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第三部 魔族
第四十五章 皇女
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辿り着いた魔族の王城は変わり果てていた。何があったのか知らないが城以外が廃墟になっている。土台が残っている所を見るに爆発跡というわけではないようだが、あの美しい街並みが軒並み消えている。そして対峙するのは人間の皇女と加護持ち魔族だ。
黒い鳥の羽で飛び回る皇女と数だけは多い加護魔族。数が揃うとあの幼稚な隠蔽無し魔法も脅威になる。シノが巨大髑髏を顕現させ数を減らしてはいるがそれを皇女が妨害していくる形だ。
完全に劣勢だな。単純に数の差が大きい。こちらは戦力が整っていない上にあちらは加護持ちに改良された魔族が続々と量産されてくる。
最初この荒れ果てた城下町を見て楽勝だと思っていたが加護持ち魔族が出てくるわ出てくるわ。引き際を見誤ったか、と思った所に皇女の参戦だ。高度を取って魔剣を放ってくる。変に魔法でないぶん迎撃は出来るのだが、地上の敵が多すぎて対処できてないのが現状だ。そこでシノの巨大髑髏で一掃という流れなのだが、王城から逐次戦力が追加されてくる。同じような規模の戦力投入から復活かとも思ったが死体の数は増えている。敵の戦力がわからない以上一掃するわけにもいかずじり貧という状態だ。
しかしコイツラはなんだ? 同じような服装で同じような武器を持って同じような行動をしている。そして奇妙なのがコイツラの加護だ。全てが同じ容量だ。人間で言えば普通の戦士クラス。それが寸分たがわず皆同じだ。その上異常に加護の回復が早い。減らしてもすぐに加護が元の状態に戻る。倒すには加護を抜く魔物武器か爪などが必要になるが、ランダムで魔素吸引の魔剣が居る。この見た目でその判別がつかないのも厄介だ。
これは明らかに神の加護ではないな。似ているが別の加護だ。となればそれを付与する存在はそこで飛んでいる皇女か。奴の加護も同じだ。聖女のような馬鹿げた出力はない。それにこいつの生み出す魔剣が魔族の持っているものと酷似している。こいつが加護と武器を供給している可能性は高い。
それともあの城の中か。その中に一定の加護を与える加護ジェネレーターが存在していてもおかしくはない。もしくはこの加護付き魔族を生み出している可能性まであるだろう。コイツラは何かがおかしい。世界の改変も疑ったが相棒も出しゃばりも反応がない所を見るにこの世界の内の力か。
そしてついにシノが崩れた。皇女の度重なる攻撃で遂に限界が来たのだろう。崩れていく巨大髑髏から落ちてくるシノに皇女が狙いを定める。だが想像していた惨劇は起きなかった。一発の銃声。それが全てを覆す。皇女の体に穴が開き落下していく。
狙撃オーガだ。この一瞬まで待っていたのか。もっと早くと言いたい所だがこの確実な一撃でなければ意味がないのだろうな。俺はシノを受け止め盾に格納する。魔法の抵抗が下がるが致し方なしか。敵地で動けないシノを野ざらしには出来ん。
幸い俺の予想は正しかったようだ。皇女の撃破と同時に魔族の加護が消失する。これでだいぶ楽になるが楽になり過ぎている。あまりにも上手くいきすぎだ。俺は落下していく皇女を見やるが・・・。
皇女の首が落ちた。命中したのは体だ。心臓を確実に射抜いている。その衝撃で首が落ちたと言えなくもないがそれならバラバラになっているはずだ。あれは・・・、皇女擬きか?
