心臓にかかる息

西湖 鳴

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過去

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 それは高校二年の冬のことだった。
 部活の合間に女子トイレに向かった私は、そこで偶然集団いじめを目撃してしまった。

 「ちょ……っと、あんたたち何してるの!」

 四、五人の女子が一人の女子を床に座り込ませ、掃除用具で叩いたり、罵ったりしていたのだ。
 床に座った女子はずぶ濡れのまま下を向いていて、黙ってそのいじめに耐えていた。
 何が正しいとか間違っているとかそういうことじゃない。ただ私の心の中の何かがその集団を自然と一喝していた。

 「やめないと先生呼ぶよ!」
 
 苦々しい表情や恨めしい表情で私を睨みながらその場を去る女子たちに構わずに、私はすぐに座り込んでいた子に駆け寄った。

 「大丈夫?」

 腕を掴もうとすると、すかさす彼女は自分の肩を抱きながら私から離れようとした。
 冷たい水が滴る黒く長い髪の隙間から、怯えた様子の黒い瞳が覗いていた。興奮状態なのだろう……私はそう思ったのだけれど、でも違った。彼女の震えは数分経っても止まることはなかったのだ。そしてたった一言だけ発した、

 『どうして……』
 
 その言葉がとても印象的だった。
 その声は小さくしわがれていて、なぜか老婆のようだったのだ。
 辻祐子…その名前を知ったのは、彼女を保健室まで連れて行き、保健の先生から話を聞いた時だった。
 彼女が常にいじめに遭っていることは周知の事実で、教師も手を出せないでいるという。
 そのまま彼女を置いていくことが出来ず、私は彼女を家まで送り届けることにした。
 
 いじめに遭っている。
 
 それだけで彼女が暗い人間であるような印象を持ち、私は結局何も声をかけることが出来なかったのだった。
 それ以来、私は彼女に付け回されるようになった。
 付け回される、というと言葉が悪いけれど、常に私の近くにいるようになっただけだ。
 彼女は相変わらず前髪を重く垂らし、黒い瞳が時々覗くだけで表情まではうかがい知ることが出来ず、私自身も最初は少し薄気味悪かったものの、彼女に悪気はなく、きっと人付き合いを知らない彼女なりの興味の表れなのだろう……そう思い直した。するとさして怖くもなく、彼女がさりげなく近くにいても大して気にしなくなっていた。
 最初は私から話しかけてコミュニケーションを取ろうとしたのだけれど、私から近づくと、彼女は距離を置いてしまう。放置するとまた一定の距離を保ったまま私の視界の範囲内に静かに佇んでいるのである。
 だから私は、自分から彼女に何かしようとは自然と思わなくなっていた。そういう子、そう思うことにしたのだ。
 そんなある日、下校中に友人と別れ、私と距離を保って後ろを歩いている辻祐子との二人だけの瞬間が訪れた。
 すると彼女が唐突に弱弱しい声で私にこう聞いたのだ。
 
 「み……深雪は芹沢君と付き合ってるの……?」
 
 名前を呼ばれるのも初めてなら、質問されるのも初めてのことだった。びっくりしてしばし足を止めて彼女を凝視してしまった私は、すぐに我に返って頭を掻いた。彼女は下を向いたままで、どんな表情なのかを知ることは出来ない。
 
