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第一章 四天王戦編
第一話 TKG
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アナタはアイドルと一緒に「シャワーに入ったこと」がありますか?……俺はある。
「俺」、二十五歳、某企業の時給制契約社員、アイドルオタク。
今推しているのは国民的アイドルグループ『あいどる24【トゥエンティフォー】』。
コンサートを開けば二日間で十六万人、毎回各ドームを満員にするお化けグループ。
個性豊かなメンバー達もトークにドラマにひっぱりだこで、テレビをつければ彼女たちを見ない日はないってくらいの人気者。
一応あいどる24は箱推しだが、あえて一人を推すのなら……初期生筆頭の『新堂アイカ』かな。
「お前ら、盛り上がる準備はできてるんだろうなー!行くぞー!」
……ドームでのこのセリフ、本当痺れたなぁ。
あんなにかわいくて笑顔が印象的なアイドル、好きになるに決まってるよね?
……ところで今俺はとんでもないところにいる、異世界だ。
自宅で大好きなMMORPG『GUILTYorNOTGUILTY ONLINE』略して『ギルギル』をやっていて、寝落ちして、気がついたらここだった。
なぜ異世界だとわかるのか?
それは今いる場所が、ゲームで寝落ちした場所そのままだから。
確かこの先に神殿があるはず……ほらあった。
でも不思議とあんまり驚いてはいない、だって最近のラノベとかでもよくあることでしょ?
……いや、最初はそりゃさすがに多少はビビりましたよ、えービビり散らかしましたですとも。
起きたら知らない場所だし、おっかなそうな盗賊風の人たちにも囲まれていたしね。
「へっへっへっへ……」
「お前、『転移者』か?」
「フヒヒヒヒ……丁度良かったぜ、あと一回で『奴隷位』に落ちちまうとこだったんだ。こいつに貰ってもらおう」
いきなり襲われそうになって、もう駄目だと思ったら、急に空からでっかいドラゴンが降りてきた!
ドラゴンだよ、ド・ラ・ゴ・ン!異世界すげー!
ドラゴンは俺をかばうように、俺と盗賊たちの間に入ってきた。
そしてその大きな眼で、盗賊と俺をまるで値踏みするかのように睨みつける……
「し、『神魔』じゃねぇか……なんでこんなところに」
『神魔』……聞いたことがある。確かこの世界を支えていると言われている『四支神』の内の一柱。
緋色の鱗を全身に纏い、口には絶えず灼熱の炎が燻っている。
炎を司る竜の神にして、伝説級のモンスター、その名前が『神魔』……近くにいるだけでまるでサウナだ。
「どうやら『転移者』のようだな……エンチャントはかけてやる、自分の身は自分で守れ」
き、厳しすぎない?でもこのドラゴンにかけてもらったエンチャント……バフ?的なものだと思うんだけど、防御力が上がりすぎて、盗賊風の人たちの攻撃が全然当たらない。
「くそっ、まさか神魔がこいつを手助けするとは……」
「……もういいだろう。目障りだ、このオレに『消し炭』にされたくなかったら、早々にこの場から立ち去れ!」
ドラゴンの一喝のような咆哮!物凄い熱風が巻き起こり、盗賊たちは後ずさり……まるで『歩く核融合炉』だ。
……当然、盗賊風の人たちは全員ビビって逃げて行った。助けてもらっちゃった……のかな?
その後、俺はそのドラゴンと数日一緒にいることになった。食べ物とかは全部そのドラゴンが用意してくれた。
あんなにおっかない顔してるのに……案外世話好きなんだな。その時に色んなことを教えてもらった。
この世界のことわりや、俺が転移者ということ、そのドラゴンの正体や秘密も……
そうそう、転移者には特別なチート能力が二つあるということも教えてもらった。まあ、異世界転移系なら当然あるあるだよね。そうだよね?
1つは『アナライズ』。
対象の名前・性別はもちろん、HPや力などの各ステータス、もっとすごいのは、今考えていることが見えてしまうという優れもの!
対象の目の前にコマンドがポップアップする仕組みだ。
いや~これ現実世界で欲しいな~、だってそうでしょう?相手がもし俺のことが好きだったら、
『俺のことが好き』って見えちゃうんだよ?最高かよ!
もう1つの能力は『オルタナティブドア』。
とりあえずこの場に『ドア』を出すことができる能力なんだけど……今のとこその効果は秘密かな?後でのお楽しみ。
俺は自分で自分にアナライズをかけてみた。
「俺」「男性」「レベル99」「基本属性 炎」
「HP550」「MP600」「腕力150」「脚力135」「防御力350」「機動力380」「魔力450」「癒力200」「運300」「視力1.0」
あーこれあれだね、ゲームをやってた時のレベルそのままなんだねー
確かゲームの中のファルセイン王国最強のパラディンがレベル八十ぐらいだったはずだから、俺のレベルはかなりのもんだと思う。
なんだよ、盗賊ぐらい自分の力で一蹴できたんじゃん?
