美貌の公爵令嬢フェリシアは騎士様が好き

森乃みち

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16.これからもずっと

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「すごい部屋だなぁ……」

 自室に戻ったアランは、部屋を見回した。広くて豪華な部屋にはまだ慣れない。アランは手早く着替えを済ませてソファーに横たわった。

「俺はいつまでここにいるんだろう……」

 多少は護衛の仕事をしているけれど、ほとんどがフェリシアのそばにいるだけで何もしていない。フェリシアが危険な目に遭うことがないのは嬉しいけれど、護衛は必要ないのではないかと時折考えてしまう。

「そろそろ終わりかな……」

 毎日フェリシアと過ごすのはとても楽しい。フェリシアに好かれていることはわかるし、自分もフェリシアのことが好きだ。幸せな生活を手放すのは惜しいけれど、護衛が必要ないのなら、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 そんなことを考えていると、扉を叩く音がしてアランは慌てて起き上がった。

「アラン様、終わりましたか?」
「はい。終わりました。」

 アランが立ち上がると、フェリシアはアランの前にツカツカと歩いてきて、じっと顔を見つめてきた。アランは思わず目を逸らした。

「何をお考えになられていたの?」

 アランはわずかに目を見開いた。

「……なんでもありません。」
「私、アラン様のことはよく見ていますの。何かお悩みがありますのよね?」

 アランは眉間に皺を寄せた。

「私のことがお嫌いになられましたか?」
「とんでもないです。大好きです!」
「えっ!」

 動揺して大胆な発言をしてしまった。

「あ、あぁ!えっと……フェリシア様にはもう護衛はいらないのかなって考えることがあるんです。お部屋も移動して、今は普通に生活できていますから。」
「それはアラン様がいてくださるからです。」

 フェリシアはアランの手を握った。

「私の護衛をお辞めになりたいのですか?」
「そんなことは決してありません。私でよければ、フェリシア様をずっとお守りしたいと思っております。」
「それは本当ですか?」
「はい。」

 フェリシアはアランの顔を覗き込んだ。至近距離で聞かれてアランは息が上がりそうだった。

「ずっと私をそばで守ってくださると?」
「はい。」

「これからもずっと?」
「はい。」

「永遠に?」
「フェリシア様がそのように仰るのでしたら、俺は……」

 フェリシアが望んでくれるなら、ずっとフェリシアのそばにいたい。アランはフェリシアの手を握り返した。すると──

「お母様!!アラン様がずっと一緒にくださるって!」
「え?」

 フェリシアが叫ぶと、どこからともなくフェリシアの母ソフィアがアランの部屋にやってきた。

「アラン様、フェリシアのこと、お願いしますね。ふふふ。」

 ソフィアはフェリシアに小さな箱を差し出した。

「アラン様、私とずっと一緒にいてください。アラン様はもう護衛ではありません。私の婚約者です!」

 フェリシアは、アランの手を取って勝手に指輪をはめた。フェリシアの指には既にお揃いの指輪が光っている。

「急すぎませんか!?」
「ずっとそばにいるって言ってくださったではありませんか!」
「言いましたけど……」

「それに、好きだって言ってくれたじゃないですか。」
「言いましたけど!」
「でしたら、良いではありませんか。私とずーっと一緒にいてくださいませ!」

 アランは項垂れた。フェリシアは不思議そうにアランを見つめている。

「結婚はお嫌ですか?」
「違います!俺が……俺が言いたかった!結婚してくださいって、俺が言いたかったです!」

 フェリシアとソフィアは同時に息を呑んだ。

「わ、わかりました。アラン様がそう仰るのでしたら、その、あの……お……お願いしますわ……アラン様♡」

 フェリシアは手を震わせながら自分の指輪を取って、それとなく箱の中へ戻した。指輪の入った箱を差し出されたアランは、深呼吸をしてから箱を受け取った。

(どうしよう!私、死んじゃうかも……!お母様!助けて!)
(フェリシア、よく聞きなさい。生涯で一度きりですからね?)

「フェリシア様、私はあなたのことが好きです。この思いは、今もこれからも変わりません。」

(アラン様♡♡♡私もそうですわ!全部ぜーんぶ大好きです♡!)

「フェリシア様、私と結婚してください!」
「きゃぁぁ!アラン様ぁぁぁっ!結婚します!すぐに結婚しますわ!!」

「フェリシア様、指輪がまだ……」
「それは後でいいです!先に、先にちょっと……」

「だ、だめです!母上がいらっしゃるのですよ!」

 アランは再び全身に力を込めた。フェリシアは抱きつくだけでは事足りずキスしようと迫ってくる。ソフィアの前で失態は許されないと、アランは必死でかわした。

「フェリシア……良かったわね……」

 ソフィアはアランに迫るフェリシアと、迫られてタジタジになるアランを見つめて静かに涙を流した。

 ♢♢♢

 静かになった部屋で、アランとフェリシアは並んでソファーに腰掛けていた。

「フェリシア様、結婚してください。」
「はい。喜んでお受けいたします。」

 アランはフェリシアの指に指輪をはめた。

「本当にいいのですか?俺はただの護衛で……なんの肩書きもありませんが。」
「お父様はこだわっていましたけど、本当は関係ないみたいです。アラン様も見ましたでしょう?上機嫌な父の姿を。」
「ははは、そうですね。」

 アランは護衛として来た日に、楽しそうにワインを開ける公爵の姿を思い出した。

「私はアラン様が好きです。アラン様以外の方とは結婚致しません。」
「ありがとうございます、フェリシア様。ずっとそばにいます。」
「アラン様……」

 近くで見つめても、もう息が詰まることはない。アランはフェリシアをそっと抱き寄せた。
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