『硝子越しの春』

ぱんだちゃん

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第十章:光の先に

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再審請求の手続きは、想像以上に険しかった。
証拠の正当性、信ぴょう性、そして“過去の判決”という重み。
だが沙耶は怯まなかった。
久保田が裏で支えてくれていること。
そして何より――彼の瞳が、胸の奥で灯になっていた。

「もう一度、調べ直してほしいんです。
これは“無実の人間”を閉じ込めたままにする国家の問題なんです」

静かに、だが真っ直ぐに沙耶は言った。

監察官の目が動いた。
資料に目を落とし、じっくりと沈黙の時間が流れる。

「……君が、何のためにここまで動いてきたのか、よくわかりました」

一週間後。
“再審開始”の決定が下された。

その知らせは、静かに、だが確実に拘置所に届いた。

面会室。
彼はガラス越しに沙耶を見つめ、目を見開いていた。

「……本当に、やってくれたのか」

「まだ終わりじゃない。でも、あなたは“もう一度法の前に立つ”チャンスを得た」

「……ありがとう」

涙なんて見せる人じゃなかった。
けれど、彼の目に確かに光るものがあった。

沙耶は迷わず、ガラスに手を当てた。

「私、あなたを信じてよかった。あなたを――」

言葉に詰まった。
でも、彼はゆっくりと自分の手をガラス越しに重ねた。

「俺も信じてた。君だけは、俺を見捨てないって」

沈黙の中に、すべてがあった。
恋だと、ようやく自覚した。
この人を愛していると、心が叫んでいた。

「……絶対に、あなたを自由にする。その日まで、何度でも立ち上がる」

彼は微笑んだ。
それは、かつての美和には向けなかった種類の笑顔だった。
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