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幕間 卒業の前に
工房
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俺の『子犬』期間も終りに近づいた頃、『工房』へ案内された。
そこは『ケルベロス』全体の武具を開発・製造・供給を行う施設であり、巨大な工場と言えた。
扉を開けると、金属を叩く音やら猛る炎の音やら重い物が滑車と鎖で運搬される音やら、混ざりあって耳に届く。
実際作業が行われている場所から、金属の扉で仕切られたエントランスですらこれだ。
現場に居たらきっと、耳がバカになるのに三日で充分だろう。
などと考えていると、
「グレイ=ランフォードだな」
右側から声をかけられた。
疑問形ではなく、断定。
つまり声の主は俺をすでに知っている。
「ああ」
声の主に向き直り、応える。
偉丈夫、まさにその言葉がしっくりくる様な壮年の男が、胸の前で腕を組んで立っていた。
百七十五センチメートル程度の俺よりも頭ひとつ分ほど高い身長。
髪は白髪が混じる赤髪、せり出した眉は量が多く、鼻はそれほど高くないが、幅がある。
これまた幅のある、無精髭を生やした顎と相まって、『子供が泣く顔』の見本の様な容貌である。
着衣は、見るからに実用重視で、丈夫そうなデニム生地のオーバーオールと、袖をまくり上げた丸首のシャツ。
オーバーオールには多くのポケットが設けられ、腰の辺りには工具でも吊るしておくのか、金属の輪まで取り付けてある。
見える範囲の肌は浅黒いが、日焼けではなく日々の作業で炙られての『火』焼けであろう。
筋骨隆々の身体全体には圧迫感すら覚える迫力がある。
「ふん」
男は鼻を小さく鳴らした。
俺の全身を足先から頭まで見た後で。
「ついてこい。二階だ」
何か納得した様に小さく頷いて、手招いた。
男に招かれた方向、エントランスの右には緩やかにカーブを描く階段がある。
男は俺の反応を待たず、階段を登り始める。
飾り気の欠片もない木製の階段が、ごつりごつりと鳴る。
男の足元はくるぶしまで覆う革製のブーツだが、おそらく内部に金属の補強が入っている。
俺は男の後を追う。
階段を登りきると、目の前に木製のドアが見えた。
男はドアを開け、中へ進む。
開け放たれたままのそれをくぐり、俺も中へ。
「閉め……たか」
言われる前に、俺は後ろ手でドアを閉めていた。
先程まで耳に届いていた作業音が消えた。
遮音のレベルがとんでもなく高い。
「俺は『工房長』。親方でもいいが、好きに呼べ」
室内は十メートル四方といったところか。
中央に天板に金属を張り付けた、四角いテーブルが置かれている。
それを挟んで男、親方が言った。
「お前の装備が完成した。その引き渡しで来てもらったわけだ」
親方はテーブルの上を顎で指す。
そこには既に様々な武具が並べられていた。
「お前から見て、手前から身に着けてこっちへ来い。靴は脱げよ」
彼なりの冗談なのだろう、笑いながらこちらを見る。
一番手前は革製のブーツだ。
確かに今履いている靴を脱がねばならない。
履き替える。
「靴紐だと邪魔だと思ってな。革のベルトだ」
くるぶしより少し上まで覆うブーツは親方の言う通り、革のベルト三本で締めて固定するタイプだ。
本体もベルトも留め金も、全て艶消しの黒。
次はすね当て、これも革製。
薄く軽い、つまり防具としては最低限。
「裏側が固められるのは動きに支障をきたすだろ? だから前面だけだ」
その方が良いだろ?と笑う親方。
まさにその通りだ。
次は腰のベルト、というより一種の小物入れに近い。
バックルの左右に細長い物を差し込む為と思われる、革製のポケットが四つずつ設けられている。