色々あってその神魔ってやつと友達になったんだけど、
色々あってその神魔ってやつを、俺は殺してしまった。
だいぶ「はしょっちゃった」けど、話すと長くなるからこの話はまた今度に。
とにかく俺は、この神魔を殺してしまったことで『支神殺し』の罪と『ギガンティックマスター』という称号を手に入れた。
ついでに『神魔の角』『神魔の爪』『神魔の鱗』という激レアアイテムと、結構なお金も手に入った。
そうそう、この『ギルギル』ってゲームの最大の特徴はこの『罪システム』。
この世界の人間は、犯した罪を戦闘で負かせた相手に擦り付けることができる。
つまり『弱者=罪人』という、なんとも理不尽なシステムだ。
最初俺がこの世界に来た時にいた盗賊風のやつらも、恐らく俺に自分の罪を擦り付けようとしていたのだろう。
異世界に来たばっかりで、右も左もわからない状態の俺なんて、盗賊風のやつらからしたら絶好のカモだっただろうからね。
俺の持ってる『支神殺しの罪』……たぶんこれ相当重い罪だと思うんだけど、通常なら『奴隷位』になってもおかしくないはず……
なんで大丈夫なんだろう?なんか特別な条件とかがあるのかな?まあ、何でもないからとりあえず気にしないでおこう……うん。
俺はここから降りて町へ向かうことにした。
上から見下ろして、近くに町があるのはわかっていたから。
訪れたのは『王国ファルセイン』の城下町。
新規のプレイヤーが一番最初に降り立つ「はじまりの町」だ。
*****
俺がわかる範囲でのこのゲームの設定と、数時間見て回ったこの町の詳細を列挙してみる。
①国の通貨は『セイン』。
②文明は現実世界の中世よりちょっと進んでるくらい
③魔法が常用的に使われている(洗濯や料理などにも)
④料理はまずくはないが全体的に薄味。
⑤これが一番重要なのだが、どうやら現実世界の人間がそのままこの世界にも存在しているらしい。
学生時代の同級生や先生、近所のおばさんや親せきもいた。
テレビで見たアナウンサーや偉そうな政治家、外国人顔の人も結構歩いてる……
ただ、生まれや育ってきた環境が違うせいか、性格や職業なんかは実際とは異なっていた。
現実世界で知ってる人と話してみたけど、俺の事はわからないと言っていた。
んーこれって探せば『あいどる24』のメンバーもどっかにいるってことなのかな?
いいねー、異世界で俺だけのあいどる24を作る……そして一緒に冒険。うん、これを目標にしよう。
そして、たった今もう一つの目的もできた……
目の前を通った馬車に乗ってたのは……奴隷だ、しかも若い女性ばかり。
さっきも言ったけどこの世界の『罪システム』のせいで、特に若い女性は狙われやすいようだ。
罪を擦り付けるには相手に戦闘で勝利しなければならない、これが大前提。
若い男性やおっさんおばさんクラスだと、人数によっては負ける可能性がある。
老人ならと思うけど、意外に魔法を研鑽してきている人が多くリスクが高い。
そこで一番狙われやすいのが子供と若い女性。
特に女性の奴隷となると汎用性が高く、性奴隷や毒物の実験用など幅広い。
勝負で負けて罪が加算され一定の重さになると、どんな人間であっても自動的に位が『奴隷』に落ちてしまう。
位が奴隷に落ちると、名前を剥奪され、より位が高い者の命令に逆らいづらくなってしまう。
これは由々しき問題だ、何とかしなければならない。
こういう問題は現実世界でもあった。
女性に生まれたというだけで仕事も勉強もさせてもらえず、遺産の相続権すらない国などもある。
現実世界では俺は何もできなかった……この世界なら少しは役に立てるかも。
もちろんすべての女性奴隷を救うなんてことはできないだろう。
でも、せめて、目の前で苦しんでいる人だけでも救えるなら……
そう考えながら俺はさっきの奴隷を乗せた馬車が止まった『奴隷市場』へ入っていった。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは『いかにも』な風貌のこの店の店主。
「この店がどういう店かはご承知ですか?」
俺は小さくうなずいた。
副音声で(金持ってるんだろうな)って聞こえた気がした。
俺は持っていた袋を開けて見せた……中にはセイン銀貨が百枚ほど。
「ベリーグットでございます。ささ、こちらへどうぞ」
俺は案内されるがまま、店主の後についていった。
……そこは俺の想像をはるかに超えた場所だった。
狭い檻の中にいろんな奴隷がいた。
泣いているもの、笑っているもの……不衛生極まりない上にひどい匂い、外の方が数倍暖かい。
俺がこんなところに放り込まれたら、数分で発狂するだろう。
俺は少し後悔しつつ、店主の話を聞く。
