1 / 14
第1章
第1話
しおりを挟む
俺たちのパーティは苦戦を強いられていた。ギルバーグウルフキングはこのダンジョンのボスモンスター。無論、簡単に勝てる相手じゃない。
だが倒せないのは相手が強いからというだけではなく、端的に言ってしまえば、俺のスキルのせいだった。
俺のスキルは戦局を左右するほどに強力だ。だが再使用には時間がかかる。というか、本来であれば一生に一度しか使えないスキルなのだ。それを無理やり何度も使っているのだから仕方がない。
しかしながら、はっきり言ってパーティメンバーたちはもう限界だった。
「みんな! もう一息だ! 頑張れ!」
前線でタンクを張っているのはこのパーティのリーダーであり、同時にメインアタッカーでもあるヤマトだ。自身の体力も鎧もボロボロだが、仲間たちを鼓舞するように必死に声を張り上げている。
「ヤマト! 回復いくよ! “シャインライトリジェネーション”!!」
そんなタンクを回復魔法スキルで援護しているのはサブアタッカー兼ヒーラーのマドカ。彼女は前線に立たないので体力こそ満タンだが、MPがもう底を尽きようとしている。今もポーションを飲みながら魔法スキルを発動している。彼女の魔法スキルが止んだ時が、このパーティ壊滅の時だ。
「ちくしょう! デカブツ! こっち向きやがれ!」
カエデが弓矢でウルフキングの足を射るが、強靭な皮膚と大きな斧に弾かれて傷一つつけられない。彼女は索敵と罠解除が専門のスカウト職で、普段は戦いに参加しないが今は少しでもボスの隙を作ろうと必死に弓を射ている。だがそれもどうやらほとんど効いていないようだ。
そして、肝心の俺はと言うと─────────
「………………」
前線よりも遥か後方、非戦闘職のカエデよりも後ろの岩陰で、スキルが発動できるようになるのを今か今かと待っていた。
自分が今現在、役立たずなのは身に染みてわかっている。本当は盾役でもなんでもいいから前線に出て、仲間たちと一緒に戦いたい。しかし俺のスキルがそれを許してくれない。このスキルのせいで俺は盾どころか杖も弓も満足に使えないのだ。
俺が使うのは身体よりも大きな大剣のみ。しかもこの大剣すら、俺は本来の用途で使う事はできない。大事なのはこの大剣の見た目だけだ。ただこの大剣が、“いかにも敵を一撃で倒せそう”であればそれでいい。
そして、ウルフキングの巨大な斧がヤマトに襲い掛かろうとしたその時、
─────────スキル発動の準備が整った。
俺は背中から大剣を抜いて、ギルバーグウルフキングへと疾駆した。
その勇敢な行動とは裏腹に、俺の身体はこれから自らに自分に起こることへの恐怖でブルブルと震えていた。
今から俺が叫ぶ台詞。それが虚勢だと思われてはいけない。それが蛮勇だとバレてはいけない。いかにも強力な敵が現れたのだと、勝利の女神に思わせなくてはならない。
身体の震えを止めるように、より大きな声で叫ぶ。
「冥土の土産に教えてやるぜ! 俺はハジメ! お前を倒す男の名前だーーーー!!!」
強くなくていい。強そうであればいい。
倒せなくていい。倒せそうであればいい。
俺は大剣を振りかぶってギルバーグウルフキングへと突撃し、そして────────
グギゴバキャッッ!
俺は狼王が振り下ろした大斧によって勢いよく吹き飛ばされ、ダンジョンの壁にめり込んだ。
装備していたアイテムによってなんとか上半身と下半身がサヨナラするのは免れたようだが、すさまじい痛みに混ざった身体の感触からして、どうやら肋骨が何本か折れており、それが肺を突き破ったようだ。このまま何もしなければ呼吸困難で間違いなく俺は死ぬだろう。
俺のの攻撃は無駄に終わった。
突如現れた新手を一瞬で粉砕した喜びを表現するかのように、ボスモンスターはダンジョン全体に轟くように雄叫びを上げる。
あとは残った瀕死のゴミどもを片付けるだけだぜ! とでも言うかのように。
だがそれも、長くは続かなかった。
次の瞬間、俺以外のパーティメンバーたち全員を不思議なオーラが包み込む。
攻撃力上昇。
防御力上昇。
素早さ上昇。
体力、魔力、限界突破。
エクストラスキル解放。
運命力極限。
それは俺のスキルによって幾重にも重ねられたバフの光だった。
スキル:アンダードッグパラドクス。
圧倒的な強者のように見えるものが一撃でやられることで逆説的に周囲の者たち全員をそれ以上の強さへと引き上げるスキル。
早い話が噛ませ犬スキルだ。
この世界で俺にだけ備わった、運命の女神を鼻で笑い、勝利の天秤をおもちゃにするような、とんでもないユニークスキルだ。
額から溢れた血で前が見えないが、ヤマトたちの歓声が聞こえる。おそらく今回も勝てたのだろう。
ああ、走馬灯が見える。そもそも俺はどうしてこの世界に来たんだっけか。
