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ファイエット学園編
48.モブ令嬢と負の遺産
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容赦がないな。シルヴィは男達に降り注いだ大量の水を見て、そう思った。起こし方が無慈悲である。
しかし、効果は抜群であったようだ。男達が驚いたように、飛び起きる。口に水が入ったのだろう、咳き込んでいた。
「なんだ!?」
「はっ! まものはどこにいった!?」
《騒ぐな! 王の御前であるぞ!!》
フランムワゾーの声に、男達は視線をそちらへと向ける。フランムワゾーを視界に入れて、肩を跳ねさせた。
「何と禍々しい!」
「いや、待て! 今、しゃべった??」
《静かにしていろ!!》
男達が顔面蒼白で引き攣ったような声を出す。情けなく恐怖に縮こまった。何が起こっているのは、理解が追い付かないのだろう。
「大丈夫だっただろ?」
「うん。動かないから心配になって」
「死体では褒美にならないからね」
「わぉ……」
それしか言えなかったシルヴィは、もう本格的に黙っていることにした。ルノーの言った“余興”という言葉が不安でしかない。
「んー……そうだな。君達は“聖光教”という宗教団体を知っている?」
「せいこうきょう?」
「そう。頭のおかしい事を布教している」
それに一番に反応したのは、男達だった。非難するような視線をルノーへと向ける。そして、驚いた顔をした。
「ルノー・シャン・フルーレスト!?」
「僕を知っているの?」
「穢らわしい闇の魔力を持つ異端者!!」
「魔力が戻ったという話は本当だったのか!?」
「あぁ、何ということだ!」
「今すぐに消し去らねばならない!」
男達が、穢らわしい。穢らわしい。と騒ぎ立てる。最後には「光の乙女のために!!」と言い出した。
「こういう下らない戯れ言を触れ回って、信者を集めているらしいよ。ねぇ?」
《そうでございます。我々魔物を酷く嫌っておるようで。それが最終的に、闇の魔力自体を絶対悪とし、人間までをも迫害の対象にしだしました。興味深いことですな》
リュムールラパンがうんうんと頷きながら、何でもないことのようにそう言った。魔物からしてみれば、それは興味深いになるらしい。
《闇の魔力を持つ人間は異端者であり、光の乙女の敵である。消さねば、平和は訪れないと。盲目的にそう信じておるようです》
「それで、公爵家を滅ぼすんだから。なかなかだよ」
「それ、まさか……」
「そうだよ。君が復讐すべきは、国などではなく彼らさ。この件に関して言えば、国は関与していない。無実だよ。まぁ、野放しになっていたという点を責めるのならば、止めはしないけれどね」
フレデリクが顔を強張らせる。もしルノーの言っている事が全て事実なのだとしたら、責めることは間違いではないのだから。そうフレデリクは思った。
しかし、国王陛下が手を焼き、長い間野放し状態になっていた狡猾な連中が、こうもあっさり白日の下に晒されるなど。しかし、証拠がなければどうにもならない。ルノーの様子からして、あるのだろうが。
「彼らを探していたんだろ?」
「あ……でも、俺は」
「何の話か分かりませんな」
「我々は何もしていません。濡れ衣を着せるつもりで?」
「それとも、フルーレスト公爵家を侮辱したと処刑しますか?」
聖光教の男達が白々しくそんな事を言い出した。それに、ルノーが然も面白いと言いたげにゆったりとした笑みを浮かべる。その余裕が漂う雰囲気に、男達はたじろいだ。
「知っている? 低級魔物は悪戯好きなんだ」
「は?」
「悪戯も色々あってね。まぁ、僕からしてみれば全て下らない軽いものなんだけれど……。人間は嫌がるみたいだ」
《だから、楽しいのです~!》
《ねぇねぇ、魔王様! もう良い? 遊んでいい?》
「順番だよ」
《えぇ~!!》
《誰から!? 俺から!?》
「構わないよ」
《狡いです~!!》
《やったーー!!》
リュムールラパンの後ろにいた魔力達が、ルノーとシルヴィの周りをぐるぐると大騒ぎしながら回る。
狡いと言ったのは、バクに近い姿をした魔物。大喜びしているのは、掌大のトンボのような魔物だった。
《寄ってらっしゃーい! 見てらっしゃーい! 俺が目撃した悲劇の物語! 開幕開幕!》
トンボの目から水色の煙のようなモノが出て、宙に映画のスクリーンを思わせる何かが出現する。これが、この低級魔物が唯一出来る固有魔法のようだ。低級は魔法を一つしか持っていない。