「どういった奴隷をお探しで?性奴隷・労働奴隷・人体実験用・戦闘用、色々取り揃えております」
今回はあきらめようかと思ったその時―
「あ、あれ?」
俺の足が勝手に動く?まるで糸に引っ張られるかのように。
そして一人の女性奴隷の檻の前で止まった。
「おお旦那様、お目が高い」
その女性は牢屋の奥で鎖につながれていた……
髪の毛はボサボサ、肌は汚れで真っ黒、藁を巻いただけのような服、そして死人のような目……
でも俺は一目でわかった、『新堂アイカ』だ。
「意外に早く出会えたな」……
俺は声に出しちゃってた。
「この奴隷は戦災孤児でして、戦争で焼け野原になった村で一人だけ生き残っておりました。
ここに連れてきてからも全く言うことを聞かないわ、暴れるわで、一週間飯抜きにしてあります」
「この娘をもらう」
「そうですか、お買い上げありがとうございます。お値段の方ですが、元はいいので少々値は張りますが……」
俺は店主にアナライズをかけてみた
「名前アリソン」「男性」「レベル25」「基本属性 地」
「HP210」「MP100」「腕力60」「脚力80」「防御力45」「機動力110」「魔力45」「癒力30」「運60」「視力0.5」
(相場は十枚だが、この客見た目世間知らずのようだから少し吹っ掛けてみるか……)
「一応セイン銀貨三十枚となっております」
……大分吹っ掛けたね、そんなに俺って世間知らずに見えるのか。
俺は店主に近づき、耳元で小声で話した。
「俺はこれからもこの店で奴隷達を買うことになるだろう……長い付き合いになると思うし今後の事も考えて、仲良くしておいた方がいいと思うのだが……どうだろう?」
「ほ、ほほほほ……、なるほど、そういうことでしたら勉強させていただきます……ん~ではセイン銀貨十枚でどうでしょう?」
「うん、それで購入しよう、これからもよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそでございます」
違う部屋に移り、支払いを済ませ、契約書を交わす。
「こちらの契約書に書いてある通りに詠唱していただければ契約完了となります」
その契約書に書いてあったのは、相手を隷属させる『奴隷紋』の詠唱だった。
「我が名において命ずる、汝に名を与え我に隷属せよ、汝が名は『アイカ』」
アイカの首から鎖骨あたりに奴隷の証である紋章が浮かび上がる。
「これで契約完了となります。この奴隷紋があれば、旦那様の命令に背いたり、一定の距離離れると、電流と痛みが走ります」
……ひどい魔法だ。さらに離れると死に至ることもあるという。
「この度はご契約ありがとうございました、またのお越しをお待ちいたしております」
深々と頭を下げる店主をしり目に、俺とアイカは店を出た。店を出た直後、俺はアイカに話しかける。
「アイカ、聞いてほしい。
俺はお前をお金で買ったが、奴隷扱いするつもりはない。
数日だけ様子を見てほしい、その後必ず『奴隷紋』は外すから」
アイカはキョトン顔。
「その後自由になりたかったら好きに逃げてもいい。
でももしいてくれるのなら、俺とパーティを組んで一緒にこの世界を冒険してほしい」
アイカはさらにキョトン顔。
「どうだろう……?」
アイカはキョトン顔から少し笑顔になって、
「わかりました、ご主人様の言う通りにします」
「ご主人様か……そう呼ばれるのはなんか嫌だなぁ」
「では、なんとお呼びすればよろしいですか?」
「マスターでいいよ。俺の称号も『ギガンティックマスター』だからね」
「わかりました、これからはマスターとお呼びいたします」
さてと、まずはアイカの見た目とご飯を何とかしないと……この服装だと俺の目のやり場も困る。
「そうだな……とりあえず俺の部屋に行こうか。びっくりしないでね」
そう言って俺はアイカを人通りの少ない店の裏側へ連れて行った。
「オルタナティブドア!」
はいここで登場、もう一つのチート能力。
俺は店の壁にドアを出現させ、ドアを開き、アイカとその扉の向こうへ行く。
その先は……そう、なんと俺の部屋。
『オルタナティブドア』その能力は、異世界と現実世界を繋ぐドアを出現させること。
俺がこの異世界に来てもあまり焦ってなかったのは、このドアがあったからかもしれない。
いつでも現実世界に戻ることができるからね。
アイカはびっくりした顔でキョロキョロ……そりゃあそういう反応になるわな。
「2DKでちょっと狭いけど、バストイレ別々でドアホン付きだよ」
と言ってもわかんないか、まあいいや。
「マスター、これは……?」
はっ、しまった忘れてた!今の俺の部屋は『あいどる24グッズ』だらけだった!
「ああー、それはバースデー記念ライブの時のタペストリーと記念タオル!」
「マスター、こちらの小さな女性たちは一体……?」
「そっちは『あいどる24 全国ドームツアー』の時の生写真と記念ストラップ!」
「あ……なんかすみませんマスター、勝手に触っちゃって……」
「あ、いやいや、いいんだ。今片づけるから。ハ・ハハハ……」
とりあえずアイドルグッズは押し入れにしまっておく。
「まずはシャワーに入って」
「シャワー……?」
「あそうか……えっとお風呂の事だよ、まずは髪と体をきれいにしよう」
「これ……どう使うのですか?」
「シャワー知らないんじゃ仕方ないか、じゃあ……」
そこまで言ったあと、俺はハッとした……これって俺が入れて上げなきゃいけないパターン?
俺の中の悪魔がささやく……
(入り方わからないんじゃ仕方ないじゃん?それにお金払って買った奴隷なんだし、ちょっとくらい裸見て、体なんかもちょっと触っちゃうくらい平気だって)
俺の中の天使がささやく……
(ダメだよ!俺の推しだよ!それにここで下心を出したら、もう一緒に冒険してくれなくなるかもしれないよ!)
……俺は葛藤の末、答えを導き出す。
そう、これは現実世界でも同じ!マスターという立場を利用してそういうことをするのはセクハラ!職権乱用!……意味不明。
俺は濡れてもいいようにパンイチになり、アイマスクの上からタオルを巻いて完全に視界を絶った。
お風呂場に入ってシャワーを出す、目隠ししててもこれぐらいはできる。
そして(おそらく)裸のアイカを椅子に座らせ、髪の毛からシャワーをかける。
シャンプー→リンスとつけて流す。
今度お高めのコンディショナーとか買っといたほうがいいな……
次は体。
さすがにここはまずいので、スポンジにボディシャンプーをつけて渡す。
「これを使って自分で体を洗って」
「きゃっ!」
「ああ、ゴゴメン!」
い、今俺はどこを触っちゃったんだろう……?
真っ暗でわからない、ドキドキ……
ゴシゴシ音が聞こえる、ちゃんと洗えてるようだ。
最後にシャワーで全身を流して終了。
お風呂場を出てバスタオルを渡す
「これで体をふいて。買ったばかりの新品だから安心して」
よし、俺は自分の欲望に勝利した。何とも言えない充実感が俺を包む……
とりあえずアイカには俺の服を着ててもらう。
……ブカブカで『彼氏の服を着た彼女感』がありすぎて照れる。
うんさすがはアイドル、お風呂入って服着ただけでもうカワイイ。オーラが違う、お肌真っ白。
「おっとご飯だね、さっそく冷蔵庫を……」
無い!何も無い!発泡酒とタマゴしかない!
まあ、二十五歳独身の一人暮らしなんてこんなもんですよ。
「今から買いに行ってもいいんだけど、腹減ってるよね?んーしょうがない、あれだな」
俺は一応炊いてあった白飯を茶碗に入れて、真ん中に穴をあけた。
そしておもむろにそこへ生卵を割って落とす。
うま味調味料をかけ、醬油も入れ、混ぜる。
「完成だ、これがTKG……卵かけご飯だ!」
「T……KG?」
「そう、TKG。まあ食べてみてよ」
「はい」
たぶんお箸は使えないだろうから、俺はスプーンとTKGを渡した。
「いいかい、本来生卵は、サルモネラ菌がいっぱいで火を通さないと食べられないんだ。でもここ日本と一部の国だけは十分な殺菌の基準をクリアしているから生でも……」
……と、俺が偉そうに講釈をたれていたら、え?アイカ?泣いてる?
「ど、どうしたの?どっか痛むのか?」
「マスター……美味しいです。こんなに美味しいもの生まれて初めて食べました」
あらら……推しのアイドルに感激して泣かれちゃったよ、すごいなTKG。
そういえば奴隷市場の店主が、一週間飯抜きにしているって言ってたっけ。
昔ご飯を一食抜いただけで「地獄だー」と言っていた自分が恥ずかしい……
「アイカ、食べながらでいいから聞いてくれ。
俺は今後もお前のような女性の奴隷を救いたい、そしてこの奴隷制度そのものをいつの日か無くしたい。協力してくれるか?」
「はい!」
アイカが大きくうなずく。
明日はとりあえずアイカのレベリングだな。
☆今回の成果
初期生 アイカ(レベル7)が仲間に
「俺」、二十五歳、某企業の時給制契約社員、アイドルオタク。
今推しているのは国民的アイドルグループ『あいどる24【トゥエンティフォー】』。
コンサートを開けば二日間で十六万人、毎回各ドームを満員にするお化けグループ。
個性豊かなメンバー達もトークにドラマにひっぱりだこで、テレビをつければ彼女たちを見ない日はないってくらいの人気者。
一応あいどる24は箱推しだが、あえて一人を推すのなら……初期生筆頭の『新堂アイカ』かな。
「お前ら、盛り上がる準備はできてるんだろうなー!行くぞー!」
……ドームでのこのセリフ、本当痺れたなぁ。
あんなにかわいくて笑顔が印象的なアイドル、好きになるに決まってるよね?
……ところで今俺はとんでもないところにいる、異世界だ。
自宅で大好きなMMORPG『GUILTYorNOTGUILTY ONLINE』略して『ギルギル』をやっていて、寝落ちして、気がついたらここだった。
なぜ異世界だとわかるのか?
それは今いる場所が、ゲームで寝落ちした場所そのままだから。
確かこの先に神殿があるはず……ほらあった。
でも不思議とあんまり驚いてはいない、だって最近のラノベとかでもよくあることでしょ?
……いや、最初はそりゃさすがに多少はビビりましたよ、えービビり散らかしましたですとも。
起きたら知らない場所だし、おっかなそうな盗賊風の人たちにも囲まれていたしね。
「へっへっへっへ……」
「お前、『転移者』か?」
「フヒヒヒヒ……丁度良かったぜ、あと一回で『奴隷位』に落ちちまうとこだったんだ。こいつに貰ってもらおう」
いきなり襲われそうになって、もう駄目だと思ったら、急に空からでっかいドラゴンが降りてきた!
ドラゴンだよ、ド・ラ・ゴ・ン!異世界すげー!
ドラゴンは俺をかばうように、俺と盗賊たちの間に入ってきた。
そしてその大きな眼で、盗賊と俺をまるで値踏みするかのように睨みつける……
「し、『神魔』じゃねぇか……なんでこんなところに」
『神魔』……聞いたことがある。確かこの世界を支えていると言われている『四支神』の内の一柱。
緋色の鱗を全身に纏い、口には絶えず灼熱の炎が燻っている。
炎を司る竜の神にして、伝説級のモンスター、その名前が『神魔』……近くにいるだけでまるでサウナだ。
「どうやら『転移者』のようだな……エンチャントはかけてやる、自分の身は自分で守れ」
き、厳しすぎない?でもこのドラゴンにかけてもらったエンチャント……バフ?的なものだと思うんだけど、防御力が上がりすぎて、盗賊風の人たちの攻撃が全然当たらない。
「くそっ、まさか神魔がこいつを手助けするとは……」
「……もういいだろう。目障りだ、このオレに『消し炭』にされたくなかったら、早々にこの場から立ち去れ!」
ドラゴンの一喝のような咆哮!物凄い熱風が巻き起こり、盗賊たちは後ずさり……まるで『歩く核融合炉』だ。
……当然、盗賊風の人たちは全員ビビって逃げて行った。助けてもらっちゃった……のかな?
その後、俺はそのドラゴンと数日一緒にいることになった。食べ物とかは全部そのドラゴンが用意してくれた。
あんなにおっかない顔してるのに……案外世話好きなんだな。その時に色んなことを教えてもらった。
この世界のことわりや、俺が転移者ということ、そのドラゴンの正体や秘密も……
そうそう、転移者には特別なチート能力が二つあるということも教えてもらった。まあ、異世界転移系なら当然あるあるだよね。そうだよね?
1つは『アナライズ』。
対象の名前・性別はもちろん、HPや力などの各ステータス、もっとすごいのは、今考えていることが見えてしまうという優れもの!
対象の目の前にコマンドがポップアップする仕組みだ。
いや~これ現実世界で欲しいな~、だってそうでしょう?相手がもし俺のことが好きだったら、
『俺のことが好き』って見えちゃうんだよ?最高かよ!
もう1つの能力は『オルタナティブドア』。
とりあえずこの場に『ドア』を出すことができる能力なんだけど……今のとこその効果は秘密かな?後でのお楽しみ。
俺は自分で自分にアナライズをかけてみた。
「俺」「男性」「レベル99」「基本属性 炎」
「HP550」「MP600」「腕力150」「脚力135」「防御力350」「機動力380」「魔力450」「癒力200」「運300」「視力1.0」
あーこれあれだね、ゲームをやってた時のレベルそのままなんだねー
確かゲームの中のファルセイン王国最強のパラディンがレベル八十ぐらいだったはずだから、俺のレベルはかなりのもんだと思う。
なんだよ、盗賊ぐらい自分の力で一蹴できたんじゃん?
