モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い

雨花 まる

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砂漠の神殿編

26.モブ令嬢と謎解き

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 なーんにも思い出せねー。シルヴィはやさぐれた様子で、窓枠に突っ伏し腕を外へと投げ出していた。
 淑女らしからぬその行為を咎めてくれる者などこの部屋にはいない。辛うじて舌打ちなどは我慢している状況であった。

「はんっ! なーにがその内思い出すよ。ナルジスとしての記憶なんて一切思い出してないが?」

 完全に目が据わっている。シルヴィはぶつぶつと「兎に角、ボディータッチが多い。何なんだよ。止めて欲しいんですけどぉ??」などなど文句を一通り吐き出すと、深々と溜息を吐いた。

「頃合いかな」

 ジルマフェリス王国からラザハルまでの移動に要する時間を考えると、ルノー達はそろそろ到着している筈だ。
 更に、精霊王はシルヴィを信じきってくれている。シルヴィには何も出来ない、と。
 日がな一日部屋でぼんやりと過ごし、精霊王が会いに来ると優雅に微笑み、食事を共にする。それがシルヴィの神殿での一日だ。
 逃げるつもりも。逆らうつもりも。何もするつもりがないのだと。ずっと一緒に居てくれると、まんまと勘違いしてくれた。
 だから、最初は頻繁に部屋を覗きにきていたザフラも今では、用事がある時にしか来なくなり。部屋に漂っていた魔力も感じなくなった。おそらく精霊王が監視用に魔法を掛けていたのだろう。

「さて、まずは部屋の探索からしてみるかな」

 まるでゲームの攻略に乗り出す時のような。そんな声音と表情であった。
 シルヴィはここ数日で、ある可能性に辿り着いていた。セイヒカには、まだ続編があるのではないのか。今、その続編に巻き込まれているのではないのか。
 普通であれば、そんな突拍子もないこと鼻で笑って終わりだろう。しかし、シルヴィは知っている。精霊王という設定とあの顔面の強さ。確実にオタクの心を鷲掴みにするポテンシャルだと。
 あとシルヴィ個人としては、アラビアン風乙女ゲームとか楽しすぎる世界観である。もし存在しているのなら例に漏れず普通にプレイしたかった。

「セイヒカといえば、謎解きパート!」

 それがあるのかどうかは、この神殿がゲームに登場するのであればの話ではある。しかし、精霊王が住んでいるのだから、セオリー的には確実に登場はする筈。
 シルヴィはベッド周りから探索してみるとこにして、窓辺から移動する。覗き込んだベッドの下に何か落ちているのを見つけて、「おわー! きたこれ!」と小声で大興奮してしまった。
 手を伸ばして、それを掴む。引っ張り出したそれは、石で出来た何かの破片であるらしかった。おそらく、これを嵌めるためのへこみがあるのだろう。全ての破片を集めてそこにパズルのように嵌めれば何かが起こる仕掛けのはず。

「どうしようかな。先にへこみを見つけるか……」

 先程までの荒んだ様子が嘘のように、シルヴィの瞳が分かりやすくワクワクと煌めく。とはいえ、あまり激しく動くとバレる恐れがあるため、あくまでも慎重に事を進めなくてはならない。
 シルヴィは淑女らしくお淑やかに部屋の中を動くことにした。淑女ははしたなく大きな音を立てて歩いたりしないのである。
 ついでにリルに教わった本格的な方法で気配を消しておく。上手く出来ているかは何とも言えないが、ないよりはマシであろう。

「ん~……。あら?」

 ふかふかのラグの上に置かれた書机の裏。壁に四角のへこみを見つけて、シルヴィはニンマリと自慢気に笑んだ。

「あった」

 ベッドの下に落ちていた欠片を書机に置いて、部屋をぐるりと見渡す。あと、三つか二つか。
 本棚に近寄り、一段一段ゆっくりと丁寧に確認していく。本の上と棚の隙間に一つ、同じような欠片を見つけて手に取る。

「この感じは、あと一つかな?」

 ふと思い立って、シルヴィは本棚から読めそうな本を探すことにした。ラザハルでも共通語は使われている筈であるが、見慣れた文字は一つも見つからない。
 シルヴィとて伯爵令嬢だ。ラザハル独自の文字に触れる機会もある。しかし、本棚に並んでいるのはラザハルでも古語として扱われるようなものばかりであった。

「歴史的価値はありそうね……」

 何とか図鑑のようなものを見つけて、それも一緒に書机に置いておく。
 あと何かを隠せそうな所は、どこだろうか。シルヴィは鏡台に目を付け、手近にあった引き出しを開けてみた。光輝く黄金の宝飾品の数々に、ゆっくりと引き出しを閉める。

「うん。ここには、ない!」

 他の引き出しを開けるのが怖過ぎて、シルヴィはごくりと唾を呑んだ。何が怖いって、精霊王の気持ちが怖い。
 シルヴィは深呼吸をすると、覚悟を決めて引き出しを順番に開けていく。ダメージを受けながら辿り着いた最後の引き出しの奥に欠片を発見して、やりきった感に拳を握った。
 書机の上で欠片に描かれた模様が綺麗になるよう合わせる。それをへこみに一つ一つ嵌めていった。おそらく、これを奥に押せば何かしらが――。
 コンコンッ、不意に小気味いい音が部屋に響く。「ナルジス様」とここ数日で聞き慣れた声が、未だ呼ばれ慣れない名を呼んだ。
 シルヴィは凄まじい速さで机を元に戻すと、書机の上に図鑑を広げた。ラグの上に優雅に座り、「どうぞ」と答える。

「失礼いたします。あれ?」
「何の用かしら、ザフラ」
「え? あぁ、えっと……。お水をお持ちしました」
「ありがとう」

 ザフラは手にしていたピッチャーを部屋にあったまだ少し水が残っている物と取り替える。シルヴィは図鑑のページを何事もなかったかのように、一枚捲ってみせた。

「珍しいですね」
「そうかしら」
「……読めるんですか、それ」
「いいえ、流石に分からないわ。でも、絵を見ているだけでも楽しいの」
「へー、そうですか」

 理解できなさそうにザフラは眉根を寄せる。それを横目で見て、シルヴィはコロコロと笑った。それに、ザフラは怒りか羞恥か顔を赤く染める。

「用が済んだので、これで失礼します!」
「えぇ、ご苦労様」

 ザフラは足取り荒く、部屋から出ていった。流石に感じが悪かっただろうか。シルヴィは悪いことをしたなと苦笑した。しかし、一刻も早く出ていって欲しかったので致し方ない。
 暫し耳をそばだててザフラが戻っては来ないことを確認すると、シルヴィは再び書机を動かした。石の板をぐっと奥へと押す。それがスイッチになり、横の壁が開いた。

「よし!」

 喜びにシルヴィのテンションが上がる。しかし、中に入っている物を視認すると、一変して真顔になった。

「本だわ」

 自国の古語ならまだしも、ラザハルの古語は分からない。重要なことが書かれていても読み解けないのであれば、無意味だ。

「うう~ん……」

 シルヴィは少し迷うように意味もなく手を宙で泳がせる。しかし、良い案が浮かばなかったため、恐る恐ると本を手に取った。
 視線を落とした本の表紙には、【日記】と漢字で綴られている。それに、シルヴィの目が点になった。

「えっ……」

 急に現実に引き戻されたような感覚。震え出した手の理由を考えるより先、よく分からない使命感に突き動かされシルヴィは日記の表紙を開いていた。
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