遂に真打登場か。白い翼をした皇女が光臨する。まさにそう表現するのが相応しい。王城から飛び出した白皇女の加護は絶大だ。その影響範囲内の魔族に加護を与えていく。聖女に比べれば劣るがそれでも神官三百人は下らないか。それでもこの状況下では十分だ。
つまり、俺達の負けだ。
俺達は大地の支配で遮蔽物を立てながら敗走する。この状況で髑髏部隊もなしに聖女クラスとは戦えない。黒皇女は完全に囮か。無双と見せかけて俺達を誘い込み完全に仕留める気か。先の遭遇戦を俺達が体験するという羽目だ。
白皇女が悠然と地に降りる。黒皇女の落下地点だ。
随分と余裕だが追撃は無しか。
などという楽観視は一瞬で打ち消された。その地点から羽が伸びる。黒い羽だ。そして空に飛び立った皇女はもう一対の羽を生やす。中心の白い翼に上下の中空に浮く羽。上に黒の羽、下に灰色の羽が生まれている。
計六枚の力を備えた人間の化け物が現れた。
名づけるなら六枚羽の皇女。完全にネームドだな。先の黒皇女を囮にして力を出し切った所に全力か。
それにこいつは俺とシノを知っている。その視線が確実に俺を捉えていた。
六枚羽の射出する魔剣を捌きながら俺は囲まれているのを感じていた。戦闘に入ろうとしている俺と六枚羽を取り囲むように加護魔族が展開している。幸いなのは魔法を使ってこないことだ。その莫大な加護のせいで魔法が使えないのだろう。正確には減衰か。だが聖女戦の神官の森のように加護の籠が出来つつある。俺が皇女と交戦している分味方の後退は確実だ。閉じようとしている加護の籠を閉じないように動いてくれるのもいる。だが援護は望めないだろう。自力でそこまで下がるしかない。
しかし単純に強い。魔族に加護が行き渡るように地上で戦っているのが唯一の救いか。それに俺を下がらせないように近接も仕込んでくる。射出される魔剣と違ってレイピア状の刺突剣を縦横無尽に繰り出してくる。しかもそれは魔素吸引だ。確実に取る一撃ではなくとも掠るだけでもそれ相応のダメージを受ける。反撃は出来るものの六枚羽の加護の厚さは聖女並みだ。それが黒皇女のように一瞬で回復してくる。加護を抜くなら脇差があるがそれでも魔素吸引レイピアとの打ち合いは無理だ。
流石に万事休すか。聖女戦のようにシノを取り込む選択肢もあるがこの状況ではとてもではないが使えない。その焦りが更に俺を追い込む。そこに六枚羽のレイピアが迫る。
それが俺の首を捉えた時、ガシーンという金属音と共に六枚羽のレイピアが弾かれた。
これは鎧。盾の鎧だ。それが顕現していく。世界の改変ではない。これは、加護の鎧が俺を拒否しない。どういうことだ?
俺の中に聖女の力を感じる。その特性が加護の鎧を世界の改変なしで使えるようにしているのか。
アリエス。無事だったか。
歓喜の気配が俺の内から漏れてくる。これなら帰ってくるのは時間の問題だな。俺は白金の鎧に身を包まれながら信仰を感じていた。現金なものだ。たったそれだけでもこの絶望下で力が湧いてくる。
「これは神の手先か?」
シノか。ようやく目覚めたようだな。
「ああ。アリエスがもうすぐ帰ってくるようだ」
「ほう。それでこの力か。取り合えず魔素を充てんするぞ。魔族の魔素だ。出力が上がっている。使うときは気を付けろ」
「了解」
盾とリンクした俺はブーストを起動する。これでだいぶ楽になるはずだ。相棒も聖剣の姿を取っている。だがまだ何かある様だ。聖剣である相棒ともリンクが繋げる。加護の刃が出現した。それもこれはかなり巨大にできる。鎧ともリンクを繋げると透明な加護の膜が展開する。これが本来の人間のネームドが持っていた時の性能か。