色々あってその神魔ってやつと友達になったんだけど、
色々あってその神魔ってやつを、俺は殺してしまった。
だいぶ「はしょっちゃった」けど、話すと長くなるからこの話はまた今度に。
とにかく俺は、この神魔を殺してしまったことで『支神殺し』の罪と『ギガンティックマスター』という称号を手に入れた。
ついでに『神魔の角』『神魔の爪』『神魔の鱗』という激レアアイテムと、結構なお金も手に入った。
そうそう、この『ギルギル』ってゲームの最大の特徴はこの『罪システム』。
この世界の人間は、犯した罪を戦闘で負かせた相手に擦り付けることができる。
つまり『弱者=罪人』という、なんとも理不尽なシステムだ。
最初俺がこの世界に来た時にいた盗賊風のやつらも、恐らく俺に自分の罪を擦り付けようとしていたのだろう。
異世界に来たばっかりで、右も左もわからない状態の俺なんて、盗賊風のやつらからしたら絶好のカモだっただろうからね。
俺の持ってる『支神殺しの罪』……たぶんこれ相当重い罪だと思うんだけど、通常なら『奴隷位』になってもおかしくないはず……
なんで大丈夫なんだろう?なんか特別な条件とかがあるのかな?まあ、何でもないからとりあえず気にしないでおこう……うん。
俺はここから降りて町へ向かうことにした。
上から見下ろして、近くに町があるのはわかっていたから。
訪れたのは『王国ファルセイン』の城下町。
新規のプレイヤーが一番最初に降り立つ「はじまりの町」だ。
*****
俺がわかる範囲でのこのゲームの設定と、数時間見て回ったこの町の詳細を列挙してみる。
①国の通貨は『セイン』。
②文明は現実世界の中世よりちょっと進んでるくらい
③魔法が常用的に使われている(洗濯や料理などにも)
④料理はまずくはないが全体的に薄味。
⑤これが一番重要なのだが、どうやら現実世界の人間がそのままこの世界にも存在しているらしい。
学生時代の同級生や先生、近所のおばさんや親せきもいた。
テレビで見たアナウンサーや偉そうな政治家、外国人顔の人も結構歩いてる……
ただ、生まれや育ってきた環境が違うせいか、性格や職業なんかは実際とは異なっていた。
現実世界で知ってる人と話してみたけど、俺の事はわからないと言っていた。
んーこれって探せば『あいどる24』のメンバーもどっかにいるってことなのかな?
いいねー、異世界で俺だけのあいどる24を作る……そして一緒に冒険。うん、これを目標にしよう。
そして、たった今もう一つの目的もできた……
目の前を通った馬車に乗ってたのは……奴隷だ、しかも若い女性ばかり。
さっきも言ったけどこの世界の『罪システム』のせいで、特に若い女性は狙われやすいようだ。
罪を擦り付けるには相手に戦闘で勝利しなければならない、これが大前提。
若い男性やおっさんおばさんクラスだと、人数によっては負ける可能性がある。
老人ならと思うけど、意外に魔法を研鑽してきている人が多くリスクが高い。
そこで一番狙われやすいのが子供と若い女性。
特に女性の奴隷となると汎用性が高く、性奴隷や毒物の実験用など幅広い。
勝負で負けて罪が加算され一定の重さになると、どんな人間であっても自動的に位が『奴隷』に落ちてしまう。
位が奴隷に落ちると、名前を剥奪され、より位が高い者の命令に逆らいづらくなってしまう。
これは由々しき問題だ、何とかしなければならない。
こういう問題は現実世界でもあった。
女性に生まれたというだけで仕事も勉強もさせてもらえず、遺産の相続権すらない国などもある。
現実世界では俺は何もできなかった……この世界なら少しは役に立てるかも。
もちろんすべての女性奴隷を救うなんてことはできないだろう。
でも、せめて、目の前で苦しんでいる人だけでも救えるなら……
そう考えながら俺はさっきの奴隷を乗せた馬車が止まった『奴隷市場』へ入っていった。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは『いかにも』な風貌のこの店の店主。
「この店がどういう店かはご承知ですか?」
俺は小さくうなずいた。
副音声で(金持ってるんだろうな)って聞こえた気がした。
俺は持っていた袋を開けて見せた……中にはセイン銀貨が百枚ほど。
「ベリーグットでございます。ささ、こちらへどうぞ」
俺は案内されるがまま、店主の後についていった。
……そこは俺の想像をはるかに超えた場所だった。
狭い檻の中にいろんな奴隷がいた。
泣いているもの、笑っているもの……不衛生極まりない上にひどい匂い、外の方が数倍暖かい。
俺がこんなところに放り込まれたら、数分で発狂するだろう。
俺は少し後悔しつつ、店主の話を聞く。