 「根も葉もない噂だよ」
 
 とりあえずそう答えるしかなかった。実際、事実だし……。

 「そう……」
 
 辻祐子は一言だけそう返事をすると、またいつも通りに戻った。
 芹沢君が好きなのかな……自然とそう思った。
 彼女も高校生の女の子だし、かっこいいことで有名な彼に憧れを抱いていてもなんら不思議ではないのだ。
 それから何ヶ月か過ぎた。高校三年の春。体育祭での出来事である。
 私はひょんなことからクラス対抗リレーの選手に抜擢された。
 男子と女子を交互に混ぜて走らせるというルールから芹沢君が務めるアンカーの前を走ることになってしまい、以前から芹沢君とは妙な噂を立てられていたのに、さらにそれを盛り上げる結果となってしまった。
 この噂が盛り上がれば盛り上がるほど私以上に迷惑を被っていたのが、芹沢君本人と、彼と当時付き合っていた子だ。その子がどんな人なのか私はこの時まで知ることはなかったのだが、これをきっかけに知ることになる。無論彼女から私に会いに来たのだ。
 当時を振り返ると本当にため息が出てしまうけれど、どうして女は嫉妬深く執念深いのだろうと思う。
 もちろんそれは私を含めての話だ。そして、あの辻祐子も。
 当然その子は、私と芹沢君の噂に苛立ち、私に忠告をする為に私の前に現れたのだ。彼女は私と辻祐子との過去の出来事を調べており、いじめに加わっていた女子の友達でもあった。
 そしてもちろんいじめを止めたことに関していい感情を持っておらず、集団で私をいじめの標的にするという脅しをかけてきたのだ。
 子供時代、私はいじめという現場に遭遇したことは少なかった。その根がどれだけ深いのか、ということもさして考えたことはなかった。しかし大人になった今なら経験上いろいろと思うところはある。
 みんなそれぞれ性格もばらばらだし、自分の価値観だけが全てではない。それが普通で当たり前。だけどそれを受け入れられない人がいるのだ。辻祐子のように個性的な雰囲気で集団に迎合できない子や、私のように彼女らの結束や集団意識を乱す存在は非常に目障りだったのだろう。
 でも私は生憎昔から我慢が嫌いな性分で、ただやられてそのままではいられないのだ。ついでに言うと、この集団意識というものも好きではなかった。そういうものに吸い込まれてしまうほど自分は弱くないと信じたいから。
 だから、芹沢君の彼女がかけてきた脅しに乗るつもりは毛頭なかった。やれるものならやってみろ、という思いだったのだ。
 
 しかし後日、この件は思わぬ展開を迎えることになる。
 それは、朝のニュース番組で知った。
 芹沢君の彼女を含めた女子高生五人が夕方、別々の場所で通り魔にあったというのだ。通り魔は包丁のような凶器で切りつけ、人によっては重傷らしい。
 その五人の名前を見た時、私はすぐにどこかで見たことがある……そう思った。その記憶がはっきりとしたのは、辻祐子をふといつも通りに私の後ろに見つけた時だった。
 相変わらず彼女は髪を前に垂らしていて表情が分からない。まさか彼女が……?
 その五人は(芹沢君の彼女を除けば)以前辻祐子を集団でいじめていた女子達なのだ。でももし辻祐子の復讐だとしても、なぜ今頃……。
 学校で視線を感じてそちらを向くと、芹沢君と目が合った。しかし彼は私を見ていたにも拘らずすぐに怯えた様子で視線を逸らしたのだった。
(何かある……)
 そう思った私は(噂のこともあるので変な誤解を避ける為にも)人目につかない場所に呼び出し、彼を問い詰めることにした。
 
 「君じゃないのか、五人を刺したのは……」
 「なんで私が……」
 
 芹沢君は彼女から少し話を聞いていたのだろう、私が彼女の嫉妬をかっていたことやいじめの予告をされていたことを知っていた。
 知っていて好きなようにやらせていたということも些か腹の立つことでもであるが、問題はそこじゃない。
 
 「昨日いったい何があったの?」
 「俺は知らない! だから怖いんじゃないか……。俺だってまだ本人に確認したわけじゃない。精神的に不安定だから今は面会謝絶だって……ほんと、何があったのか……」
 「……」
 「でもあの五人が関わっている共通の人物って言えば深雪さんしかいない。警察も捜査を始めてるみたいだし、いずれその辺も調べが付くだろうから俺らも公に疑われることになるかも……」
 「でも私は潔白! 私のほうが知りたいのに!」
 
