異世界ムフフ滞在記 ~ポンコツでゲイの僕が異世界転移したら、魔法の才能に目覚めた上にイケオジ騎士と相思相愛に!?~

古木クー太

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4章

4-9 悪夢の終わり、光の目覚め

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 ヒュンッ!

 空気を切り裂く鋭い音。次の瞬間、僕の背中に激痛が走った。茨の鞭が僕の薄いシャツを易々と引き裂き、その下の素肌に血のにじむ赤い線を描き出す。

「ぶひぃっ!?」

 僕の口から豚のような、なんとも情けない悲鳴が上がった。

「ククク……いい鳴き声だ。気に入ったぞ」

 夢魔インキュバスはまるで指揮者がタクトを振るうかのように、楽しげに鞭をしならせた。

 ビシッ! ビシッ!

 鞭が打ちえられるたびに、僕の身体はビクンッ、ビクンッと無様ぶざまに跳ね、その度に新たな痛みが全身を駆け巡る。

「さあ、もっと鳴け! 貴様のその魂の悲鳴を、我が愛しの花嫁への捧げものとしてやろう!」

 夢魔は愉悦に顔を歪めると、今度は鞭を捨て、地面に手をかざした。すると、僕の足元の地面から何本もの黒い茨のつるが、まるで蛇のように這い出してきた。それらは瞬く間に僕の手足にからみつき、僕の身体を地面に縫い付けるように締め上げていく。

「ひっ……! や、やめ……!」

 つるは僕の身体を這い回り、服の隙間から滑り込み、敏感な素肌をザラザラとした感触で撫で回す。その先端についた鋭い棘が、僕の肌をちくちくと刺し、じわりと血を滲ませた。そして一本のつるが僕の顎をくいと持ち上げ、無理やり顔を上げさせた。僕の視線の先には、夢魔の醜悪な顔があった。

「ククク……そうだ、その顔だ。恐怖と屈辱に歪んだ、その表情……実に、そそるではないか」

 夢魔は僕の涙で濡れた頬を、そのザラついた舌でねっとりと舐め上げた。生臭い唾液の感触に、僕の全身に鳥肌が立つ。

「やめ……」
「やめんよ」

 夢魔は僕の言葉を遮ると、恍惚こうこつとした表情で囁いた。

「貴様のその絶望の表情が、我が力となる。貴様の苦痛が我が何よりの馳走ちそうとなるのだ。さあ、もっとけ、もっとわめけ、もっと絶望しろ!」

 その言葉と共に、僕の身体を締め上げていた茨のつるが、ギリリとさらに強く食い込んできた。鋭い棘が僕の柔らかな脇腹や、太ももの内側の敏感な皮膚を容赦なくえぐる。

「あぐっ…! ひぎぃっ……!」

 断続的な鋭い痛みに、僕の喉から獣のような呻き声が漏れた。

「そうだ、そうだ! それだ! その声だ!」

 夢魔は興奮に目を爛々らんらんと輝かせると、再び鞭を手に取り、僕の無防備に晒された尻臀ケツタブをピシリと的確に打ちえた。

「ひぎゃっ!?」

 脳天まで突き抜けるような鋭く、そしてどこか甘い痺れ。僕の身体が大きく弓なりに跳ねる。夢魔は僕の反応を見て満足そうに喉を鳴らした。

「クククッ、ここが弱いのか? 男の癖に、随分と感じやすい身体をしているな」

 ビシッ! ビシッ!

 鞭は執拗しつように、赤く腫れ上がった僕の尻臀ケツタブを、交互に打ち続けた。痛みと、そして抗いがたい快感の入り混じった奇妙な感覚に、僕の思考はぐちゃぐちゃに掻き乱される。

「あ…ぁ……っ、や、やめ……」
「やめてほしければ、懇願こんがんしてみせろ。我が足を舐め、許しを乞うてみせろ!」

 夢魔は僕の顔のすぐ横の泥濘ぬかるみに、自身の獣のような足を突き出した。

 僕の心はすでにズタズタだった。それでも、この化け物に屈することだけは、絶対にできなかった。僕がその足を睨みつけると、夢魔は心底楽しそうに笑った。

「ククク……まだ、瞳の光を失わぬか。気に入ったぞ。ならば、その光が完全に絶望の色に染まるまで、徹底的になぶり尽くしてやろうではないか!」

 夢魔は僕の身体を玩具にするように、さらに激しく鞭を打ち下ろし始めた。

 ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ!

 背中、尻、太もも。容赦なく打ち付けられる鞭の痛みに、僕の意識は何度も遠のきかけた。

「し、死ぬぅ……!」
「死なせんよ」

 夢魔の声はどこまでも冷たい。

「貴様にはこの愛する男の前で、永遠に我が玩具として、その醜態を晒し続けてもらうのだからな」

 もう、意識が朦朧もうろうとしてきた。鞭の痛みもだんだんと遠くに感じられる。

(ああ、もう、だめだ……)

 でも、僕が死んだら。この意識が完全に途切れてしまったら。ダグラスさんは永遠にこの悪夢の世界に囚われたままになってしまう。それだけは、絶対に、だめだ。

(僕は死んでもいい……。でも、ダグラスさんだけは……!)