俺はブーストを使って加護の籠の先端に突撃する。この剣の加護の刃は加護を透過できる。つまり、この即回復する重厚な加護を抜いて魔族の肉体に直接攻撃できる。成功だ。これが人間なら効果がないが加護持ち魔族には効果覿面だ。そのまま包囲の円を削っていく。六枚羽がそれに気づいて魔族の加護を解くがそれは失敗だな。魔族が魔法を使えるがこちらの魔物の攻撃も通る。俺と逆の包囲の円の先端が崩壊しだした。だがそれは織り込み済みか。
魔族の動きが止まると共同魔法の発動が始まる。これはマズイ。これだけの数の魔族の共同魔法だ。生半可な威力ではないだろう。仮に六枚羽に肉薄しても発動前の撃破が必要だ。とてもではないが間に合わない。俺は少しでも魔族の数を減らしながら王城の方へ向かう。最悪こいつを盾にしよう。少なくとも味方を巻き込むことは少なくなる。
だが甘かったな。俺を座標にした共同魔法。それも味方の魔族も巻き込む気だ。
それならもう。お前にも付き合ってもらうほかないじゃないか。
俺は魔物に退避を疎通させると六枚羽に迫る。
さてこの魔法の威力は聖女仕様の聖なる武具を相手にどこまで有効なのか見せてもらおうか。お前の体と一緒にな。
苦し紛れの俺の一撃が六枚羽の加護を抜いて黒の羽を切り裂く。そこは効くのか。俺は間合いを取って加護の刃部分だけで黒の羽を切り裂いていく。魔法が止まるわけではないがその後の追撃には影響が出るだろう。
これがゲームだったら破壊したら激長ダウンなんだろうが、それは見込めそうにないな。黒い羽が消えても魔法が止まらない。それ以外の場所は加護の刃では傷つけられないか。俺は相棒で加護に切りつける。
「シノ、逃げなくていいのか?」
「お前のいない世界のどこに私の居場所がある。それよりも一瞬だ。一瞬だけその加護を抜ける穴を開けられる。使うか?」
「ああ。少しでも可能性は上げておこう」
俺は剣戟を収めてシノの魔法のタイミングに合わせる。幾重にも重なる魔法の筒を発動のタイミングとともに相棒が抜けていく。六枚羽にその剣先が届いたときに感じたのはあの物理無効の感覚だった。
どうなった?
俺は意識を失っていたようだが五体満足だ。鎧も解けていない。
「王牙!」
「シノ。無事か」
「ようやく気付いたか。私は無事だ。それよりもこれはお前がやっているのか?」
これとはなんだ? やけに暗いと思っていたがこれは何かに包まれているのか。俺がそれを払いのけるとバサッとそれが音を立てる。これはマントか。灰色のマントが俺の首元からかけられている。
こんなものを顕現したか? だがこの手触りには覚えがある。鎧越しでも伝わる物理無効の感触。悪魔の素材だ。
「六枚羽はどうした」
「逃げた。自滅だな。城に向かっている最中だが追えるか?」
俺は立ち上がると王城の方を見やる。六枚羽が白の翼だけになって飛翔している。それもだいぶ弱っているようだ。
あの一番下にあった。灰色の羽がない。あれが相棒の一撃を防いだところまでは憶えているが、あれがなぜ俺のマントになっているんだ? しかも悪魔のマントか。シノの言では物理無効の上に魔族の魔素も無効化できると聞いていたがそれが証明されたな。
色々と納得できない展開だが六枚羽から転じて皇女を逃がすわけには行かないな。
王城に辿り着いた皇女は遂に切り札を出してきた。王城が浮上し空に大きな魔方陣が現れる。遂に改変魔法がやって来たか。
王城が魔方陣から何やらのエネルギーを接続されるとその形が変わっていく。前面に巨大な顔が浮き出し王城の側面に車輪が現れる。これは牛車か。馬車のような四輪ではなく左右の二輪だ。
「皇帝・・・」
シノの呟きがそいつの正体を確定した。これが人間側のネームド皇帝か。
いやそんなわけあるか。
俺はもうガチギレで吠える寸前の相棒と盾を解放する。チート合戦でそんなクソ長ムービーを暢気に見ているわけがないだろう。多頭になった相棒がその体に噛みついていく。出しゃばりの方も攻勢に出ているようだ。動けない状態なら物理戦などせず同時に精神攻撃で消滅させるパターンか。
