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第1章
Ep6 祝賀パーティーへの潜入
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「どう?」
「ルマテス、とても美しいよ!」
「うん、いいんじゃないかな?」
姿見を見ていたルマテスが振り向くと、キールスティンが感嘆の声を上げ、ギャラガーは少し照れている様子だった。
ルマテスは金色の巻き毛に飾りの付いたカツラを付け、薄ピンク色の上品なお嬢様風ドレスを身にまとっている。女性を褒める機会がめったにないギャラガーはどんな顔をしていいのかわからなかった。ルマテスも彼の照れ具合を見て満足そうである。
二人はキールスティンのつてで貸衣装屋に来ていた。彼は服装にこだわる男なのでこういうときは頼りになる。
「ギャラガーは口髭、似合わないわね」
「おまえは童顔だしな」
キールスティンの毒舌にルマテスがクスリと笑う。
ギャラガー本人は、立派な茶色の儀礼服とピカピカの黒い靴、胸のポケットに白いスカーフを挟み、両端がピンと上を向いた口髭を生やしている。もちろん、付け髭だ。あまりの言われように不満そうだが、そもそも二十三歳の彼にこんな服装が似合うわけがない。
どうして二人がこんな服装をしているのかというと、今夜の王室のパーティーに潜入しようというのだ。
すでに招待状は盗賊ギルドから手配済みである。盗賊ギルドは普段あまり関わることがないが、こういうときは本当に役立つ。しかし、今夜のパーティーの招待状が買えるというのだから、盗賊ギルドに売った者の存在を考えると、王家の統率力や貴族たちの程度が知れるものだ。
ちなみに金を積めば城の見取り図も買える。しかし今回は目的の物が王の額にあることがわかっているのであえて見取り図は買わなかった。
「さ、もう準備は済んだか?」
ギャラガーがそう言うと、突然レイラとカトゥーンが部屋に入ってきた。
「なんか用か?」
レイラはルマテスを真剣にじっと見ていて、後を追ってきたカトゥーンは困惑顔で肩をすくめている。
「俺は止めたんだけどさ……」
そう言いながらチラリとレイラを見ると、彼女は一瞬ギロリと睨み、カトゥーンは硬直して黙ってしまった。
レイラはギャラガーに向き直ると、
「お願い、そのパーティー私に行かせて」
と頼んできたのだった。
ルマテスと顔を見合わせたギャラガーは、険しい表情で言った。
「だめだ」
「どうして!?」
「おまえ、ラルフが目的だろ。ヤツに会って何をしでかすかわからないのに連れて行けるかよ。
そもそも俺たちの目的はな、青の宝石を手に入れることなんだぜ? おまえが潜入先で男と騒ぎを起こしたらこっちの計画がパアなんだよ!」
「直接しゃべったりしないわ! 一目会いたいだけなの、お願い!」
「だめだめ!」
ギャラガーは手を振ってレイラの懇願を払うと、ルマテスに目配せした。ルマテスが思い悩みながらもギャラガーについて行こうとすると、レイラは彼女の腕をつかんだ。
「レイラ!」
「彼女がどうなってもいいの? 私を連れてって!」
レイラの左手には、ナイフが握られている。
「ルマはおまえの友だちだろ? そこまでして……」
ルマテスは小さくため息をついた。
「ギャラガー、連れて行ってやってよ。私からもお願い」
「ルマ……」
その言葉に驚いたレイラは振り返って彼女を見る。
「……最後のチャンスかもしれないんだから、けじめ、付けてきなさいよ」
ルマテスは真剣な眼差しでレイラに言った。
「またあの子、熱を出したのね」
暗い部屋に唐突に女の声が響く。その声は鼻にかかった色気のある、上から見下ろすような強い女の声だった。
ここは王都シーデンの中央に位置するディオス王国城のある一室。
男は窓から差し込むじんわりした夕焼けを、窓脇の壁により掛かって物静かに眺めている。
その灰色の髪が日の暮れかかった窓辺の薄闇に映え、絵画のような美しさを感じた女はイライラした。
「ラルフ! 何か言ったらどうなの?」
ゆっくりと彼の視線が女に向かう。女は高貴だが露出度の高いドレスをまとっている。
「あの娘の運命なんだろう」
女はラルフの言葉の意味がわからなかった。
熱が出るのが運命?
