バッファロー銀伝説

なつめたもる

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二十七手目

勝つと云う事

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たもる、真の狙い、
▲7二歩!

この手をたもるは待っていた。

気付かれぬように、したたかに、
静寂の時間を過ごしていた。

9一の地点を睨んでいたことが吉田に知られていても、それが未来の事象であれば、容易には気付かれない。

もしかすれば、あと数手の未来の後に、技が決まるのではないか、
そんな想いを募らせる。


将棋は楽しい。


自分の実力を、全力で語る事ができる。



この▲7二歩、たもるが大きく、「勝ち」に傾く一手となる。


この歩を吉田は取る事が出来ない。取れば、▲6一龍とされ、
王手金取りになる。

吉田、△8二金と逃げる。

たもる、それでも▲6一龍と王手をかける。

吉田、△4二玉と逃げざるを得ない。

たもる、▲7一歩成。




吉田も負けじと△5七飛車成と
攻撃する。

が、ふと、吉田がたもるを見上げると、

たもるが小刻みに震えている。


たもるの将棋人生において、一度も成し得たことのない、未知の世界へ踏み出すときのように、

不安げな気持ちを常に心に抱えて戦って来たたもる。

たもる、▲8一と金!

吉田逃げる、△9二金!

たもる、▲9一と金!

吉田、△8二金!

数十手前に睨んでいた大構想が、
花開く。


たもる、▲5九香車!




吉田が△4七龍と逃げた。



たもるが静かに駒台から駒をとる。

将棋盤に放たれたその手を、

たもるは一生、心に刻むことになる。


自分だけの新戦法をこの将棋盤と言う名の宇宙に翔び輝かせる。

それには、どんな発想が必要なのか。どんな修練が必要なのか。

それがたもるにできるのか。

それはこのときのたもるには分からないこと。

ただ純粋に己の信じた手を指し続けることだと、たもるの意識が云った。


たもる、静かに駒を打ち下ろす。


▲2五桂馬



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