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2.フェリシアの熱意
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「レイヴィス様ぁぁっ!!」
廊下からフェリシアの叫び声が聞こえてきて、レイヴィスは硬直した。
「フェリシア様をお送りできませんでした!申し訳ありません!」
レイヴィスが90度に頭を下げると、マリウスはため息をついた。
「ごめんね、レイヴィス……」
廊下に出ると、フェリシアが、サーシャに羽交締めにされて暴れていた。
「申し訳ありません。馬車を出すことすらできず……」
「レイヴィス、ありがとう。戻って良いよ。」
レイヴィスはマリウスに敬礼をして、風のように去っていった。フェリシアは、なおもレイヴィスの名前を呼んでいる。
(ちょっと怖いよね……)
素顔のフェリシアならば、護衛の騎士たちは喜んで応対するだろう。でも変装したフェリシアに付き纏われたら、恐怖を感じるのも無理はない。それくらいの熱量だ。
「フェリシア、レイヴィスは忙しいのに時間を作ってくれたんだよ?大人しく帰ってよ。」
しばらく演習場の見学はできなくなるから、元気を出してもらうためにレイヴィスや第三部隊の騎士を護衛につけたのに、裏目に出てしまった。
「ごめんなさい。しばらく騎士様を見られなくなると思ったら、悲しくなってしまって……」
「サーシャ、お願いできる?」
「承知致しました。フェリシア様、行きますよ。」
「はい……」
大人しくサーシャに連れて行かれる姿を見るに、やり過ぎたことはわかっているのだろう。
「やっぱり早く見つけないと……」
フェリシアが一途に思える騎士がいれば、この問題も解決する。肩を落として廊下を進むフェリシアの後ろ姿を見つめていると、側近のユーリがやってきた。
「おや、フェリシア様?」
「うん。レイヴィスを襲いかけちゃったみたでさ……」
「あらら。こちら、陛下から書状でございます。」
「ありがとう。」
マリウスは、ユーリから受け取った書類を広げた。
「わあ!『大会』を任せていただけるって!」
「おぉ。ついにマリウス様御主催になるのですね!これは楽しみです……ところで、私も行った方がよろしいでしょうか?」
ユーリは廊下の先を指差した。
「うん。ごめんね。ユーリもフェリシアの護衛についてくれる?」
「承知致しました。」
執務室へ戻ったマリウスは、再び国王の書状に視線を落とした。
『大会』とは、国王主催の騎士たちの腕試し大会。城に所属する騎士の他、貴族が個人で所有している騎士や、街の腕自慢たちも参加できる大きなお祭りだ。
「ようやく任せてもらえるんだ。頑張らないと。」
マリウスは、机の上に広げられたままの騎士の書類をまとめた。
(待てよ……フェリシアが好きなのは強い騎士だ。それなら、大会の優勝者をフェリシアの結婚相手にすればいいんじゃないか……?)
優勝者というお墨付きがあれば、フェリシアの父・ロベルトも納得するだろう。マリウスは、引き出しから便箋を取り出した。
♢♢♢
馬車へ向かう間、フェリシアはずっと俯いていた。レイヴィスと話したかっただけなのに、逃げられてしまった。マリウスがせっかく護衛につけてくれたのに台無しだ。
「ねぇ、サーシャ。騎士様と結婚できると思う?レイヴィス様ともまともにお話しできないのに。」
顔が見えていればフェリシアに話しかけられて嬉しい騎士は多いが、変装したフェリシアはただの狂気だ。
「少しだけ熱意がお強いのかなと思いますが、殿下とフェリシア様のお父上が探しておられます。大丈夫ですよ。」
「でも、お父様に紹介されるのは、貴族ばかりなの。」
「公爵様でおられますから、父として身分を気にすることは仕方ありません。」
「……そうだけど。」
子供の頃、自由に遊ばせてくれたのは騎士だけだった。騎士だけは何をしても怒らなかった。ちょっと危ないことをしても絶対に助けてくれる。
騎士はヒーローであり、王子であり、時に父であり、兄であり、弟の時もあり……騎士こそがこの世の全てなのだ。
「フェリシア様は、騎士であれば誰でも良いのですか?隊長などの肩書きがある方が……と言うのでしたら、お父上とあまり変わらないように思います。」
「そんなことありません。隊長様は素敵ですし、尊敬していますが、肩書きがなくても構いません。」
「新入りでも構わないと?」
「はい。ただ、剣の腕は大事ですわ。騎士様はやはり強くなくてはなりません。」
「なるほど。隊長たちに熱意を向けられるのは、強いからなのですね。」
「その通りです。隊長という肩書きは強さの証でもありますから。」
「確かにそうですね。見た目に関してご要望はないのですか?フェリシア様の隣を歩くのでしたら、殿下のように見目麗しい人方が相応しいと思いますが。」
「見た目は気にしません。ただ、私より身長が高い方が良いわね。ヒールを履いても見上げるくらいの……」
「ふむふむ。」
「見た目はそれくらいよ。でも結婚するなら、私を思ってくれる人がいいわ。綺麗とか可愛いとかはよく言われるけど、そんな表面的なことじゃなくて、もっと私自身を見て欲しいの。それから、一緒に庭園を散歩してくれて……水遊びとか一緒にできたらいいな。それから……」
フェリシアは話が止まらなくなった。しかし、隣を歩くサーシャはニコニコしながら話を聞いている。サーシャは、マリウスと同様に長くフェリシアの相手をしてきたため慣れていた。
「サーシャさんは、すごいなぁ……フェリシア様ずっと喋ってる……俺は無理だ……」
