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第一部 チュートリアル
第五章 魔素ジェネレーター
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俺達が落とした人間の村は宛ら地獄の様相だった。
俺達オーガは戦うことが仕事だ。戦いに勝ち、勝利の後処理に何も望む物は無い。安全が確認できれば人間が走り回っていても特に気にする事もない。
加護持ちのエルフを押さえた事で優勢は決したな。中に入り込めば火砲も銃器も使い物にならない。加護無し人間に施されてない武器を持たせても俺達オーガに傷すらつける事は出来ないだろう。
ならば何故地獄の様相を見せているかと言えば後に到着した魔物達だ。牛頭のミノタウロスに馬頭のなんだろうなアレは。バヅラとでも呼んでおくか。そのオーガ級を中核にゴブリンその他が取り巻いている。一見バラバラなのだが一つ共通点がある。妙に腹が出ているのだ。しかも何かを喰っている。多分アレは人間の一部だろうな。
俺達魔物は生理現象を持たない。少なくともオーガの俺や髑髏のシノはそうだろうな。食べようと思えば食べられるが消化器官がない。どの道上の口から噴き出すことになるだろう。そもそも奴らは何をしに来たのか?
連中はズカズカと入って来ると悪逆非道の限りを尽くす。だがそれは人間の視点の話だ。魔物である俺の視点から見れば何かの作業をしているように見える。
「今から何をするんだ?」
俺は好奇心に負けて馬頭に話しかける。人間のパーツを齧っていた馬頭が視線をこちらに向けるとそれをぶっきらぼうに差し出してきた。
「いや俺は食わない」
俺がそう返すと馬頭は鼻を鳴らして元の作業に戻る。食い下がろうかと思ったが牛頭がやってきて鼻を鳴らしてきた。明らかに邪魔だと言っているな。会話に応じる気もなさそうだ。そうこうするうちに村の外へと追いやられてしまう。
ようやく勝ちを拾えたのになんとも味気ないものだな。
ほぼ占拠も終わり、敵がここを取り戻しに来るわけでもなく、気が緩んでいたところにざわつく感覚を覚えた。
加護だ。微かだが今生まれたこの感じ、潜伏していたのか?
俺は直ぐに切り替えると加護を感じた村の広場へと駆けこんだ。何か騒ぎになっているようだが戦いの気配がしない。
死にぞこないがたまたま目覚めただけか? あまりも微弱だ。
ようやく見えてくると…エルフの子供だ。エルフの子供が今まさに加護を芽生えさせたのか。
俺は既に発現させていた石棍棒を振りかぶると躊躇い無く振り下ろす。だが標的はゴブリン達によって守られた。
「どういう事だ?」
流石に俺も語気が荒くなる。俺の棍棒は地を叩き、エルフの子供は未だ無事だ。
「どうもこうもない。横取りか? 鬼の旦那」
横取り? 何を言っている。
「それはエルフだろう。それも今加護を得た。それは敵だ」
口を付いて出た言葉が正に俺の本心だろう。加護のある存在は何であろうと脅威になる。見過ごすわけにはいかない。
「違うね。これは俺達の得物だ」
本気か?
「エルフは自然を全て武器に出来る。そこの草一本でさえ奴らの手にかかれば俺達を裂くナイフになる」
俺の言葉に流石に考え込んでいるか。しかしこのゴブリン見覚えがある様な。それこそエルフの森で一緒に敗走した奴じゃないか?
「旦那。それでもコイツは俺達に任せてくれないか?」
やはりあのときのゴブリンだな。ならば危険性は百も承知だろうに。
「対処できると?」
頷くゴブリン。ならば俺が手を出すまでも無いか。俺は構えを解く。
「わかった。手に負えなくなったらすぐに言え。即座に叩き潰そう」
ようやく空気が緩んできたな。加護持ちを目の前にして油断はしないが、コイツラよくもここまで気を抜けるものだ。逆に言えば加護持ちの子エルフよりも俺の方が脅威度が高いという事か。何も敵対しようというわけではないのだがな。そう見えてしまったか。
しばらく歓談した後やはりあの時のゴブリンで間違いなかったな。あの子エルフは単純にお楽しみに使うらしい。生理機能のない魔物にどうやってと思ったが生やせるらしい。これがゴブリンの固有の能力なのか魔物の特性なのか。それはわからないが、魔物として生きる道というものが種族によって違うのだろうな。
勝利の報酬か。俺達オーガは戦い自体が報酬のようなものだ。勝利こそが報酬で、勝利の先にあるものはその次の戦いだな。
さて次の報酬とブラブラしていたら魔素の奔流が感じられた。辺り一面に暗い光、青暗い光と言うべきか。それが充満している。いままで薄かった魔素が濃度を増していく。エルフに減らされた魔素が回復していくのを実感できる程だ。
光の下に行ってみると、あれは蛇か植物か。花びらの生えた蛇が奇怪な姿勢で咲いている。ここから魔素が噴き出しているのか。その下には満足気に腕組をする牛頭と馬頭。俺はそれに手を上げるとあちらもそれに応える。周りの魔物も寄ってきているようだな。
これが今回の報酬か。楽しみではなく、生み出すわけでもなく、ただ次の戦いの準備が出来る事に喜びを感じる。戦いこそが俺達の生き甲斐。求める物なのだろうな。
▽
Tips
魔素ジェネレーター
人間を触媒に魔素を吐き出す装置。一度安定すればほぼ永続する。
一時的なものを簡易魔素ジェネレーターと呼ぶ。
俺達オーガは戦うことが仕事だ。戦いに勝ち、勝利の後処理に何も望む物は無い。安全が確認できれば人間が走り回っていても特に気にする事もない。
加護持ちのエルフを押さえた事で優勢は決したな。中に入り込めば火砲も銃器も使い物にならない。加護無し人間に施されてない武器を持たせても俺達オーガに傷すらつける事は出来ないだろう。
ならば何故地獄の様相を見せているかと言えば後に到着した魔物達だ。牛頭のミノタウロスに馬頭のなんだろうなアレは。バヅラとでも呼んでおくか。そのオーガ級を中核にゴブリンその他が取り巻いている。一見バラバラなのだが一つ共通点がある。妙に腹が出ているのだ。しかも何かを喰っている。多分アレは人間の一部だろうな。
俺達魔物は生理現象を持たない。少なくともオーガの俺や髑髏のシノはそうだろうな。食べようと思えば食べられるが消化器官がない。どの道上の口から噴き出すことになるだろう。そもそも奴らは何をしに来たのか?