 怯えた表情をしていた芹沢君は会話しているうちに次第にいつもの彼に戻ってきた。私の犯人説が薄れたことに安心したのだろうか……。
 
 「本当に五人に関わりがあるのは私だけなの? あの子達のいじめは常習だったはず。だったら他にもいじめに遭っていた人はいるんじゃないの?」
 「いや……分からない。とにかく何か分かったことがあれば連絡取り合わないか。何の関連性があるのか分からないけどちょっと怖いしね……」
 「……分かった」
 
 私と芹沢君がそんな話をしている時、私は忘れていた。……彼女がいつも私を見ていたことを。

 
 その日の放課後。
 部活を終えた私はすっかり薄暗くなった道を家路についていた。
 妙なことに気が付いた。いつものこと……のはずの辻祐子が、その日はなぜか後ろを歩いていなかったのだ。
 しかしあんなことがあった後では、彼女のことも少し怖いのは事実だ。表情をうかがい知ることが出来ない彼女の顔を思い出そうとして、私は足を止めた。
 
 「あれ……どんな顔してたっけ……」
 
 彼女がどんな顔なのかが分からないのだ。あんなに毎日近くにいるのに……。
 突然後ろから足音が聞こえてきた。しかも足音は静かなものではなくはっきりと聞こえる。急に心臓の鼓動が早速くなった。まさか……あの通り魔?
 私はこんな時間に外を歩いていることをいまさら今更ながら後悔して、歩くスピードを上げる。すると後ろの足音も気のせいかスピードが上がったような……。
 気のせいではない。
 相手は確実に歩くスピードを上げている。
 もしや本当に通り魔……。背中がひやりとする。
 私が走り出すと後ろの足音も速くなる。
 もうだめ……! 全力疾走しようにも荷物が邪魔をして校庭のトラックを走るようには走れず、私はこのまま死ぬのだろうかと考えたその瞬間、後ろの足音が私の肩を捕まえた。

 「いやあああ!」
 「ちょ、ちょっと深雪さん!」

 抵抗しようと半泣きで振り返ると、そこには焦った様子の芹沢君がいた。

 「夜道心配だから送ろうかと思ったら、深雪さんの足速いから……」
 
 そうなのだ。部活が終わってから芹沢君はずっと私を追いかけてきていたのだ。
 
 「だったら最初からそう言ってよ……」
 
 胸を押さえて地面にへたり込む私をよそに、芹沢君は頭を掻いた。
 
 「ほらだって……学校の近くで見つかったらまた変な噂になるだろ……?」
 「そんなこと気にしてるのはそっちだけでしょ、私は別にそんなこと気にしないし……」
 「……ごめん」
 
 申し訳なさそうな顔をする芹沢君を見て、せっかく心配して送ってくれようとしていたことを思い、私は突き放した言動を反省した。
 
 「……いや、こっちこそ言い過ぎた……。心配ありがとね」
 
 芹沢君は私の反省を受け入れたのか、気にしていない様子でへたり込んでいる私に手を貸すと、辺りを見回して先に歩き出した。
 
 「行こう」
 「う、うん……」
 
 閑静な住宅街というのはこういう時変に不気味になる。街灯の光が一定間隔で続いているのを見ると、永遠に続くのではないかという錯覚に陥りそうで怖い。
 芹沢君も似たようなことを考えて焦っているのか、先を行くペースが速くて追いつくのが大変だ。そんなことを考えていると、芹沢君が急に足を止めた。

 「?」
 
 夕方で薄暗くなった道がいつの間にか暗闇へと化し、街灯の光だけが自己主張して、その手前で芹沢君の後ろ姿だけが私の前にある。
 
 「芹沢君……?」
 「誰かが後ろにいるような気がする……」
 「え?」
 
 芹沢君は私に小声で言った。
 急に私は思い出した。辻祐子が今日私の後ろにいなかったことを……。
 
 「……行こう」
 
 妙な空気を感じ取った芹沢君が私の手を取って走り出した。
 通り魔……? それとも辻祐子……?
 考えたくはないけれど、頭の中で嫌なことが次々湧き上がる。
 
 「……芹沢君……」
 
 住宅街の交差点に差し掛かった時、道路の真ん中に人影があり、その人影が向かってくる私たちにそう言った。
 ……辻祐子。
 私は彼女だと認識すると、少しだけほっとして彼女に駆け寄った。しかし私は近づいてから気づいた。彼女の手に包丁が握られていることを……。
 