「あのね、もう8回目なのこういうの! 宰相としての立場ってもんがあるでしょう?」
一ヶ月前、前王フランツが亡くなってすぐ彼は教会から一人の女の子を城に迎え入れた。女が三番目の宰相として選ばれて初めて顔合わせをした際、ラルフの隣にはすでにその少女がいたのだ。
少女の名はエスカドラ。背中まで伸びたストレートの白髪と、白い肌、そして赤い瞳が印象的だった。彼女は喜怒哀楽を見せることがほとんどなく、一目見て普通の人間ではないと思った。
それもそのはず、ラルフ曰く、彼女は生きた神なのだという。
生き神……話には聞いたことがある。本来はこの国の国教であるヴァルプルギス教会の総本山で大事に守られているはずの存在。しかし自分には関係のないことだと思っていた。
そんな生き神のエスカドラはとにかくよく熱を出した。そのせいで公式の場で四人が揃わないことが幾度もあり、彼女のイライラはそろそろ限界突破しそうだったのだ。
そんな彼女を、ラルフは興味なさげに流し見る。
彼女の名ははミラー。今時では珍しい官職の女性である。もちろんエスカドラも宰相の一人ではあるが、人数に数えられるような政務は特に負っていない。彼女はそこにいることが役割そのものだからだ。
だからこそミラーはエスカドラがきちんと仕事をしていない、とムカムカしていた。
「あなたもあの子を選んだ立場なら、責任持ってちゃんとさせてよね!」
ミラーは興奮した様子で強引に扉を閉じる。彼女の足音が遠ざかり辺りが静まりかえると、
「……うるさい女だ」
ラルフは小さく呟き、再び窓の外に視線をやった。
日が暮れれば、王の戴冠を祝う最後のパーティーが始まる。それまでのわずかばかりの時間を、ラルフはここで過ごしていたのだ。出来れば静かに過ごしたかったが、ミラーが来たせいでそれは叶わなかったようである。
彼女は常に何事かに怒っている。その心理が彼には理解できない。理解しようと思う気もない。彼とミラーは対なる存在そのものだったのだ。
そろそろ時間だ。
ラルフは窓の外の景色を名残惜しそうに眺め、カーテンを閉めた。
フランツの訃報を聞いて急いでやって来た遠方の地域を治める領主たちは、セシルが新しい王となるまでのこの半月ほどをずっと王都シーデンで過ごしていた。
その間の仮住まいは城の敷地内に用意されている数々の邸宅が使われた。
彼らが観光のために城の敷地と城下町とを頻繁に行き来し、貴族本人だけではなく従者たちも観光することで、シーデンの様々な店が今までにない賑わいを見せていたのだった。
しかしそれも今日まで。
今夜のパーティーが終われば貴族たちは明日から次々に自分の領地へと戻っていく。それもあり、パーティーはなかなかの盛り上がりを見せていたのだ。
「ひゃー! 貴族のパーティーなんて初めて参加したよ」
ギャラガーは緊張の面持ちで辺りを見渡した。
どこもかしこも紳士淑女ばかりである。男は皆姿勢良く親切でカリスマがあり、女はしとやかで美しく、気品に満ちている。
……ように見えるだけだ。
それが貴族たちの見栄という仮面なのはわかっている。
「あなた大丈夫なの? はしゃがないでよ」
レイラは冷静に言った。途端にギャラガーは顔を真っ赤にする。
「は、はしゃぐもんか! ガキじゃあるまいし!」
彼女はルマテスが着ていた衣装をそのまま着ていた。女性らしいピンク色の品のあるドレスと、金髪のカツラ。
彼女がこんな服装をすると、社交界の場に全く違和感がない、とギャラガーは思った。ドレスは体にぴったりとフィットし、ほどよく鍛えられて無駄な肉のない彼女の体型を美しく魅せていたし、化粧はもともとの彼女の顔をより一層美しくしていた。
(いやいやそんなことを考えている場合じゃない、やることやらないと。王様はどこだ?)