真横には何も無く、腕の動きに干渉しない。
後方の左右に直方体のケースが縦に二つ、その間、真後ろにやや大きめのケース。
「真後ろのは道具入れだ。入れるものは自分で決めろ」
親方に軽く頷いて見せる。
気になるのは脚の付け根辺りにぶら下がる細めのベルトだ。
前側に左右一対ある。
まあ、追々説明があるだろう。
親方の顔に『後のお楽しみ』と書いてあるから。
次は胸当て。
言うまでもない、革製だ。
「できるだけ身体に密着するように、動きを制限しないように、と最小限で最低限だ」
ほぼ肋骨のある部分だけといったサイズで、多少脇腹を深く覆う形になっていて、身体を嵌め込む様に着用する。
脇腹の端からベルトが伸びていて、背中でクロスさせて肩の留め金で固定する。
「とはいえ、薄いが鋼の板が仕込んである。他の部位よりは頑丈だ」
なるほど、全部革とは少し重量感が違うとは思った。
次は小手だ。
筒状で、差し込む様に着用する。
手首部分に手を通すのに、少しだけ狭さを感じたが、この程度なら大きな問題にはならない。
そしてこれには肘当ても連結していた。
「肘は元々硬いが、少数行動の『牙』に怪我は命取りになる。俺の老婆心だと思え」
格闘で肘は心強い武器になるが、万が一損傷すれば戦力は半分以下だ。
ありがたく思うとしよう。
肘当ては柔らかい革ベルトで肘のすぐ上辺りで固定する。
次は……。
「いよいよ武器に入る」
両手で抱える程の大きさの油紙の包みが置いてある。
しかしまあ、親方は楽しそうな表情だ。
防具より武器を作る方がお好きな様子。
「それは投げナイフだ。簡易的で量産も難しくないから、使い捨てと思って良い」
油紙を開くと、ざっと五十本はあるだろうか、鉄製の……尖った板があった。
「そう怪訝なツラするな。確かに鉄板から打ち抜いて先端を尖らせ、削って刃を付けた程度の物だ」
くくく、と楽しそうに笑いながら、親方は続ける。
「持ち手に穴が二つ開いているのは解るな。そこに指を入れて投げる事もできるし、両方の穴に薬指と小指を入れて逆手で持てば、即席のピックとして斜面や壁を登る事もできるはできる」
俺は一本手に取る。
確かに造りは雑だが、設けられた穴はグローブを着けた指でも充分入る。
なるほど、これが腰ベルトのポケットに入るのか。
挿し込んでみるとピッタリだ。
「そうだ。で、後ろの小さい方のケースに予備が入れられる」
投げナイフを納めていく俺の姿を見て、親方は満足げに頷く。
後ろの予備用ケースは内側に弱めの、湾曲した板バネが仕込んであった。
予備を抜いた後、残りがぶつかって音がしないように押さえる仕組み。
隠密行動を意識して徹底した細工に、感心する。
「次からがお前のメインの武器に関係してくる」
親方と俺の視線の先には、一対の装具。
楕円形の金具が取り付けられた、緩い曲線状に成型された革の……防具だろうか。
しかし防具にしては覆う範囲が狭いように思える。
金具の真ん中には、ボルトの様な小さなネジが一本。
「そいつは太ももの外側に着けろ」
言われるがままに手に取り、太ももの外側に押し付ける。
覆う範囲は太ももの中ほどまでで、やはり防具としては半端だ。
内側にベルトが二本あるので、それを太ももに締めて固定するようだ。
「それだけじゃずり落ちるだろ?そこで、腰からぶら下がるベルトの出番だ」
なるほど。
腰ベルトから垂れ下がる細めのベルトを手繰ると、太ももの装具にある留め金に自然と出会う。
連結すると、ずり落ちそうな不安定さが消える。
「で、最後のこれらがお前の剣だ」
一般的な片手剣よりやや短い、二本の剣が親方に示される。
俺が手を伸ばそうとすると、
「正直!」
親方は急に声量を増して、言った。