 「……っ!」
 
 彼女の包丁に気づいたその時には既に遅く、私の腕は制服ごと切り裂かれ、血が滲んでいた。
 そして彼女は私を見ずに相変わらず黒く長い髪を垂らしたまま、言った。
 
 「どうして……」
 
 私は彼女の言葉の意味がどうしても分からなかった。ただ私に向けられた包丁に怯え、逃げるしか出来ず……。
 異変に気づいた芹沢君が逃げる私を追いかけてきた。
 
 「つ……辻祐子がっ!」
 
 腕を押さえて逃げる私の足は決して速いものではなく、すぐに追いついた芹沢君が私を捕まえて事情を聞こうとしてきた。でも私は恐怖と混乱で激しく興奮し、それどころではなかった。
 (なんで……! どうして私なのっ……!)
 気づくと、暗い住宅街の路地に私一人だけが歩いていた。
 腕の傷はちゃんとある……。
 (怖い……)
 乱れていた精神をなんとか落ち着かせようと、私は住宅街を出た。
 家路より、とにかく人の賑わいのある場所へ行きたい…そんな思いが強かった。
 後ろを追いかけていたはずの芹沢君はどこへ……そう思った時だ。大勢の人が歩いている広い歩行者天国の入り口前にあるスクランブル交差点の向こう側に、彼を発見した。彼は生気を失ったような表情でうつろな視線をこちらに向けていた。
 おかしい……そう思った私は人ごみを縫って彼に近づいた。
 芹沢君は私を見ても表情を変えない。明らかに何かがあった様子。
 私は正気を取り戻してもらおうと彼の肩を叩いた。すると彼はそのまま目の前でどさりと倒れてしまったのだった。倒れた彼に駆け寄ると、ワイシャツの背中側が血で真っ赤に染まっていて、足や腕にも細かい切り傷が出来ていることにすぐに気づき……。

 「いやああああ!」

 私の悲鳴は人混みの中に響き、それを聞いて辺りにいた人々が状況を理解したのか、スクランブル交差点は騒然としていた。
 やがて私たちは救急車で運ばれ、彼は入院し、私は精神的に少し病んでしまい学校を何日か休学してしまっていた。
 しばらくして退院後の芹沢君と一度だけ電話で話す機会があった。幸いにも彼の傷はそれほどでもなかったらしく、私の状況を心配していた。それはありがたいのだが……。
 襲われたときの話を聞くと、彼は『長い黒髪を顔にまで垂らした薄気味悪い女』に突然後ろから刺された、と言う。やはり辻祐子なのだろうか?
 もし本当にそうなのだとしたら、なぜ私や芹沢君を襲ったのだろうか。
 彼女は変わった子だけど、決して悪い子ではないと思っていた。もしかしたら知らないうちに彼女の気に触るようなことをしてしまっていたのだろうか……?
 わからない。
 もしそうだとしても、こんな風に追い詰めて傷つけるようなことをしていいはずはない。私は学校に戻ることを決意した。彼女に真相を確かめねばならないと思ったからだ。

 しかし……。

 辻祐子はあの後から行方不明になっていることがわかった。
 彼女がいなくなってもクラスメイトは何も変わらなかった。複雑な心境なのは私だけ。
 彼女の肩をしっかり掴んでこっちを向かせ、きちんと目を見て事の真相を確認したかった。でも彼女はもういない。後ろをずっと付いて回っていた彼女がいなくなり、せいせいしたような、どこか寂しいような……。不思議と怒りの感情がない自分にも驚いていた。
 まるで彼女が最初から存在していなかったような、そんな気さえし始めていた。
 
 警察は私たちの話を聞いて辻祐子のことを捜査はしてくれたようだが、結局消息はつかめず、彼女の家族が出したという捜索願がしばらくして取り下げられたと風の噂で聞いた。

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