ギャラガーは辺りを見回した。
大広間というだけあって、面積も相当なものだ。一体何人の貴族たちを収容しているのか、彼の周りは人人人である。
とにかくこの人混みを出ようと四苦八苦していると、気づくとレイラの姿が見当たらない。
まずい、そう思ったとき、彼の後ろからなにやらレイラの声が聞こえた。
「いえ、結構です、あの……」
「そんなことおっしゃらずに! ぜひ私のお相手を!」
「お美しい! 次は是非私と!」
レイラは、複数の男たちからダンスの誘いをかけられていた。
(やれやれ……あれじゃ目立ってしょうがねぇよ。連れてきて失敗したかなぁ……)
ギャラガーが仕方ない、彼女を連れ出そうと一歩足を踏み出したとき、レイラと男たちの騒動のずっと奥に、彼は不吉な予感を見た。
ギャラガーの目はそれに釘付けになってしまった。というのも、そこには自分に似た顔の男がまさに彼を見ていたからだ。
「ふう、男共を振り払ってきたわ。見ていたならちょっとは助けて……どうしたの?」
異変に気づいたレイラは、冷や汗をかいて硬直しているギャラガーの視線の先を目で追った。
少し離れたところに彼と似た顔の男が立っている。いや、似ているのは顔の造形だけだ。体格はギャラガーよりもずっとがっちりしているし、髪色が金色ではなく濃茶だ。それに年齢が上なのか、蓄えた口髭が似合っている。
状況を理解できず困惑していたレイラは二人を見比べるしかなかったのだが……その内、ギャラガーが後ずさりを始めた。
「な、何よ、どうしたの?」
「……親父だ」
「へ?」
「お、親父も来るってこと忘れてた!」
「はぁー?」
ギャラガーは突然レイラの手を取って走り出した。
「逃げるぞ!」
「どういうこと!? あんたのお父さんも来てるの!?」
「親父は片田舎の領主なの!」
「ええ!? あんた貴族なの!?」
「もう絶縁してるから俺は違う!」
ギャラガーはレイラの質問に答えながら、人の波を乗り越え息を切らせて大広間の端まで走った。
「はぁはぁ……やばい、あの顔、絶対バレてる!」
「もうなんでそんな大事なこと忘れるのよ!」
ギャラガーの父はきっと彼を捕まえて何をしているのか問い詰めるだろう。ネルジュブレイ研究を嫌悪している彼の父がこの状況を許すはずもない。それでなくても偽の招待状で城に潜入しているのだ。
「出るぞ!」
ギャラガーは有無を言わさず城を出ようとする。腕を引っ張られたレイラが抵抗を見せたとき、ファンファーレと共に大広間で大きな歓声が上がった。
「皆々様お静まりください!」
「……?」
耳を澄ますと、従者がゆっくりと、でもよく通る声で言った。
「……第十五代目国王、セシル・アラン・オーウェン・ウォルト・スチュワート・オブ・ディオス様のお成りでございます!」
さすがに二人も何が起こったのかを察した。満を持して新たな王が玉座に登場したのだ。
すぐに彼の頭の中にディオスの宝冠が浮かんだ。
「畜生、状況が悪すぎるぜ……」
「私に任せて。額のサークレットを手に入れればいいのよね」
「え???」
訳がわからない様子で目を丸くするギャラガー。
「あんたはとりあえず、その父親に捕まらないように上手く逃げるのよ!」
「そんな、おまえ一人じゃ無理だって!」
レイラは彼の返事も待たずに人混みの中に紛れていった。
「くっそー!」
彼が拳を固く握りしめていると……、
「おい! おまえやっぱりギャラガーじゃないのか!? どうしてここに……!」
彼と似た顔の男が険しい表情でずんずんと近寄ってきた。その姿は間違いなく彼の父・フルダー。
「やばい!」
ギャラガーも、再び人混みの中に紛れていくのだった。
「ルマテス、とても美しいよ!」
「うん、いいんじゃないかな?」
姿見を見ていたルマテスが振り向くと、キールスティンが感嘆の声を上げ、ギャラガーは少し照れている様子だった。