襲いかかる睡魔に身を委ねるように俺は静かに目を閉じた。
だが倒せないのは相手が強いからというだけではなく、端的に言ってしまえば、俺のスキルのせいだった。
俺のスキルは戦局を左右するほどに強力だ。だが再使用には時間がかかる。というか、本来であれば一生に一度しか使えないスキルなのだ。それを無理やり何度も使っているのだから仕方がない。
しかしながら、はっきり言ってパーティメンバーたちはもう限界だった。
「みんな! もう一息だ! 頑張れ!」
前線でタンクを張っているのはこのパーティのリーダーであり、同時にメインアタッカーでもあるヤマトだ。自身の体力も鎧もボロボロだが、仲間たちを鼓舞するように必死に声を張り上げている。
「ヤマト! 回復いくよ! “シャインライトリジェネーション”!!」
そんなタンクを回復魔法スキルで援護しているのはサブアタッカー兼ヒーラーのマドカ。彼女は前線に立たないので体力こそ満タンだが、MPがもう底を尽きようとしている。今もポーションを飲みながら魔法スキルを発動している。彼女の魔法スキルが止んだ時が、このパーティ壊滅の時だ。
「ちくしょう! デカブツ! こっち向きやがれ!」
カエデが弓矢でウルフキングの足を射るが、強靭な皮膚と大きな斧に弾かれて傷一つつけられない。彼女は索敵と罠解除が専門のスカウト職で、普段は戦いに参加しないが今は少しでもボスの隙を作ろうと必死に弓を射ている。だがそれもどうやらほとんど効いていないようだ。
そして、肝心の俺はと言うと─────────
「………………」
前線よりも遥か後方、非戦闘職のカエデよりも後ろの岩陰で、スキルが発動できるようになるのを今か今かと待っていた。
自分が今現在、役立たずなのは身に染みてわかっている。本当は盾役でもなんでもいいから前線に出て、仲間たちと一緒に戦いたい。しかし俺のスキルがそれを許してくれない。このスキルのせいで俺は盾どころか杖も弓も満足に使えないのだ。
俺が使うのは身体よりも大きな大剣のみ。しかもこの大剣すら、俺は本来の用途で使う事はできない。大事なのはこの大剣の見た目だけだ。ただこの大剣が、“いかにも敵を一撃で倒せそう”であればそれでいい。
そして、ウルフキングの巨大な斧がヤマトに襲い掛かろうとしたその時、
─────────スキル発動の準備が整った。
俺は背中から大剣を抜いて、ギルバーグウルフキングへと疾駆した。
その勇敢な行動とは裏腹に、俺の身体はこれから自らに自分に起こることへの恐怖でブルブルと震えていた。
今から俺が叫ぶ台詞。それが虚勢だと思われてはいけない。それが蛮勇だとバレてはいけない。いかにも強力な敵が現れたのだと、勝利の女神に思わせなくてはならない。
身体の震えを止めるように、より大きな声で叫ぶ。
「冥土の土産に教えてやるぜ! 俺はハジメ! お前を倒す男の名前だーーーー!!!」
強くなくていい。強そうであればいい。
倒せなくていい。倒せそうであればいい。
俺は大剣を振りかぶってギルバーグウルフキングへと突撃し、そして────────
グギゴバキャッッ!
俺は狼王が振り下ろした大斧によって勢いよく吹き飛ばされ、ダンジョンの壁にめり込んだ。
装備していたアイテムによってなんとか上半身と下半身がサヨナラするのは免れたようだが、すさまじい痛みに混ざった身体の感触からして、どうやら肋骨が何本か折れており、それが肺を突き破ったようだ。このまま何もしなければ呼吸困難で間違いなく俺は死ぬだろう。
俺のの攻撃は無駄に終わった。
突如現れた新手を一瞬で粉砕した喜びを表現するかのように、ボスモンスターはダンジョン全体に轟くように雄叫びを上げる。
あとは残った瀕死のゴミどもを片付けるだけだぜ! とでも言うかのように。
だがそれも、長くは続かなかった。
次の瞬間、俺以外のパーティメンバーたち全員を不思議なオーラが包み込む。
攻撃力上昇。
防御力上昇。
素早さ上昇。
体力、魔力、限界突破。
エクストラスキル解放。
運命力極限。
それは俺のスキルによって幾重にも重ねられたバフの光だった。
スキル:アンダードッグパラドクス。
圧倒的な強者のように見えるものが一撃でやられることで逆説的に周囲の者たち全員をそれ以上の強さへと引き上げるスキル。
早い話が噛ませ犬スキルだ。
この世界で俺にだけ備わった、運命の女神を鼻で笑い、勝利の天秤をおもちゃにするような、とんでもないユニークスキルだ。
額から溢れた血で前が見えないが、ヤマトたちの歓声が聞こえる。おそらく今回も勝てたのだろう。
ああ、走馬灯が見える。そもそも俺はどうしてこの世界に来たんだっけか。
襲いかかる睡魔に身を委ねるように俺は静かに目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる