義理兄と妹〜愛という名の罪〜

ぱんだちゃん

文字の大きさ
6 / 14

第六章「さよならの代わりに、手紙を」

しおりを挟む
 出発の朝、空はどこまでも高く澄んでいた。

 私たちは静かに荷物を車に積み込んでいた。海外へ渡る前に、しばらくの間、別の町で準備を整える予定だった。何もかもが新しくなる。新しい家、新しい生活、新しい人生。

 家を出る前、最後にもう一度、リビングの戸を開けた。

 母の姿はなかった。父もいなかった。代わりに、テーブルの上に置かれていたのは、一通の封筒だった。

 白くて、少しだけくたびれた封筒。

『真帆へ、悠真へ』とだけ、母の字で書かれていた。

 私はそっとそれを開いた。

真帆へ、悠真へ

この手紙を読んでいるということは、ふたりはもう家を出発したのかもしれません。

今も、私たちの心は複雑です。

正直に言います。親として、ふたりの関係を“理解”することはできていません。
“兄妹”として育ってきたふたりが、恋人になるなんて、どうしても受け入れきれない気持ちがあります。

世間の目も、将来の困難も、山ほどあることは想像がつきます。

でも。

それでも、ふたりの真剣なまなざしと、何より真帆の「家族を捨てても生きていく覚悟」を聞いて、私たちは考え直しました。

まだ、認めることはできません。

けれど――否定だけは、したくないと思いました。

親として、ふたりの未来が少しでもあたたかく、しあわせでありますようにと願わずにはいられません。

だから、今この言葉だけを送ります。

どうか、ふたりで支え合って生きてください。

どんなに遠く離れても、ふたりが互いに誠実で、傷つけずに歩いていけるなら、それが“愛”なのだと、いつか私たちも信じられるかもしれません。

この家は、もうふたりにとっての「家」ではないかもしれません。

でも、私たちはずっと、ふたりの幸せを願っています。

どうか、後悔のない人生を。

母と父より

薄明かりの部屋で、私たちは肩を並べて、ひとつの手紙を読んでいた。

 机の上にそっと置かれていた、母と父の連名の封筒。

 それを見つけたとき、私は手が震えた。怖かった。中に何が書いてあるのか、拒絶なのか、絶縁なのか、それとも――。

 けれど。

 封を開けて、ひと文字ずつ読み進めるごとに、胸の奥にゆっくりと熱が広がっていった。

 「……受け入れられない。でも、否定だけはしたくないって」

 私の声がかすれる。

 「ふたりで、支え合って生きてほしい……」

 言葉の最後は、ほとんど声にならなかった。

 涙が頬を伝い、手紙に落ちないように、私は必死でこらえた。

 「真帆」

 悠真さんの声が、低く、あたたかく響いた。

 「俺たちは、家族を裏切ったかもしれない。でも……この愛を偽らず、逃げずに選んだことを、誇りに思うよ」

 私はうなずいた。

 「うん……。これでもう、振り返らないって決めた。家族には、申し訳ない。でも――私は、あなたと生きる」

 それがどんなに困難な道でも、誰にも理解されなくても。

 私は悠真さんと、歩いていきたい。

 「準備は……できてる?」

 彼の問いに、私は黙って頷いた。

 この家で過ごした季節も、家族との記憶も、全部心にしまって。

 もう戻らないと決めた場所に、最後にひと礼する。

 「ありがとう、今まで」

 私は声に出して、誰もいないリビングに向かって言った。

 両親からの手紙は、私の胸ポケットにそっとしまった。

 たとえ認められていなくても、あの言葉は、私の背中をそっと押してくれる。

 玄関の扉を開けると、まだ朝焼けの残る空が広がっていた。

 「行こう」

 悠真さんが手を差し出してくれる。

 その手を、私は力強く握り返した。

 ――これは、誰にも祝福されない愛かもしれない。

 でも。

 ふたりで選んだ未来を、胸を張って生きていく。

 罪と呼ばれても、愛だから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...