異世界ムフフ滞在記 ~ポンコツでゲイの僕が異世界転移したら、魔法の才能に目覚めた上にイケオジ騎士と相思相愛に!?~

古木クー太

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3章

3-4 団長の秘密

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 その日の夜、僕は自室のベッドで今日の出来事をぼんやりと思いだしていた。団長とレオニダス先生のコンビの、あまりにも一方的な敗北。あの後、団長はひどく落ち込んでいるように見えた。レオニダス先生もどこか寂しそうな顔をしていた。あの二人は、いったいどうしちゃったんだろう……。

 そんなことを考えていた、その時だった。

 コン、コン。

 控えめなノックの音が部屋の扉から聞こえた。こんな夜更けに誰だろう? 首を傾げながら扉を開けた僕は、そこに立っていた人物を見て息を呑んだ。

「だ、団長!?」

 そこに立っていたのは、簡素なチュニック姿のゲオルク団長、その人だった。

「ど、どうされました? こんな時間に……」
「う、うむ……。その、な……」

 団長は、いつもの威厳はどこへやら、何かを言いよどんで視線を泳がせている。蝋燭ろうそくの光に照らされたその顔には深い疲労と、どこか決心のつかないような気まずさが浮かんでいた。

 ただ事ではない雰囲気を感じ取り、僕は慌てて口を開いた。

「と、とにかく、立ち話もなんですし、中へどうぞ!」

 僕の部屋はベッドと小さな机があるだけの殺風景なものだ。団長は部屋を見渡すと、勧められた椅子には座らず、立ったまま気まずそうに口を開いた。

「昼間は……すまなかったな」
「いえ、そんな! 僕はただ、びっくりしてしまって……。それにしても、セドリックさんは本当に恐れ知らずですね……」

 僕がそう言うと、団長はふっと苦笑いを浮かべた。

「まったく、あの男にはいつもしてやられる。口だけは達者だからな」

 その横顔は昼間の厳格な指揮官のそれとはまるで違う、悩める一人の男のものに見えた。

 しばらく気まずい沈黙が流れる。

 やがて、団長は意を決したように、僕を真っ直ぐに見据えた。

「……キューイチロー。君にしか、頼めないことがある」
「僕に、ですか?」
「ああ。これは騎士団の誰にも……特にレオニダスには知られたくない、儂個人の問題だ」

 団長は一度言葉を切ると、恥を忍ぶように、しかし切実な声で告白した。

「…………儂は長年、痔に苦しめられている」


「じ?」


 一瞬なんのことか分からなかったが、すぐにその意味を理解し、ほっと胸をなでおろした。

「なんだ……てっきり、僕、クビを告げられるのかと思いました」

 僕の間の抜けた一言に、団長の強張っていた顔が少しだけ緩んだ。

「君は癒しの水魔法が上達していると聞いている。すまないが、儂のこの……尻を、診てはくれんだろうか」
「ぼ、僕がですか!? 医者でもないのに……」
「他に頼れる者がいないんだ。……頼む」

 その声は騎士団長のそれではなく、ただ痛みに苦しむ一人の男の、悲痛な響きをしていた。その真剣な眼差しに、僕は断ることができなかった。

 * * *

「……では、失礼します」

 僕はゴクリと唾を飲み込み、団長に向き直った。団長は僕の提案通り、ベッドの上に上半身を伏せ、尻だけを高く突き出すというなんとも背徳的な姿勢をとっていた。

(うわあああ……! あの堅物のゲオルク団長が、今は僕の寝台の上で生尻を晒している……! ムフフフフ……)

 込み上げるみを必死にこらえる。蝋燭ろうそくの揺れる光が、あらわになった団長の臀部おしりを艶めかしく照らし出していた。そこには、日々の過酷な鍛錬によって磨き上げられた、見事な筋肉の塊があった。きゅっと引き締まった臀部おしりは、まるで彫刻のように美しい曲線を描いている。

(いかんいかん、僕は今、患者を診る医者(ド素人)なんだから!)

 僕は意を決して、その聖域に顔を近づけた。

 そして──息を呑んだ。そこに咲いていたのは、固く閉じられた菊の花ではなかった。

 赤黒く、いや、どす黒い紫色に腫れ上がった肉の塊が、肛門の周辺にいくつも無残に飛び出している。全体がじくじくと熱を持ち、粘膜はただれ、見るからに酷い炎症を起こしていた。見ているだけでジンジンとした痛みがこちらまで伝わってくるようだ。

「こ、これは……」

 あまりの惨状に言葉を失う。蝋燭ろうそくの頼りないともしびの中、僕は患部の状態をより詳しく見ようと、さらに顔をぐっと近づけた、まさにその時だった。

 バンッ!!!

 ノックもなく勢いよく部屋の扉が開け放たれた。

「よう後輩クン、昼間の模擬戦の件だが――」


 その瞬間、時が止まった。


 そこに立っていたのはセドリックさんだった。そして彼の後ろにはアルフレッドさん、ダグラスさん、そしてレオニダス先生の姿まである。

 部屋に乱入してきた四人と、ベッドの上で尻を突き出す団長と、そこに顔を埋めるようにしている僕。全員がカチンコチンに凍りついた。


 最初に沈黙を破ったのはセドリックさんだった。

「ヒュゥ」

 彼は楽しそうに口笛を吹くと、面白くてたまらないといった顔でニヤニヤしている。

「なっ……! だ、団長!? キューイチロー!? いったい何を……!」

 ダグラスさんが混乱で顔を真っ青にして絶句した。

「こ、これは違う! 断じて違うのだ!」

 団長が顔を真っ赤にして叫ぶが、その格好では何の説得力もない。

「あ、あの、えっと、これは、その……!」

 僕も必死に弁解しようとするが、言葉がしどろもどろになるだけだ。

 そんなカオスな状況の中、ただ一人、レオニダス先生だけが、静かだった。

 彼は無表情のまま、ゆっくりと口を開いた。

「フ……」

(え?)

「フフフ……」

(え、笑ってる?)

「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ!!」

 一同がぎょっとしてレオニダス先生を見る。その顔は穏やかな笑みを浮かべているのに、その目だけは全く笑っていなかった。

「ゲオルク……私のいないところで、見習いと……」

 先生の手のひらにゆらりと赤い炎が灯る。

「フフふフふふ、不倫なんて……」

 室内の温度が急激に上昇していくのを感じた。

「許しませんぞおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 次の瞬間、レオニダス先生の掲げた手のひらから業火がほとばしった。

 轟音。衝撃。熱風。


 キューイチローは めのまえが まっくらに なった!



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