「どういった奴隷をお探しで?性奴隷・労働奴隷・人体実験用・戦闘用、色々取り揃えております」
今回はあきらめようかと思ったその時―
「あ、あれ?」
俺の足が勝手に動く?まるで糸に引っ張られるかのように。
そして一人の女性奴隷の檻の前で止まった。
「おお旦那様、お目が高い」
その女性は牢屋の奥で鎖につながれていた……
髪の毛はボサボサ、肌は汚れで真っ黒、藁を巻いただけのような服、そして死人のような目……
でも俺は一目でわかった、『新堂アイカ』だ。
「意外に早く出会えたな」……
俺は声に出しちゃってた。
「この奴隷は戦災孤児でして、戦争で焼け野原になった村で一人だけ生き残っておりました。
ここに連れてきてからも全く言うことを聞かないわ、暴れるわで、一週間飯抜きにしてあります」
「この娘をもらう」
「そうですか、お買い上げありがとうございます。お値段の方ですが、元はいいので少々値は張りますが……」
俺は店主にアナライズをかけてみた
「名前アリソン」「男性」「レベル25」「基本属性 地」
「HP210」「MP100」「腕力60」「脚力80」「防御力45」「機動力110」「魔力45」「癒力30」「運60」「視力0.5」
(相場は十枚だが、この客見た目世間知らずのようだから少し吹っ掛けてみるか……)
「一応セイン銀貨三十枚となっております」
……大分吹っ掛けたね、そんなに俺って世間知らずに見えるのか。
俺は店主に近づき、耳元で小声で話した。
「俺はこれからもこの店で奴隷達を買うことになるだろう……長い付き合いになると思うし今後の事も考えて、仲良くしておいた方がいいと思うのだが……どうだろう?」
「ほ、ほほほほ……、なるほど、そういうことでしたら勉強させていただきます……ん~ではセイン銀貨十枚でどうでしょう?」
「うん、それで購入しよう、これからもよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそでございます」
違う部屋に移り、支払いを済ませ、契約書を交わす。
「こちらの契約書に書いてある通りに詠唱していただければ契約完了となります」
その契約書に書いてあったのは、相手を隷属させる『奴隷紋』の詠唱だった。
「我が名において命ずる、汝に名を与え我に隷属せよ、汝が名は『アイカ』」
アイカの首から鎖骨あたりに奴隷の証である紋章が浮かび上がる。
「これで契約完了となります。この奴隷紋があれば、旦那様の命令に背いたり、一定の距離離れると、電流と痛みが走ります」
……ひどい魔法だ。さらに離れると死に至ることもあるという。
「この度はご契約ありがとうございました、またのお越しをお待ちいたしております」
深々と頭を下げる店主をしり目に、俺とアイカは店を出た。店を出た直後、俺はアイカに話しかける。
「アイカ、聞いてほしい。
俺はお前をお金で買ったが、奴隷扱いするつもりはない。
数日だけ様子を見てほしい、その後必ず『奴隷紋』は外すから」
アイカはキョトン顔。
「その後自由になりたかったら好きに逃げてもいい。
でももしいてくれるのなら、俺とパーティを組んで一緒にこの世界を冒険してほしい」
アイカはさらにキョトン顔。
「どうだろう……?」
アイカはキョトン顔から少し笑顔になって、
「わかりました、ご主人様の言う通りにします」
「ご主人様か……そう呼ばれるのはなんか嫌だなぁ」
「では、なんとお呼びすればよろしいですか?」
「マスターでいいよ。俺の称号も『ギガンティックマスター』だからね」
「わかりました、これからはマスターとお呼びいたします」
さてと、まずはアイカの見た目とご飯を何とかしないと……この服装だと俺の目のやり場も困る。
「そうだな……とりあえず俺の部屋に行こうか。びっくりしないでね」
そう言って俺はアイカを人通りの少ない店の裏側へ連れて行った。
「オルタナティブドア!」
はいここで登場、もう一つのチート能力。
俺は店の壁にドアを出現させ、ドアを開き、アイカとその扉の向こうへ行く。
その先は……そう、なんと俺の部屋。
『オルタナティブドア』その能力は、異世界と現実世界を繋ぐドアを出現させること。
俺がこの異世界に来てもあまり焦ってなかったのは、このドアがあったからかもしれない。
いつでも現実世界に戻ることができるからね。
アイカはびっくりした顔でキョロキョロ……そりゃあそういう反応になるわな。
「2DKでちょっと狭いけど、バストイレ別々でドアホン付きだよ」
と言ってもわかんないか、まあいいや。
「マスター、これは……?」
はっ、しまった忘れてた!今の俺の部屋は『あいどる24グッズ』だらけだった!