ルマテスは金色の巻き毛に飾りの付いたカツラを付け、薄ピンク色の上品なお嬢様風ドレスを身にまとっている。女性を褒める機会がめったにないギャラガーはどんな顔をしていいのかわからなかった。ルマテスも彼の照れ具合を見て満足そうである。
二人はキールスティンのつてで貸衣装屋に来ていた。彼は服装にこだわる男なのでこういうときは頼りになる。
「ギャラガーは口髭、似合わないわね」
「おまえは童顔だしな」
キールスティンの毒舌にルマテスがクスリと笑う。
ギャラガー本人は、立派な茶色の儀礼服とピカピカの黒い靴、胸のポケットに白いスカーフを挟み、両端がピンと上を向いた口髭を生やしている。もちろん、付け髭だ。あまりの言われように不満そうだが、そもそも二十三歳の彼にこんな服装が似合うわけがない。
どうして二人がこんな服装をしているのかというと、今夜の王室のパーティーに潜入しようというのだ。
すでに招待状は盗賊ギルドから手配済みである。盗賊ギルドは普段あまり関わることがないが、こういうときは本当に役立つ。しかし、今夜のパーティーの招待状が買えるというのだから、盗賊ギルドに売った者の存在を考えると、王家の統率力や貴族たちの程度が知れるものだ。
ちなみに金を積めば城の見取り図も買える。しかし今回は目的の物が王の額にあることがわかっているのであえて見取り図は買わなかった。
「さ、もう準備は済んだか?」
ギャラガーがそう言うと、突然レイラとカトゥーンが部屋に入ってきた。
「なんか用か?」
レイラはルマテスを真剣にじっと見ていて、後を追ってきたカトゥーンは困惑顔で肩をすくめている。
「俺は止めたんだけどさ……」
そう言いながらチラリとレイラを見ると、彼女は一瞬ギロリと睨み、カトゥーンは硬直して黙ってしまった。
レイラはギャラガーに向き直ると、
「お願い、そのパーティー私に行かせて」
と頼んできたのだった。
ルマテスと顔を見合わせたギャラガーは、険しい表情で言った。
「だめだ」
「どうして!?」
「おまえ、ラルフが目的だろ。ヤツに会って何をしでかすかわからないのに連れて行けるかよ。
そもそも俺たちの目的はな、青の宝石を手に入れることなんだぜ? おまえが潜入先で男と騒ぎを起こしたらこっちの計画がパアなんだよ!」
「直接しゃべったりしないわ! 一目会いたいだけなの、お願い!」
「だめだめ!」
ギャラガーは手を振ってレイラの懇願を払うと、ルマテスに目配せした。ルマテスが思い悩みながらもギャラガーについて行こうとすると、レイラは彼女の腕をつかんだ。
「レイラ!」
「彼女がどうなってもいいの? 私を連れてって!」
レイラの左手には、ナイフが握られている。
「ルマはおまえの友だちだろ? そこまでして……」
ルマテスは小さくため息をついた。
「ギャラガー、連れて行ってやってよ。私からもお願い」
「ルマ……」
その言葉に驚いたレイラは振り返って彼女を見る。
「……最後のチャンスかもしれないんだから、けじめ、付けてきなさいよ」
ルマテスは真剣な眼差しでレイラに言った。
「またあの子、熱を出したのね」
暗い部屋に唐突に女の声が響く。その声は鼻にかかった色気のある、上から見下ろすような強い女の声だった。
ここは王都シーデンの中央に位置するディオス王国城のある一室。
男は窓から差し込むじんわりした夕焼けを、窓脇の壁により掛かって物静かに眺めている。
その灰色の髪が日の暮れかかった窓辺の薄闇に映え、絵画のような美しさを感じた女はイライラした。
「ラルフ! 何か言ったらどうなの?」
ゆっくりと彼の視線が女に向かう。女は高貴だが露出度の高いドレスをまとっている。
「あの娘の運命なんだろう」
女はラルフの言葉の意味がわからなかった。
熱が出るのが運命?
