売れてたら、彼らは王都に凱旋出来ていたのだろうか?
アホらしくなった俺が店頭から離れようとすると、何かボソボソした音が聞こえた。
ん? 遠くで犬が鳴いてるのか?
「い、いらっしぃませぇ。」
不意に声を掛けられる。
驚いて振り返ると細身の老人が奥でプルプル痙攣している。
『あ、いや。
俺は客ではないんで。
邪魔したのなら帰ります。』
「ちょ、ちょっと待って!」
3分程待たされる。
「い、いらしょぃませ。
な、何を御用命ですか?」
『何もないじゃないですか?』
「…エリクサーとか。」
『100億も持って無いです。
それじゃあ。』
「ち、ちょっと待って!
展示品なら割引きできるかも!
こ、これ3割引きですよ。
どんな病気も治せます!」
『3割引いても70億ウェンでしょ?
庶民に買える訳ないですよ。』
「で、でも国への研究レポートに、100億って書いちゃったし。
たまに抜き打ちで監査されちゃうし。
教団の人からたまに依頼来るし。」
『へえ。
じゃあ、教団から100億ウェン貰えたんですね。
良かったじゃないですか。
別におカネには困ってないでしょ?』
「こ、困ってますよお!!」
『いやいや、流石に100億ウェンも売り上げて困る訳ないじゃないですか。』
「こ、ここは国の施設ですし。
代金は直接王都に振り込まれるんです。
ぼ、ボクには固定給以上の収入がないんだあ!」
『そりゃあ、大変ですね。
それじゃあ。』
「ま、待って!
何か買ってくれないですか?
今月のノルマがヤバいんです!
パトロンを見つけて来いって命令されてて!」
『何かって何があるんですか?
商品棚、空っぽじゃないですか?』
「え、エリクサー。
本当は在庫はあるけど。
表に置いておくのは怖いから。」
『でも100億ウェンでしょ?
無理ですって。』
本当に無理なんだ。
確かに手持ちに100億はあるよ?
でもそれは大切な預り金なんだ。
…待てよ、預かり、か。
要領はポーションと同じなんだよな。
『在庫ってどれくらいありますか?』
「ざ、在庫?
152ℓ。
全部定価で売れないと研究期間満了にならないんだ。
プロジェクト開始時は200ℓもあったのに、よくここまで頑張ったよ。」
ああ、アンタここで骨を埋めるしか無いな。
『じゃあ、しばらく見学させて貰えませんか?
購買力のある友人は多いので、彼らに推薦するか否かを見極めたい。』
「え? え?
け、見学?
だ、駄目だよ!
そんなマニュアルはないし
万が一、エリクサーが減ったら縛り首になっちゃうよ!」
『あ、いえ。
別にエリクサーには触れませんよ。
妻が珍しい風景を見るのが好きでね。
今、各地で見物料を払って珍しい景色を見て回っているんです。』
「だ、駄目駄目!!
研究室は高価な備品がいっぱいあるんだ!
壊れたら自腹で弁償しなくちゃならない!
いいかい?
産業用フラスコなんか、1瓶で9000ウェンもするんだよ!?」
『見学料って幾らですか?』
「だ、だ、だ! 駄目駄目駄目!!
5万ウェン貰ったって割に合わないよ!!」
『500万払います。』
「!?」
『前金として500万ウェンをまずお支払いします。
5分でいい、妻と二人きりで見学させて頂けませんか?
お恥ずかしい話なのですが、まだちゃんとプロポーズしてないんですよ。
サプライズで驚かせてやりたい。
願いを叶えてくれたら後金で500万ウェンを支払います。
勿論、もしも備品を壊したら全額弁償します。』
「ゴメン、君が何を言ってるのかわからない。」
『例えわからなくとも、この話を呑んでくれたら
この500万ウェンは貴方のものですよ?』
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【所持金】
150億7300万ウェン
↓
150億6800万ウェン
※使途不明金500万ウェン
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よし、受け取った。
アンタ今、カネを受け取ったね?
…我ながら酷い事をする。
『では、17時前に来ます。』
俺は馬車に戻り、ポーション汲み取り用の綺麗な空瓶を全部借りる。
いや、26本でいい。
大事を取って27本か…
そして俺はヒルダにコレットを借りれないか頼む。
「借りるも何もコレットは貴方の妻ですよ。」
『お願いします!』
「…。」
『どうしても試したい事があるんだ。
必ず報いる事を約束する!』
「…これ以上何を受け取れと言うのですか。」
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グリーブ傭兵団からの伝令。
全戦線で西軍の圧勝。
東軍各領主への偽装赦免からの一斉奇襲が決定打となった。
東軍は主だった者を全て討ち取られ、主要な軍事拠点を全て陥落させられたらしい。
西伯爵は《正統伯爵》を自ら呼称し、東伯爵家の係累に莫大な賞金を懸けた。
既に大規模な落ち武者狩りが佳境に入っている。
清廉な東伯爵と異なり貪婪な西伯爵は酷税を以て膨大な軍資金を密かに蓄え、騙し討ちの機会を虎視眈々と狙っていたそうだ。
東伯爵家の一族は大抵が無惨に公開処刑され、美貌の女騎士が5歳の嫡孫を護って逃亡中であるとのこと。
この5歳児を殺せば、西伯爵による80年ぶりの東西統一が完遂するという訳だ。
状況は理解した。
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「ぜ、絶対に内緒にしてよ!」
『勿論です。
ああ、これ後金の500万ウェン。
約束が果たされたら、即座にこれは貴方のものです。』
「ぼ、僕に責任はないからね!?