少々驚き、手の動きを止める。
「造っておいてなんだが、正気の仕様とは思えん」
親方は眉根を寄せ、苦い顔だ。
「現在作れるおよそ最高硬度の鋼を、こんな短く薄い刀身にするなど、ピーキーにも程がある」
俺はうち一本の鞘を左手で掴み、右手でゆっくりと抜く。
初めの少しの抵抗の後、刀身は音も無く姿を現した。
わずかな青みを感じる冷たい肌。
軽い。
「切れ味はカミソリ並だ。実際剃れるしな」
剃ってみたのか。
なんだろう、ちょっと嫌だ。
「だが、脆さはまるでガラスだぞ。力任せに使ったら一瞬で粉々だ」
親方が心配するのはよく解る。
鋼は硬ければ硬いほど、衝撃やねじれに脆くなる。
「問題ありません」
俺は事も無げに告げる。
断言できる程に、俺が受けた訓練は壮絶を極めた。
「……注文通り重心は柄側に。特に鍔周りに調整してある」
俺の言葉に何か諦めたように、親方は説明を始めた。
「その重量調整の一環だが、鍔から剣身の根本に柔らかめの鋼でリカッソもどきを設けた」
リカッソとは、主に両手で扱うサイズの大剣に設けられる『剣身を握る』為に刃を付けない部分のことで、革が巻かれたりされる。
こんな短い剣に付けられる事はまず無い。
「長さは五センチメートル。やむを得ず攻撃を受ける時はその部分を使え」
これも『老婆心』の一つか。
ありがたく受け取ろう。
「鞘の内側にはウサギの毛皮を貼ってある。摩擦音を消し、脂で錆を防ぐ効果も多少ある」
なんと贅沢な。
鞘の内側を覗くと、確かに短い毛足の毛皮が見える。
「鞘は太ももの装具の輪に差し込んで、ネジで固定しろ」
俺は剣を鞘に納め、言われた通りに。
触れてみて解ったが、この楕円形の金具は音も無く回る。
様々な角度での抜剣を可能にする工夫だ。
二本の剣を固定し終わると、
「それがお前の装備一式だ。損傷した時はすぐに言え」
親方が真顔で言う。
『物は壊れてもいいが、死ぬな』と言外に伝わってくる。
「ありがとう」
「武運を祈る」
互いに短い言葉。
互いに微笑んだ。
そこは『ケルベロス』全体の武具を開発・製造・供給を行う施設であり、巨大な工場と言えた。
扉を開けると、金属を叩く音やら猛る炎の音やら重い物が滑車と鎖で運搬される音やら、混ざりあって耳に届く。
実際作業が行われている場所から、金属の扉で仕切られたエントランスですらこれだ。
現場に居たらきっと、耳がバカになるのに三日で充分だろう。
などと考えていると、
「グレイ=ランフォードだな」
右側から声をかけられた。
疑問形ではなく、断定。
つまり声の主は俺をすでに知っている。
「ああ」
声の主に向き直り、応える。
偉丈夫、まさにその言葉がしっくりくる様な壮年の男が、胸の前で腕を組んで立っていた。
百七十五センチメートル程度の俺よりも頭ひとつ分ほど高い身長。
髪は白髪が混じる赤髪、せり出した眉は量が多く、鼻はそれほど高くないが、幅がある。
これまた幅のある、無精髭を生やした顎と相まって、『子供が泣く顔』の見本の様な容貌である。
着衣は、見るからに実用重視で、丈夫そうなデニム生地のオーバーオールと、袖をまくり上げた丸首のシャツ。
オーバーオールには多くのポケットが設けられ、腰の辺りには工具でも吊るしておくのか、金属の輪まで取り付けてある。
見える範囲の肌は浅黒いが、日焼けではなく日々の作業で炙られての『火』焼けであろう。
筋骨隆々の身体全体には圧迫感すら覚える迫力がある。
「ふん」
男は鼻を小さく鳴らした。
俺の全身を足先から頭まで見た後で。
「ついてこい。二階だ」
何か納得した様に小さく頷いて、手招いた。
男に招かれた方向、エントランスの右には緩やかにカーブを描く階段がある。
男は俺の反応を待たず、階段を登り始める。