「あのね、もう8回目なのこういうの! 宰相としての立場ってもんがあるでしょう?」
一ヶ月前、前王フランツが亡くなってすぐ彼は教会から一人の女の子を城に迎え入れた。女が三番目の宰相として選ばれて初めて顔合わせをした際、ラルフの隣にはすでにその少女がいたのだ。
少女の名はエスカドラ。背中まで伸びたストレートの白髪と、白い肌、そして赤い瞳が印象的だった。彼女は喜怒哀楽を見せることがほとんどなく、一目見て普通の人間ではないと思った。
それもそのはず、ラルフ曰く、彼女は生きた神なのだという。
生き神……話には聞いたことがある。本来はこの国の国教であるヴァルプルギス教会の総本山で大事に守られているはずの存在。しかし自分には関係のないことだと思っていた。
そんな生き神のエスカドラはとにかくよく熱を出した。そのせいで公式の場で四人が揃わないことが幾度もあり、彼女のイライラはそろそろ限界突破しそうだったのだ。
そんな彼女を、ラルフは興味なさげに流し見る。
彼女の名ははミラー。今時では珍しい官職の女性である。もちろんエスカドラも宰相の一人ではあるが、人数に数えられるような政務は特に負っていない。彼女はそこにいることが役割そのものだからだ。
だからこそミラーはエスカドラがきちんと仕事をしていない、とムカムカしていた。
「あなたもあの子を選んだ立場なら、責任持ってちゃんとさせてよね!」
ミラーは興奮した様子で強引に扉を閉じる。彼女の足音が遠ざかり辺りが静まりかえると、
「……うるさい女だ」
ラルフは小さく呟き、再び窓の外に視線をやった。
日が暮れれば、王の戴冠を祝う最後のパーティーが始まる。それまでのわずかばかりの時間を、ラルフはここで過ごしていたのだ。出来れば静かに過ごしたかったが、ミラーが来たせいでそれは叶わなかったようである。
彼女は常に何事かに怒っている。その心理が彼には理解できない。理解しようと思う気もない。彼とミラーは対なる存在そのものだったのだ。
そろそろ時間だ。
ラルフは窓の外の景色を名残惜しそうに眺め、カーテンを閉めた。
フランツの訃報を聞いて急いでやって来た遠方の地域を治める領主たちは、セシルが新しい王となるまでのこの半月ほどをずっと王都シーデンで過ごしていた。
その間の仮住まいは城の敷地内に用意されている数々の邸宅が使われた。
彼らが観光のために城の敷地と城下町とを頻繁に行き来し、貴族本人だけではなく従者たちも観光することで、シーデンの様々な店が今までにない賑わいを見せていたのだった。
しかしそれも今日まで。
今夜のパーティーが終われば貴族たちは明日から次々に自分の領地へと戻っていく。それもあり、パーティーはなかなかの盛り上がりを見せていたのだ。
「ひゃー! 貴族のパーティーなんて初めて参加したよ」
ギャラガーは緊張の面持ちで辺りを見渡した。
どこもかしこも紳士淑女ばかりである。男は皆姿勢良く親切でカリスマがあり、女はしとやかで美しく、気品に満ちている。
……ように見えるだけだ。
それが貴族たちの見栄という仮面なのはわかっている。
「あなた大丈夫なの? はしゃがないでよ」
レイラは冷静に言った。途端にギャラガーは顔を真っ赤にする。
「は、はしゃぐもんか! ガキじゃあるまいし!」
彼女はルマテスが着ていた衣装をそのまま着ていた。女性らしいピンク色の品のあるドレスと、金髪のカツラ。
彼女がこんな服装をすると、社交界の場に全く違和感がない、とギャラガーは思った。ドレスは体にぴったりとフィットし、ほどよく鍛えられて無駄な肉のない彼女の体型を美しく魅せていたし、化粧はもともとの彼女の顔をより一層美しくしていた。
(いやいやそんなことを考えている場合じゃない、やることやらないと。王様はどこだ?)
