減税魔王

蒼き流星ボトムズ

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減税魔王

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「この世界は魔王によって滅ぼされ掛けておるのじゃよぉ!」

開口一番、この国の王様らしき男は叫んだ。
立派な白髪に長い白髭、中々威厳のある風貌の男である。
自己紹介すらさせて貰う暇もなく、王様は窮状を俺に訴え続けて来る。

やれやれ、嬉しいのはわかったから椅子くらいは勧めてくれないか?
俺はこの世界を救うために召喚された勇者なんだろ?

「もう勇者殿しか頼れるものはおらんのじゃぁ!」

王様は長い話を泣き落としで締めくくった。


彼の長く尊大な話を総合すると以下の通り。

・ここは異世界
・俺はこの世界(というよりこの王国)を救うために召喚された勇者
・数年前に誕生した魔王は圧倒的な速度で版図を拡大し、今まさに王国を併呑しようとしている
・勇者に魔王を倒して(殺して)欲しい


『そんなに強い魔王なんですか?』

「卑怯なんじゃよ! 汚い手を使って王国を侵略してくるんじゃ!」

『ほう。 そんなに卑怯なのですか? 一体どんな?』


俺がそう質問すると、王様はプルプル震えながら拳を握り締め、そして叫んだ。


「や、奴は!  あの卑劣な魔王めは! ぜ、税率を下げて来るんじゃあああ!!!!!」


理解が追い付かず、俺は首を傾げる。


『税が下がるなら良い事なのでは?』


「奴はこれみよがしに減税してくるんじゃ!!
魔王の領地は二公八民じゃぞ! 二公八民ッ!
これでは九公一民の我が国が苛政を敷いているみたいじゃないか!!」


九公…  ここは薩摩かな?



『なるほど…』



「魔王と言っても元々デビル族の小さな部族長に過ぎなかった男よ!
伝統ある我が王国から見れば吹けば飛ぶ零細蛮族に過ぎん!」


『へえ、叩き上げなんですね。』


「おう! 卑しい成り上がり者よ! 
それが卑怯な減税戦法であっさりデビル族を統一してしまった!」


『まあ誰だって税金は安い方がいいでしょうからね。』


「それだけではない!
デビル族と長年戦争状態にあったオーク族があっさり軍門に下ってしまった!
オークの民達は王の首を嬉々として魔王に献上したそうなんじゃ!!」


『まあ、税金下がるんなら誰だって喜びますよね。』


「更にじゃ!
魔王めは減税法案を普及させ続けて、ほぼ無傷で魔界を統一!
今では魔界全土がニ公八民になってしまったああ!!!」


『戦争しない上に税金下げてくれるなんて、理想の君主ですね。』


「馬鹿者ぉ!!
恐ろしいのはここから!
魔王の魔の手は人間界にも伸びてきておるんじゃ!
余が統治するこの王国からも大量の農奴共が魔界に逃散してしまった!!!
農奴がいなければ誰が収穫をするんじゃああ!」


『? 
農奴の方々は魔王に誘拐された訳ではないのですね?』


「そうじゃ! けしからんことに農奴共は自らの意思で魔界に加担しておる!
奴らが我が国の農業ノウハウを持ち込んだおかげで!
魔界は歴史的な大豊作に恵まれてるとのことじゃ!」


『そりゃまあ。
ノウハウ持った労働者が大量に入ってきたら、嫌でも産業は伸びるでしょうね。』


「こういう卑怯な引き抜き工作を魔王めは全ての分野で行っとる!
最近では王家の藩屏たる貴族階層ですら領地ごと魔界に鞍替えを始めた!
終わりじゃー! もうこの世界は終わりじゃー!


俺は星新一を愛読しているので、この話のオチも己が果たすべき役目も十分に理解出来た。
使命を果たす前に、王様に形式的に質問した。


『では王様も減税すれば良いのでは?』


今まで怒鳴り散らしていた王様はキョトンとした表情で身振りを停止させた。
一瞬奇妙な沈黙が場を支配したが…
俺の発言は王様にとって理解の範囲外だったのか、何事も無かったかのように再び叫び出す。


「大体! 魔王は卑怯なんじゃ! 余は宮廷費に毎年10億ゴールド必要なのに!
魔王はたったの5000ゴールドしか費やしておらん!」


『どうして魔王はそんなに少額でやりくりできるのですか?』


「よくぞ聞いてくれた勇者よ!
卑劣極まりない事に魔王めは!
兵士達と同じ天幕で過ごし、兵士達と同じ食事をとり、兵士達と同じ衣服を纏っておる!
そして恐ろしいことに親族に何一つ役職を与えようとしないんじゃ!!」


『王様は宮廷費を削らないんですよね?』


「どんな予算にも聖域は存在するんじゃ!」


『税率は下げないんですよね?』


「当然じゃ! 農奴共の裏切りで発生した莫大な損失を埋める為には更なる増税が必要じゃ!
九十五公五民! いや九十九公一民でも損害が補填できるかどうか!」


やれやれ、俺は再分配主義者ではないんだがな。


「勇者よ! この伝説の聖剣を取り邪悪なる王を滅ぼすのじゃ! 全ての人々の為に!」


俺は黙って剣を受け取ると、その場で抜剣し、満足気に頷いている王様の首を切り落した。
流石は聖剣である。
素人の俺でもぶっつけ本番で成功させてくれるんだからな。


その後の事務処理は割愛するが、俺は地下牢に幽閉されていた元大臣と共に魔王と面会し、王の首を捧げた。
投降者には慣れているのか魔王はこちらが恐縮するくらいに慇懃に歓待してくれた。
魔王は貧相なはにかみ屋の小男だったが、職務の話題に関しては精悍で篤実な表情を崩さなかった。
王殺しの報告を彼は沈痛な面持ちで聞いた後、その場で人間側の本領を安堵し更には飢饉に苦しんでいる元王国民の為に食糧援助も確約してくれた。

その夜、魔王は宿所である兵士用テントで俺を歓待してくれた。
自ら手斧で酒樽を割ると、ぬるく酸味の強すぎるビールを注いでくれた。
こんなに美味い酒を飲ませて貰ったのは、後にも先にもこの時だけだ。

数か月の準備期間を経て、魔王は俺を日本に送還してくれた。
それも、ご丁寧に俺が呼び出されたのと寸分変わらない日時・場所に届けてくれた。
この一事で、彼の尋常ではない気配りが嫌でも想起出来る。


俺はしばらく余韻に浸っていたが、PC画面内に流れる増税のニューステロップを見てゆっくりと身体を起こした。

やれやれ、この国には数千万人の王様が居るんだぜ。
聖剣が何本あったところで全然足りないじゃないか。

…だから勇者の手法は取りようがない。
なので俺は。
不本意ながら消去法で魔王のやり方を真似ることにする。

彼に恥じずに済むように。

  (完)
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