スクリーンに、映像が流れ出す。“俺が目撃した”ということは、これはこの魔物の記憶らしかった。
『逃げなさい! トリスタン!!』
女性の声だった。唐突に聞こえた自分の名前に、トリスタンは肩を跳ねさせる。
切羽詰まったように、女性は『逃げなさい!』と繰り返す。トリスタンはその声と映し出された姿を見て「はは、うえ……?」とこぼした。
まだまだ幼い小さな男の子が夜の闇に逃げていく。魔法がぶつかり合っているのか、光が点っては消えを何度か繰り返した。
映像は男の子は追わずに、争っている方へと向く。黒いローブを羽織った男が、女性に向かって棒状のものを振りかぶった。
ジャスミーヌが悲鳴を上げる。シルヴィもその映像の衝撃に口を両手で覆った。
《ぶっ!?》
しかし、それが女性に届く寸前で映像が途切れる。どうしたのかとトンボ型の魔物に視線を遣れば、地面に引っくり返っていた。近くに氷の玉が落ちている。
「血生臭いのはやめてくれる?」
「そ、そういうのは事前に言っておいてあげないと……」
「ふぅん……そういうもの?」
「うん」
《最後まで見ないと犯人の顔が分からなくて……》
「じゃあ、飛ばしてそこを見せてくれたらいいよ」
《御意に……》
トンボ型の魔物は引っくり返ったまま魔法を発動させる。泣いているように見えたのは、シルヴィの気のせいだろうか。
再び流れだした映像には、フードを被った男が二人。周りに誰もいないと油断したのか、どちらもフードを脱いだ。
『子どもはどうする?』
『魔力なしだと聞いている。捨て置いても問題ないだろう』
『目撃されている』
『子どもの言うことなど信用ならんさ』
『それもそうだな。顔を見られたわけでもなさそうだから』
その顔は今よりも若いが、間違いなくこの場にいる男達と同じ顔であった。しかしそこで、映像が終わってしまう。
《どう? どう? 楽しんでくれた? 俺は知られたくない秘密をバラすのが好き! 人間はよく喧嘩するから。喧嘩するような秘密なんて作らなければいいのにね》
尚も引っくり返った体勢のまま、魔物がケタケタと笑う。なんというか、探偵業に役立ちそうな魔法だなとシルヴィは思った。浮気調査とか。
いや、もしかしたら既にそういう類いの“悪戯”をしているのかもしれない。奥さんにバレたら修羅場だ。それは、嫌がられる。まぁ、魔物の言うようにそんな秘密を作らなければいい話ではあるが。
「こんなモノが証拠になると?」
「魔物の言うことを鵜呑みにする気ですか? 捏造ですよ。話になりませんな」
「じゃあ、答え合わせをしよう」
「はぁ?」
《アタシの出番ですね~!!》
意気揚々とバクに近い姿をした魔物が躍り出る。鼻からふーっと息を吐き出した。それが、青色の靄に変わる。
靄が男達を包み込んだ。それに、男達が焦って喚き散らす。
《アタシは人の秘密を暴くのが趣味。眺めて楽しむのです~》
バクがウキウキと体を揺らす。青色の靄が男達の頭上で、これまた画面のような形になった。男達の頭と画面をテレビの細いコードのようになった靄が繋いでいる。
《ええ~と、なになに……。血生臭い場面は駄目でしたね~》
「うん」
《では、こちらはいかがでしょ~?》
テレビを付けるように、画面に映像が流れ出す。馬車から男性が降りてくる所だった。先程同様に辺りは暗い。夜のようだ。
『何故このようなことを!?』
『穢らわしい異端者め』
『まだ、生き残りがいたとは……嘆かわしい』
どうやら今度は、この男達の記憶らしい。馬車から降りてきた男性は、平民という出で立ちではなかった。仕立ての良さそうなスーツを着ている。どういうことなのだろうか。
しかし、その男性を見てトリスタンが「ちちうえ、父上!!」と叫んでいるのを見るに、トリスタンの父親。ソセリンブ公爵家の生き残りに違いなかった。
《ちょっと、飛ばしますよ~。お見せできませんから~》
間延びした緊張感のない声がそう言うと同時に、スキップしたように場面が切り替わる。森だろうか。木々と暗闇が映った。
『顔を見られたわけでもなさそうだから』
『それよりも、次だ』
『フルーレスト公爵家のか?』
『そうだ。名は確か……ルノーとか言った』
映像は、トンボ型の魔物の続きのようだった。しかし、男達が口にした名前にその場が固まる。ルノーが「へぇ?」と声を漏らした。
『髪色が白金色なんだろう。消せるのか?』
『大人数で粛清を行うことになった』
