1 / 9
序章
しおりを挟むその石は、まるで二つの世界を象徴しているかのような色をしていた。
青い石は太陽の光によって浄化され、清純な山の木々に洗われて澄んだ世界の空気のようだった。
そして赤い石は、淀んだ汚水の中に生きる怪魚や、赤紫色に濁った大気の中で育まれた、汚染植物を生み出した世界の空気を連想させる色をしていた。
これらの石は「双子の石」と呼ばれ、人々から口々に語り継がれる伝説の石として有名であった。
それは、空気の清浄な、人間が支配する世界・グリシャフトと、有毒な大気が充満し、人間の生きられない世界・ネルジュブレイと呼ばれる二つの分断された世界に、双子の石がよく似ていたからかもしれない。
そして双子の石は歴史を操っているとの噂もあった。
今は所在不明のこの石たちは、もともと二つともある大きな宗教の総本山に奉納され、封印されていた。
しかも双子の石のことが書かれた文書は教会ではタブー視され、存在すら一部にしか知られていない。
そんなわけで、この二つの石が世界に及ぼす影響について、教会の人間ですら予測不能だったのである。
だから人々の口から漏れる「噂」についても、闇雲に否定できるようなものではない。
そんな双子の石が教会から解き放たれたのは、安定した二大帝国による支配が終わりを告げ、小さな国々がそれぞれに国力を高めようと、侵略戦争が盛んになり始めた乱世の初期であった。
この時代には数々の逸話が残っているが、双子の石が関係したであろうこんな話がある。
たくさんの小国の中に「タラス王国」という国があった。タラスは二つの大きな国に挟まれた小さな国で、領土の面積も小さかった。
ある年、タラス王アルゴンの一人娘ユーデリカ王女が結婚式を挙げ、国内でちょっとした話題になった。
その理由は、この時代の王族としては珍しい恋愛結婚だったからである。
相手はタラス王国の一兵卒であるユリウス・ディオスという青年。
どちらかの国に吸収されると腹をくくったアルゴン王のやけっぱちなのか、それとも何か考えがあったのか、とにかく王女と一兵卒は政略とはおよそ無縁な縁で結ばれたのである。
アルゴンが引退するまでの短い期間二人は仲睦まじく暮らし、そして王となったユリウスの額には、ブリリアントカットの濃いブルーの宝石がはめ込まれたサークレットが光っていた。
一代でタラス王国を築いたアルゴンからユリウスへの唯一の継承品である。
ところが無くなるはずだったタラス王国は、ユリウスが継いでから盛り返してしまったのだ。
まったくの素人だと思われたユリウスだったが、王になってからは外交や内政、戦略など、兵士の時には知られていなかった意外な才能を発揮したのである。
ユリウスは二つの大国のどちらかが内部分裂の兆しを見せた瞬間を逃さず、その隙間にうまく入り込んで国を奪い、時間はかけたが、もう一方の大国も手に入れた。
三百年後の現在、タラス王国はユリウスの功績を讃えて「ディオス王国」と名を変え、栄華を誇る大国となっている。
かつてこの大陸にあった大小様々な国は、ディオス王国がすべて吸収してしまった。
弱小国が大きな国二つをやり込め、大陸まるごと支配に至ったというこの歴史的な出来事は伝説化され、現在まで小説や戯曲などで盛んに語り継がれている。人々にとって、小さなものが大きなものに立ち向かい、勝利するというシチュエーションは、やはり小気味良いのだろう。
ユリウスの直系子孫に当たるフランツ王は、ディオス王国の十四代目。式典や謁見などの際には彼も伝説の「ユリウスの宝冠」を身に付ける。
特に中央に付いた青い宝石は誰もが目を奪われるほど美しく、決して輝きが褪せることはなかった。
この宝石が例の「双子の石」の片割れなのかどうかははっきりしない。
ただ、ユリウスが才能を最大限に発揮できた理由に「双子の石」が絡んでいる可能性はゼロではないのだ。
伝説が彼自身の力なのか、はたまた双子の石の力が働いたからなのか、このあやふやな部分が人々の間で未だに大きな議論となり、時折、ユリウスを神の一人として崇める者と、双子の石の力を強く信じる者との間で衝突が起こることもある。
華やかなユリウス王の伝説も、双子の石のエピソードの一部として切り離すことはできず、彼の活躍に影を落とす。
しかし双子の石の本当の姿を知るごく少数の者たちは知っている。
ユリウス王が生まれるずっと前、アルゴン王の時代に書かれたある文書に記されていることを。
そしてその少数の者たちによって、世界は再び同じ歴史を繰り返そうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる