end of souls

和泉直人

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二章2

二人組

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  装備を詰め直したバッグを担いで階下へ降りる。
  先ほど見た青年が変わらぬ様子で居る。
  ぼーっとしている様でもあり、緊張している様でもあり、気になる。
  と、

  「あの」

あちらから声をかけてきた。
  赤い髪、やや幅広い鼻、と親方に似ている。
  血縁者だろうか。
  俺は沈黙と視線で応え、彼の次の言葉を待つ。

  「お、俺も武器を用意したので、よかったら使ってやってください!」

  これは少し予想外の要件だ。
  よくよく見れば彼は第一印象より若く、年の頃は十代後半だろうか、頬に一つニキビができている。
  その顔は不安半分、期待半分といった表情。
  俺は親方の様に、そっとバッグを置いて、

  「見せてもらえるか」

頷きながら右手を差し出す。
  青年、もとい少年は破顔して、椅子の下に置いてあった物を俺の右手に乗せた。
  細長い麻布の包み。
  その丁寧な渡し方から、彼の力作であろう事が伝わった。
  巻かれた布をほどくと、

  「スティレット……」

全長三十センチメートル程の短剣が姿を現した。

  「はい! 薄い鎧なら抜けます!」

  他の装備に合わせて黒色に染められたヒルト、そして革製の鞘。
  鞘には、固定具としてその中ほどと、ガード部分を押さえて不意の脱落を防ぐ細めの革帯がそれぞれ設けられている。
  ガードの左右への張り出しは、一般的な物より短い。
  携行性が重視されているようだ。
  脱落防止の革帯はわずかな操作で外れ、しかし確実な強さで押さえる絶妙な加減だ。
  鞘から引き抜く。
  くるっと手の中で一周回して仕様を観察する。

  「断面は四角。そしてそれぞれの面に血抜き溝フラーか」

  スティレットに刃と呼べる物は無い。
  断面が四角や三角の角錐状の、乱暴に言うならだ。
  ゆえに何の加工も無ければ、刺した後に引き抜きにくくなってしまうが、側面にフラーがあれば圧力が逃げて引き抜き易くなる。

  「あなたは鎧の隙間を狙える腕をお持ちと聞いていましたが、それでも手札は多い方が良いはずだ、と……」

  少年はやや早口だ。

  「親方には合格をもらっています。役に立てたら嬉しいです!」

  そしてずいぶんと熱がこもっている。
  口だけではないのは、現物を持ってみて解った。
  確かに彼の言う通り、薄い鎧や兜などは、角度にもよるが、貫ける確信が持てる。
  悪くない。

  「ありがたく使わせてもらうよ」

  少年と目を合わせて頷く。
  そして彼に見える様にベルトの右手側に、固定用の革帯を通して装備する。
  彼の目が輝きを増す。
  よしっ、と小声で喜びの声を漏らしながら拳を握る姿がなんとも微笑ましい。

  「元は親方の発案だったんですが、剣の製造にかかりきりだったので」

  俺が、と続けてうつむいた。
  きっとそちらの方も気になって見たかったのだろう。
  しかしなるほど、親方のあの睡眠不足はショートソードの作成のせいだったのか。
  俺は彼に感謝を述べ、バッグを持って工房を後にした。
  そこに、

  「グレイ=ランフォード。司令部へ」

短く告げる女性が居た。
  司令部の職員の一人であろう。
  俺の返事を待たず、彼女は司令部の方へ踵を返した。
  つまりは長官がお呼びという事だ。
  是非もなし。
  職員を追う様に司令部へ向かう。
  彼女が開いた司令部玄関のドアを、ありがとう、と声をかけて通る。
  すると無言で、すっと頭を下げて足早に去った。
  装備入りバッグを左肩に担ぎ直して、俺も足早に長官の執務室へ向かう。
  違和感があった。
  
  「グレイです」

  「入れ」

  この部屋に近づくにつれ、そして長官とのいつものやり取りをする間にも、それは強まった。
  とはいえ違和感でもある。
  左手でドアノブをひねり、室内へ。
  同時に先ほど受け取ったスティレットを右逆手で抜く。

  しっ!

  ギィッ!

  鋭い呼気と、金属音が重なる。
  右側から突き出された刃、それを受け逸らしたスティレットが噛み合っている。

  「またか、クワイエト」

  攻撃を仕掛けてきた男を、横目で見やる。
  百八十五センチメートルの長身痩躯、真ん中で分けた黒い長髪の間から、こちらを睨む黒瞳の下三白眼。

  「聖剣使いにやられたにしては良い反応じゃねぇか、ええ?」

  頬のこけた顔に嘲る様な笑みを浮かべ、攻撃の主、クワイエトが言う。
  刃にこめた力はまだ抜かれていない。
  しつこい野郎だ。

  「やられてねえよ。それよりいちいち絡んでくるな、鬱陶しい」

  俺はスティレットを持つ手に力をこめ、刃を押し退ける。
  クワイエトの持つ武器はジャマダハル。
  造りが通常の剣と大きく異なり、グリップと刃が垂直に、ガードと平行になっている。
  殴る動作で刃で刺す事ができる構造の、特殊な形状の剣だ。
  クワイエトこいつはいつも俺を見かけると、こうして仕掛けてくる。
  しかしクワイエトがここにいるという事は……嫌な予感しかしない。

  「挨拶は終わったか、ひよっこども」

  睨み合う俺達に、長官が冷ややかな言葉を浴びせる。
  執務用の机の向こうで、呆れ顔で腕を組んで。

  「ええ。終わりました」

  長官の言葉を受けてもなお何か言いたげなクワイエトから、さっさと視線を外して答える。
  スティレットも鞘に納める。
  クワイエトも舌打ちしながら、ジャマダハルを腰の鞘に納めた。
  それを見届けて、

  「今回はお前達に組んでもらう」

長官が告げた。
  嫌な予感は現実となる。
  俺は思わず目を閉じた。
  めまいすら覚える程に、心底勘弁願いたい。
  先日の様なやや特殊なものを除き、『牙』の任務は二人組ツーマンセルで当たるのが基本だ。
  それは連携の必要性、手分けの必要性……保険の必要性、等と意味合いは任務実行者が臨機応変に決める。
  人選は長官に委ねられ、当然俺達に拒否権は無い。

  「まずは情報に目を通せ」

  長官が二つの紙束を机の上に置いた。
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