噛ませ犬スキルで異世界転移

二階堂次郎

文字の大きさ
7 / 14
第1章

第7話

しおりを挟む
「ぐぶぉっ………」
 敵ながらあっぱれというべきか、ギルバーグウルフルークの矢は見事に俺の腹のど真ん中を貫いた。
 胃から大量の血液が逆流し、俺は溺れないように必死にそれを吐き出す。
 次に感じたのは、痛みではなく熱さだった。自分の腹があった場所にマグマでも流れ込んだかのような燃えるような熱が溢れ出した。
 最後に遅れて痛みが来た。腹痛なんてものではない。貫かれたのは腹だけのはずなのに、頭から足まで全身が凄まじい痛みに襲われ、一瞬気を失いそうになる。
 そのうち、指先の感覚が薄くなっていく。
犬死にか……らしい最期かもしれないな……
そう思った時──

 カエデの周りを凄まじい数のオーラが包み込むのが見えた。

 攻撃力上昇。
 防御力上昇。
 素早さ上昇。
 体力、魔力、限界突破。
 エクストラスキル、解放。
 運命力極限。

 ようやく俺のユニークスキル、アンダードッグパラドクスが発動したのだ。

 自己犠牲による味方の強化。まさか、これほどとは。
 これでヤマトとマドカがあいつを倒してくれるだろう。
 安心すると、なんだか意識が遠くなっていくようで、瞼がだんだん重くなっていったが。
 だが、おい! という、気の強いスカウト女子の言葉に叩き起こされた。

「なに満足そうな顔してんだよ。死ぬのは早いぞ」

 カエデが駆け寄ってきて、懐から体力回復用のポーションを取り出し、俺の腹にかけた。薄れゆく意識が引っ張り戻される。
 え、それって飲むものじゃないの?
 内服薬を塗っちゃダメなんじゃ……あ、でも空いた腹から胃に入るから一緒……なのか?
 細かな理屈はわからないが、俺の体力はだんだんと回復していき、傷も塞がっていった。

 果たして、俺の治療を終えたカエデはヤマトたちが向かった方に目配せした。

「ついてこいよ。ヤマトの予想が正しければ、いいものがみれるはずだ」

 未だ痛む腹を抑えながらヨロヨロと通路を進んでいくと、ギルバーグウルフルークが倒れているのが見えた。
 ヤマトがつけた切り傷の深さが、剣士の一撃の力強さを物語っている。

 そしてそのすぐ横、巨大な狼の死体のそばの壁に、大きな隙間が空いているのが見えた。
 ちょうど人が一人通れるくらいの広さで、通路からでは中の様子は伺えない。
 ヤマトとマドカが話す声が聞こえる。どうやら中にいるようだ。
 カエデの方を見ると、顎をクイっとあげて中に入るように促してくる。
 いったい何があるというのだろうか。

 俺は隙間に体を挟み込むと部屋の中に入った。
中は思った以上に広く、壁にかかった松明が薄暗い室内を照らしている。
 そしてその中央には高く積み上げられた財宝が聳え立っていた。
 金銀財宝や、見たこともないアイテム、身の丈ほど大きな大剣もある。
 今だかつてこれほど景気がいい光景に出会ったことが俺の人生であっただろうか。いやない。
 目の前の景色の凄さに半ば呆然としていると、後ろから思いきり肩を叩かれた。
 振り向くと、パーティリーダーが満面の笑みを浮かべていた。

「ハジメのおかげでルークを倒すことができた! ありがとうな!」

 そして室内に視線を移し、こう続けた。

「ギルバーグウルフルークはこのダンジョンの重要な場所を護る番人、という噂を時折り耳にしていたんだ。だから、奴の近くに宝物庫のようなものが隠されている可能性は非常に高かった。だがあの石弓の並外れた攻撃力ではまともに近づくこともできなかった。
お前の支援のおかげだ、ハジメ、本当にありがとう」

 マドカとカエデも、親指をグッと突き立てて俺の功績を労ってくれる。

「宝の分配は後で決めるとして、ハジメ、こいつを受け取ってくれないか」

 ヤマトは宝の山に突き刺さっていた、どデカい大剣を引き抜くと、地面に突き刺した。

 柄の部分の装飾を見るだけでも相当なレアアイテムだと思うのだが、

「いや、俺はユニークスキルのせいで大剣のスキルは使えないらしいし、こんな強そうなアイテム、ヤマトが持っていた方がいいんじゃ……」

「いや、おれだって長剣スキルしか使えない。お前が持っていた方が、スキルを使う時に強そうにみえるし、いざって時は盾代わりにもなるし、なにかと便利だろ」

 ほら、と促されるままに、俺は地面の大剣を引き抜いた。
 ヤマトは「頼りにしてるぞ」と俺の肩を叩く。

 剣はズシリと重たかったが、悪くない重さだった。
 正直、この世界に来たばかりの俺はずっと不安で仕方なかった。
 金もない、持ち物もない、知り合いも誰もいない世界で、ひとりぼっち。
 唯一身についたものと言えば使えるかどうかもわからないスキルだけ。
 そんな中、右も左もわからない俺をパーティに誘ってくれたのがヤマトたちだった。
 今俺はようやくこのパーティで自分の居場所を築くことができたように思う。
 やっと自分の実力を示すことができた。
 この世界でも俺はやっていける。
 そう思った時、

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 突如として、俺たちが入ってきたのと反対側の扉が開いた。照明が暗く、お宝にしか目がいってなかったが、この部屋の隠し扉は二つあったらしい。

 そして扉の奥から姿を表したのは、先程倒した弓兵よりもさらに大きい、体長五メートル以上あるかというような巨大な狼だった。腕には同じく巨大な斧を担いでおり、怒りを露にして口から気炎を吐いている。

「ギルバーグウルフキング……」

 マドカの口から溢れでた名称には、確かな恐怖がこもっていた。
 キング。
 それは言うまでもなく王を意味する言葉である。
 ギルバーグウルフキングは頭に王冠こそないものの、今までのモンスターたちと違う、ボスとしての確かな威厳を備えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...