『そうか。闇の魔力を持つ異端者は等しく消さねばな』
『全ては光の乙女のために』
そこで、映像が消える。全員の視線がルノーに向いた。
「ルノーくん、あの、狙われてますけど」
「どれの事だろう。でも、返り討ちにした事だけは確かだよ」
「ルノーくんが? 護衛は?」
「邪魔だから毎回撒いていたら、いつの間にか付かなくなったな」
「護衛の立場が……」
《その記憶も探しますか~?》
「いらない。興味ないよ」
《御意に~》
任務完了とばかりに、二体の魔物は後ろに下がる。
「これも、結局は同じことだ!!」
「分かっていないな。君達の記憶を覗く魔法の信憑性を確かめる術など簡単だ」
「どういう……」
「信じさせたい相手の記憶を同じように覗けばいい。そうだろ?」
低級の魔物が一つしか魔法が使えないのは、誰もが知っていることであった。そして、複雑なことは出来ないということも。
トンボ型の魔物の魔法は、その魔物自体の記憶のようであるので真実かどうかを証明するのは難しい。しかし、相手の記憶を覗くバクのような魔物の魔法であれば、ルノーの言う通り証明は出来るだろう。
信じさせたい相手の記憶を覗いて、その記憶が真実であれば良い話なのだから。
「この場で殿下の記憶でも覗いてみますか?」
「なに!? 待て待て待て! やめなさい!」
「覗かれて困ることでも?」
「あるに決まっているだろう!? 聞かされていないこともまだ多いが、聞かされていることも多々あるのだぞ!?」
「それは残念です。騙せませんか」
「お前は……」
ことの重大さが理解出来たらしい。聖光教の男達は、顔面蒼白で黙ってしまった。それを見てルノーが「まだ、みっともなく喚いてくれても構わないよ」と笑んだ。
男達は悔しげに拳を握ったが、何も言わなかった。ルノーはつまらなさそうな視線を向けて、溜息を吐く。
「まぁ、いいよ。このくらいの説明と証拠があれば、君も満足かな?」
言葉を投げ掛けられたトリスタンは、俯いて震えているようであった。長年フードのせいで顔が分からなかった親の敵が目の前にいるのだ。探そうにも探せなかった恨みの対象が。
「僕はいい子であれば嫌いではない」
「……?」
ルノーの言葉に、トリスタンはノロノロと顔を上げる。ルノーが指を鳴らすと、トリスタンの目の前に剣が現れ地面に刺さった。
それに、アレクシが慌てたような顔をする。どうやら、あの剣はアレクシの物のようだ。毎回、アレクシから剣を拝借するのはどうなのだろうか。
「君の望みを叶えるといい。魔物を使って僕に喧嘩を売ってまで、したかった事だろ?」
トリスタンが愕然とした顔をする。つまり今この場で、復讐を果たせと言うのだろうか。そこでトリスタンは理解した。あぁ、今からが魔王の言う“面白い余興”であるのだと。
しかし、効果は抜群であったようだ。男達が驚いたように、飛び起きる。口に水が入ったのだろう、咳き込んでいた。
「なんだ!?」
「はっ! まものはどこにいった!?」
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フランムワゾーの声に、男達は視線をそちらへと向ける。フランムワゾーを視界に入れて、肩を跳ねさせた。
「何と禍々しい!」
「いや、待て! 今、しゃべった??」
《静かにしていろ!!》
男達が顔面蒼白で引き攣ったような声を出す。情けなく恐怖に縮こまった。何が起こっているのは、理解が追い付かないのだろう。
「大丈夫だっただろ?」
「うん。動かないから心配になって」
「死体では褒美にならないからね」
「わぉ……」
それしか言えなかったシルヴィは、もう本格的に黙っていることにした。ルノーの言った“余興”という言葉が不安でしかない。
「んー……そうだな。君達は“聖光教”という宗教団体を知っている?」
「せいこうきょう?」
「そう。頭のおかしい事を布教している」
それに一番に反応したのは、男達だった。非難するような視線をルノーへと向ける。そして、驚いた顔をした。
「ルノー・シャン・フルーレスト!?」
「僕を知っているの?」
「穢らわしい闇の魔力を持つ異端者!!」
「魔力が戻ったという話は本当だったのか!?」
「あぁ、何ということだ!」
「今すぐに消し去らねばならない!」
男達が、穢らわしい。穢らわしい。と騒ぎ立てる。最後には「光の乙女のために!!」と言い出した。
「こういう下らない戯れ言を触れ回って、信者を集めているらしいよ。ねぇ?」
《そうでございます。我々魔物を酷く嫌っておるようで。それが最終的に、闇の魔力自体を絶対悪とし、人間までをも迫害の対象にしだしました。興味深いことですな》
リュムールラパンがうんうんと頷きながら、何でもないことのようにそう言った。魔物からしてみれば、それは興味深いになるらしい。
《闇の魔力を持つ人間は異端者であり、光の乙女の敵である。消さねば、平和は訪れないと。盲目的にそう信じておるようです》
「それで、公爵家を滅ぼすんだから。なかなかだよ」
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しかし、国王陛下が手を焼き、長い間野放し状態になっていた狡猾な連中が、こうもあっさり白日の下に晒されるなど。しかし、証拠がなければどうにもならない。ルノーの様子からして、あるのだろうが。
「彼らを探していたんだろ?」
「あ……でも、俺は」
「何の話か分かりませんな」
「我々は何もしていません。濡れ衣を着せるつもりで?」
「それとも、フルーレスト公爵家を侮辱したと処刑しますか?」
聖光教の男達が白々しくそんな事を言い出した。それに、ルノーが然も面白いと言いたげにゆったりとした笑みを浮かべる。その余裕が漂う雰囲気に、男達はたじろいだ。
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「は?」
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《だから、楽しいのです~!》
《ねぇねぇ、魔王様! もう良い? 遊んでいい?》
「順番だよ」
《えぇ~!!》
《誰から!? 俺から!?》
「構わないよ」
《狡いです~!!》
《やったーー!!》
リュムールラパンの後ろにいた魔力達が、ルノーとシルヴィの周りをぐるぐると大騒ぎしながら回る。
狡いと言ったのは、バクに近い姿をした魔物。大喜びしているのは、掌大のトンボのような魔物だった。
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切羽詰まったように、女性は『逃げなさい!』と繰り返す。トリスタンはその声と映し出された姿を見て「はは、うえ……?」とこぼした。
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映像は男の子は追わずに、争っている方へと向く。黒いローブを羽織った男が、女性に向かって棒状のものを振りかぶった。
ジャスミーヌが悲鳴を上げる。シルヴィもその映像の衝撃に口を両手で覆った。
《ぶっ!?》
しかし、それが女性に届く寸前で映像が途切れる。どうしたのかとトンボ型の魔物に視線を遣れば、地面に引っくり返っていた。近くに氷の玉が落ちている。
「血生臭いのはやめてくれる?」
「そ、そういうのは事前に言っておいてあげないと……」
「ふぅん……そういうもの?」
「うん」
《最後まで見ないと犯人の顔が分からなくて……》
「じゃあ、飛ばしてそこを見せてくれたらいいよ」
《御意に……》
トンボ型の魔物は引っくり返ったまま魔法を発動させる。泣いているように見えたのは、シルヴィの気のせいだろうか。
再び流れだした映像には、フードを被った男が二人。周りに誰もいないと油断したのか、どちらもフードを脱いだ。
『子どもはどうする?』
『魔力なしだと聞いている。捨て置いても問題ないだろう』
『目撃されている』
『子どもの言うことなど信用ならんさ』
『それもそうだな。顔を見られたわけでもなさそうだから』
その顔は今よりも若いが、間違いなくこの場にいる男達と同じ顔であった。しかしそこで、映像が終わってしまう。
《どう? どう? 楽しんでくれた? 俺は知られたくない秘密をバラすのが好き! 人間はよく喧嘩するから。喧嘩するような秘密なんて作らなければいいのにね》
尚も引っくり返った体勢のまま、魔物がケタケタと笑う。なんというか、探偵業に役立ちそうな魔法だなとシルヴィは思った。浮気調査とか。
いや、もしかしたら既にそういう類いの“悪戯”をしているのかもしれない。奥さんにバレたら修羅場だ。それは、嫌がられる。まぁ、魔物の言うようにそんな秘密を作らなければいい話ではあるが。
「こんなモノが証拠になると?」
「魔物の言うことを鵜呑みにする気ですか? 捏造ですよ。話になりませんな」
「じゃあ、答え合わせをしよう」
「はぁ?」
《アタシの出番ですね~!!》
意気揚々とバクに近い姿をした魔物が躍り出る。鼻からふーっと息を吐き出した。それが、青色の靄に変わる。
靄が男達を包み込んだ。それに、男達が焦って喚き散らす。
《アタシは人の秘密を暴くのが趣味。眺めて楽しむのです~》
バクがウキウキと体を揺らす。青色の靄が男達の頭上で、これまた画面のような形になった。男達の頭と画面をテレビの細いコードのようになった靄が繋いでいる。
《ええ~と、なになに……。血生臭い場面は駄目でしたね~》
「うん」
《では、こちらはいかがでしょ~?》
テレビを付けるように、画面に映像が流れ出す。馬車から男性が降りてくる所だった。先程同様に辺りは暗い。夜のようだ。
『何故このようなことを!?』
『穢らわしい異端者め』
『まだ、生き残りがいたとは……嘆かわしい』
どうやら今度は、この男達の記憶らしい。馬車から降りてきた男性は、平民という出で立ちではなかった。仕立ての良さそうなスーツを着ている。どういうことなのだろうか。
しかし、その男性を見てトリスタンが「ちちうえ、父上!!」と叫んでいるのを見るに、トリスタンの父親。ソセリンブ公爵家の生き残りに違いなかった。
《ちょっと、飛ばしますよ~。お見せできませんから~》
間延びした緊張感のない声がそう言うと同時に、スキップしたように場面が切り替わる。森だろうか。木々と暗闇が映った。
『顔を見られたわけでもなさそうだから』
『それよりも、次だ』
『フルーレスト公爵家のか?』
『そうだ。名は確か……ルノーとか言った』
映像は、トンボ型の魔物の続きのようだった。しかし、男達が口にした名前にその場が固まる。ルノーが「へぇ?」と声を漏らした。
『髪色が白金色なんだろう。消せるのか?』
『大人数で粛清を行うことになった』
『そうか。闇の魔力を持つ異端者は等しく消さねばな』
『全ては光の乙女のために』
そこで、映像が消える。全員の視線がルノーに向いた。
「ルノーくん、あの、狙われてますけど」
「どれの事だろう。でも、返り討ちにした事だけは確かだよ」
「ルノーくんが? 護衛は?」
「邪魔だから毎回撒いていたら、いつの間にか付かなくなったな」
「護衛の立場が……」
《その記憶も探しますか~?》
「いらない。興味ないよ」
《御意に~》
任務完了とばかりに、二体の魔物は後ろに下がる。
「これも、結局は同じことだ!!」
「分かっていないな。君達の記憶を覗く魔法の信憑性を確かめる術など簡単だ」
「どういう……」
「信じさせたい相手の記憶を同じように覗けばいい。そうだろ?」
低級の魔物が一つしか魔法が使えないのは、誰もが知っていることであった。そして、複雑なことは出来ないということも。
トンボ型の魔物の魔法は、その魔物自体の記憶のようであるので真実かどうかを証明するのは難しい。しかし、相手の記憶を覗くバクのような魔物の魔法であれば、ルノーの言う通り証明は出来るだろう。
信じさせたい相手の記憶を覗いて、その記憶が真実であれば良い話なのだから。
「この場で殿下の記憶でも覗いてみますか?」
「なに!? 待て待て待て! やめなさい!」
「覗かれて困ることでも?」
「あるに決まっているだろう!? 聞かされていないこともまだ多いが、聞かされていることも多々あるのだぞ!?」
「それは残念です。騙せませんか」
「お前は……」
ことの重大さが理解出来たらしい。聖光教の男達は、顔面蒼白で黙ってしまった。それを見てルノーが「まだ、みっともなく喚いてくれても構わないよ」と笑んだ。
男達は悔しげに拳を握ったが、何も言わなかった。ルノーはつまらなさそうな視線を向けて、溜息を吐く。
「まぁ、いいよ。このくらいの説明と証拠があれば、君も満足かな?」
言葉を投げ掛けられたトリスタンは、俯いて震えているようであった。長年フードのせいで顔が分からなかった親の敵が目の前にいるのだ。探そうにも探せなかった恨みの対象が。
「僕はいい子であれば嫌いではない」
「……?」
ルノーの言葉に、トリスタンはノロノロと顔を上げる。ルノーが指を鳴らすと、トリスタンの目の前に剣が現れ地面に刺さった。
それに、アレクシが慌てたような顔をする。どうやら、あの剣はアレクシの物のようだ。毎回、アレクシから剣を拝借するのはどうなのだろうか。
「君の望みを叶えるといい。魔物を使って僕に喧嘩を売ってまで、したかった事だろ?」
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