 僕は残された最後の力を振り絞り、茨のつるに拘束されたまま、必死にダグラスさんの元へと手を伸ばした。

 ――君の中にある“内なる太陽”を感じるのだ。

 ふと、レオニダス先生の灰の森での教示の言葉が脳裏に蘇る。

(僕の……太陽……)

 僕の太陽は、いつだって、ただ一つだった。この世界で僕を導き、生きる意味を与えてくれた、あの深い青い瞳。 僕を照らし温めてくれた、あの不器用な、だけど誰よりも優しい、太陽。

(――ダグラスさん)

 その名を心の中で呟いた瞬間、僕の身体の奥底で何かがぽっと灯った。それは今まで感じたこともないほど熱く、強く、そしてどこまでも純粋な、炎の輝きだった。

 僕の口から、最後の詠唱が、血の味と共に紡ぎ出される。

『――我が魂の炎よ……我が想いの全てよ……! この人を縛る、忌ましい呪いを……焼き…尽く…せ……』

 僕の身体からほとばしった。今までに見たどんな火の魔法とも違う、黄金色に輝く聖なる炎。その炎は僕の意志に応え、ダグラスさんを縛り付けていた全ての茨のつるへと、まるで生きているかのように襲いかかった。

 ジュウウウウウウウウッ!!!!

 忌まわしい茨は、聖なる炎に触れた瞬間、悲鳴のような音を立てて一瞬にして灰と化した。

 そして僕の意識もまた、そこで、完全に途切れた──


 * * *


 拘束から解放されたダグラスの身体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。彼のうつろだった瞳に再び光が宿った。

「……ここは……」

 意識を取り戻した彼が最初に見たのは、目の前で倒れている、傷だらけのキューイチローの姿だった。そしてその背後で、信じられないものを見たかのように、呆然と立ち尽くしている夢魔の姿。

 ダグラスはゆっくりと、震える足で立ち上がった。そして一歩、また一歩と、夢魔には目もくれず、倒れているキューイチローの元へと、おぼつかない足取りで歩み寄った。

 彼はキューイチローの傍らに、静かに膝をついた。そして、まるで壊れ物に触れるかのように恐る恐る、その泥と血にまみれたキューイチローの頬に、指先でそっと触れた。

 冷たい。
 信じられないほど、冷たい。

守護まもれなかった……)

 後悔の念が、黒い毒のように彼の心をむしばもうとする。

 だが、その時。彼の指先に触れているキューイチローの頬がほんのわずかに、ぴくりと動いたような気がした。

 まだ、生きている。
 まだ、温もりが、残っている。

 その、ほんのわずかな希望の光が、ダグラスの絶望の闇を内側から焼き尽くした。

守護まもるんだ)

(そうだ。俺には、力があるはずだ。この世界でただ一人、かけがえのない存在を守護まもるための力が)

(俺はお前を守るために、ここにいる)

 彼はキューイチローの頭に、そっと自らのひたいを重ねた。そして、誰にも聞こえない声で、ただ一言、ささやいた。

「……もう二度と、お前を傷つけさせはしない」

 その誓いの言葉が、引き金となった。

 次の瞬間、彼の身体から迸った。

 世界中の光を全て集めたかのような、眩い、白金の光が。

 その光は彼の傷を癒し、彼の身体に神々しいまでの力を与えていく。彼のプラチナブロンドの髪は光を吸ってさらに輝きを増し、その深い青い瞳は悪を断罪する神の瞳へと変貌していた。

「なっ……!? そ、その力は……! まさか……!」

 夢魔が生まれて初めて、恐怖に顔を歪ませた。

 ダグラスはゆっくりと立ち上がると、無造作に、その場に手をかざした。すると彼の意志に応え、光の粒子が彼の手に集まり、一本の白く輝く剣を形作った。

「……消えろ」

 ただ、一言。
 その言葉が、この悪夢の世界における、絶対的な法則となった。

 ダグラスの姿がえた。常人の目では捉えきれないほどの速度で、夢魔の懐へと踏み込んだのだ。

「――聖絶の剣よ、闇を祓え! 聖光十字斬ホーリー・クロス!!」

 白金の剣が十字を描く。
 その軌跡だけが網膜に焼き付く。

「ぎ……ぁ…………」

 夢魔は断末魔の声を上げることさえ、許されなかった。その身体は聖なる光の十字によって、内側から完全に浄化され、塵となってこの悪夢の世界から永遠に消滅した。

 夢魔が消滅した瞬間、この血のように赤黒かった世界がズブズブと闇に飲み込まれていく。薔薇園が崩れ、赤黒い空が崩れ、全てが暗闇に包まれていく。

 崩壊していく世界の中、ダグラスは倒れているキューイチローの身体を優しく、しかし力強く、抱きしめた──
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