美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き

森乃みち

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4.賞品は護衛権

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 大会まであと数日となったある日。マリウスは、フェリシアに会うため公爵邸を訪れた。

「お兄様……お久しぶりです……」

 騎士の演習を見学できていないせいで、フェリシアは元気がない。

「ごめんね、フェリシア。少し忙しくてさ。」
「お兄様が悪く言われるのは嫌ですもの。仕方ありませんわ。でも、そろそろ見学させていただけませんか?なんだか胸が苦しくて。」

「うん。今日は、プレゼントを持ってきたよ。」
「プレゼント?」
「開けてみて。」

 フェリシアはマリウスから封筒を受け取り、そっと開いた。中に入っていたのは大会の招待状。

「今年の大会は、僕が主催を任されたんだ。ずっと行きたいって言ってたでしょ?」

 フェリシアは白目になって固まっている。

「フェリシア……?大丈夫……?」

 マリウスに声をかけられて、フェリシアは覚醒した。

「大丈夫ではありませんわ!ありがとう、お兄様!夢のようです!毎年毎年、どうやったら行けるのかと、そればかり考えていましたの!あぁ、こんなに幸せなことがあって良いのでしょうか!」
「ははは、喜んでくれて嬉しいよ。」

 偉大な兄のおかげで長年の夢が叶う。この日は何があっても行こう。病気になっても、怪我をしても、世界が破滅しても行こう。

「それでね、実はお願いがあるんだ。」
「お兄様のお願いなら、なんでもお聞きしますわ。」

 フェリシアは、眼光鋭くマリウスを見つめた。

「今回は、大会の優勝賞品をフェリシアの護衛権にしたんだ。」
「わ……私の護衛権が優勝賞品に!?ヴィクトール様かファリス様が私の護衛にいらっしゃるの!?」

 フェリシアは歓喜で震えている。

「それはわからない。今回は去年よりもずっと参加者が多いんだ。ヴィクトールやファリスよりも強い騎士が現れるかもしれないからね。」

 するとフェリシアは、急に静かになった。

「では、隊長ではない騎士様が、決戦に残ることもあるのですよね?」
「そうだよ。それでもちゃんと護衛として迎えて欲しいんだ。どんな肩書きの騎士であってもね。」

「お断りすることは絶対にありません。ただ、強い騎士様は第一部隊でご活躍される方が、いいのかなと……思うだけで……」

 フェリシアの声はどんどん小さくなっていく。そう思うけど、護衛もして欲しいと思うから複雑だ。

「でも強い騎士に護衛して欲しいよね?」
「もちろんですわ!準優勝でも3位でも構いません。10位くらいまでの騎士様全員お迎えしても……あぁ、そんなことになったらどうしましょう!」

「今回の大会は、フェリシアの護衛がしたくてみんな参加してる。観客も多いから気合を入れて来てね。」
「わかっております。なんだかドキドキしてきましたわ。私の護衛に騎士様が……あぁ!もう死んでしまうかもしれません!」
「大丈夫だよ、死なないから。ははは。」

 フェリシアは嬉しそうに部屋の中を飛び回っている。マリウスは笑っていたが、部屋の隅に控えていたメイドのマリーは、呆然とフェリシアを見ていた。

 ♢♢♢

 執務室へ戻ったマリウスが騎士の資料を確認していると、サーシャが慌てた様子で戻ってきた。

「殿下、マルコス様が怪我をされたそうです。」
「マルコスさんが?大丈夫なの?」
「大事には至っておりませんが、一週間ほど療養が必要になるとのことでございます。」

 マルコスは、例年大会で審判を務めている剣の名士。マルコスが怪我をしたとなると、審判を務める人間がいなくなってしまう。

「そうか……代わりの審判はヴィクトールが適任だよね。」
「そのように思います。」

 審判は様々な視点から騎士たちの動きを判断できなくてはならない。急遽審判を代われるのは、ヴィクトールくらいだ。

「でもヴィクトールが不参加となると、少し計画が崩れてしまうね。」

 決戦が例年通りヴィクトールとファリスなら、ヴィクトールに優勝してもらい、フェリシアの護衛をしてもらう予定だった。ヴィクトールは、任務ならばとフェリシアの護衛でもなんでも引き受けてくれるからだ。

「ファリス様がフェリシア様の護衛につくのは、時間がかかるかもしれませんね。」
「僕もそう思うよ。」

 ファリスの奥方は、王妃の護衛についた時ですら嫉妬するらしい。護衛対象が未婚のフェリシアと聞いたら、夫婦仲に亀裂が入ってしまうかもしれない。

「家庭を壊してまでお願いできないからね。」
「ファリス様に勝てる騎士がいれば良いのですが……」
「それが一番良いよね。」
 
 資料を見る限り、フェリシアのタイプに該当した騎士は何人かいた。けれど、ファリス以外にも強い騎士はたくさんおり、優勝することは容易ではない。

(最悪の場合も考えておこう……)

 初戦を突破した騎士に適当に称号を与えて、ロベルトを説得しよう。マリウスは、最終手段として王太子の権力を使おうかと考え始めていた。

 ♢♢♢

 第三部隊の隊長レイヴィスは、演習を終えたアランに声をかけた。

「アラン、ちょっと来てくれ。」

 アランは硬直した。隊長から声をかけられるのは、処罰を言い渡される時だけだと、同僚たちから聞かされていたからだ。

「アラン、何かやっちまったのか?」
「知りませんよ!」
「真面目な奴ほど企んでるからな~」
「何も企んでませんって!」
「いいから、早く行け!」
「は、はいっ!」

 アランは緊張した面持ちで隊長のレイヴィスを追った。

「アラン、三日後に大会がある。出てみないか?」
「大会……ですか?」

「筋が良いから初戦は突破できると思うぞ?」
「俺なんかが出ても良いんですか?まだ入ったばかりで何も……」

「街の力自慢も参加できる祭りのようなものだ。腕試しのつもりで構わない。」
「そういうことならやってみたいです!」

 田舎では剣の腕が良いと何度も褒められた。自分の力がどこまで通用するのか知れる良い機会だ。

「よし。じゃあ、参加申し込みをしておこう。戻って良いぞ。」
「はっ!」

 アランが出て行くと、レイヴィスは早速参加申込書を書き始めた。レイヴィスは先日の恐怖体験──フェリシアを護衛できなかった時のことを思い出した。

(殿下、彼はフェリシア様のタイプだと思います……)

 レイヴィスは、アランの参加申込書に小さくメッセージを添えた。
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