ギャラガーは辺りを見回した。
大広間というだけあって、面積も相当なものだ。一体何人の貴族たちを収容しているのか、彼の周りは人人人である。
とにかくこの人混みを出ようと四苦八苦していると、気づくとレイラの姿が見当たらない。
まずい、そう思ったとき、彼の後ろからなにやらレイラの声が聞こえた。
「いえ、結構です、あの……」
「そんなことおっしゃらずに! ぜひ私のお相手を!」
「お美しい! 次は是非私と!」
レイラは、複数の男たちからダンスの誘いをかけられていた。
(やれやれ……あれじゃ目立ってしょうがねぇよ。連れてきて失敗したかなぁ……)
ギャラガーが仕方ない、彼女を連れ出そうと一歩足を踏み出したとき、レイラと男たちの騒動のずっと奥に、彼は不吉な予感を見た。
ギャラガーの目はそれに釘付けになってしまった。というのも、そこには自分に似た顔の男がまさに彼を見ていたからだ。
「ふう、男共を振り払ってきたわ。見ていたならちょっとは助けて……どうしたの?」
異変に気づいたレイラは、冷や汗をかいて硬直しているギャラガーの視線の先を目で追った。
少し離れたところに彼と似た顔の男が立っている。いや、似ているのは顔の造形だけだ。体格はギャラガーよりもずっとがっちりしているし、髪色が金色ではなく濃茶だ。それに年齢が上なのか、蓄えた口髭が似合っている。
状況を理解できず困惑していたレイラは二人を見比べるしかなかったのだが……その内、ギャラガーが後ずさりを始めた。
「な、何よ、どうしたの?」
「……親父だ」
「へ?」
「お、親父も来るってこと忘れてた!」
「はぁー?」
ギャラガーは突然レイラの手を取って走り出した。
「逃げるぞ!」
「どういうこと!? あんたのお父さんも来てるの!?」
「親父は片田舎の領主なの!」
「ええ!? あんた貴族なの!?」
「もう絶縁してるから俺は違う!」
ギャラガーはレイラの質問に答えながら、人の波を乗り越え息を切らせて大広間の端まで走った。
「はぁはぁ……やばい、あの顔、絶対バレてる!」
「もうなんでそんな大事なこと忘れるのよ!」
ギャラガーの父はきっと彼を捕まえて何をしているのか問い詰めるだろう。ネルジュブレイ研究を嫌悪している彼の父がこの状況を許すはずもない。それでなくても偽の招待状で城に潜入しているのだ。
「出るぞ!」
ギャラガーは有無を言わさず城を出ようとする。腕を引っ張られたレイラが抵抗を見せたとき、ファンファーレと共に大広間で大きな歓声が上がった。
「皆々様お静まりください!」
「……?」
耳を澄ますと、従者がゆっくりと、でもよく通る声で言った。
「……第十五代目国王、セシル・アラン・オーウェン・ウォルト・スチュワート・オブ・ディオス様のお成りでございます!」
さすがに二人も何が起こったのかを察した。満を持して新たな王が玉座に登場したのだ。
すぐに彼の頭の中にディオスの宝冠が浮かんだ。
「畜生、状況が悪すぎるぜ……」
「私に任せて。額のサークレットを手に入れればいいのよね」
「え???」
訳がわからない様子で目を丸くするギャラガー。
「あんたはとりあえず、その父親に捕まらないように上手く逃げるのよ!」
「そんな、おまえ一人じゃ無理だって!」
レイラは彼の返事も待たずに人混みの中に紛れていった。
「くっそー!」
彼が拳を固く握りしめていると……、
「おい! おまえやっぱりギャラガーじゃないのか!? どうしてここに……!」
彼と似た顔の男が険しい表情でずんずんと近寄ってきた。その姿は間違いなく彼の父・フルダー。
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