正直えげつないな。折角変形した所が多頭の相棒によって消滅させられる。この魔方陣からの供給も血が溢れる出るような勢いで供給ではなく引きずり出されているのだろう。魔方陣の向こう側にも皇帝が居てそれがガラス窓に顔面を押し付けているような塩梅だ。こちら側の皇帝を相棒が固定し逃げ出させなくなったところを出しゃばりが軒並み引きずり出している。向こう側の皇帝も顔面がひしゃげ血の海に沈んでいるようだ。それが遂に破裂し魔方陣から大量の血液が流れ出してくる。その全てがこちらが側に引きずり出されると魔方陣が消滅した。
こちら側の皇帝はいわば現身。すでに消滅している。そこに本体の皇帝の残骸が横たわっている状態だ。皇女はそれを呆然とした面持ちで見つめていた。既に白い翼はない。加護も失った。それでも浮いているのは世界の改変を行ったからだろう。俺はそれを禁じる。背を向けて逃げ出そうとする皇女の首を俺の牙が捉えた。
黒い鳥の羽で飛び回る皇女と数だけは多い加護魔族。数が揃うとあの幼稚な隠蔽無し魔法も脅威になる。シノが巨大髑髏を顕現させ数を減らしてはいるがそれを皇女が妨害していくる形だ。
完全に劣勢だな。単純に数の差が大きい。こちらは戦力が整っていない上にあちらは加護持ちに改良された魔族が続々と量産されてくる。
最初この荒れ果てた城下町を見て楽勝だと思っていたが加護持ち魔族が出てくるわ出てくるわ。引き際を見誤ったか、と思った所に皇女の参戦だ。高度を取って魔剣を放ってくる。変に魔法でないぶん迎撃は出来るのだが、地上の敵が多すぎて対処できてないのが現状だ。そこでシノの巨大髑髏で一掃という流れなのだが、王城から逐次戦力が追加されてくる。同じような規模の戦力投入から復活かとも思ったが死体の数は増えている。敵の戦力がわからない以上一掃するわけにもいかずじり貧という状態だ。
しかしコイツラはなんだ? 同じような服装で同じような武器を持って同じような行動をしている。そして奇妙なのがコイツラの加護だ。全てが同じ容量だ。人間で言えば普通の戦士クラス。それが寸分たがわず皆同じだ。その上異常に加護の回復が早い。減らしてもすぐに加護が元の状態に戻る。倒すには加護を抜く魔物武器か爪などが必要になるが、ランダムで魔素吸引の魔剣が居る。この見た目でその判別がつかないのも厄介だ。
これは明らかに神の加護ではないな。似ているが別の加護だ。となればそれを付与する存在はそこで飛んでいる皇女か。奴の加護も同じだ。聖女のような馬鹿げた出力はない。それにこいつの生み出す魔剣が魔族の持っているものと酷似している。こいつが加護と武器を供給している可能性は高い。
それともあの城の中か。その中に一定の加護を与える加護ジェネレーターが存在していてもおかしくはない。もしくはこの加護付き魔族を生み出している可能性まであるだろう。コイツラは何かがおかしい。世界の改変も疑ったが相棒も出しゃばりも反応がない所を見るにこの世界の内の力か。
そしてついにシノが崩れた。皇女の度重なる攻撃で遂に限界が来たのだろう。崩れていく巨大髑髏から落ちてくるシノに皇女が狙いを定める。だが想像していた惨劇は起きなかった。一発の銃声。それが全てを覆す。皇女の体に穴が開き落下していく。
狙撃オーガだ。この一瞬まで待っていたのか。もっと早くと言いたい所だがこの確実な一撃でなければ意味がないのだろうな。俺はシノを受け止め盾に格納する。魔法の抵抗が下がるが致し方なしか。敵地で動けないシノを野ざらしには出来ん。
幸い俺の予想は正しかったようだ。皇女の撃破と同時に魔族の加護が消失する。これでだいぶ楽になるが楽になり過ぎている。あまりにも上手くいきすぎだ。俺は落下していく皇女を見やるが・・・。
皇女の首が落ちた。命中したのは体だ。心臓を確実に射抜いている。その衝撃で首が落ちたと言えなくもないがそれならバラバラになっているはずだ。あれは・・・、皇女擬きか?