連中はズカズカと入って来ると悪逆非道の限りを尽くす。だがそれは人間の視点の話だ。魔物である俺の視点から見れば何かの作業をしているように見える。
「今から何をするんだ?」
俺は好奇心に負けて馬頭に話しかける。人間のパーツを齧っていた馬頭が視線をこちらに向けるとそれをぶっきらぼうに差し出してきた。
「いや俺は食わない」
俺がそう返すと馬頭は鼻を鳴らして元の作業に戻る。食い下がろうかと思ったが牛頭がやってきて鼻を鳴らしてきた。明らかに邪魔だと言っているな。会話に応じる気もなさそうだ。そうこうするうちに村の外へと追いやられてしまう。
ようやく勝ちを拾えたのになんとも味気ないものだな。
ほぼ占拠も終わり、敵がここを取り戻しに来るわけでもなく、気が緩んでいたところにざわつく感覚を覚えた。
加護だ。微かだが今生まれたこの感じ、潜伏していたのか?
俺は直ぐに切り替えると加護を感じた村の広場へと駆けこんだ。何か騒ぎになっているようだが戦いの気配がしない。
死にぞこないがたまたま目覚めただけか? あまりも微弱だ。
ようやく見えてくると…エルフの子供だ。エルフの子供が今まさに加護を芽生えさせたのか。
俺は既に発現させていた石棍棒を振りかぶると躊躇い無く振り下ろす。だが標的はゴブリン達によって守られた。
「どういう事だ?」
流石に俺も語気が荒くなる。俺の棍棒は地を叩き、エルフの子供は未だ無事だ。
「どうもこうもない。横取りか? 鬼の旦那」
横取り? 何を言っている。
「それはエルフだろう。それも今加護を得た。それは敵だ」
口を付いて出た言葉が正に俺の本心だろう。加護のある存在は何であろうと脅威になる。見過ごすわけにはいかない。
「違うね。これは俺達の得物だ」
本気か?
「エルフは自然を全て武器に出来る。そこの草一本でさえ奴らの手にかかれば俺達を裂くナイフになる」
俺の言葉に流石に考え込んでいるか。しかしこのゴブリン見覚えがある様な。それこそエルフの森で一緒に敗走した奴じゃないか?
「旦那。それでもコイツは俺達に任せてくれないか?」
やはりあのときのゴブリンだな。ならば危険性は百も承知だろうに。
「対処できると?」
頷くゴブリン。ならば俺が手を出すまでも無いか。俺は構えを解く。
「わかった。手に負えなくなったらすぐに言え。即座に叩き潰そう」
ようやく空気が緩んできたな。加護持ちを目の前にして油断はしないが、コイツラよくもここまで気を抜けるものだ。逆に言えば加護持ちの子エルフよりも俺の方が脅威度が高いという事か。何も敵対しようというわけではないのだがな。そう見えてしまったか。
しばらく歓談した後やはりあの時のゴブリンで間違いなかったな。あの子エルフは単純にお楽しみに使うらしい。生理機能のない魔物にどうやってと思ったが生やせるらしい。これがゴブリンの固有の能力なのか魔物の特性なのか。それはわからないが、魔物として生きる道というものが種族によって違うのだろうな。
勝利の報酬か。俺達オーガは戦い自体が報酬のようなものだ。勝利こそが報酬で、勝利の先にあるものはその次の戦いだな。
さて次の報酬とブラブラしていたら魔素の奔流が感じられた。辺り一面に暗い光、青暗い光と言うべきか。それが充満している。いままで薄かった魔素が濃度を増していく。エルフに減らされた魔素が回復していくのを実感できる程だ。
光の下に行ってみると、あれは蛇か植物か。花びらの生えた蛇が奇怪な姿勢で咲いている。ここから魔素が噴き出しているのか。その下には満足気に腕組をする牛頭と馬頭。俺はそれに手を上げるとあちらもそれに応える。周りの魔物も寄ってきているようだな。
これが今回の報酬か。楽しみではなく、生み出すわけでもなく、ただ次の戦いの準備が出来る事に喜びを感じる。戦いこそが俺達の生き甲斐。求める物なのだろうな。
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魔素ジェネレーター
人間を触媒に魔素を吐き出す装置。一度安定すればほぼ永続する。
一時的なものを簡易魔素ジェネレーターと呼ぶ。
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