バッファロー銀伝説

なつめたもる

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十九手目

己の道をゆく

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吉田の2手目、5二飛車!

飛車を自玉の真上にスライドさせる。それはすなわち、相手の玉を睨む形になり、破壊力抜群の戦法なのである。

ニヤリとたもるを見つめる吉田。


将棋の対局者同士は対局中に基本的には会話を交える事は無い。

対局が終わった後、お互いどう思っていたかの感想を言い合う、感想戦になれば会話をすることはあるが、


対局中はあくまでも、己のみの実力で相手に立ち向かう。将棋盤の一手一手で無言の会話をするのである。周りで見ている人のアドバイスも、禁止されている。

独りの世界。


独りの世界。


さぁどうやってくるんだと言わんばかりの吉田のその目は、たもるの次の一手で純粋な笑顔にかわる。


たもるの三手目、▲6八飛車!



吉田が大きく頷き、飛車先の歩を前に歩かせる。△5四歩。

(たもるは我が道を行くんだな。我が道というよりも、たもるには、この四間飛車しかないんだ。
何があろうとも四間飛車で立ち向かう。本来ならば、たもる側も中飛車にし、互いに攻撃力抜群の力勝負にするところだが、これは正直、俺の方が、攻撃的だ。)


たもる▲4八玉。

激戦地点から、玉将を遠去ける狙いだと踏んだ吉田はさらに歩を前進させる。

吉田、△5五歩!

さぁ、ここで守ってくるんだろうと吉田が思った次の瞬間、
たもるが指した手に、吉田意表を突かれる。


たもるの次の一手、▲3八玉!



この局面では、激戦が繰り広げられるであろう5七の地点に対し、守りを備えるために、5八金左などと守るのが自然の流れである。

吉田がたもるを驚きの眼差しで迎えた。

(たもる君は、違う世界を見ている。定跡や常識を考えない人間さ、どれほどに未知でなのか。)それを知れることに、吉田はワクワクしている。


一方のたもるはといえば、ただ、将棋盤を睨みつけているのであった。

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