そ、そうだ!
と、トイレに行って来よう!!
もしも何かあっても僕は何も見てないし!」
聞けば、彼の月給は14万ウェンとのこと。
キャンパスとは名ばかりの僻村に追放され、たまにお忍びでやってくる坊主共の機嫌を取る日々。
誰が彼を責められようか。
ちなみに王国が次に教団への返済を滞らせれば、エリクサーの特許も奪われるとのことだ。
未来は暗いな。
『コレット。
いつもいつも、君に下らない事ばかりさせてしまって…
ゴメン、本当にゴメン。』
「ふふっw
結構楽しいよww」
《27億2000万ウェンの配当が支払われました。》
俺達は這い蹲って【複利】で漏れ落ちたエリクサーを必死に瓶詰している。
152ℓの17%。
切り上げ効果を見込んで26本のエリクサーを回収。
日頃、ポーション回収を任せているせいかコレットの手際は異常に精密だ。
26ℓジャスト!
ん?
まだ垂れる?
え?
どうして?
27ℓ!?
あ、レベルアップで日利が上がった!?
あ、やば。
もう瓶を…
あ、コレットが予備を持って来てたのか。
『コレット、本当にスマン。』
「謝っちゃだめ。
わたしは好きでリンと一緒にいる。」
『…俺を受け入れてくれてありがとう。
少しプロポーズが遅れたが俺と結婚して欲しい。』
承諾の返答と共にキスされた、今更だが照れる。
俺にもこんな感情があったんだな。
トイレの彼に500万ウェン渡して研究室を検分して貰う。
重要な物は既に別室に移していたらしいので、エリクサーだけを何度も確認された。
成分分析も異常なし。
『何か問題があれば言ってくれ』
と言って俺は去る。
「う、うん。
また何かあったら声を掛けるよ!」
等と言いつつ俺の名前すら聞いて来ない辺りが、ああこの人勉強だけ出来る馬鹿なんだな。
って思った。
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【所持金】
150億6800万ウェン
↓
177憶8800万ウェン
↓
177億8300万ウェン
※27億2000万ウェンの配当を受け取り。
※使途不明金500万ウェン
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夜に東軍の女騎士が嫡孫を連れてこの車列に庇護を求めてきたらしい。
退去を言い渡すが、執拗に喰い下がりこのキャラバンの代表への面会を求めてきた。
とのダグラスの報告を幌越しに聞く。
俺は再度の退去を伝えるように頼もうとするが、ヒステリックな金切声がここまで聞こえてきた。
この旅において、俺への女性面会希望者はヒルダ・コレットを通す取り決めがあったので、2人に対処をお願いする。
コレットが母を振り返るが、ヒルダは1人で行かせる。
『ヒルダは付いていってやらないの?』
「リンの妻はあの子です。」
『そ、そりゃあ。
理屈ではそうだけど。』
数分後、コレットの判断。
《嫡孫を西軍へ引き渡す。》
まあ、妥当なところだろう。
今回の経緯を知りながら、それを皆の前で明言した点に感嘆する。
コレットが一旦女騎士に庇護を約束して油断させる。
その後、ヒルダが女騎士を水浴びに誘い、相手が1人になった時を見計らって崖上に回り込んだ俺が炸裂弾と凍結弾を5発ずつ投擲して殺した。
死体の原形は留めていなかったが、莫大な経験値が入って来たという事は殺害に成功したのだろう。
《900000ポイントの経験値取得》
==========================
【ステータス】
《LV》 18
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 229万4531
次のレベルまで残り21万2125ポイント
【スキル】
「複利」
※日利18%
下7桁切上
==========================
轟音を聞きつけた娼婦が車内からギャーギャー喚いていたようなので母娘に鎮静化を頼む。
嫡孫は衰弱していたのでグリーブ傭兵団が介抱しながら馬車に軟禁する。
キーンが西伯爵改め《統一伯爵軍》に嫡孫捕縛の旨を通報し、引き渡しを約束する。
彼は今日忙しく配当を忘れていたので、俺がその話をするとようやく破顔した。
==========================
【所持金】
177億8300万ウェン
↓
175億9700万ウェン
※カイン・R・グランツに2200万ウェンの利息を支払。
※ドナルド・キーンに1億6400万ウェンの利息を支払。
【コリンズキャラバン移動計画】
「7日目」
中継都市ヒルズタウン (宿が込んでた。)
↓
侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)
↓
大草原 (遊牧民を買収した。)
↓
教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)
↓
王国天領 ←今ココ。
↓
伯爵城下町 (この80年ほど絶賛家督紛争中)
↓
諸貴族領混在地 (戦時にも関わらず内戦を起す馬鹿がいっぱいいる。)
↓
王国軍都 (軍部が独自に警察権を保有している)
↓
王国側国境検問所 (賄賂が横行。 逆に言えば全てカネで解決可能)
↓
非武装中立地帯(建前上、軍隊の展開が禁止されている平野。)
↓
連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)
↓
自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)
==========================
護衛達は「今日の遅れを取り戻したい」と言ってくれたが
俺は皆が無事なら、多少の遅延は構わないと思っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
流浪のプライベートバンカー
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 18
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 229万4531
次のレベルまで残り21万2125ポイント
【スキル】
「複利」
※日利18%
下7桁切上
【所持金】
所持金175億9700万ウェン
※カイン・R・グランツから12億ウェンを日利2%で借用
※ドナルド・キーンから82億ウェンを日利2%で借用
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
【常備薬】
エリクサー 28ℓ
248
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