遂に真打登場か。白い翼をした皇女が光臨する。まさにそう表現するのが相応しい。王城から飛び出した白皇女の加護は絶大だ。その影響範囲内の魔族に加護を与えていく。聖女に比べれば劣るがそれでも神官三百人は下らないか。それでもこの状況下では十分だ。
つまり、俺達の負けだ。
俺達は大地の支配で遮蔽物を立てながら敗走する。この状況で髑髏部隊もなしに聖女クラスとは戦えない。黒皇女は完全に囮か。無双と見せかけて俺達を誘い込み完全に仕留める気か。先の遭遇戦を俺達が体験するという羽目だ。
白皇女が悠然と地に降りる。黒皇女の落下地点だ。
随分と余裕だが追撃は無しか。
などという楽観視は一瞬で打ち消された。その地点から羽が伸びる。黒い羽だ。そして空に飛び立った皇女はもう一対の羽を生やす。中心の白い翼に上下の中空に浮く羽。上に黒の羽、下に灰色の羽が生まれている。
計六枚の力を備えた人間の化け物が現れた。
名づけるなら六枚羽の皇女。完全にネームドだな。先の黒皇女を囮にして力を出し切った所に全力か。
それにこいつは俺とシノを知っている。その視線が確実に俺を捉えていた。
六枚羽の射出する魔剣を捌きながら俺は囲まれているのを感じていた。戦闘に入ろうとしている俺と六枚羽を取り囲むように加護魔族が展開している。幸いなのは魔法を使ってこないことだ。その莫大な加護のせいで魔法が使えないのだろう。正確には減衰か。だが聖女戦の神官の森のように加護の籠が出来つつある。俺が皇女と交戦している分味方の後退は確実だ。閉じようとしている加護の籠を閉じないように動いてくれるのもいる。だが援護は望めないだろう。自力でそこまで下がるしかない。
しかし単純に強い。魔族に加護が行き渡るように地上で戦っているのが唯一の救いか。それに俺を下がらせないように近接も仕込んでくる。射出される魔剣と違ってレイピア状の刺突剣を縦横無尽に繰り出してくる。しかもそれは魔素吸引だ。確実に取る一撃ではなくとも掠るだけでもそれ相応のダメージを受ける。反撃は出来るものの六枚羽の加護の厚さは聖女並みだ。それが黒皇女のように一瞬で回復してくる。加護を抜くなら脇差があるがそれでも魔素吸引レイピアとの打ち合いは無理だ。
流石に万事休すか。聖女戦のようにシノを取り込む選択肢もあるがこの状況ではとてもではないが使えない。その焦りが更に俺を追い込む。そこに六枚羽のレイピアが迫る。
それが俺の首を捉えた時、ガシーンという金属音と共に六枚羽のレイピアが弾かれた。
これは鎧。盾の鎧だ。それが顕現していく。世界の改変ではない。これは、加護の鎧が俺を拒否しない。どういうことだ?
俺の中に聖女の力を感じる。その特性が加護の鎧を世界の改変なしで使えるようにしているのか。
アリエス。無事だったか。
歓喜の気配が俺の内から漏れてくる。これなら帰ってくるのは時間の問題だな。俺は白金の鎧に身を包まれながら信仰を感じていた。現金なものだ。たったそれだけでもこの絶望下で力が湧いてくる。
「これは神の手先か?」
シノか。ようやく目覚めたようだな。
「ああ。アリエスがもうすぐ帰ってくるようだ」
「ほう。それでこの力か。取り合えず魔素を充てんするぞ。魔族の魔素だ。出力が上がっている。使うときは気を付けろ」
「了解」
盾とリンクした俺はブーストを起動する。これでだいぶ楽になるはずだ。相棒も聖剣の姿を取っている。だがまだ何かある様だ。聖剣である相棒ともリンクが繋げる。加護の刃が出現した。それもこれはかなり巨大にできる。鎧ともリンクを繋げると透明な加護の膜が展開する。これが本来の人間のネームドが持っていた時の性能か。
俺はブーストを使って加護の籠の先端に突撃する。この剣の加護の刃は加護を透過できる。つまり、この即回復する重厚な加護を抜いて魔族の肉体に直接攻撃できる。成功だ。これが人間なら効果がないが加護持ち魔族には効果覿面だ。そのまま包囲の円を削っていく。六枚羽がそれに気づいて魔族の加護を解くがそれは失敗だな。魔族が魔法を使えるがこちらの魔物の攻撃も通る。俺と逆の包囲の円の先端が崩壊しだした。だがそれは織り込み済みか。
魔族の動きが止まると共同魔法の発動が始まる。これはマズイ。これだけの数の魔族の共同魔法だ。生半可な威力ではないだろう。仮に六枚羽に肉薄しても発動前の撃破が必要だ。とてもではないが間に合わない。俺は少しでも魔族の数を減らしながら王城の方へ向かう。最悪こいつを盾にしよう。少なくとも味方を巻き込むことは少なくなる。
だが甘かったな。俺を座標にした共同魔法。それも味方の魔族も巻き込む気だ。
それならもう。お前にも付き合ってもらうほかないじゃないか。
俺は魔物に退避を疎通させると六枚羽に迫る。
さてこの魔法の威力は聖女仕様の聖なる武具を相手にどこまで有効なのか見せてもらおうか。お前の体と一緒にな。
苦し紛れの俺の一撃が六枚羽の加護を抜いて黒の羽を切り裂く。そこは効くのか。俺は間合いを取って加護の刃部分だけで黒の羽を切り裂いていく。魔法が止まるわけではないがその後の追撃には影響が出るだろう。
これがゲームだったら破壊したら激長ダウンなんだろうが、それは見込めそうにないな。黒い羽が消えても魔法が止まらない。それ以外の場所は加護の刃では傷つけられないか。俺は相棒で加護に切りつける。
「シノ、逃げなくていいのか?」
「お前のいない世界のどこに私の居場所がある。それよりも一瞬だ。一瞬だけその加護を抜ける穴を開けられる。使うか?」
「ああ。少しでも可能性は上げておこう」
俺は剣戟を収めてシノの魔法のタイミングに合わせる。幾重にも重なる魔法の筒を発動のタイミングとともに相棒が抜けていく。六枚羽にその剣先が届いたときに感じたのはあの物理無効の感覚だった。
どうなった?