「ああー、それはバースデー記念ライブの時のタペストリーと記念タオル!」
「マスター、こちらの小さな女性たちは一体……?」
「そっちは『あいどる24 全国ドームツアー』の時の生写真と記念ストラップ!」
「あ……なんかすみませんマスター、勝手に触っちゃって……」
「あ、いやいや、いいんだ。今片づけるから。ハ・ハハハ……」
とりあえずアイドルグッズは押し入れにしまっておく。
「まずはシャワーに入って」
「シャワー……?」
「あそうか……えっとお風呂の事だよ、まずは髪と体をきれいにしよう」
「これ……どう使うのですか?」
「シャワー知らないんじゃ仕方ないか、じゃあ……」
そこまで言ったあと、俺はハッとした……これって俺が入れて上げなきゃいけないパターン?
俺の中の悪魔がささやく……
(入り方わからないんじゃ仕方ないじゃん?それにお金払って買った奴隷なんだし、ちょっとくらい裸見て、体なんかもちょっと触っちゃうくらい平気だって)
俺の中の天使がささやく……
(ダメだよ!俺の推しだよ!それにここで下心を出したら、もう一緒に冒険してくれなくなるかもしれないよ!)
……俺は葛藤の末、答えを導き出す。
そう、これは現実世界でも同じ!マスターという立場を利用してそういうことをするのはセクハラ!職権乱用!……意味不明。
俺は濡れてもいいようにパンイチになり、アイマスクの上からタオルを巻いて完全に視界を絶った。
お風呂場に入ってシャワーを出す、目隠ししててもこれぐらいはできる。
そして(おそらく)裸のアイカを椅子に座らせ、髪の毛からシャワーをかける。
シャンプー→リンスとつけて流す。
今度お高めのコンディショナーとか買っといたほうがいいな……
次は体。
さすがにここはまずいので、スポンジにボディシャンプーをつけて渡す。
「これを使って自分で体を洗って」
「きゃっ!」
「ああ、ゴゴメン!」
い、今俺はどこを触っちゃったんだろう……?
真っ暗でわからない、ドキドキ……
ゴシゴシ音が聞こえる、ちゃんと洗えてるようだ。
最後にシャワーで全身を流して終了。
お風呂場を出てバスタオルを渡す
「これで体をふいて。買ったばかりの新品だから安心して」
よし、俺は自分の欲望に勝利した。何とも言えない充実感が俺を包む……
とりあえずアイカには俺の服を着ててもらう。
……ブカブカで『彼氏の服を着た彼女感』がありすぎて照れる。
うんさすがはアイドル、お風呂入って服着ただけでもうカワイイ。オーラが違う、お肌真っ白。
「おっとご飯だね、さっそく冷蔵庫を……」
無い!何も無い!発泡酒とタマゴしかない!
まあ、二十五歳独身の一人暮らしなんてこんなもんですよ。
「今から買いに行ってもいいんだけど、腹減ってるよね?んーしょうがない、あれだな」
俺は一応炊いてあった白飯を茶碗に入れて、真ん中に穴をあけた。
そしておもむろにそこへ生卵を割って落とす。
うま味調味料をかけ、醬油も入れ、混ぜる。
「完成だ、これがTKG……卵かけご飯だ!」
「T……KG?」
「そう、TKG。まあ食べてみてよ」
「はい」
たぶんお箸は使えないだろうから、俺はスプーンとTKGを渡した。
「いいかい、本来生卵は、サルモネラ菌がいっぱいで火を通さないと食べられないんだ。でもここ日本と一部の国だけは十分な殺菌の基準をクリアしているから生でも……」
……と、俺が偉そうに講釈をたれていたら、え?アイカ?泣いてる?
「ど、どうしたの?どっか痛むのか?」
「マスター……美味しいです。こんなに美味しいもの生まれて初めて食べました」
あらら……推しのアイドルに感激して泣かれちゃったよ、すごいなTKG。
そういえば奴隷市場の店主が、一週間飯抜きにしているって言ってたっけ。
昔ご飯を一食抜いただけで「地獄だー」と言っていた自分が恥ずかしい……
「アイカ、食べながらでいいから聞いてくれ。
俺は今後もお前のような女性の奴隷を救いたい、そしてこの奴隷制度そのものをいつの日か無くしたい。協力してくれるか?」
「はい!」
アイカが大きくうなずく。
明日はとりあえずアイカのレベリングだな。
☆今回の成果
初期生 アイカ(レベル7)が仲間に
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