end of souls

和泉直人

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二章3

出立

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  報告書の内容は、『アルザス教』の伝播に関する物だった。
  先の騒動に関わったフュネス領、クラレンス領、バクスター領への処分に関する情報もある。
  これは『耳』からではなく、王宮から直に情報を得た『ケルベロス司令部』の職員からもたらされている。

  『領主ヴァンサン=フュネスはその私財の半分を没収。王令の遵守、領民からの不当な搾取、リーノロス教団への過剰な寄付等への監視として政務官の配置を受け入れよ』

  要約すると首都から派遣される厳しい政務官が、領主から領内の財務と政務に関する権限を奪うという事だ。
  取り潰しにならないだけマシだろう。
  クラレンス領主には私財の三分の一の没収が課せられ、リーノロス教団への寄付も制限を受けるようだ。
  バクスター領主に関しては、干ばつの被害とその援助を受けた引け目から、という事情が考慮されて私財の四分の一を供出、領内の被害補填に充てよ、というある程度軽度なものだ。
  これでひとまず後処理は終了となる。
  そして本題。
  フュネス領から、再びの弾圧から逃れる為か、アルザス教徒が東へ『移住』した。
  クガドルから見れば真北の方角だ。
  国民の領地間の『移動』は認められているが、『移住』は基本的に認められない。
  好き勝手に移住されては偏りが出るし、元居た住民との軋轢も容易に予想されるからだ。
  だが今回はフュネス領の支配力の一時的な低下と、東方に隣接する『サイティエフ領』の受け入れの許可によって、合法非合法問わず移住が成されてしまったという。
  その数は数百人規模と見込まれる。
  ここで疑問が生まれる。
  北方は食料事情が厳しい。
  にも関わらず、サイティエフ領は受け入れた。
  物質的な利益を求めた行為とは考えられない。
  思惑はさておき、事実として民の移住があり、それがアルザス教徒である事。
  それはサイティエフ領の、一都市である『ハバロフ』に集中している事。
  そこで何かしら不穏な動きがある事。
  報告書はこんなあらましとなっている。
  ふと、また疑問が浮かぶ。

  「なぜ断定じゃないんだ? 『耳』の仕事にしちゃ半端だろ」

  クワイエトが口を開く。
  その疑問は俺も感じたもので、同感だ。

  「その街に潜入していた『耳』が消えた。死んだのか、全力で逃亡中なのかも不明だ。とにかく連絡は途絶え、最後にもたらしたのがその情報だ」

  長官は表情を変えずに静かに言った。
  これは驚きだ。
  そりゃあ今まで『耳』が消された前例が無かった訳ではない。
  だがそれも他国や、特に危険な地域で起こった事例がほとんどだ。

  「何かある、と。とびきりキナ臭い何かが」

  俺は問うでもなく、語りかけるでもなく、呟く。

  「まあ、そういう事だ。『耳』で調べがつかないなら、『牙』を動員するまで」

  潜入、諜報および小規模戦闘を得意とする『牙』は、『耳』と『爪』の中間を補う。
  半端なわけではなく、戦闘の規模が違うだけで個々の戦力は『爪』と同格なのはで証明済みだ。
  『耳』の潜入の能力には及ばないのは事実であるが、武力でのごり押し調査ができる点では優れる。

  「移住した者達がどの様な存在かは不明だ。フュネス領に対する処分の最中、混乱の隙を突かれたせいでな。宣教師の類か、兵士の類か」

  「いずれにせよ、現地へ赴かねば話にならない」

  顎を指先で撫でる長官の言葉を、俺が引き取る。
  長官は頷いた。

  「グレイ、クワイエト、両名に命じる。サイティエフ領で何が起ころうとしているのか、何が起きているのかを確かめて来い」

  口調を改めた、正式な命令だ。

  「もし領主のイゴール=サイティエフに反逆の意志が認められた場合、国王は暗殺も許可するとの事だ。証拠は持ってきてもらうが、な」

  長官は一際低い声で告げた。
  領主殺しなどとんでもない話だが、地理的に我々が手を下した方が早く、内戦を未然に防げるという判断だろう。
  何しろサイティエフ領は遠い。

  「面白くなってきたな」

  この重大な命令にもお構い無しに、にやりと笑っているクワイエト。
  俺は深くため息をつき、横目で厄介な相棒を見て言う。

  「無駄に場を荒らすなよ」

  「なんだ、びびってるのか?」

  話が通じない。
  長官を軽く睨むが、卓上ランプから火を拾った細長い木の棒で葉巻を炙っていた。
  我関せず、といった態度。
  首都ここからサイティエフ領までは馬で歩いて五日はたっぷりかかる。
  そしてハバロフの街まで領内を北上してまた一日と、かなりの移動距離となる。
  準備はここの職員が済ませてくれるだろうが、クワイエトとの旅路は楽ではないだろう。
  精神的に。
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