2人の様子を少し離れた場所から、ユーリが呆然と見ていた。
廊下からフェリシアの叫び声が聞こえてきて、レイヴィスは硬直した。
「フェリシア様をお送りできませんでした!申し訳ありません!」
レイヴィスが90度に頭を下げると、マリウスはため息をついた。
「ごめんね、レイヴィス……」
廊下に出ると、フェリシアが、サーシャに羽交締めにされて暴れていた。
「申し訳ありません。馬車を出すことすらできず……」
「レイヴィス、ありがとう。戻って良いよ。」
レイヴィスはマリウスに敬礼をして、風のように去っていった。フェリシアは、なおもレイヴィスの名前を呼んでいる。
(ちょっと怖いよね……)
素顔のフェリシアならば、護衛の騎士たちは喜んで応対するだろう。でも変装したフェリシアに付き纏われたら、恐怖を感じるのも無理はない。それくらいの熱量だ。
「フェリシア、レイヴィスは忙しいのに時間を作ってくれたんだよ?大人しく帰ってよ。」
しばらく演習場の見学はできなくなるから、元気を出してもらうためにレイヴィスや第三部隊の騎士を護衛につけたのに、裏目に出てしまった。
「ごめんなさい。しばらく騎士様を見られなくなると思ったら、悲しくなってしまって……」
「サーシャ、お願いできる?」
「承知致しました。フェリシア様、行きますよ。」
「はい……」
大人しくサーシャに連れて行かれる姿を見るに、やり過ぎたことはわかっているのだろう。
「やっぱり早く見つけないと……」
フェリシアが一途に思える騎士がいれば、この問題も解決する。肩を落として廊下を進むフェリシアの後ろ姿を見つめていると、側近のユーリがやってきた。
「おや、フェリシア様?」
「うん。レイヴィスを襲いかけちゃったみたでさ……」
「あらら。こちら、陛下から書状でございます。」
「ありがとう。」
マリウスは、ユーリから受け取った書類を広げた。
「わあ!『大会』を任せていただけるって!」
「おぉ。ついにマリウス様御主催になるのですね!これは楽しみです……ところで、私も行った方がよろしいでしょうか?」
ユーリは廊下の先を指差した。
「うん。ごめんね。ユーリもフェリシアの護衛についてくれる?」
「承知致しました。」
執務室へ戻ったマリウスは、再び国王の書状に視線を落とした。
『大会』とは、国王主催の騎士たちの腕試し大会。城に所属する騎士の他、貴族が個人で所有している騎士や、街の腕自慢たちも参加できる大きなお祭りだ。
「ようやく任せてもらえるんだ。頑張らないと。」
マリウスは、机の上に広げられたままの騎士の書類をまとめた。
(待てよ……フェリシアが好きなのは強い騎士だ。それなら、大会の優勝者をフェリシアの結婚相手にすればいいんじゃないか……?)
優勝者というお墨付きがあれば、フェリシアの父・ロベルトも納得するだろう。マリウスは、引き出しから便箋を取り出した。
♢♢♢
馬車へ向かう間、フェリシアはずっと俯いていた。レイヴィスと話したかっただけなのに、逃げられてしまった。マリウスがせっかく護衛につけてくれたのに台無しだ。
「ねぇ、サーシャ。騎士様と結婚できると思う?レイヴィス様ともまともにお話しできないのに。」
顔が見えていればフェリシアに話しかけられて嬉しい騎士は多いが、変装したフェリシアはただの狂気だ。
「少しだけ熱意がお強いのかなと思いますが、殿下とフェリシア様のお父上が探しておられます。大丈夫ですよ。」
「でも、お父様に紹介されるのは、貴族ばかりなの。」
「公爵様でおられますから、父として身分を気にすることは仕方ありません。」
「……そうだけど。」
子供の頃、自由に遊ばせてくれたのは騎士だけだった。騎士だけは何をしても怒らなかった。ちょっと危ないことをしても絶対に助けてくれる。
騎士はヒーローであり、王子であり、時に父であり、兄であり、弟の時もあり……騎士こそがこの世の全てなのだ。
「フェリシア様は、騎士であれば誰でも良いのですか?隊長などの肩書きがある方が……と言うのでしたら、お父上とあまり変わらないように思います。」
「そんなことありません。隊長様は素敵ですし、尊敬していますが、肩書きがなくても構いません。」
「新入りでも構わないと?」
「はい。ただ、剣の腕は大事ですわ。騎士様はやはり強くなくてはなりません。」
「なるほど。隊長たちに熱意を向けられるのは、強いからなのですね。」
「その通りです。隊長という肩書きは強さの証でもありますから。」
「確かにそうですね。見た目に関してご要望はないのですか?フェリシア様の隣を歩くのでしたら、殿下のように見目麗しい人方が相応しいと思いますが。」
「見た目は気にしません。ただ、私より身長が高い方が良いわね。ヒールを履いても見上げるくらいの……」
「ふむふむ。」
「見た目はそれくらいよ。でも結婚するなら、私を思ってくれる人がいいわ。綺麗とか可愛いとかはよく言われるけど、そんな表面的なことじゃなくて、もっと私自身を見て欲しいの。それから、一緒に庭園を散歩してくれて……水遊びとか一緒にできたらいいな。それから……」
フェリシアは話が止まらなくなった。しかし、隣を歩くサーシャはニコニコしながら話を聞いている。サーシャは、マリウスと同様に長くフェリシアの相手をしてきたため慣れていた。
「サーシャさんは、すごいなぁ……フェリシア様ずっと喋ってる……俺は無理だ……」
2人の様子を少し離れた場所から、ユーリが呆然と見ていた。
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