俺は意識を失っていたようだが五体満足だ。鎧も解けていない。
「王牙!」
「シノ。無事か」
「ようやく気付いたか。私は無事だ。それよりもこれはお前がやっているのか?」
これとはなんだ? やけに暗いと思っていたがこれは何かに包まれているのか。俺がそれを払いのけるとバサッとそれが音を立てる。これはマントか。灰色のマントが俺の首元からかけられている。
こんなものを顕現したか? だがこの手触りには覚えがある。鎧越しでも伝わる物理無効の感触。悪魔の素材だ。
「六枚羽はどうした」
「逃げた。自滅だな。城に向かっている最中だが追えるか?」
俺は立ち上がると王城の方を見やる。六枚羽が白の翼だけになって飛翔している。それもだいぶ弱っているようだ。
あの一番下にあった。灰色の羽がない。あれが相棒の一撃を防いだところまでは憶えているが、あれがなぜ俺のマントになっているんだ? しかも悪魔のマントか。シノの言では物理無効の上に魔族の魔素も無効化できると聞いていたがそれが証明されたな。
色々と納得できない展開だが六枚羽から転じて皇女を逃がすわけには行かないな。
王城に辿り着いた皇女は遂に切り札を出してきた。王城が浮上し空に大きな魔方陣が現れる。遂に改変魔法がやって来たか。
王城が魔方陣から何やらのエネルギーを接続されるとその形が変わっていく。前面に巨大な顔が浮き出し王城の側面に車輪が現れる。これは牛車か。馬車のような四輪ではなく左右の二輪だ。
「皇帝・・・」
シノの呟きがそいつの正体を確定した。これが人間側のネームド皇帝か。
いやそんなわけあるか。
俺はもうガチギレで吠える寸前の相棒と盾を解放する。チート合戦でそんなクソ長ムービーを暢気に見ているわけがないだろう。多頭になった相棒がその体に噛みついていく。出しゃばりの方も攻勢に出ているようだ。動けない状態なら物理戦などせず同時に精神攻撃で消滅させるパターンか。
正直えげつないな。折角変形した所が多頭の相棒によって消滅させられる。この魔方陣からの供給も血が溢れる出るような勢いで供給ではなく引きずり出されているのだろう。魔方陣の向こう側にも皇帝が居てそれがガラス窓に顔面を押し付けているような塩梅だ。こちら側の皇帝を相棒が固定し逃げ出させなくなったところを出しゃばりが軒並み引きずり出している。向こう側の皇帝も顔面がひしゃげ血の海に沈んでいるようだ。それが遂に破裂し魔方陣から大量の血液が流れ出してくる。その全てがこちらが側に引きずり出されると魔方陣が消滅した。
こちら側の皇帝はいわば現身。すでに消滅している。そこに本体の皇帝の残骸が横たわっている状態だ。皇女はそれを呆然とした面持ちで見つめていた。既に白い翼はない。加護も失った。それでも浮いているのは世界の改変を行ったからだろう。俺はそれを禁じる。背を向けて逃げ出そうとする皇女の首を俺の牙が捉えた。
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主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
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