飾り気の欠片もない木製の階段が、ごつりごつりと鳴る。
男の足元はくるぶしまで覆う革製のブーツだが、おそらく内部に金属の補強が入っている。
俺は男の後を追う。
階段を登りきると、目の前に木製のドアが見えた。
男はドアを開け、中へ進む。
開け放たれたままのそれをくぐり、俺も中へ。
「閉め……たか」
言われる前に、俺は後ろ手でドアを閉めていた。
先程まで耳に届いていた作業音が消えた。
遮音のレベルがとんでもなく高い。
「俺は『工房長』。親方でもいいが、好きに呼べ」
室内は十メートル四方といったところか。
中央に天板に金属を張り付けた、四角いテーブルが置かれている。
それを挟んで男、親方が言った。
「お前の装備が完成した。その引き渡しで来てもらったわけだ」
親方はテーブルの上を顎で指す。
そこには既に様々な武具が並べられていた。
「お前から見て、手前から身に着けてこっちへ来い。靴は脱げよ」
彼なりの冗談なのだろう、笑いながらこちらを見る。
一番手前は革製のブーツだ。
確かに今履いている靴を脱がねばならない。
履き替える。
「靴紐だと邪魔だと思ってな。革のベルトだ」
くるぶしより少し上まで覆うブーツは親方の言う通り、革のベルト三本で締めて固定するタイプだ。
本体もベルトも留め金も、全て艶消しの黒。
次はすね当て、これも革製。
薄く軽い、つまり防具としては最低限。
「裏側が固められるのは動きに支障をきたすだろ? だから前面だけだ」
その方が良いだろ?と笑う親方。
まさにその通りだ。
次は腰のベルト、というより一種の小物入れに近い。
バックルの左右に細長い物を差し込む為と思われる、革製のポケットが四つずつ設けられている。
真横には何も無く、腕の動きに干渉しない。
後方の左右に直方体のケースが縦に二つ、その間、真後ろにやや大きめのケース。
「真後ろのは道具入れだ。入れるものは自分で決めろ」
親方に軽く頷いて見せる。
気になるのは脚の付け根辺りにぶら下がる細めのベルトだ。
前側に左右一対ある。
まあ、追々説明があるだろう。
親方の顔に『後のお楽しみ』と書いてあるから。
次は胸当て。
言うまでもない、革製だ。
「できるだけ身体に密着するように、動きを制限しないように、と最小限で最低限だ」
ほぼ肋骨のある部分だけといったサイズで、多少脇腹を深く覆う形になっていて、身体を嵌め込む様に着用する。
脇腹の端からベルトが伸びていて、背中でクロスさせて肩の留め金で固定する。
「とはいえ、薄いが鋼の板が仕込んである。他の部位よりは頑丈だ」
なるほど、全部革とは少し重量感が違うとは思った。
次は小手だ。
筒状で、差し込む様に着用する。
手首部分に手を通すのに、少しだけ狭さを感じたが、この程度なら大きな問題にはならない。
そしてこれには肘当ても連結していた。
「肘は元々硬いが、少数行動の『牙』に怪我は命取りになる。俺の老婆心だと思え」
格闘で肘は心強い武器になるが、万が一損傷すれば戦力は半分以下だ。
ありがたく思うとしよう。
肘当ては柔らかい革ベルトで肘のすぐ上辺りで固定する。
次は……。
「いよいよ武器に入る」
両手で抱える程の大きさの油紙の包みが置いてある。
しかしまあ、親方は楽しそうな表情だ。
防具より武器を作る方がお好きな様子。
「それは投げナイフだ。簡易的で量産も難しくないから、使い捨てと思って良い」
油紙を開くと、ざっと五十本はあるだろうか、鉄製の……尖った板があった。
「そう怪訝なツラするな。確かに鉄板から打ち抜いて先端を尖らせ、削って刃を付けた程度の物だ」
くくく、と楽しそうに笑いながら、親方は続ける。
「持ち手に穴が二つ開いているのは解るな。そこに指を入れて投げる事もできるし、両方の穴に薬指と小指を入れて逆手で持てば、即席のピックとして斜面や壁を登る事もできるはできる」
俺は一本手に取る。
確かに造りは雑だが、設けられた穴はグローブを着けた指でも充分入る。
なるほど、これが腰ベルトのポケットに入るのか。
挿し込んでみるとピッタリだ。
「そうだ。で、後ろの小さい方のケースに予備が入れられる」
投げナイフを納めていく俺の姿を見て、親方は満足げに頷く。
後ろの予備用ケースは内側に弱めの、湾曲した板バネが仕込んであった。
予備を抜いた後、残りがぶつかって音がしないように押さえる仕組み。
隠密行動を意識して徹底した細工に、感心する。
「次からがお前のメインの武器に関係してくる」
親方と俺の視線の先には、一対の装具。
楕円形の金具が取り付けられた、緩い曲線状に成型された革の……防具だろうか。
しかし防具にしては覆う範囲が狭いように思える。
金具の真ん中には、ボルトの様な小さなネジが一本。
「そいつは太ももの外側に着けろ」
言われるがままに手に取り、太ももの外側に押し付ける。
覆う範囲は太ももの中ほどまでで、やはり防具としては半端だ。
内側にベルトが二本あるので、それを太ももに締めて固定するようだ。
「それだけじゃずり落ちるだろ?そこで、腰からぶら下がるベルトの出番だ」
なるほど。
腰ベルトから垂れ下がる細めのベルトを手繰ると、太ももの装具にある留め金に自然と出会う。
連結すると、ずり落ちそうな不安定さが消える。
「で、最後のこれらがお前の剣だ」
一般的な片手剣よりやや短い、二本の剣が親方に示される。
俺が手を伸ばそうとすると、
「正直!」
親方は急に声量を増して、言った。
少々驚き、手の動きを止める。
「造っておいてなんだが、正気の仕様とは思えん」
親方は眉根を寄せ、苦い顔だ。
「現在作れるおよそ最高硬度の鋼を、こんな短く薄い刀身にするなど、ピーキーにも程がある」
俺はうち一本の鞘を左手で掴み、右手でゆっくりと抜く。
初めの少しの抵抗の後、刀身は音も無く姿を現した。
わずかな青みを感じる冷たい肌。
軽い。
「切れ味はカミソリ並だ。実際剃れるしな」
剃ってみたのか。
なんだろう、ちょっと嫌だ。
「だが、脆さはまるでガラスだぞ。力任せに使ったら一瞬で粉々だ」
親方が心配するのはよく解る。
鋼は硬ければ硬いほど、衝撃やねじれに脆くなる。
「問題ありません」
俺は事も無げに告げる。
断言できる程に、俺が受けた訓練は壮絶を極めた。
「……注文通り重心は柄側に。特に鍔周りに調整してある」
俺の言葉に何か諦めたように、親方は説明を始めた。
「その重量調整の一環だが、鍔から剣身の根本に柔らかめの鋼でリカッソもどきを設けた」
リカッソとは、主に両手で扱うサイズの大剣に設けられる『剣身を握る』為に刃を付けない部分のことで、革が巻かれたりされる。
こんな短い剣に付けられる事はまず無い。
「長さは五センチメートル。やむを得ず攻撃を受ける時はその部分を使え」
これも『老婆心』の一つか。
ありがたく受け取ろう。
「鞘の内側にはウサギの毛皮を貼ってある。摩擦音を消し、脂で錆を防ぐ効果も多少ある」
なんと贅沢な。
鞘の内側を覗くと、確かに短い毛足の毛皮が見える。
「鞘は太ももの装具の輪に差し込んで、ネジで固定しろ」
俺は剣を鞘に納め、言われた通りに。
触れてみて解ったが、この楕円形の金具は音も無く回る。
様々な角度での抜剣を可能にする工夫だ。
二本の剣を固定し終わると、
「それがお前の装備一式だ。損傷した時はすぐに言え」
親方が真顔で言う。
『物は壊れてもいいが、死ぬな』と言外に伝わってくる。
「ありがとう」
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